経営のヒント

経営の
経営者保証に関するガイドライン
について
弁護士
Q. 会社(中小企業)の経営が傾いてしまい,民事再生や破産
を検討しています。その場合,経営者個人も自己破産しなけれ
ばならないのでしょうか?
管納 啓文
これに対して,本ガイドラインによれば,
「債権者に
経済合理性が認められる範囲」で,自由財産に加えて,
「一定期間の生活費に相当する現預金」や「華美でない住
宅」を残すことができる可能性があります。
A.
そして,
「債権者に経済合理性が認められる範囲」に
1 経営者保証に関するガイドラインの策定とその背景
ついては,主たる債務者の債務と保証人の債務を一体と
会社(中小企業)が金融機関から借入れをする場合,経営
して判断することとされ,本ガイドラインに基づく債務
者が個人保証をしているケースがほとんどです。そのため会
整理により,破産による配当よりも多く回収を得られる
社について民事再生や破産をする場合には,経営者に保証債
見込みがある場合には,経済合理性があるとされていま
務が重くのしかかり,その結果,経営者も自己破産をせざる
す。
を得なくなるというケースが多くありました。
経営者が自己破産をした場合には,原則として99万円以
体として判断するという点であり,会社からの回収増加
下の現金等の自由財産(破産法33条3項,4項)以外の財産
額の範囲で経営者個人の資産を残すことが可能になる
は全て保証債務等の弁済に回されてしまい,生活の基盤とな
ということです。
る財産の大半を失います。また,自己破産したことは官報に
そのため,既に会社の破産手続等が終了している場合
掲載され,信用情報機関にも一定期間登録されてしまうこと
には債権者に経済合理性が認められませんし,既に会社
から,再チャレンジが困難になることもあります。
について破産手続等が進行中の場合も経済合理性が認
このような問題意識から,
「経営者保証に関するガイドラ
イン」が策定され(以下,
「本ガイドライン」といいます。
)
,平
成26年2月1日から適用が始まりました。
本ガイドラインに法的拘束力はありませんが,その策定に
められない可能性が高いといえます。
自宅を残されたいとお考えの場合などには,会社と経
営者の一体整理をお勧めします。
イ 信用情報が登録されないこと
は中小企業庁や金融庁のほか日本商工会議所や一般社団法
本ガイドラインにより債務整理を行った経営者に関
人全国銀行協会等の関連団体等が関与しており,主たる債務
する情報は,信用情報機関に報告,登録しないこととさ
者(会社)
,保証人(経営者)
,債権者(金融機関等)が,自主自
れています。また,自己破産のように,官報に掲載され
律的なルールとして誠実に遵守することが期待できます。
ることもありません。
なお,本ガイドラインは,大きく分けて保証契約時(入口)
と保証債務整理時(出口)を規律するものですが,本稿では
後者について紹介します。
2 本ガイドラインの概要
⑴ 本ガイドラインの対象
本ガイドラインは,中小企業の借入れに関する経営者の
3 債務整理の手続
本ガイドラインに基づく保証債務整理の手続は,中小企業
再生支援協議会による再生支援スキーム,事業再生ADR,
私的整理ガイドライン,特定調停などにより行います。
本ガイドラインは,あくまでも自主自律的なルールですの
で,債務整理の成立には金融機関等の同意が必要です。
保証債務の整理を対象としています。したがって,主たる
4 結論(回答)
債務者は中小企業(ただし,個人事業主も含まれます。
)
,
以前は自己破産を余儀なくされたケースであっても,本ガ
保証人は中小企業の経営者など,債権者は金融機関や信
用保証協会などです。
⑵ 本ガイドラインの特色
イドラインにより債務整理をすることで,経営者が自己破産
せずにすむことが多数に上ると予想されます。
事前に金融機関等の担当者と折衝して同意の見込みを見
本ガイドラインに基づいて保証債務を整理する場合に
極めたり,個別のケースごとに最適な手続を選択して速やか
は,自己破産する場合に比べて次のようなメリットがあり
に申し立てたりするなど,専門的な能力や経験が必要になる
ます。
場面も多くあろうかと思いますので,事業再生や事業清算に
ア 残存資産が増える可能性がある
伴い経営者の債務整理をご検討される場合には,早めに弁護
前記のとおり,経営者が自己破産した場合には,基本
士に相談されることをお勧めします。
的に99万円以下の現金等の自由財産しか手元に残りま
せん。
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ポイントは,主たる債務者の債務と保証人の債務を一
BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2015.1