道路融雪施設の効率的制御及び再生可能エネルギーの活用について

道路融雪施設の効率的制御及び再生可能エネルギーの活用について
山口和哉*1, 片野浩司*1, 永長哲也*1
1.はじめに
積雪寒冷地では、冬期間の融雪施設は交通安全の確保
比較の結果、削減ポテンシャルは 30~40%程度と
のため必要不可欠なものであり、勾配など道路条件を勘
なった。これは仮に融雪面積を 1,000m 2 とすると、
案し設置されている。これらの熱源のほとんどは電気で
電気料金約 1,480 千円/年、A重油約 14,000L/年に
あり、そのコストが道路管路の大きな負担となっている。
相当する(ほっとタイム 22:11.57 円/kWh、重油発
また東日本大震災以降、節電が必要となっているが、
熱量:39.1MJ/L)。
特に北海道のように冬期間に電力使用量のピークを迎え
ここで推計される必要熱量は、凍結防止もしくは
る地域では冬期の節電が重要であり、道路融雪施設のよ
融雪に必要な熱量である。必要熱量の計算は路面乾
り効率的で経済的な維持管理が求められている。
燥状態でも計上(凍結防止の必要熱量は、路面の乾燥、
そこで、既存ロードヒーティングの稼働実態を調査し、
湿潤に関わらず路面温度 0℃以下で計上)されるため、
運転方法別の供給熱量(供給電力量)と必要熱量(降雪
路面乾燥状態を的確に感知し必要熱量を検証するこ
量、外気温度、路面温度、風速から推計される融雪や凍
とにより、より大きな削減ポテンシャルが得られる
結防止に必要な熱量)を検討することで、最小限必要な
可能性がある。
熱量を明確にし、融雪施設で活用可能な再生可能エネル
600
合計降雪量(12月~2月)[cm]
ギーについて活用方法の提案を行う。
本年度は、供給熱量と必要熱量を比較するとともに、
融雪施設の維持管理手法の提案のため、路面乾燥、日射
量、断続運転を考慮した融雪熱量シミュレーションを実
施したので報告する。
300
2011
200
100
平年より少ない
平年並
平年より多い
0
0%
図-1
降雪などの気象状況のデータを収集し、供給熱量と必要
日最低気温平均(12月~2月)[℃]
熱量推計値の比較を行い、この結果から最大縮減ポテン
シャルを推計した。また必要熱量から、ベース負荷(必
要熱量を累積出現率で整理し、融雪期間を通して発生時
間の長い必要熱量)の検討を行った。
2.1 供給熱量と必要熱量
過去の気象条件から推計した必要熱量と実際に計
測した供給熱量を比較した結果を表-1に示す。
必要熱量と供給熱量の比較
201 1年
396.2
353
353
供給熱量推計値(札幌②)
-
329.6
-
供給熱量推計値(札幌③)
423.9
-
-
必要熱量推計値(札幌①)
232
218.7
193.3
必要熱量推計値(札幌②)
-
238.5
-
必要熱量推計値(札幌③)
60%
80%
100%
期間降雪量の気候的出現率(札幌)
2012
-7.0
2011
-6.0
-5.0
2013
-4.0
-3.0
-2.0
-1.0
平年より高い
平年並
平年より低い
0.0
20%
40%
60%
80%
100%
累積出現率
2 013年
供給熱量推計値(札幌①)
40%
-8.0
0%
(kWh/m2)
20 12年
20%
累積出現率
既存ロードヒーティングの路面状況、供給熱量、風況、
項目
2013
400
2.実態調査について
表-1
2012
500
図-2
最低気温平均値の気候的出現率(札幌)
降雪量と最低気温について過去20年の出現率で比較す
ると、2012年は降雪量が多く、最低気温も低かったこと
221.9
-
-
がわかる。このように、気象条件や降雪量が削減ポテン
必要熱量/供給熱量(札幌①)
59%
62%
55%
必要熱量/供給熱量(札幌②)
-
72%
-
シャルに大きな影響を与える(図-1,2)ため、今後
必要熱量/供給熱量(札幌③)
52%
-
-
削減ポテンシャル平均(=100-必要/供給)
45%
33%
45%
削減ポテンシャル3ヵ年平均
もデータ蓄積が重要である。
41%
*1(独)土木研究所寒地土木研究所 寒地機械技術チーム
2.2 ベース負荷
3/31 までの気象庁アメダス1時間データを用い必要
再生可能エネルギーは融雪施設の熱源として活用
熱量を推計した。
することで、環境負荷低減・省エネ効果などが期待
シミュレーションの条件として、外気温が低い時
されるが、必要熱量の変動に対し迅速に応答(供給熱
など、「凍結防止に必要な熱量」が計上されるが、
量を増減)することは困難であるため、再生可能エネル
「実際は乾燥している」という場合も考えられるた
ギーによる効果的な供給熱量としてベース負荷を検討し
め、次の3パターンに分けて推計を行った。
た。
1) 全時間:路面乾燥を考慮せずに全ての時間につい
こ こ で は、以 下 の 方法に よ り 必要熱 量 を 整理し た 。
て算出。
1) 必要熱量の出現率は気象条件によって異なるため、
2) 降雪終了後 48 時間以内:降雪終了後 48 時間後以
札幌のアメダスデータ過去 6 年分及び実態調査を行
降は路面が乾燥しているものとして、必要熱量を推
った 3 地点 3 年分のデータから、各年度の 12 月~2
計しない。
月の必要熱量を推計した。
3) 降雪終了後 24 時間以内:降雪終了後 24 時間後以
2) 必要熱量推計値を各年度、累計出現率で整理した。
降は路面が乾燥しているものとして、必要熱量を推
2
3) 0W/m は除外して累積出現率を整理した。
計しない。
以上の条件により必要熱量を累積出現率で整理し
た結果を図-3に示す。
必要熱量は出現率が高くなると、指数関数的に上
昇している(指数関数での近似値によるR 2 ≒0.92)。
これは、累積出現率の高い側にベース負荷を設定
表-2
項目
札幌
旭川
帯広
釧路
274
203
436
358
399
降雪後48時間以内
221
265
183
400
149
156
降雪後24時間以内
183
247
164
345
82
83
無駄となる熱量が多くなることを示す。
500 全時間
期間必要熱量推計値(kWh/m2 )
50.0%)設定した。
函館
239
600 をベース負荷として 3 パターン(16.6%、33.3%、
小樽
(kWh/m2)
全時間
すると、年間を通して必要な熱量に対して、急激に
このことから、出現率が 50%以下の必要熱量推計値
期間必要熱量推計値
降雪後48時間以内
降雪後24時間以内
400 300 200 100 0 2008年度
2009年度
図-4
2010年度
2011年度
2012年度
5ヵ年平均
期間必要熱量推計結果(札幌)
600 全時間
降雪後48時間以内
降雪後24時間以内
ベース負荷 50.0%(113W/m2)
ベース負荷 33.3%(80W/m2)
期間必要熱量推計値(kWh/m2 )
500 400 300 200 100 0 ベース負荷 16.6%(47W/m2)
2008年度
2009年度
図-5
2010年度
2011年度
2012年度
5ヵ年平均
期間必要熱量推計結果(旭川)
600 全時間
降雪後48時間以内
降雪後24時間以内
図-3
必要熱量の累積出現率推計
3.融雪熱量シミュレーション
期間必要熱量推計値(kWh/m2)
500 400 300 200 100 3.1
主要都市ごとの路面乾燥を考慮した必要熱量シ
0 ミュレーション
道内主要都市の気象条件から、必要熱量のシミュ
2008年度
2009年度
図-6
2010年度
2011年度
2012年度
5ヵ年平均
期間必要熱量推計結果(釧路)
レーションを行い、地域ごとの特性を把握した。対
図-4~6より、旭川市が札幌市と比べて数値が
象都市は札幌、小樽、函館、旭川、釧路、帯広の6
大きくなっているがこれは降雪が多く気温が低いた
都市とし、2008~2012 年の 5 カ年分の 12/1 から
めである。
釧路市は降雪量が少なく、外気温度が低いため、乾燥
られるが、電気式では電源のONかOFFの制御となる。
を考慮した推計と考慮しない推計の差が大きくなってい
(ON:250W/m2、OFF:0 W/m2)これ以外の熱供給の方法と
る。このような気象条件の都市では、施設の制御方法に
しては、断続運転が考えられる。1時間に10分×3回の供
よっては大きな省エネのポテンシャルがあると考えられ
給とすれば1時間で125 W/m2と同様の熱供給をしたことに
る。
なる。
3.2 日射量を考慮した供給熱量シミュレーション
供給熱量
日射利用後の供給熱量
250.0 太陽光は最大 1000W/m2の熱エネルギーを持っており、
路面温度の上昇、乾燥路面の発生が確認されている。こ
のことから融雪施設の運転に日射を考慮することによる
200.0 面積あたり熱量[W/m2]
既存融雪施設の実態調査からも日射による融雪の促進や
150.0 100.0 50.0 省エネのポテンシャルは高いと思われる。
0.0 ここでは、以下の条件で供給熱量の削減効果を検証し
図-7
た。
1) 気象データから 1 時間ごとの日射量を整理した。
2) 雪のアルベド(反射率)を 0.5 と想定し、熱取得量
日射量シミュレーション結果(2013 年度)
3.3 断続運転を考慮した供給熱量シミュレーション
既存融雪施設では、融雪専用電力である「ほっとタイ
は日射量の 1/2 とした。
ム 22」を活用することが多いが、電力契約上 16:00 から
3) 連続的な日射量等の計測データが揃っている川沿ロー
21:00 の間に 15 分×8 回(5 時間中 2 時間)の断続運転
ドヒーティングの観測結果 2 年分(12/26~2/28)を推計した。
を行っている。路面状況把握や、路面温度の計測結果
4) 日射量を考慮した供給熱量を 1 時間ごとに新たに設
(図-8)から、この時間帯に路面凍結が発生する頻度は
定し、既存の供給熱量と比較することにより削減ポテン
少ないと思われる。このことから道路交通の安全性を損
シャルを推計した。新たに設定する日射量を考慮した供
なわない程度に別の時間帯でも断続運転を行うことが省
給熱量は表-3のとおりとした。
エネに有効と考えた。
表-3
今回、以下の条件で供給熱量の削減効果を検証した。
日射量を考慮した供給熱量区分
区分
1) 調査期間中の 16:00~21:00 は既に断続運転を行って
日射を考慮した供給熱量
必要熱量<供給熱量+日射取得熱量
必要熱量-日射量(日射で賄えない分を熱供給する)
必要熱量>供給熱量+日射取得熱量
既存の供給熱量と同様(実際の供給分や250W/m2は
超えないものとして想定するため)
必要熱量 <日射取得熱量
0(日射のみで対応可能と想定)
いるため、この時間帯以外を削減効果の推計対象とした。
2)連続的な必要熱量、路面温度等の計測データが揃っ
ている川沿ロードヒーティングの観測結果 2 年分を推計した。
3) 必要熱量<供給熱量となる時間帯に断続運転を行う
5) 日射量による省エネ効果ポテンシャルの推計であり、
と仮定し、1 時間ごとの削減可能な熱量を推計した。
建物・車輌による影の影響は考慮していない。
4) 推計の結果、供給熱量が必要熱量を下回る時間につ
2
6) モデルとして、融雪面積 1,000m の場合の環境性・経
いては、断続運転により、融雪不可や路面凍結が発生し
済性について比較した。なお、電力単価は 12 円/kWh、
ないようにするため、元の供給熱量とした。
断続運転のパターンは表-5の3パターンとした。
た。(電力単価は「ほっとタイム 22」。2013.11 北海道
表-4
日射量を考慮した供給熱量シミュレーション結果
項目
実測値
日射利用
2
832.3
538.0
2
810.0
574.2
2012合計(MJ/m )
2013合計(MJ/m )
平均(MJ/m2)
821.1
削減率
削減料金(千円)
CO 2削減効果(t-CO2/年)
556.1
32%
884
温度[℃]、風速[m/s]
温度[℃]、
風速[m/s]
電力聞き取り)
気温(℃)
面積あたり供給熱量
250 6.0 200 4.0 2.0 150 0.0 ‐2.0 100 ‐4.0 ‐6.0 50 ‐8.0 ‐10.0 ‐12.0 0:00
0 6:00
図-8
推計の結果、2 年平均の削減額は 884 千円/年、二酸化
本推計では、日射を取得可能な場合は供給熱量を小さ
路面温度(℃)
8.0 36
炭素削減効果は 36t-CO2/年となった。(表-4)
風速(m/s)
10.0 表-5
12:00
18:00
0:00
断続運転時の路面温度(川沿 RH)
断続運転の停止パターン
番号
運転率
停止率
1時間あたりの
停止する時間
備考
①
0.5
0.5
30分相当
くすることを想定しており、温水式ロードヒーティングでは流
②
0.6
0.4
24分相当
10分×3など
ホットタイム22と同様
量制限(インバーター制御)などによる熱量抑制が考え
③
0.8
0.2
12分相当
6分×2など
2
面積あたり供給熱量[W/m
面積あたり供給熱量[W/m2] ]
電力による二酸化炭素排出係数は 0.485kg-CO2/kWh とし
推計の結果、2年間平均の削減額は、344~529 千円/
年、二酸化炭素削減効果は 14~21t-CO2/年となった。
今後は、実証実験や既存施設の計測の積み重ねにより、
路面状況に応じた制御を行う必要があり、センサーの適
切な設置が欠かせない。
今回、現地調査を行った施設については適切とは言い
路面の安全性を保持可能な適切な断続運転を検証するこ
難い状況が散見された。あらためてセンサーの設置状況
とが課題となる。その際、前項で行った日射量の活用と
の把握と、状況に応じた路面の部分補修が望まれる。
の組み合わせ(日射時に強制的に断続運転を行う制御な
また、センサーの設置位置が路肩近傍にあって、その
ど)も有効と思われる。
上に堆雪したり、車両走行部に設置されているところも
表-6
あるなど、センサーの設置位置が統一されていない。こ
断続運転を考慮した供給熱量シミュレーション結果
項目
2
2012合計(MJ/m )
2
実測値
①
②
③
832.3
661.9
663.8
722.0
れは、施設の誤動作やセンサー故障の原因になるため、
最適なセンサーの設置方法を検討する必要がある。
810.0
663.1
663.5
713.9
路面に直接設置するセンサー以外に路面の補修作業等
821.1
662.5
663.6
718.0
に影響されない非接触型センサーを導入することも対策
削減率
19%
19%
13%
削減料金(千円)
529
525
344
CO2削減効果t-CO2/年)
21
21
14
2013合計(MJ/m )
2
平均(MJ/m )
の一つである。ただし、非接触型センサーを融雪施設制
御に採用している事例が少ないため、今後のデータ蓄
積・評価、さらにはシステム最適化及びコストの検討を
4.維持管理上の課題
行う必要がある。
北海道では、轍掘れ解消のため、部分的あるいは面的
に路面の薄装作業により道路補修を実施している。この
5.まとめ
補修は融雪施設設置箇所でも実施される。そこで、融雪
・供給熱量の削減ポテンシャルは 30~40%程度であ
施設の路面上に設置されている路面温度センサー、路面
ることがわかった。
湿潤(水分)センサーの設置状況について調査した。
・必要熱量は、地域により大きな差があり、降雪が
調査の結果、薄装作業によりセンサーが不適切な設置
状態になっている箇所が見られた。
写真-1(左)は、路面レベルに設置されているセン
サーで、除雪時に破損する可能性は少ない。
少ない地域では路面乾燥を考慮することで、大きな
省エネポテンシャルがあると思われる。
・融雪施設の断続運転制御については、現状でも融
雪電力契約の規定により実施されており、大きな問
題が発生していないことから、今後は、路面の安全
性を保持可能な適切な断続運転を検証する。
・路面センサーの現地調査で適切とは言い難い設置状況
が散見された。これは、融雪施設の誤動作やセンサー故
障の原因となるため、最適なセンサー設置方法の検討が
写真-1
路面センサーの設置状況①
必要である。
写真-1(右)は、薄装作業によりセンサー表面が路
面レベル以下になった状況で、融雪水が溜まり舗装表面
は乾燥した状態でも、水分センサーが溜まった水を検知
参考文献
する可能性がある。また、路面温度についても溜まり水
1) 北海道開発局:道路設計要領、第5集電気通信施設、第4
の温度を検知する可能性がある。
章ロードヒーティング設備、H24
2)北海道大学地中熱利用システム講座:地中熱ヒートポンプ
システム、H19.9
3)地表面に近い大気の科学:近藤純正
4)気象庁
写真-2
路面センサーの設置状況②
写真-2(左)は、センサーが路面レベル以上になっ
た状況である。除雪車などで、センサーが破損する懸念
がある。
融雪施設の省エネルギー化にあたっては、気象条件や
アメダスデータ