5. サンゴ増殖技術の他地域への普及方策の検討 伊江島 目 次 1. 伊江島 V-5- 1 2. V-5- 8 サンゴ増殖試験・基礎試験の検討 1.伊江島 ※現地調査および数値計算のデータ等は、電子媒体の報告書に収録した。 現地調査結果及び数値シミュレーション結果等より、伊江島地区にサンゴ成育阻害要因として、 以下に示す要因が抽出された。各サンゴ成育阻害要因の抽出根拠は、以下に示すとおりである。 ○伊江島地区におけるサンゴ阻害要因 【地理的要因】 サンゴ着底基盤が少ない 【物理的要因】 高波浪時に砂・礫が移動する 濁り シルトの堆積 【生物的要因】 幼生の加入量が少ない 藻類との基質の競合 【その他要因】 人為的負荷(赤土・栄養塩・農薬など)の影響 1.1.サンゴ成育阻害要因抽出根拠 (1)サンゴの着生に適した基盤が少ない 現地調査結果によると、調査海域はサンゴの着底に適さない砂や礫質の分布域が全体の約 6割を占めていた。また、一般にサンゴの着底基質と考えられる岩盤は、全体の約4割を占 めるものの、シルト等の微細粒子が堆積している箇所が多く存在した。さらに、岩盤上をシ マテングサ・カタバミドリゲなどのターフアルジーが覆う箇所も確認された。 礁内の底質は、約6割 が砂やサンゴ礫である。 サンゴの着生に適した基盤が少ない (H.22年度底質分布調査結果) 図 1.1(1)成育阻害要因:サンゴ着底基盤が少ない V-5-1 シルト等が堆積する場 所でも基質があればサ ンゴの着底・成育が期 待できる。 着生基盤にシルト等が堆積している。 鉄筋棒に着底・成育したミドリイシ属 藻類と着生基盤を競合している ターフアルジーに覆われる岩盤 図 1.1(2)成育阻害要因:サンゴ着底基盤が少ない (2)サンゴ幼生の加入量が少ない 加入板調査結果より、全般にサンゴ幼生の加入量が少ない結果が得られた。また、稚サン ゴ分布状況をみても礁内の大部分では少ない状況となっていた。なお、数値シミュレーショ ン結果では、礁内にサンゴ幼生が収束するエリアも確認されたため、これらのエリアについ ては着底基盤を整備すれば、サンゴ幼生の新規加入が期待されることを示唆した。 図 1.2(1) 幼生・稚サンゴの加入状況及び数値シミュレーション結果(濃度拡散) V-5-2 礁内起源 礁外起源 図 1.2(2) 幼生・稚サンゴの加入状況及び数値シミュレーション結果(濃度拡散) (3)高波浪時に砂・礫が移動する 図 1.3 に示すように、台風 T1004 号等の通過後、大きな砂の移動(堆積)が確認された。 また、海底地形が変化したエリアでは砂に埋もれた生サンゴや砂の移動(摩擦)によるスト レスを受けた生サンゴも観察され、この現象がみられたエリアは、数値解析より求めたシー ルズ数の分布とも整合していた。 約3ヶ月間(H22.11~H23.1)設置した礁内のセジメントトラップ内には、最大 15cm のサ ンゴ片が捕集されており、台風以外の高波浪時にも砂やサンゴ片の移動が大きい海域である ことを示唆した。 V-5-3 礁内全域で比較的高 礁内北側では、サンゴ砂は移動しにくい。中央 い値を示す。 ~南側ではサンゴ砂は移動し、地形変化が発生 しやすい。 平成22年5月:海底の状況 平成22年11月(台風通過後) 高波浪時の大イベント ○セジメントトラップ 約40cm埋没 ○ H22.11 ~ H23.1 間 の 約3ヶ月観測 ○最大15㎝のサンゴ礫 (上)や2㎜程度のサン ゴ砂がトラップされた。 ●高波浪時には、サン 約50㎝ ゴ砂やサンゴ礫が50㎝ 以上飛び上がることを 示す。 転倒 図 1.3 シールズ数計算結果(台風 T1004:左図、T1007:右図)と海底地形変化 (4)濁り 調査海域では汀線付近において写真に示すように濁り(白濁)の発生が確認された。また、 礁内の潮通しが悪い海域は、透明度が低い状態となっていた。 水質等の観測結果をみると、濁度の鉛直分布は底層付近で高くなる傾向が窺え、底泥が波 や流れの影響を受け巻き上がっていることを示唆した(このことは、微細粒子が海底に堆積 していることも示している)。また、光量子の相対値の鉛直分布は、海底面下3mで 50~60% となっており、調査海域は比較的減衰率が大きいことを示していた。 V-5-4 写真1.2 潮通しが悪い海域は透明度が低い 濁 度 港内 水深(m) St.1~3 港内 0 40 60 80 20 40 60 80 St.3 St.4 0.0 1.0 3.0 2.0 6.0 3.0 9.0 4.0 12.0 5.0 15.0 0.5 1 物理的条件調査地点 相対値(%) 20 St.2 FTU 1.5 0.0 0 St.4 St.1 水深(m) St.4 写真1.1 汀線付近からの濁り発生状況 100 0 2 水深(m) 4 6 8 10 12 14 16 St.3 0 St.2 相対値(%) 100 0 0 St.1 相対値(%) 20 40 60 80 100 0 0 0 1 1 2 2 相対値(%) 20 水深(m) 水深(m) 水深(m) 1 3 3 2 3 図 1.4 4 4 5 5 濁度と光量子(相対値)の鉛直分布 V-5-5 40 60 80 100 (5)伊江島におけるサンゴ増殖の可能性 伊江島地区では、前述したサンゴ阻害要因とともに、図 1.5 に示すようなサンゴ増殖の可 能性に関する事象が観察された。今後、抽出されたサンゴ成育阻害要因を軽減する対策方法 (増殖技術開発)を検討するとともに、このような事象も考慮しながら技術開発を進めてい くことが必要であると考えられた。 図1.5 現地調査時に確認された伊江島地区におけるサンゴ増殖の可能性に関するデータ (6)海域環境基盤情報図(ハビタットマップ)の作成 現地調査結果や数値シミュレーション結果等より、海域環境基盤情報図(ハビタットマッ プ)を作成することは、調査海域の現況を把握する上で、また、今後のサンゴ増殖計画を策 定・実施する上で重要な作業の一つである。 本調査では、図 1.6 に示す手順(考え方)で図 1.7 に示すような海域環境基盤情報図(ハ ビタットマップ)を作成した。 しかし、この情報図には経年的なデータや陸域情報・人為的負荷量等のデータが不足して いる状況である。 よって、今後、不足しているデータを蓄積又は収集することで、情報の高度化を図り、サ ンゴ成育環境の現況把握やサンゴの保全・増殖計画を行う上で、より活用し易い支援ツール となることを目指す必要があると考えられた。 V-5-6 図1.6 海域環境基盤情報図(ハビタットマップ)作成の手順(考え方) 図1.7 伊江島海域ハビタットマップ(平成22年度版) V-5-7 2. サンゴ増殖試験・基礎試験の検討 平成 22 年度調査結果より、伊江島地区におけるサンゴ増殖計画(平成 23 年度)の検討を行っ た。目的・期待される成果は以下に示すとおりであり、サンゴ成育阻害要因に対する増殖試験・ 基礎調査内容及び調査の流れは、図 2.1 に示すとおりである。 【サンゴ増殖計画の目的】 砂礫の移動が大きく、幼生加入量の少ない海域に適したサンゴ増殖礁を開発する。 【期待される成果】 砂礫の移動が大きく、幼生加入量の少ない海域で利用可能なサンゴ増殖礁の開発および構造。 伊江島におけるサンゴ成育阻害要因 伊江島 基本(基礎)調査 - 平成22年度と同様に、測線およびスポット調査を実施 →基礎データの蓄積及び経年変化を把握 ● ①サンゴ増殖試験基盤の実証試験 ②サンゴが成育するサンゴ瓦礫場の海域・底質条件基礎調査 ● ③海底地形変化予測 ④現地調査(現地漂砂観測及び海底地形測量) ● ⑤赤土、栄養塩類影響基礎調査 シルトの堆積 ● ⑤赤土、栄養塩類影響基礎調査 幼生の加入が少ない ● ⑥幼生加入量調査 × ※オニヒトデ少ない、魚類の食害を受けている可能性はあるが、基本 調査の中での観察のみとする ● ①サンゴ増殖試験基盤の実証試験 ②サンゴが成育するサンゴ瓦礫場の海域・底質条件基礎調査 地理的 サンゴ着底基盤が少ない 高波浪時に砂・礫が移動する 物理的 濁り 生物的 食害 藻類との基質の競合 伊江島地区 平成23年度 サンゴ増殖計画(実証試験・基礎調査) 図 2.1 サンゴ成育阻害要因に対する増殖試験・基礎調査内容及び調査の流れ V-5-8 (1)実証試験の概要 サンゴ成育阻害要因と実証試験概要は、表 2.1 に示すとおりである。実証試験はサンゴ増 殖礁の設置・モニタリングとともに、加入量調査(継続)、海底地形変化の把握(数値解析・ 現地調査)、人為的負荷量の把握などの基礎調査を実施し、サンゴ増殖技術開発に資する知見 を蓄積する。 表 2.1 サンゴ成育阻害要因と実証試験概要 ●:主な阻害要因、◎:阻害している可能性のある要因(平成22年度調査結果より) サ ン ゴ 成 育 阻 害 要 因 試験区分 伊江島 地理的 基盤が少ない ● ● ● ● ● ● 不明 高波浪時に砂・礫等が移動する 物理的 濁り シルトの堆積 幼生の加入が少ない 生物的 食害 藻類との基質の競合 その他 栄養塩類 サンゴ増殖礁の実証試験の実施 試 験 概 要 実証試験等 【目的】 ・砂礫の移動が大きく、幼生加入量の少ない海域に適した サンゴ増殖礁を開発する 【試験基盤のコンセプト】 ・試験基盤は、沖ノ鳥島における実証試験結果(実績)及び 水産生物増殖等に関する知見を踏まえ、当該海域におけ るサンゴ成育阻害要因を軽減・除去することにより、一定規 模のサンゴ増殖が図れるサンゴ増殖(基盤)礁を開発する 【試験方法】 ・スリック発生前に試験基盤を設置して新規加入状況を把握 ・植付けた稚サンゴの生残・成長をモニタリングする ・その他水産生物涵養効果の把握する ・流速低減効果・海底面安定効果等の物理的変化(効果) をモニタリング・検証する 【期待される成果】 ・砂礫の移動が大きく、幼生加入量の少ない海域で利用可 能なサンゴ増殖礁の開発および構造 【他】 ・昨年と同様の方法で新規加入量を調査(地点数は増加さ せる)及びスポット調査→継続的なデータを蓄積するととも に経年変化を把握する ・サンゴが成育するサンゴ瓦礫場の海域環境条件の把握 ・陸域からの人為的な負荷によるサンゴの生息への影響の 有無を把握する ・サンゴ礁内の地形変化モデルを構築し、サンゴ増殖の支 援ツールを開発する(モデル検証・高度化のために海底地 形測量・現地海底面変化観測・高波浪時の波浪流動観測 を実施) V-5-9 (2)サンゴ増殖試験基盤の概要 図 2.2 に示すように蛇籠(布団籠)と透水性のあるFRPパネルを組合せることにより、 サンゴ成育阻害要因を解消又は軽減させることにより、サンゴ増殖を図るものとする。 実証試験に用いる蛇籠は、500 ㎜(H)1000 ㎜(W)1500 ㎜(L)、FRP製パネルは 600 ㎜(H)1000 ㎜(L)を計画している。また、図に示すように群体で設置することで、より効果(機能)の発 現を期待する。 図 2.2 サンゴ増殖試験基盤の実証試験概要 V-5-10 (3)サンゴ増殖実証試験内容及び工程 伊江島地区における実証試験内容(生物調査・物理環境観測)及び工程計画は、図 1.3 及 び表 1.2 に示すとおりである。調査の流れは、以下に示すとおりである。 図 2.3 実証試験内容(生物調査・物理環境観測) 表 2.2 調査工程計画(案) V-5-11
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