Consciousness, Control, and Confidence: The 3 Cs of Recognition

Consciousness, Control, and Confidence: The 3 Cs of
Recognition Memory
Yonelinas, A. P.
Journal of Experimental Psychology: General, 2001, 130, 361-379∗
問題と目的
1
想起と親近性
1.1
想起 (recollection) と親近性 (familiarity) の区別は,いくつかの記憶理論の中で,重要な意味を
持っている (Jacoby, 1991; Mandler, 1980; Tulving, 1985; Yonelinas, 1994).この区別は,人間の脳損
傷患者研究から,脳イメージング,ラットやサルの脳研究に到るまで,大きな役割を果たしてい
る1 (Aggleton & Brown, 1999).この想起と親近性を区別する理論を総称して,二過程説と呼ぶ,
これら二過程説では,特に再認記憶において,想起と親近性の過程が働いていると考える.具体
的には,人が再認テストを遂行するときに,まず想起の過程が働くと考える.そのような単語が
あったかということを想起し,確かにそのことを思い出したなら yes と答える.ここでそのような
単語があったということを想起できない場合には,親近性による判断の過程に入る.この親近性の
過程では,記憶痕跡の強さを判断し,より記憶痕跡が強い項目に対して yes と答える.
想起と親近性の測定
1.2
この二過程モデルにおける想起と親近性には,いくつかの未解決の課題がある.その1つが想起
と親近性の測定方法である.二過程モデルに依拠するいくつかの理論は,その理論の立場から測度
を開発しているため,いくつかの異なった指標が生まれているのである.具体的には
過程分離手続き (process-dissociation procedure) Jacoby たちの立場.統制可能性の有無によって
想起と親近性を区別して考える.inclusion test と exclusion test という 2 つのテストリストを
使って,想起と親近性を分離しようとする方法.
remember-know(R-K) 手続き Tulving, Gardiner らの立場.意識的経験の有無によって想起と親近
性を区別して考える.再生時に,その項目がテストフェーズに提示されたことを思い出せる
(remember) か知っている (know) かを主観的に報告させ,想起と親近性を分けて測定しよう
とする方法.
二重過程-信号検出モデル (dual-process signal-detection model) Yonelinas たちの立場.想起は閾値
モデル,親近性は信号検出理論のモデルに従うとする数学的なモデルを立てる.再認テスト
∗ rep:
村山航 ([email protected])
1 脳研究において,この区別に長く疑問を唱えているのが
Squire である.
1
によって得られた ROC 曲線 (receiver operating characteristics) にモデルをフィットさせ,想起
と親近性の値を推定する.なお,このモデルに従う ROC 曲線は Figure 1 のようになる.
の3つの指標が代表的である.
1.3
本研究の目的
上のように,想起と親近性の指標には 3 種類のものがある.しかし,これらが同じものを測定し
ているのか,それとも別のものを測定しているのかは直接検討されていない.本研究の 1 つめの目
的は,この 3 つの指標を直接比較し,同じようなプロセスを反映しているのかを検討することであ
る.本研究の 2 つめの目的は,remember-know 手続き,過程分離手続きによって得られた想起と
親近性の指標を用いて,二重過程-信号検出モデルの前提となっている “想起は閾値モデル,親近
性は信号検出モデルに従う” という命題が,妥当かどうかを検討することである2 .信号検出モデ
ルに従うデータは,Figure 1 にあるように,綺麗な線対称の ROC 曲線を描く.一方,閾値モデル
に従うデータは,x 軸に水平な ROC 曲線を描く.remember-know 手続き,過程分離手続きを用い
て想起と親近性を分離した上で,これらの成分がどのような ROC 曲線を調べることによって,二
重過程-信号検出モデルの前提が正しいかどうかが明らかになるであろう.
実験 1 と 2 では,二重過程-信号検出モデルと R-K 手続きとの比較を行う.実験 3 では,さらに
過程分離手続きとの比較を行う.
実験 1
2
実験 1 では,二重過程-信号検出モデルと R-K 手続きとの比較を行う.その際に,注意分割の有
無も操作する3 .
2.1
方法
被験者と材料
手続き
被験者は 18 人の大学生.材料は Toronto word pool4 より.
実験は “学習-テスト” のブロックを 4 回繰り返す.各ブロックのリストは 58 語よりなる.
最初と最後の 4 語は,バッファとして除去した.学習フェーズにおいて,各単語は ISI2.0 秒で 1.5
秒ずつスクリーンに呈示され,被験者はそれを音読し覚えるように求められた.ただし,単語の半
分は,“注意分割” 条件として呈示された.注意分割条件の単語の横には,1-9 の数が 2 つ同時に表
示された.さらに,ISI の 2 秒間の間に別の 1 つの数字が表示され,被験者はその数字がさきほど
の 2 つの数字の間にあったか否かをキー押しで判断することを求められた.注意分割とそうでない
(全注意の)単語は,ランダムな順で呈示された.
21
つめの目的を検討する中で,この前提の妥当性はある程度検証されるといえるが,本研究ではさらに詳細な検討を行
う
3 注意分割の有無を操作せずに,二重過程-信号検出モデルと R-K 手続きの解に一致が見られたとしても,そもそも人間
の記憶システムが二重過程モデルに従っていない可能性がある.一方,何らかの要因を操作し,それが想起-親近性の過程
に異なった影響を与えたなら(交互作用を生む),その両者は乖離している可能性が高い(必ずしもそうでないことが,1
システム論者からの反論では提出されているが).そのため,潜在-顕在記憶研究の多くは,このように何らかの別の要因
を操作し,その交互作用を見ることによって,想起-親近性の記憶過程の乖離を示している.
4 url: http://memory.psych.upenn.edu/wordpools.php ペンシルベニア大学の Kahana が中心となっているらしい.
2
テストフェーズでは,25 個の全注意単語,25 個の分割注意単語,25 個の新奇単語がランダムに
呈示され,被験者はそれらに 2 つの反応をするように求められた.まず最初は,確信度評定であ
り,6 件法 (1=sure it was new; 6=sure it was old) での評定が求められた.次に,その直後に,その
単語に関する remember-know 判断が求められた.具体的には,学習したときの状況を実験者に話
せるくらい思い出せたときだけ R の反応を行い,学習したとは思うけれども学習したときのこと
は思い出せないという場合には K 反応を,学習していないと思う場合には N(new) 反応をするよう
に教示された (Gardiner, 1988).被験者が R-K 手続きを理解しているかを確認するため,被験者に
は各反応の教示を,実験者に伝え返すことを求めた.
以後の分析で用いる ROC は,確信度評定の結果を用いてプロットする.具体的には,確信度評
定が 6 の場合のヒット率と誤警報率をプロットし,次に,確信度評定が 5 もしくは 6 の場合のヒッ
ト率と誤警報率をプロットする,
,
,を繰り返すと ROC のプロットが得られる5 .
2.2
結果と考察
R-K の分析 R 反応と K 反応の結果を Table 1 に示す.R-K の反応から想起と親近性の成分を,以
下のように算出した.まず,R 反応はそのまま想起の成分と考えられるため,R 反応率を想起の確
率とした.K 反応は,“想起できなかったときに,親近性の寄与によって反応した” 反応だと考える
ことができる.従って,親近性による反応率を F とすると,K = F[1 − R] と考えることができる6 .
この式を変形し,F = K/[1 − R] として算出した.算出した結果を Figure 2 に示す.K の反応が R
の反応に制約を受けているため,単純な ANOVA 検定はできないが,図より,想起の成分が親近性
の成分より注意分割の効果を大きく受けていることが分かる.これは先行研究と同じ結果である.
ROC の分析
二重過程-信号検出モデルによるヒット率・誤警報率の定式化は以下の通りである
(詳細は Yonelinas, 1997, 1999a).
P[“yes00 |old] = R + [1 − R]Φ[(d0 /2) − c]
(1)
P[“yes00 |new] = Φ[−(d0 /2) − c]
(2)
Φ は正規累積関数であり,d0 は,信号検出理論における sensitivity パラメタ,c は response criterion
である.この式に,ROC のデータをフィットさせ,R と K の反応確率,及び d0 を算出した.実際
のプロット値とフィットさせたモデルから得られた ROC 曲線を示したのが Figure 3 の左端である.
非常によいフィットを示しているのが見て取れる(分散説明率が 99.6%と 99.8%).
このままだと,想起確率はパラメタ R によって求まっているが,親近性の確率が求まっていな
い.そこで,実測値の誤警報率(R-K に関わらず7 )と,モデルから得られた d0 の値(全注意条件
1.10,注意分割条件 0.92) を信号検出モデルに適用し,そのとき old 単語を old と反応する確率を,
親近性の確率とした.得られた想起確率,親近性確率を記したのが Figure 3 である.R-K 手続きに
よって得られた想起-親近性確率と非常に一致した結果が得られたことが分かる.
ここで補足的に,先行研究の追試を行うため,確率を z 値に変換した z-ROC をプロットした.そ
5 確信度評定の違いが,信号検出理論における
response criterion の違いを反映していると仮定しているため.
6 あくまで両過程が独立だと考えるため,このような算出式が出てくる.
7 これからあとの分析でも,親近性の成分に関係するにも関わらず,全体的な誤警報率を用いている分析が多い.それは,
R 反応の誤警報率がかなり小さい (0-4%)であるため,全体的な誤警報率を用いても結果に歪みが出ないと,筆者が考えた
からである.
3
して,その z-ROC において単回帰分析を行い,その切片と回帰係数を求めた.8 .結果,傾きが 1
より小さく,切片が 1 より大きいことから,二重過程-信号検出モデルの妥当性が示唆された.
想起と親近性成分の ROC
想起成分と親近性成分の ROC を独立に検討するため,以下のように
想起と親近性のヒット率と誤警報率を算出した.
まず,想起成分のヒット率に関しては,R 反応を示したもののヒット率を,確信度ごとに求めて
ROC 曲線を算出した.次に,親近性成分のヒット率に関しては,確信度ごとのヒット率(その確
信度より上の値を報告した割合)と R 反応を用いて,(F = [hits − R]/[1 − R]) として算出した.誤
警報率に関しては,どちらの成分に関しても,確信度ごとの誤警報率(新奇項目に R もしくは N
の反応をした率)を求めた.
得られた結果が Figure 3 である.予測通り,親近性の曲線は対称的な ROC 曲線(Figure 1) の曲
線を描いており,
(等分散)信号検出モデルの説明率は 99.5%であった.想起の ROC 曲線は直線で
あり,これも予測通りである.この結果より,二重過程-信号検出モデルの妥当性が示されたとい
えよう.
まとめ
R-K 手続き,二重過程-信号検出モデルのそれぞれから算出された想起と親近性の成分は,
非常に類似した値であり,同じように注意分割の影響を受けていた.両者の指標は同じものを測定
している可能性が高いだろう.また,想起と親近性の過程を分離して ROC 曲線を書いたところ,
両者の曲線は予測した通りの形になった.これは,想起の過程が閾値モデル,親近性の過程が信号
検出モデルに従うという二重過程-信号検出モデルの仮定を支持するものであるといえよう.
実験 2a
3
実験 2a-2c では,実験 1 の手続きを少し変えて実験 1 の追試を行うことが目的である.実験 2a
では,確信度評定の方法を修正して追試を行った.
3.1
方法
被験者と材料
被験者は 18 人,材料は実験 1 と同じ.
手続き
R-K 反応と確信度の評定を除き,実験 1 と同じ.R-K 反応と確信度評定は,以下のよう
な修正を行った (see Yonelinas & Jacoby, 1995).
まず,被験者にその単語を想起できるか否かの反応を求める.そして想起できなかった場合にの
み,その確信度を 6 件法で尋ねた.
3.2
結果と考察
R-K の分析 確信度判断が 4 以上を K 反応,3 以下を N 反応として9 ,同じ分析を行った (Figure
5).実験 1 と同じく,想起が親近性に比べて,注意分割の影響を大きく受けている.
8 詳細は他稿に譲るが,このようなプロットを行うと,基本的にそのプロットは直線になる.そして,モデルが完全に信
号検出理論にしたがう場合には,切片が 1,回帰係数が 1 となる.二重過程-信号検出モデルでは,直線の左端が (R の存在
によって)押し上げられるため,切片が 1 よりやや大きく,傾きがやや 1 より小さくなる.
9 他の基準で分析を行ったが結果は変わらなかった.
4
ROC の分析 R 反応を確信度 6 として考え,ROC をプロットした.ここで二重過程-信号検出モ
デルを適用し,データをフィットさせたところ,得られたプロットとフィット率の高い結果が得ら
れた(分散説明率がどちらも 99.9%).得られたプロットとモデルから得られた曲線を示したのが
Figure 6 である.
ここで ROC から想起の確率・親近性の確率を求めるため,実験 1 と同じ手続きでそれぞれの値
の算出を行った.結果が Figure 5 である.実験 1 と同じく,R-K 手続きによって得られた想起-親
近性確率と非常に一致した結果が得られたことが分かる.
親近性成分の ROC
確信度評定が行われた単語のみを対象に ROC 曲線をプロットし,親近性の
過程における ROC 曲線を検討した.プロットされた値と(等分散)信号検出モデルからのカーブ
が Figure 6 の右側である.予測通り,親近性の過程は,信号検出理論モデルが予測するように対称
的な ROC 曲線を描いている.
z-ROC z-ROC の結果も,実験 1 と同じようになった (Table 2).
実験 2b
4
実験 2b では,単語リストと注意分割の操作を変えて,追試を行った.
4.1
方法
被験者と材料
手続き
被験者は 18 人の大学生.材料は Toronto Word Pool から選びなおした.
ほぼ実験 2a と同じ.ただし,今回,“学習-テスト” のブロックは 1 回だけであった.学習
単語のリストは 200 で,全注意条件と注意分割条件それぞれ 100 語であった.テストフェーズでの
新奇単語も 100 語であった.
また,学習フェーズで単語は 2 秒呈示され,ISI は 2 秒であった.単語を音読し,覚えることが
求められた.注意分割条件では,単語と同時に 1-9 の数字が呈示され,ISI のブランク時にまた別
の数字が呈示された.被験者は,ここで今出ている数字が先ほどの数字より大きいか小さいかを
キー押しで判断した.
4.2
結果と考察
R-K の分析(Figure 5), ROC の分析(Figure 6),両者の比較(Figure 5),親近性の ROC 曲線
(Figure 6) のすべてにおいて,実験 2a とほぼ同じ結果が得られた.z-ROC の結果も実験 1, 2a と同
じであった (Table 2).
5
実験 2c
実験 2c では,注意分割の有無をブロック化して,追試を行った.
5
5.1
方法
被験者と材料
手続き
被験者は 18 人の大学生.材料は同じ.
ほぼ実験 2b と同じ.ただし,全注意条件の単語と注意分割条件の単語をランダムに呈示
するのではなく,それぞれ別のリストとしてブロック化して呈示した.
5.2
結果と考察
R-K の分析(Figure 5), ROC の分析(Figure 6),両者の比較(Figure 5),親近性の ROC(Figure
6) のすべてにおいて,実験 2b とほぼ同じ結果が得られた.z-ROC の結果も実験 1, 2a と同じであっ
た (Table 2).
実験 2 を通して,実験 1 の結果が追試された.Remember-Know 手続きと二重過程-信号検出モデ
ルで得られた想起と親近性の確率は,非常に類似しており,同じように注意分割の影響を受けてい
た.両者は同じ概念を測定している可能性が高いことが示された.さらに,親近性の ROC は対照
的な図形を描いており,二重過程-信号検出モデルが示唆するように,
(等分散)信号検出モデルに
従うことが示された.
実験 3
6
実験 3 では,これまでの 2 つに加え,過程分離手続きによって想起と親近性の成分を分離し,比
較を行う.また,これまでの実験にいくつかの変更点も加えた.
1 つは,3 つの方法をそれぞれ異なった被験者が実行するようにしたことである.実験 1, 2 では
R-K 手続きも確信度評定も同じ被験者が同時に行ったため,確信度評定の結果に基づいて R-K 手
続きが行われた(実験 1 の場合)ことを否定できない.その可能性を除去するため,違う手続きを
同じ被験者が同時に行うことがないようにした.2 つは,注意分割の操作を処理水準の操作に変更
したことである.
なお,過程分離手続きは 2 つのテストの類似性の程度によって想起の成分の大きさが変わってく
ることが示されている (Gruppuso et al., 1997; Wagner et al., 1997).本研究ではより想起の成分を明
確に分離するため,オリジナルの方法 (片方のリストは聴覚呈示,もう片方が視覚呈示される方法;
Jacoby, 1991) を用いることとした.
6.1
方法
被験者と材料
54 人の大学生が,3 つの条件に無作為配置された.どの条件も同一の 240 語を用
いた.また,さらに 60 語が過程分離手続きのために用いられた.
手続き
80 語からなるリストが 2 つ,それぞれ深い処理条件・浅い処理条件として聴覚呈示され
た.深い処理条件では,被験者に,それらの言葉がどの程度快い (pleasant) ものかを 4 件法で評定
させた.浅い処理条件では,それらの言葉がいくつのシラバスから成り立っているかを答えさせた.
R-K 条件と ROC 条件の人は,そのあと新奇項目 80 項目を加えた合計 240 語での再認テストを
受けた.R-K 手続き,確信度評定の方法は実験 1 と同じである.
6
過程分離手続き条件では,2 つのリストを学習した後に,さらに 60 語が画面上に 3 秒間隔で呈
示された.被験者はこれらの単語も覚えるように教示された.学習終了後,2 つのリストのテスト
が実施された.どちらのリストも,浅い処理条件から 30 語,深い処理条件から 30 語,新奇単語
40 語で構成されている.最初のリストは Exclusion テストと呼ばれ,“その単語が視覚呈示された
ことを想起した場合には yes と反応する” ことが求められた.“その単語が最初の聴覚呈示のリス
トにあったことを思い出せたか,新奇な単語であれば no と反応する” ことが求められた.さらに,
“どこで呈示されたか覚えていないが,新奇な単語でなければ yes と答える” ように求められた.次
のリストは Inclusion テストと呼ばれ,“どちらかのリストで呈示されていれば yes と答える” よう
に求められた.
ここで Inclusion テストの誤警報率がやや高かったため,オリジナルの過程分離手続きの算出方法
を用いることができなかった.そこで,被験者の反応バイアスを修正した方法 (Yonelinas & Jacoby,
1996; Yonelinas, Regehr, & Jacoby, 1995) が用いられた.
6.2
結果と考察
R-K の分析 R-K 条件の結果から,実験 1 と同じように想起と親近性の割合を算出した (Figure 7).
深い処理は想起に大きな影響を与えているが,親近性にはあまり大きな影響を与えていない.これ
は先行研究と合致する結果である.昔の研究では,想起の過程は意味処理を,親近性の過程は知
覚処理を反映するため,親近性は処理水準の影響を受けないという主張もあるが (Mandler, 1980;
Jacoby & Dallas, 1981),近年では意味処理-知覚処理と想起の過程-親近性の過程はまた別物である
という主張も強い.本研究では後者を支持する結果が得られたと言えよう.
ROC の分析 Figure 8 を見ると分かるように,実験 1・2 と同じく非常によいフィットを示した(と
もに分散説明率 99%).
3 つの手法の比較 3 つの手法を比較するため,ROC の条件は実験 1・2 と同じ手法を用いて,d0
と全体的な誤警報率を用いて,想起の確率と親近性の確率を算出した.また,過程分離手続き条
件も同じように d0 と誤警報率を用いて,想起の確率と親近性の確率を算出した.3つを直接比較
したグラフが Figure 7 である.想起,親近性のそれぞれに関して 2(処理水準)× 3(手続き)の
分散分析を行ったところ,手続きの主効果や処理水準と手続きの交互作用は見られなかった.従っ
て,手続きの違いによって,異なる想起・親近性の値が得られるということはないと言える.
親近性成分の ROC
R-K 手続きと過程分離手続きにおける想起成分の平均値を想起確率とし,そ
れを ROC 条件の確信度評定に適用して,親近性の成分を分離した上で ROC 曲線を書いた.結果が
Figure 7 である.
(等分散)信号検出モデルに非常にフィットした対照的な曲線となっている.z-ROC
もこれまでの結果と一致する結果が得られた (Tale 2).
まとめ
3つの指標から算出される想起と親近性の確率に違いはなく,ともに処理水準の影響を受
けていた.従って,3 つの指標は同じ構成概念を測定していると考えることができよう.さらに,
親近性の成分の ROC 曲線が,
(等分散)信号検出モデルとフィットを示したことは,二重過程-信号
検出モデルの前提を支持する結果だということができよう.
7
総合考察
7
7.1
まとめ
本研究の結果,R-K 手続き,ROC 手続き,過程分離手続きのそれぞれから算出された想起と親
近性の指標は同一の概念を測定している可能性が示された.また,二重過程-信号検出モデルの “
想起の過程は閾値モデル,親近性の過程は信号検出モデルに従う” という前提の妥当性も示唆され
た.主観的な指標の妥当性が客観的な指標で示されたこと,逆に客観的な指標の妥当性が主観的な
指標で示されたことには大きな意味があると言えよう.
R-K 手続き・過程分離手続きには,被験者が教示を理解しにくいという問題もある.R-K 手続き
の場合,Remember 反応の誤警報が高くなるようなリスト (e.g., Roediger & McDermott, 195510 ) を
用いた時に,その想起の推定値が歪む可能性がある.以上のことを踏まえ,それぞれの指標の(用
いやすさの)長所・短所を踏まえて,指標を使い分けていくことが大切だと思われる.
7.2
他モデルとの比較
本研究と同じ 2 要因のモデルで,重要なライバルモデルは不等分散信号検出モデル (unequal-
variance signal-detection model) である.このモデルでは,再認の過程は 1 過程であり,ただし old
項目と new 項目に対する記憶痕跡の分散が違うという仮定を置く.しかし,この立場だと,本研
究で得られたような ROC 曲線が説明できない.この “old-new 項目に対する分散が同じである” と
いう仮定は,記憶モデルの一部とは整合的であり (e.g., Murdock, 198211 ),別のモデルとは不整合
である (Gillund & Shiffrin, 198412 ; Hinzman, 198613 ).これらのモデルの妥当性に,本研究は示唆を
与えるだろう.
また,本研究のような 2 要因モデルに懐疑的な論者は,R-K の違いは,異なるプロセスではな
く,同じプロセス(信号検出モデル)の中の単なる確信度の大きさを反映しているに過ぎないと考
える (e.g., Donaldson, 199614 ).しかし,この立場も ROC 曲線の結果を説明できない.
このように,二重過程-信号検出モデルは,再認記憶に関する多くのデータを説明するのに有力
なモデルである.今後は,この 2 つの過程が脳の中でどのように表象され,検索されるのかという
ことに関する検討が必要だろう.そのヒントはいくつか出ており,海馬が想起の過程に,その周辺
皮質が親近性の過程の関与していることが示唆されている (Aggleton & Brown, 1999).以後この点
に関するより詳細な検討が必要だろう.
10 DRM
リストを用いた,虚偽の記憶の研究
TODAM モデル.
12 いわゆる SAM モデル.
13 いわゆる MINERVA モデル.
14 この立場に立つ近年の intensive なレビューが, Dunn(2004; Psychological Review である.ただし,R-K 反応に焦点を当
てており,ROC 曲線に関しては触れていない.
11 いわゆる
8