5. まとめ 5.1. 成果のまとめ 本事業は、強毒性の鳥インフルエンザ(H5N1)からの変異による新型インフルエンザ等 の発生時において、最低限の国民生活を維持する観点から、食品事業者に対する事業継続 計画の策定推進を目的として実施してきた。 内容としては 3 つの施策から構成されており、その施策ごとの成果や課題は以下のとお りである。各施策の章末ごとに成果や課題をとりまとめているが、再度本章にて振り返る。 【1】研修会 今回の研修会は、食品供給に携わる食品事業者(生産、製造、物流、小売等)を対象と して、強毒性の新型感染症、とりわけ新型インフルエンザ発生時の BCP を策定する際に必 要な技術的・専門的知識を広く周知・普及させることを目的とした。 今回、研修会を実施した際の特徴として、開催した地域ごとに BCP に対する取組み状況 や研修会実施の効果が異なっていたことが挙げられる。主要都市における参加事業者の多 くは、既に BCP を策定している場合が多く、今回の研修会では事業継続に係る重要商品や 重要業務の選定基準、それらを製造・供給する上での課題と対策に主眼を置いていたため、 その部分における具体的かつ実践的な研修内容は好評であった。一方、地方都市における 参加事業者の多くは、BCP の基本的な考え方を知るところから始まり、当日使用した BCP 策定例(雛形)を自社の BCP として活用できることに対して非常に高い評価を得た。 また、今回の研修会は講師によるレクチャー形式に多くの時間を費やしたが、参加事業 者による BCP の発表場面では、普段聞くことができない他の事業者の考え方や BCP 策定内 容を知ることができた貴重な機会であったとの意見を数多くいただいた。 【2】サプライチェーンにおける事業継続計画の検証及び改善 ここでは、食料品の供給に係る生産から物流・販売等、SC 全体を通じた各事業者間の BCP のつながりについて検証し、SC における課題や問題点を明らかにするとともに、消費者需 要の変動に応じた供給量確保のための改善策を検討した。 他業界に比べても食品業界では、有事における SC の重要性が問われている。そのような 状況にありながらも、BCP を策定している食品事業者では、この SC の視点がほとんど考慮 されていない。 147 今回は、これらの課題を整理するとともに、SC 全体を俯瞰した BCP 策定時のポイントを 業態別に取りまとめた。 「カップめん」と「レトルトカレー」の 2 つを具体的な検証品目と しているが、他の食品全般についても汎用性のある成果であるといえる。 【3】事業継続を行うために必要となる 原材料在庫の確保手法の検討 新型感染症等の非常事態発生時における円滑な食品供給については、 「サプライチェーン における事業継続計画の検証及び改善」において成果を取りまとめたが、その際に製造業 を始めとする食品産業事業者では、確実に原材料を確保する可能性についても懸念してい る。 こうした状況を踏まえ、備蓄適性の高い食品の供給にかかわる事業者へのヒアリング調 査等を通じて、食品産業事業者等における原材料確保施策の現状を把握し、備蓄など食品 原材料の確保に資する方法と課題に関する検討を行った。 その結果、原材料の備蓄と調達先の分散化、という大きく 2 つの側面から提言を取りま とめることができた。平常時より恒常的に原材料在庫を積み増しておく対策が有効である 一方、原材料の調達先の分散化や、外部事業者との非常事態発生時に備えた優先供給契約 の締結などにより、緊急時における体制や対応を成果としてとりまとめることができた。 5.2. 今後の展開 本事業では、3 つの施策を実施するとともに、多数の食品事業者による参加や 3 名の検討 委員から専門的知見による助言・協力を得ることによって、前述のような成果を得ること ができた。しかしながら、本事業を通じていくつかの課題も浮かび上がった。今後の展開 として、新型インフルエンザ等の新型感染症発生時においても最低限の国民生活を維持す るために食料を供給するという観点から、以下のような課題について対応しつつ、食品産 業事業者による事業継続計画の策定をさらに推し進めることが必要であると考えられる。 食品産業事業者におけるBCP策定のさらなる推進 本事業を通じて、食品産業事業者に BCP の重要性を認識してもらうとともに、その策定 を推し進めることができたといえる。しかしながら、今後、BCP 策定を進めるうえで実施 すべき対応として、BCP 未策定の事業者に対しては引き続き BCP の策定を促すとともに、 既に策定している事業者では BCP の実効性向上やその内容の拡充を図ることを目指す必要 がある。 そのため、まずは各食品事業者が BCP 策定の必要性を理解しやすいような募集活動や、 参加しやすいような開催場所や時間を考慮した研修会の企画が求められる。そのうえで、 今年度の一連の成果を活用しつつ、BCP 策定のさらなる推進と拡充を、継続的に全国各地 148 で実施することが重要となる。 SC全体としての食料の安定供給 SC 全体としての食料の安定供給へ向けた対応として、食品の原材料確保、生産、販売に おいて SC を形成する食品産業事業者間での連携が必須となる。その際に、各事業者が情報 を共有し、BCP に係る連携・調整を図るような施策が求められる。 そのため、今年度の成果に基づき、特定の取引先を対象とした垂直統合型の SC のみなら ず、企業グループや系列を超えた異業種間での「情報交換会」等を開催し、SC 全体として の方向性や各事業者間での連携・調整事項を検討することが有益である。 149
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