『親の介護に対する 40・50 代の不安と準備』

2015 年1月9日
『親の介護に対する 40・50 代の不安と準備』
~全国の男女3,376名に聞いた40・50代の不安と備えに関する調査より~
第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所
(社長 矢島 良司)では、全国の 40 代・50 代の男女 3,376 名を対象にマネー・ヘルス・タ
イムのそれぞれの分野でどのような不安を抱き、どのような備えをしているのかアンケート調
査を行いました。この中から、親の介護に対する不安と準備についての調査結果を紹介します。
本リリースは、ホームページ(URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/ldn_index
.html)にも掲載しています。
≪調査結果のポイント≫
親の介護に対する不安(性別、親の世帯形態別、親の家への移動時間別) (P.2~5)
● 親の介護に対する不安の男女差は小さい。
● 夫婦2人暮らし・1人暮らしの親をもつ人の不安が高い傾向。
● 親の家に行くまで1時間以上かかる人の8割前後は、「親を介護するために親の家に通う
のが大変なこと」「親に何かあった時にすぐにかけつけられないこと」に不安。
親の介護に対する準備(性別、親の世帯形態別、親の家への移動時間別) (P.6~8)
● 「親に、介護予防のための体力・健康づくりを促している」割合は、女性に比べ男性でかなり
低い。
● 親が夫婦2人暮らしの場合、準備している割合が低い。
● 親の家まで遠い人で「親に、介護が必要になったときのための経済面での準備をするよう
促している」「介護の方法や介護される場所についての親の希望を知っている」割合が低い
傾向。
☆本リリースは、当研究所から季刊発行している『ライフデザインレポート』Winter 2015.1 を
もとに作成したものです。当該レポートは、下記のホームページにて全文公開しております。
<お問い合わせ先>
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(津田・新井)
TEL.03-5221-4771
FAX.03-3212-4470
【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi
≪調査実施の背景≫
要介護者(介護を必要とする人)がいる世帯の単独化や核家族化が進んでいます。この
ことは、要介護者を家族で介護しようとした場合、別居家族、あるいは少ない同居家族が
介護を担わざるを得ないことを示唆しています。また、たとえ要介護者に同居者がいても、
その同居者が高齢であることにより介護に十分携われない可能性もあります。
このような現状を背景に、別居家族による介護、中でも遠方に住む家族による介護、い
わゆる「遠距離介護」の負担は、介護をめぐる大きな問題のひとつになっています。そこ
で、40・50 代の男女を対象に実施した調査の結果を用い、親の介護が身近になるこの年代
の人、特に親と遠く離れて暮らす人や1人暮らし・夫婦2人暮らしの親を持つ人が、介護
に対してどのような不安を感じ、そして準備を行っているかに着目しました。
≪調査概要≫
・調査対象:全国の 40・50 代男女 3,376 名
・調査方法:株式会社クロス・マーケティングのモニターを用いたインターネット調査
・調査時期:2013 年 11 月
≪回答者の特性≫
今回、分析軸としたのは、性、親(以下で「親」という場合、自分の親、すなわち実親
を指す)の世帯形態、親の家への移動時間です。
「親の世帯形態」は、親が回答者と同居している場合を「自分と同居」
、別居している場
合を「自分と別居」としました。さらに、回答者と別居している場合には、両親または片
方の親が自分以外の家族と住んでいる場合を「他の家族と同居」
、両親が2人で暮らしてい
る場合を「夫婦2人暮らし」
、片方の親が死去しておりもう一方の親が1人で暮らしている
場合を「1人暮らし」と分類しました。また、自分の家から別居する親の家まで移動する
際に、最も速い移動手段を使った場合にかかる時間を「親の家への移動時間」としました。
親の世帯形態および親の家への移動時間の回答者数と構成割合は以下の通りです。
親の世帯形態、親の家への移動時間
(上段の単位:人、下段の単位:%)
世
帯親
形の
態
親
移
の
動
家
時
へ
間
の
自分と同居
562
16.7
両親または片親が健在
自分と別居
他の家族と同居
夫婦2人暮らし
1人暮らし
678
20.1
852
25.2
509
15.1
15分
未満
428
12.7
15分
以上
30分
未満
256
7.6
30分
以上
1時間
未満
327
9.7
1時間
以上
3時間
未満
488
14.5
その他(注)
両親とも
死去
309
9.2
466
13.8
3時間
以上
540
16.0
2,039人(60.4%)
2,910人(86.2%)
3,376人(100.0%)
注:親が施設に入所している場合や両親同士が別居している場合は「その他」とした。本稿における親の世帯形態別の
分析、および親の家への移動時間別の分析では「その他」を省略した。
1
親の介護に対する不安(性別)
親の介護に対する不安の男女差は小さい。
図表1 親の介護に対する不安(性別)
0
20
40
80 (%)
60
介護を必要とする期間がどのくらいになるか
わからないこと
73.4
78.1
69.2
73.0
介護施設を希望しても入れないこと
69.5
70.0
親が望む方法で介護できないこと
必要な介護サービスを十分に受けられないこと
64.3
66.2
介護の方法や制度に関する情報が
十分に得られないこと
64.6
65.8
64.7
64.4
親が望む介護の方法がわからないこと
自分以外に家族や親戚で介護できる人が
いないこと
62.4
59.3
自分の時間が減ること
58.4
62.4
親を介護するために親の家に通うのが大変なこと
53.7
57.9
親に何かあった時にすぐにかけつけられないこと
53.9
57.3
親が介護サービスを受けることや
介護施設に入ることを嫌がること
54.0
53.8
男性
(n=1,438)
女性
(n=1,472)
注:「非常に不安」「やや不安」と答えた割合の合計
両親または片親が健在な人に対し、親に介護が必要になったと想定した場合に、不安を
どの程度感じるか尋ねました。
図表1で不安(「非常に不安」+「やや不安」)と感じる割合を性別にみると、男性より
女性で高い項目が多いものの、いずれの項目においても5ポイント以上の男女差はありま
せん。男女問わず親の介護に対する不安を感じていることがわかります。
2
親の介護に対する不安(親の世帯形態別)
夫婦2人暮らし・1人暮らしの親をもつ人の不安が高い傾向。
図表2 親の介護に対する不安(親の世帯形態別)
0
20
40
60
80 (%)
71.9
介護を必要とする期間がどのくらいになるか
わからないこと
74.5
79.7
79.6
70.3
介護施設を希望しても入れないこと
69.8
73.1
75.0
68.0
親が望む方法で介護できないこと
68.4
72.2
73.1
64.6
必要な介護サービスを十分に受けられないこと
64.3
68.1
66.6
63.3
介護の方法や制度に関する情報が
十分に得られないこと
63.4
69.1
65.8
61.9
親が望む介護の方法がわからないこと
64.6
67.6
66.6
66.0
自分以外に家族や親戚で介護できる人が
いないこと
48.1
66.9
64.6
62.6
自分の時間が減ること
57.4
59.5
64.2
21.5
親を介護するために親の家に通うのが大変なこと
(注2)
58.7
67.6
69.9
26.9
親に何かあった時にすぐにかけつけられないこと
58.0
64.4
69.0
53.0
親が介護サービスを受けることや
介護施設に入ることを嫌がること
54.0
56.7
54.2
自分と同居(n=562)
他の家族と同居(n=678)
夫婦2人暮らし(n=852)
1人暮らし(n=509)
自分と別居(n=2,039)
注1: 「非常に不安」「やや不安」と答えた割合の合計
注2: 親が自分と同居している場合にも「親を介護するために親の家に通うのが大変なこと」に不安を感じると答
えた人がいる理由としては、将来親が自分と別居した場合を想定したことなどが考えられる
3
次に図表2には、不安を感じると答えた割合を、親の世帯形態別に示します。
「親を介護
するために親の家に通うのが大変なこと」
「親に何かあった時にかけつけられないこと」に
不安を感じる割合は、当然ながら親が自分と同居している場合より別居している場合でか
なり高くなっています。
「自分以外に家族や親戚で介護できる人がいないこと」に不安を感じる割合は、親が他
の家族と同居している場合に比べて、親が自分と同居、親が夫婦2人暮らし、1人暮らし
の場合で高くなっています。親が自分以外の家族と暮らしていればその人を頼りにできま
すが、それ以外の場合には自分だけが介護を担わなければならないかもしれないという懸
念がかなり大きいと考えられます。
これら以外の項目における親の世帯形態による差はさほど大きくないですが、親が自分
か他の家族と同居している場合に比べると、親が2人暮らしか1人暮らしの場合に不安を
感じる割合がやや高い傾向にあります。親が他の誰かと一緒に生活している場合より、親
だけで生活している場合のほうが、より不安が大きいことがわかります。
4
親の介護に対する不安(親の家への移動時間別)
親の家に行くまで1時間以上かかる人の8割前後は、
「親を介護するために親の家に通うのが大変なこと」
「親に何かあった時にすぐにかけつけられないこと」に不安。
図表3 親の介護に対する不安(親の家への移動時間別)
(%)
90
84.8
78.1
80
78.0
76.0
70
67.3
60.2
60
54.7
50
41.6
43.4
40
34.1
30
15分
未満
(n428)
15分
以上
30分
未満
(n=256)
30分
以上
1時間
未満
(n=327)
1時間
以上
3時間
未満
(n=488)
3時間
以上
(n=540)
親を介護するために親の家に通うのが大変なこと
親に何かあった時にすぐにかけつけられないこと
注:「非常に不安」「やや不安」と答えた割合の合計
次に図表3には、別居している親の家への移動時間別に、「親を介護するために親の家に
通うのが大変なこと」と「親に何かあった時にすぐにかけつけられないこと」に不安を感
じる割合を示します。これをみると、どちらの不安も移動時間が長い場合、すなわち親の
家から遠い場合のほうが高くなっています。特に、親の家に行くまで1時間以上かかる場
合は、8割前後の人がそれぞれの不安を感じています。
5
親の介護に対する準備(性別)
「親に、介護予防のための体力・健康づくりを促している」割合は、
女性に比べ男性でかなり低い。
図表4 親の介護に対する準備(性別)
0
10
20
30
親に、介護予防のための
体力・健康づくりを促している
40(%)
27.3
38.9
親に、介護が必要になったときのための
経済面での準備をするよう促している
19.9
21.5
介護の方法や介護される場所などに
ついての親の希望を知っている
22.0
26.9
親の介護を誰がするのかについて、
親と話し合っている
20.9
24.4
親の介護を誰がするのかについて、
他の家族と話し合っている
男性(n=1,438)
19.9
22.7
女性(n=1,472)
注:「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合の合計
では、親の介護に対してどの程度の準備を行っているのでしょうか。介護に関する家族
間コミュニケーションという視点での準備について尋ねました。
図表4であてはまる(
「あてはまる」+「ややあてはまる」)と答えた割合を性別にみる
と、「親に、介護予防のための体力・健康づくりを促している」では、男性が女性を 11.6
ポイント下回っています。また、他の項目においても女性より男性の割合のほうがやや低
くなっています。前述のように親の介護に対する不安の男女差はあまりありませんでした
が、準備は男性のほうがより行っていないといえます。
6
親の介護に対する準備(親の世帯形態別)
親が夫婦2人暮らしの場合、準備している割合が低い。
図表5 親の介護に対する準備(親の世帯形態別)
0
10
20
30
40(%)
37.7
親に、介護予防のための
体力・健康づくりを促している
29.6
30.9
37.9
22.6
親に、介護が必要になったときのための
経済面での準備をするよう促している
17.1
18.0
23.0
27.6
介護の方法や介護される場所などに
ついての親の希望を知っている
20.9
20.4
27.5
22.8
親の介護を誰がするのかについて、
親と話し合っている
18.6
21.5
24.8
19.4
親の介護を誰がするのかについて、
他の家族と話し合っている
16.2
22.4
22.8
自分と同居(n=562)
他の家族と同居(n=678)
夫婦2人暮らし(n=852)
1人暮らし(n=509)
自分と別居(n=2,039)
注:「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合の合計
次に図表5には、親の介護に対する準備に関する各項目にあてはまると答えた割合を、
親の世帯形態別に示します。「親に、介護予防のための体力・健康づくりを促している」
「親に介護が必要になったときのための経済面での準備をするよう促している」「介護の
方法や介護される場所についての親の希望を知っている」「親の介護を誰がするのかにつ
いて、親と話し合っている」割合は、いずれも親が自分と同居、1人暮らしの場合に比べ、
夫婦2人暮らしか他の家族と同居している場合で低くなっています。親が自分と一緒に住
んでいるか1人暮らしだと、介護に関して親と何かとコミュニケーションを行いますが、
親に他の同居者がいるとその人に任せがちになると思われます。
また、親が夫婦2人暮らしの場合は「親の介護を誰がするのかについて、他の家族と話
し合っている」割合も低くなっています。両親がまだ健在であるために、介護が身近にな
っておらず、介護について話し合う機会も少ないと考えられます。しかし前章でみたよう
に、親が夫婦2人暮らしの場合の介護に対する不安は低くありません。どちらかの親に介
護が必要になる前に、親自身や他の家族とのコミュニケーションをもっと図っておく必要
があるといえます。
7
親の介護に対する準備(親の家への移動時間別)
親の家まで遠い人で「親に、介護が必要になったときのための経済面で
の準備をするよう促している」「介護の方法や介護される場所についての
親の希望を知っている」割合が低い傾向。
図表6
(%)
40
親の介護に対する準備(親の家への移動時間別)
(%)
40
37.1
32.4
30.3
29.7
31.1
30
30
25.2
24.6
21.4
24.1
22.7
20
22.7
21.1
19.2
18.1
21.9
17.7
20
21.1
18.7
21.5
21.5
19.3
21.1
18.0
19.1
15.6
10
10
0
0
15分
未満
(n428)
15分
以上
30分
未満
(n=256)
30分
以上
1時間
未満
(n=327)
1時間
以上
3時間
未満
(n=488)
3時間
以上
(n=540)
15分
未満
(n428)
親に、介護予防のための体力・健康づく
りを促している
15分
以上
30分
未満
(n=256)
30分
以上
1時間
未満
(n=327)
1時間
以上
3時間
未満
(n=488)
3時間
以上
(n=540)
親の介護を誰がするのかについて、
親と話し合っている
介護の方法や介護される場所などにつ
いての親の希望を知っている
親の介護を誰がするのかについて、
他の家族と話し合っている
親に、介護が必要になったときのための
経済面での準備をするよう促している
注:「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合の合計
図表6には、親の介護に対する準備に関する各項目にあてはまると答えた割合を親の家
への移動時間別に示します。「親に、介護が必要になったときのための経済面での準備を
するよう促している」「介護の方法や介護される場所についての親の希望を知っている」
割合は、移動時間が長い、すなわち親の家まで遠い場合のほうが低い傾向にあります。ま
た、「親に、介護予防のための体力・健康づくりを促している」割合は移動時間が15分未
満の場合に比べて15分以上の場合で低く、「親の介護を誰がするのかについて、親と話し
合っている」割合も移動時間が15分以上の場合のほうがわずかながら低くなっています。
親の近くに住んでいない人は、介護について親と話をしたり親から話を聞いたりする機会
が少ないといえます。親との物理的距離が、介護に関する親とのコミュニケーションに影
響していると思われます。
8
≪研究員のコメント≫
40・50 代の人の多くは、男女を問わず、自分の親の介護に対してさまざまな不安を抱え
ています。特に親と遠く離れて暮らす人は、親に介護が必要になった際に親元に行きにく
いという不安を感じています。
「遠距離介護」を行う人に対する支援の拡充が、今後のより
大きな社会的課題になると考えられます。
ただし、親と一定以上離れて住む人は、親に介護に関する希望を聞いたり、準備を促し
たりしない傾向にあります。親と直接会って話すことが難しくても、例えば電話やメール
といった通信手段を用いて日頃から親との密なコミュニケーションを図っておくなど、個
人のレベルで親の介護に備えることも必要です。
また、親と別居している人の中では、1人暮らしまたは夫婦2人暮らしの親をもつ人の
介護に対する不安が高くなっています。にもかかわらず、親が夫婦2人暮らし、すなわち
両親が一緒に住んでいる場合、子どもが親の介護に対する準備を行っている割合はとりわ
け低いです。両親が健在なうちから、介護に関する希望を聞くなどの準備を始めることも
重要といえます。
一方、親と同居している人は、自分以外に親を介護できる人がいないという不安をより
感じていますが、介護の担い手について他の家族と十分には話し合っていません。将来親
に介護が必要になった際にその同居家族だけが抱え込まないようにするためには、同居家
族と別居家族が話し合っておく必要もあるでしょう。
(研究開発室 上席主任研究員 水野映子)
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