GPS車両位置管理システムを利用した高速道路運用管理 「効率的な作業車両管理と利用者への情報提供」 田村 進一*1、富田 正則*1 3.GPS車両位置管理システムの導入事例及び導入効果 1.背景 お客様にとって高速道路が安全・安心・快適・便利な道路 3.1 東日本高速道路株式会社における導入事例 空間とするために、道路巡回車による定期的な巡回作業や、 東日本高速道路株式会社は北海道、東北、関東、新潟の4 降雪・積雪のある地域においては除雪トラック等による除雪 つのエリアを管理しており、42の高速道路・一般有料道路の 作業を行っている。これらの車両を効率的に稼働させるため 管理延長は3,720㎞で、日平均約269万台の車両が利用してい には、作業車両の現在位置を把握することが必要であり、よ る。これらの交通状況、道路状況、気象状況などの情報収集 り的確な作業指示が要求される。 と、交通事故等の異常事態発生時の現場対応のため、交通管 これまでの運用では、各作業車両に設置されている車載無 線機からの無線通信による音声連絡のみであり、リアルタイ ムな車両位置の把握は不可能であった。 理隊による交通管理巡回作業が実施されている。 また、道路管理延長の約6割が年間1m以上の降雪のある重 雪氷地域となっているが、冬期に積雪がある高速道路区間で また、高速道路利用者に対する道路状況・作業状況などの は、積雪や路面凍結により交通事故や通行止め等が発生する 情報提供は、効率的な運航ルートを確保するため重要なもの 可能性が高くなる。このような状態を回避して高速道路利用 である。 者の安全・安心な交通を確保するために、高速道路会社にお そこで、これらを満足するためにGPSを利用したリアル タイムな位置情報・作業内容を取得する車両位置管理システ いては除雪・排雪や凍結防止剤散布などの雪氷対策作業を実 施している。 ムの開発・導入を行い、また、道路情報を管理する情報提供 現在、東日本高速道路株式会社管内の複数の支社でGPS システムと連携することにより高速道路利用者に対してリア 車両位置管理システムを導入しており、平成25年度末現在で ルタイムで的確な情報提供を行うことを目指したものである。 表1に示す交通巡回車両や雪氷対策車両にGPS車載端末を 設置して運用を行っている。 表1 GPS車載端末設置台数 2.GPS車両位置管理システムの構成 本システムは、車両運転室内、管理事務所、道路管制セン 交通管理車両 雪氷対策車両 48 443 ターの中で、それぞれGPS車載端末装置、管理事務所装置、 合 計 491 統括装置から構成される。そして、高速道路作業車両の位置 情報と作業情報を、災害時にも安定して回線が確保できる高 速道路会社のデジタル無線を利用して伝送し、管理事務所や 3.2 GPS車両位置管理システムの導入効果 GPS車両位置管理システムを導入することにより、次の 道路管制センターに設置した監視装置に表示させるシステム ような効果を得ることができる。 である。 3.2.1 車内での現在位置の把握 図1にGPS車両位置管理システムの構成図を示す。 交通管理巡回作業や雪氷対策作業においては、道路管制セ ンターや雪氷対策本部に対して自らの作業開始・終了位置の 連絡を行うこととなっている。また、緊急事象等で道路管制 センターからの現在位置の問い合わせも多い。 高速道路上での車両等の位置については、「キロポスト 値」で管理をしており、道路上には「キロポスト標」という 標識が設置されている。 しかし、冬期間の積雪・降雪時や夜間等の悪環境では、 「キロポスト標」が見えない状態となり、道路管制センター や雪氷対策本部からの指示に対して的確な対応が出来ない場 図1 GPS車両位置管理システムの全体構成 合がある。 本システムで作業車両に設置するGPS車載端末装置では、 GPS座標の移緯度経度情報をキロポスト値に変換してディ スプレイ部に表示することにより、「キロポスト標」が見え *1 ㈱ネクスコ・エンジニアリング新潟 施設事業部施設管理部ITS開発課 ない状態であっても車内で正確な現在位置を把握すること が可能である。 図2 キロポスト標(左:通常時、右:積雪・降雪時) 図4 車両位置監視画面 また、予めGPS車載端末装置に該当するキロポスト値と 3.2.3 履歴データを利用した資料作成 注意喚起メッセージの内容を登録することにより、車両が該 作業車両から送信された位置情報・作業内容のデータは、 当位置(キロポスト値)に到達した場合に、図3のように注意喚起メ 各監視装置で表示用として利用される他に車両履歴データと ッセージを表示させることが可能となり、作業ミスが削減さ して蓄積される。 れる。 このデータを利用して、作業車両の過去の運行履歴を図5 に示す作業ダイヤグラムを自動作成することが可能であり、 資料作成の効率化が図られた。 注意喚起メッセージ 図3 注意喚起メッセージの表示 3.2.2 道路管制センター等での位置情報・作業情報の把握 図5 作業ダイヤグラム 道路管制センターや雪氷対策本部では、所属する作業車両 の作業位置や作業内容を把握することで、的確で効率的な作 業指示が可能となる。 これまでの運用では、各作業車両に設置されている車載無 4.GPS車両位置管理システムを利用した情報提供 GPS車両位置管理システムで取得された作業車両の位置 情報・作業情報を、高速道路利用者に対するリアルタイムな 線機からの通話によって車両位置や作業内容を把握していた 情報提供に活用した。 ため、リアルタイムな車両位置・作業内容の把握は不可能で 4.1 冬期間における道路管制センターでの情報提供と課題 あった。 また、多くの車両からの無線通話が発生すると、聞き間違 い等による正確な情報取得が不可能となってしまう。 冬期間において、積雪や路面凍結が見込まれる区間では、 前述の通り除雪・排雪作業や凍結防止剤散布作業を実施し、 高速道路利用者の安全・安心・快適な交通を確保している。 本システムにおいては、作業車両に設置したGPS車載端 東日本高速道路株式会社新潟支社管内においては、平成25 末で表示されるキロポスト値(位置情報)と作業員が選択し 年度は年間最大157日間を雪氷対策期間としており、表2の体 た作業種類(作業内容)を、車載端末と接続したデジタル車 制で雪氷対策を行っている。 載無線機のデータ通信領域を利用して、自動送信される。 この情報を道路管制センターや雪氷対策本部に設置した監 また、平成25年度の作業実績は作業延長の合計約61万㎞ は、地球1周を約4万㎞とすると約15周相当の作業量となる。 視装置でグラフィカルに表示させることにより、作業車両の リアルタイムな位置情報と作業内容を把握することが可能と なった。 表2 新潟支社雪氷施設概要(平成25年度) 管理 雪 氷 作業日数 作業延長 管理事務所 延長 基地数 湯沢 87.8km 9箇所 125日 192,800km 新潟 122.1km 7箇所 85日 117,400km 長岡 90.9km 7箇所 86日 107,600km 上越 129.1km 9箇所 112日 191,500km 支社合計 429.9km 32箇所 ― 609,300km これらの作業は高速道路を運用しながら実施する必要があ るが、時速30~50㎞という遅い速度での作業となるため、渋 を直接使用するため、誤りの無いリアルタイムな情報提供が 可能となる。 滞の発生や追突事故の危険性など高速道路利用者に影響を与 える。 このため、道路管制センターでは作業を実施する区間や作 業内容について、高速道路に設置された道路情報板等に表示 させ、高速道路利用者に対して道路状況・作業状況の情報提 供を行っている。 これまでの運用においては、道路管制センターの運用員が 作業車両からの無線通話の傍受や各事務所雪氷対策室からの 電話連絡により、作業車両の位置や作業内容を判断して情報 提供を行う区間や作業内容を情報提供システムに入力を行っ ていた。 図6 車両位置情報を活用した情報提供システム 5.まとめ しかし、複数の作業車両が複数区間で作業を行う場合、道 GPS車両位置管理システムを導入することにより、夜間 路管制センターでの作業情報入力が煩雑となるため、予め複 や悪天候時でも自車の位置を車内で正確に把握することが可 数区間の作業情報を提供していた。このため、作業車両が存 能となった。 在しない区間にも作業情報が表示される。 作業車両を管理する道路管制センター等においても、リア また、作業区間と別な箇所で交通事故や通行止め等の重要 ルタイム且つ視覚的に作業車両の位置情報・作業内容を把握 な情報提供事象が発生すると、作業情報入力の遅延や入力ミ することで、的確な作業指示と効率的な作業車両の配置が可 ス等が発生することがある。 能となった。 このように、高速道路利用者に対してリアルタイムで的確 な情報提供を行うことが重要な課題であった。 また、本システムの位置情報・作業内容データを利用する ことで、これまで運用員が入力していた高速道路利用者への 情報提供についても、リアルタイムで正確な情報提供が行え 4.2 車両位置情報を活用した情報提供システムの構築と効果 るようになった。これにより、利用者が低速作業実施区間の このような課題を解決するため、図6のようなGPS車両 利用回避等の判断・選択することで、不要な渋滞や事故が低 位置管理システムと連携した情報提供システムを構築した。 減され、高速道路利用者にとって安全・安心・快適・便利な 各作業車両の車両位置情報と作業内容情報は各管理事務所 道路空間として高速道路を利用して頂くためのサービス向上 に設置された事務所サーバに蓄積されており、この情報は高 速道路会社自営通信網を経由して道路管制センターに設置さ れている統括サーバに集められる。 統括サーバに集約された車両位置・作業内容データを、情 報提供システムにネットワークで接続して、自動で配信する こととした。 情報提供システムではリアルタイムな車両位置・作業内容 データを基にして、交通情報データを生成し、高速道路に設 置されている道路情報板等で情報提供を行うものである。 新潟支社管内でこのシステムの構築後に行った試験では、 作業車両が作業対象IC区間に入った時点で、対象区間の作 業情報が作業車両後方の道路情報板に提供されることが確認 されており、リアルタイムで的確な情報提供が行えることが 実証された。 平成25年度において、東日本高速道路株式会社新潟支社の 道路管制センターでは157日間の雪氷対策期間中に、約8,000 件の除雪作業や凍結防止剤散布作業に関する情報の操作を入 力で行っていたが、本システムにより作業の効率化が図れる。 また、実際の作業車両から発信された位置情報・作業内容 につながると考えられる。
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