2014年 12月 26, 27日
平成26年度 中性子イメージング専門研究会
実用製品のブラッグエッジイメージングを
目指したリチウムイオン電池内黒鉛負極材
の結晶格子面間隔評価
○成田 裕樹
佐藤 博隆 大沼 正人
北海道大学 大学院工学院
加美山 隆
1
パルス中性子透過分光法の原理
パルス中性子源
試料
検出器
入射中性子: I 0 (λ )
透過中性子: I (λ )
I (λ )
中性子透過率:
I 0 (λ )
α-Fe ( 厚さ 4 mm )の中性子透過率スペクトル
90%
60%
集合組織
結晶子サイズ
50%
40%
0.0
0.1
{110}
70%
{200}
{220}
{211}
80%
中性子透過率
特徴
• バルク試料を非破壊
で測定可能
• 大面積イメージング
が可能
結晶格子面間隔 d
λ = 2d sin 90°
0.2
0.3
0.4
中性子波長 λ [nm]
0.5
実用製品へ適用
2
研究背景
リチウムイオン電池(LIB)の充放電過程
充電
e-
充電機
負極材
黒鉛
黒鉛層間へのリチウム
イオンの挿入・脱離反応
正極材
リチウム合金
黒鉛の結晶格子面間隔変化
製品状態で黒鉛負極材の
結晶組織構造情報を評価
する技術が求められている。
電解液
セパレータ
(高分子化合物)
水素やリチウムを含むため、
透過率の解析が困難。
3
研究目的と研究内容
研究目的
LIB製品の中性子透過率スペクトル解析を行い、黒鉛
負極材の充電量に応じた結晶格子面間隔を評価する。
研究内容
1.粒子輸送計算による実験条件の検討
2.実用LIBへパルス中性子透過分光法の適用
3.測定したブラッグエッジスペクトルの解析
4
散乱中性子の混入を防ぐ実験体系の検討
入射中性子 透過中性子 非干渉性散乱中性子
散乱中性子の混入
見かけの透過率増加
検出器
試料
検出器
散乱中性子の混入を防ぐため
試料と検出器を遠ざける。
散乱中性子の混入を防ぐためには、
試料-検出器間距離をどの程度離す必要があるか調べた。
5
実用LIB測定のためのシミュレーション条件
粒子輸送計算コード 「PHITS」
中性子ビーム : 発散角なし
試料模擬体 : 積層材
ブラッグ散乱体(Fe※)
強非干渉性散乱体(H2O)
強吸収体(Li)
シミュレーション体系
中性子源
( 10 cm 角 )
検出器
試料
(8 cm 角) (5 cm 角)
L [cm]
飛行距離:600 cm
※ PHITS では鉄のみブラッグ散乱を
考慮した核データを使用できる。
1 cm
各 32層 トータル厚さ:1 cm
モデル化
‥‥‥
H2O Fe
Li
2 mm 1 mm
4 mm
Fe
H2O
電解液
正極・セパレータ・負極・セパレータ
1 mm 2 mm
6
混入中性子による見かけの中性子透過率の変化
試料-検出器間距離に対する中性子透過率のシミュレーション結果
中性子透過率
1.000
L = 0 cm
L = 5 cm
L = 10 cm
L = 25 cm
理想値
0.100
0.010
0.001
0.1
0.2
0.3
0.4
中性子波長 [nm]
0.5
距離を離すにつれ、散乱中性子の混入が減り、真の透過率に近づく。
7
試料-検出器間距離に対する中性子透過率
波長 0.4 nm における中性子透過率の試料-検出器間距離依存性
0.020
中性子透過率
0.016
0.012
0.008
ほぼ散乱中性子の混入なし
0.004
0.000
0
50
100
150
試料-検出器間距離 [cm]
200
透過率が非常に小さくなるため、バックグラウンドの低減が重要。
(2) 実用LIBの中性子透過率スペクトル測定実験
9
LIBの中性子透過率スペクトル測定条件
測定場所: 北大 LINAC パルス冷中性子ビームライン
試料: リチウムイオン電池製品
負極材(黒鉛)
正極材(リチウム合金)
実験体系:
減速材
( 12 cm×12 cm )
試料
(8 cm×8 cm)
飛行距離:540 cm
•
•
ガラスシンチレーション検出器
(5 cm×5 cm)
6Li
100 cm
散乱中性子の混入を防ぐため
⇒ 試料-検出器間距離 :100 cm
バックグラウンドを低減するため ⇒ ホウ酸ブロックによる遮蔽
10
LIBの中性子透過率スペクトル測定結果
黒鉛負極材単体
正極材単体
0.100
0.010
C{002}
中性子透過率
1.000
実用LIB
0.001
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
中性子波長 [nm]
非常に小さな中性子透過率領域でも、ブラッグエッジを観測できた。
11
LIB充電量に応じたブラッグエッジ出現波長の変化
試料:実用LIB(厚さ 1 cm)
0.010
放電時
中性子透過率
満充電時
測定した実用LIB充電率
使用範囲を 0 ~ 100% とし、
放電時
: 0%
半充電時
: 55%
満充電時
: 100%
半充電時
0.001
0.50
0.60
0.70
0.80
中性子波長 [nm]
LIBの充電量に応じた黒鉛負極材の格子面間隔変化を、
実用製品状態で観測。
0.90
(3) 実用LIBの中性子透過率スペクトル解析
13
RITS によるブラッグエッジ解析
ブラッグエッジ解析コード「RITS」
ブラッグエッジをプロファイル解析することで、 結晶構造を定量的に評価できる。
回折ピーク
ブラッグエッジ
放電時
回折ピーク
ブラッグエッジ
格子面間隔
半充電時
の増大
満充電時
σhkl
dhkl d 'hkl
dhkl
フィッティングパラメータ
黒鉛
回折ピーク ブラッグエッジ
d 002 : C{002}面の格子面間隔
格子面間隔
σ : 格子面間隔の分散
の分散の増大
σhkl
Li 層
黒鉛層
0.3706 nm
0.3354 nm
文献: D. Guérard, A. Hérold,
Carbon, 13, 337
d (1975) .
hkl
14
RITS による LIB のブラッグエッジ解析結果
半充電時
満充電時
d002 = 0.355 nm d002 = 0.353 nm
σ = 0.003 nm
σ = 0.000 nm
放電時
d002 = 0.338 nm
σ = 0 nm
黒鉛
0.3354 nm
Li 層
黒鉛層
ステージ 3
0.3471 nm
0.3706 nm
0.3354 nm
ステージ 2
0.3530 nm
文献: D. Guérard, A. Hérold,
Carbon, 13, 337 (1975) .
15
まとめ
強吸収体・強散乱体を含む実用LIBの中性子透過率スペクトルを
測定し、実用LIB内黒鉛の結晶面間隔の充電率依存性を調べた。
1. 粒子輸送計算により実験条件を決定した。
2. 実用LIBの中性子透過率スペクトル測定
充電により黒鉛負極材の格子面間隔が変化することを
実用製品状態で観測した。
3. RITSによる実用LIBのブラッグエッジ解析
LIB内黒鉛の結晶格子面間隔およびその分散を評価できた。