租税教育レポート - Project STEP

租税教育レポート
(要約)
現在の租税教育について考える問題点は、学校のある地域や自治体によって教育の頻度
や程度も異なっているのではないかということ、あるいは税制度を説明する上で現在の財
政状況や大多数の国民意見との整合性などについて十分な言及がなされていないのではな
いか、という点である。現在の租税教育のあり方を見直すために、国レベルで今以上に具
体的な教育規範を決めるべきであるだろう。
(本文)
私は小学校で税金に関する授業や講話を受ける機会があった。そこでは、税金とは誰が
誰に対して払っているのかということや、子供である自分達も払う税の種類、あるいは十
分な税金が支払われなかった場合どうなってしまうのか、といったことについて説明を受
けた。中学校でも夏休みに税制に関する作文の課題があった。しかし高校以降――政治・
経済の授業としての内容はあったが――そのような税についての講話はなく、税の大切さ
や制度的な問題点にダイレクトに触れる機会も全くなかった。
その一方で大学に入って他県から来た友人に租税教育についての話を聞くと、中学や高
校でもそれにまつわる講話や取り組みがあった地域、あるいは逆に小学校から高校を通し
て 1 回もそのような取り組みがなかった地域が存在していることが分かった。
そこで私はまず、租税教育の絶対的な量が不十分なのではないか、あるいはその量が地
域によって大きく異なっているのではないかについて幾つかの文献を参考にして確認して
いきたい。
東京税理士会によると、平成 24 年度の東京における全体の租税教育実施数は 977 件であ
り、これは 5 年前(平成 19 年度)のおよそ 3 倍となっている。またこの内訳も、小学校 707
件、中学校 222 件、高校 17 件など、教育現場幅広くに渡って租税教育がなされるようにな
ったことを示している1。
それに対して同年の新潟県における実施数は、小学校 91 件、中学校 27 件をはじめとす
る僅か合計 139 件にとどまっている2。
東京のような大都市圏と新潟ではそもそも学校の数が違うのではないかという反論があ
るだろう。しかし平成 25 年度の小学校数を見ると東京が 1358 校、新潟が 510 校となって
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「東京税理士会 租税教育について」
http://www.tokyozeirishikai.or.jp/general/edu/about/
「関東信越税理士会 平成 24 年度租税教育実績数」
http://www.kzei.or.jp/pdf/jigyousuu_h23.pdf
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おり、租税教育実施数との割合を考えると東京で 52.1%、新潟ではわずか 17.8%とやはり
大きな開きがあることが分かる3(一つの学校で毎年必ず 1 回だけ租税教育が実施されてい
るとは限らないが)。
このように、それぞれの学校数を相対的に加味したとしても未だに地方圏の租税教育が
都市圏に比べ徹底されていないという現状は否めず、それが学生の租税及び納税に対する
意識の低さに繋がる恐れがあるかもしれない。まずは、新潟県をはじめとして地方の中学、
高校において、より多くの学校で幅広く租税講話を実施していく必要性があるだろう。
租税教育に関して私の指摘する問題点はそれだけではない。高校や社会人など、受講者
が財政状況や税制の根本的課題に関してある程度の知識を有している場合は特に、税や税
理士の仕組み、役割など概念的なことばかりを説明しても机上の空論で実際に即していな
いものと捉えられてしまいかねない。「現在の税制は財政状況に合致しているのか」あるい
は「本当に正しい使い道がなされているのか、無駄はないか」と言ったことについても明確
にし、その正当性を立証する責任があると考える。
そもそも租税教育を行う側の意図というのは、「税務広報の一環として位置付けられ、納
税者が自ら進んで適正な申告、納税が可能となるよう、租税の意義を理解し、自覚を促す
こと4」が目的である。つまり――あまりよくない言い方ではあるが――教育課程のうちから
税金の使途、重要性について教えておき、将来申告納税者となったときに不正な行為をし
ないよう布石を打っておく、というのが直接的な狙いなのだと考える。しかし社会的な知
識を得るにつれ、聞き手が講話を通して本当に知りたいことは本来の意図と異なってくる
だろう。税金の使途というのは不明確な点も多く、多かれ少なかれ無駄遣いされていると
思われがちである。
山形県では租税教育推進協議会が中心となり、平成 24 年に幾つかの小・中学校で授業の
中での中期的な租税教育に取り組んだ。それぞれの学校の実践報告が仙台国税局のホーム
ページで公開されていた。
山形市立第五中学校では 2014 年からの消費税増税について実施前にアンケートを行った
ところ、半数以上の生徒が増税に反対と答えた5。その理由として、「増税しても何も変わら
ない」、「増税する前に無駄を省くべき」、あるいは「公務員の給料を減らす方が良い」などと
いう意見が多く見られたが、4 回に渡る授業を通して「無駄遣いの現状」や「いま増税するこ
との必要性」などを学んだ上で、「税金について軽い気持ちで考えないようにしたい」、「た
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「政府統計 学校基本調査」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
「租税教育の原点に戻って 専税協議会」
http://www.senzei.jp/insistence/000084.html
「納税者として建設的に政治参加する生徒の育成(大隅一浩)」
http://www.nta.go.jp/sendai/shiraberu/gakushu/jirei/pdf/011.pdf
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だ(税金を)納めるだけではなく、その使い道にも目を向けて自分の意見を選挙でしっかり示
したい」など生徒たちは様々な意見を持つようになった。
また河北町立河北中学校でも 3 年生を対象として「これからの日本の財政を考えよう」と
いうテーマのもと 7 時間の租税授業が実施された6。「4 人グループによる関わりあう学習」
をポイントに置いて、現状を把握し挙げられた課題点、それに向けた解決策をグループで
考え、「社会保障・景気回復・国債残高」という 3 つの視点のうち 1 つから個々の考えをま
とめた。その中で「社会保障に無駄が多い」という意見に始まり、「増税に頼る財政は健全で
ない」、「国が国民への説明責任を果たすべき」と言った、国の政策や責任そのものに疑問を
投げかけるような意見もみられた。
平成 23 年度の税制改正大綱に挙げられているように、現在の租税教育というのはあくま
で「納税環境整備」、つまりそれらの充実によって健全な納税者意識をより一層向上させる
という被納税者側からの意識のもとに成り立っているものであり、その内容については特
別の方向性が見られない。
今後、大学生や社会人に対して租税教育を実施するという観点からも、税の仕組みや役
割だけでなくその用途や必要性、財政状況との比較など具体的な内容も「租税教育の充実」
として盛り込んでいく必要があるのではないだろうか。
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「これからの日本の財政を考えよう-現代社会の問題を視点に-(奥山裕介)」
http://www.nta.go.jp/sendai/shiraberu/gakushu/jirei/pdf/012.pdf
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