14-I-0061 2014 年 12 月 22 日 株式会社日本格付研究所(JCR)は、以下のとおり信用格付の結果を公表します。 メキシコ合衆国 (証券コード:−) 【据置】 外貨建長期発行体格付 格付の見通し 自国通貨建長期発行体格付 格付の見通し 債券格付 A− 安定的 A+ 安定的 A− ■格付事由 (1) 格付は、北米自由貿易協定(NAFTA)のもとで発展した堅固な輸出基盤、堅実なマクロ経済政策の枠組 みとその運営実績、並びに、エネルギー分野などでの構造改革の進展を評価している。他方、格付は、財 政面での石油関連収入依存の高さや、生産性向上を妨げる既得権益層や非正規部門の存在により制約され ている。格付の見通しは安定的である。世界第 10 位の産油国メキシコは、輸出の 13%(13 年実績)を石 油関連が占めるほか、連邦政府歳入の約 3 割を石油関連収入が占めており、油価下落のストレスにさらさ れている。国際収支面では、石油の純輸出額は GDP 比 1.4%にとどまるため、同 2%程度の経常収支赤字 が大きく拡大することは想定しにくい。連邦政府歳入は、15 年度まではヘッジにより油価変動の影響を 回避し得るものの、仮に油価低迷が長期化した場合には、16 年度以降、石油関連収入の減少に伴い、歳 出削減や財政赤字拡大などの調整を余儀なくされる可能性がある。GDP の 94%を占める非石油部門は、 米国の経済成長と燃料価格の低下に牽引され、順調に回復を続けるものと見られる。今後、米国の金利が 上昇した場合、メキシコも、国内金利の上昇、対内証券投資流入の減少、為替減価といった事態に直面す る可能性は否定できない。しかしながら、米国に合わせた回復が想定される中、経常収支赤字・対外債務 も GDP 比約 2%・35%と管理可能な水準にあり、IMF のフレキシブル・クレジットライン(FCL)に補完 された外貨準備による流動性バッファーも増しつつあることから、同国は想定される環境変化に対する耐 性を有していると見られる。現ペニャ・ニエト政権は、エネルギー・金融・通信・労働などの分野での大 胆な構造改革を推し進める一方、財政面でも石油依存を逓減させるための対策を講じ始めている。こうし た取り組みの着実な進展は、同国の信用力を高めていく潜在性を有すると見られる。なお、今回新たに、 メキシコのカントリーシーリングを「A+」に設定した。 (2) メキシコは、人口 1.2 億人、名目 GDP1.3 兆ドル、一人当たり GDP は 1.1 万ドル(13 年時点) 。NAFTA のもとで外国からの対内直接投資を積極的に受け入れており、自動車・家電などの堅固な輸出基盤を有し ている。GDP の 31%(13 年時点、以下同じ)に達する輸出は、その 79%が米国向けであり、また全体の 74%を工業製品が占める。自動車輸出台数は 13 年には 241 万台に達した。経済は、米国の景気循環サイ クルとの相関が高く、足元では米国向け輸出の拡大が自律的な内需の回復につながっている。12 年 12 月 に成立したペニャ・ニエト政権は、エネルギー部門の民間セクターへの開放や、金融・通信・労働などの 分野での、大胆な構造改革を推し進めている。エネルギー改革については、13 年 12 月の憲法改正を経て、 14 年 8 月までに全ての関連二次法が公布されるなど、明確な進展を見せている。これにより、油田開 発・生産(上流)、石油精製・販売(下流)、発電といった分野が外資を含む民間企業に開放され、燃料や 電力等のエネルギー小売価格も段階的に自由化される。加えて、金融・通信・労働・競争法・公教育など、 多岐にわたる分野での構造改革に取り組んでいる。これらが効果を上げるには、既得権益層からの巻き返 しを回避しつつ、着実な実施を遂げる必要があり、また相応の時間も要すると見られる。しかしながら、 この結果、エネルギーコストの低下や、競争的な経済環境の整備、非正規部門の正規化などが進んだ場合 には、潜在的な成長力が引き上げられる可能性を十分有すると見られる。 1/3 http://www.jcr.co.jp (3) メキシコは、日量 256 万バレル(13 年)を産出する世界第 10 位の産油国であり、連邦政府歳入の約 3 割 を石油関連収入に依存している。非石油関連の税収は GDP 比 10%程度と低く、財政面では石油依存から の脱却が課題となっている。当局は、14 年 10 月に財政責任法を改正。15 年度から、より透明性の高い新 ルールを適用し、財政における石油依存並びに油価変動の影響を逓減させる対策を講じ始めている。具体 的には、これまで複数存在した石油関連基金を統合し「石油安定化貯蓄基金」を設立。国家の石油関連収 入を全て同基金に集約し、同基金から連邦政府への資金移転額を毎年 GDP 比 4.7%以下とし、生産量の増 加や油価上昇に伴う追加的な石油関連収入を蓄わえる枠組みを構築した。しかしながら、同制度は、基金 が積み上がる以前に生産量が減少または油価が下落した際には、連邦政府への資金移転額の減少を招く。 15 年度までは、先物契約によるヘッジのおかげにより、油価変動の影響を回避し得るが、仮に油価低迷 が長期化した場合には、16 年度以降、石油関連収入の減少に伴い、歳出または財政赤字幅で調整を余儀 なくされる。改正財政責任法では、①裁量的な「構造的経常支出」の増加率への上限設定(15∼16 年度 は前年度比実質 2%以下、17 年度以降は潜在成長率以下とする)②より広義の財政赤字である「公的部門 借入必要額(PSBR) 」の法的な目標導入(15 年度 GDP 比 4.0%)―など、歳出拡大には今まで以上に強 い制約が課されているが、16 年度以降にどのように運用されるかには、一定の不確実性が残る。 (4) 対外面をみると、経常収支は赤字が続くものの GDP 比 2%程度と小幅であり、対外債務残高も同約 35% と管理可能な水準にある。柔軟な為替相場とインフレターゲット政策の下、マクロ経済の不均衡は小さく、 広範な構造改革の進展にも支えられ、投資家からの信認も維持されている。米国の非伝統的金融政策から の脱却観測が浮上した 13 年第 2 四半期(4∼6 月)には、非居住者による対内証券投資がわずかながら流 出超となったもの、その後は純流入を維持。非居住者によるペソ建国債の投資残高も増加傾向にあり、14 年 10 月末時点で全体の 36%を占めている。当局は、国営石油会社 PEMEX による石油輸出の見返り資金 を原資に外貨準備の積み増しに努めており、14 年 11 月末時点で過去最高の 1,927 億ドルと、短期対外債 務の 2.6 倍に相当する水準に達している。加えて、IMF からも、極めて強固なマクロ経済政策と政策枠組 みを評価され、継続的に FCL の設定を受けている(14 年 11 月更新、期間 2 年、総額 720 億ドル相当) 。 (5) メキシコの銀行部門は、民間向け与信残高が GDP 比 29%と低く、金融仲介機能の発展が開発課題となっ ている。当局は、銀行間の競争促進や、担保・保証実行にかかる法的枠組みの透明性確保などにより、貸 出促進に向けた対策を講じている。13 年後半には、政策変更に伴う民間住宅建設業者の破綻などから、 銀行部門の不良債権比率が 2%台から 3%台に上昇したものの、その後安定化しており、14 年 9 月末時点 では 3.1%、同時点の自己資本比率も 15.9%と、総じて健全性を維持している。 (担当)仲川 聡・山本 さくら ■格付対象 発行体:メキシコ合衆国(United Mexican States) 【据置】 対象 外貨建長期発行体格付 自国通貨建長期発行体格付 対象 第 13 回円貨債券(2012) 第 14 回円貨債券(2012) 第 15 回円貨債券(2013) 第 16 回円貨債券(2013) 第 17 回円貨債券(2013) 第 18 回円貨債券(2014) 第 19 回円貨債券(2014) 第 20 回円貨債券(2014) 格付 見通し AA+ 安定的 安定的 発行額 発行日 償還期日 2012 年 6 月 8 日 2012 年 6 月 8 日 2013 年 8 月 8 日 2013 年 8 月 8 日 2013 年 8 月 8 日 2014 年 7 月 24 日 2014 年 7 月 24 日 2014 年 7 月 24 日 2015 年 6 月 8 日 2017 年 6 月 8 日 2016 年 8 月 8 日 2018 年 8 月 8 日 2019 年 8 月 8 日 2019 年 7 月 24 日 2024 年 7 月 24 日 2034 年 7 月 24 日 500 億円 300 億円 486 億円 150 億円 170 億円 338 億円 139 億円 123 億円 2/3 http://www.jcr.co.jp 利率 1.29% 1.56% 1.16% 1.39% 1.54% 0.80% 1.44% 2.57% 格付 AAAAAAAA- 格付提供方針に基づくその他開示事項 1. 信用格付を付与した年月日:2014 年 12 月 17 日 2. 信用格付の付与について代表して責任を有する者:藤本 主任格付アナリスト:仲川 聡 幸一 3. 評価の前提・等級基準: 評価の前提および等級基準は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に「信用格付の種類 と記号の定義」 (2014 年 1 月 6 日)として掲載している。 4. 信用格付の付与にかかる方法の概要: 本件信用格付の付与にかかる方法の概要は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に、 「ソブリン・準ソブリンの信用格付方法」 (2014 年 11 月 7 日)として掲載している。 5. 格付関係者: (発行体・債務者等) メキシコ合衆国(United Mexican States) 6. 本件信用格付の前提・意義・限界: 本件信用格付は、格付対象となる債務について約定通り履行される確実性の程度を等級をもって示すものである。 本件信用格付は、債務履行の確実性の程度に関しての JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該確実性 の程度を完全に表示しているものではない。また、本件信用格付は、デフォルト率や損失の程度を予想するもので はない。本件信用格付の評価の対象には、価格変動リスクや市場流動性リスクなど、債務履行の確実性の程度以外 の事項は含まれない。 本件信用格付は、格付対象の発行体の業績、規制などを含む業界環境などの変化に伴い見直され、変動する。ま た、本件信用格付の付与にあたり利用した情報は、JCR が格付対象の発行体および正確で信頼すべき情報源から入 手したものであるが、当該情報には、人為的、機械的またはその他の理由により誤りが存在する可能性がある。 7. 本件信用格付に利用した主要な情報の概要および提供者: ・ 格付関係者が提供した経済・財政運営方針などに関する資料および説明 ・ 経済・財政動向などに関し中立的な機関が公表した統計・報告 8. 利用した主要な情報の品質を確保するために講じられた措置の概要: JCR は、信用格付の審査の基礎をなす情報の品質確保についての方針を定めている。本件信用格付においては、 発行体もしくは中立的な機関による対外公表、または担当格付アナリストによる検証など、当該方針が求める要件 を満たした情報を、審査の基礎をなす情報として利用した。 9. JCR に対して直近 1 年以内に講じられた監督上の措置:なし ■留意事項 本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、 的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、 金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因 のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。また、JCR の格付は意見の表明であ って、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするも のでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。格付は原則として 発行体より手数料をいただいて行っております。JCR の格付データを含め、本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。JCR の格付データ を含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。 ■NRSRO 登録状況 JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の 4 クラ スに登録しています。(1)金融機関、ブローカー・ディーラー、(2)保険会社、(3)一般事業法人、(4)政府・地方自治体。 ■本件に関するお問い合わせ先 情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026 3/3 http://www.jcr.co.jp
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