肺癌 近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 教授 福岡正博 このたび厚生労

肺癌
近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 教授
福岡正博
このたび厚生労働省医療技術評価総合研究事業「EBM の手法による肺癌の診療ガイドライン策定に
関する研究」班(班長 藤村重文)によって「肺癌診療ガイドライン 2003 年版」が出版された。わ
が国における肺癌に関する診療ガイドラインはこれが最初である。
本ガイドラインは、肺癌の診断、化学療法、放射線治療、外科治療、術前術後併用療法、中心型
早期肺癌の診断・治療、肺癌の胸腔鏡手術、そして、非小細胞肺癌の病期別(Stage I、Stage Ⅱ、
Stage Ⅲ、Stage Ⅳ)治療、小細胞肺癌の病期別(Stage I、限局型、進展型)治療に分けて詳細に
記載されている。
エビデンスのレベル分類、推奨グレードは以下のように規定された。
表1 エビデンスのレベル分類
I
システマチックレビュー/メタアナリシス
Ⅱ
1 つ以上のランダム化比較試験による
Ⅲ
非ランダム化比較試験による
Ⅳ
分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)による
Ⅴ
記述研究(症例報告やケース・シリーズ)による
Ⅵ
患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
表2 推奨グレード
A
行うよう強く勧められる
B
行うよう勧められる
C
行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
D
行わないよう勧められる
ここでは、診療ガイドラインのなかで集団検診、病期診断と病期別治療に関する内容を解説する。
1)集団検診:胸部X線写真と喀痰細胞診を用いた肺癌検診は有効である根拠があり、行うよう勧
められる(グレードB)としているが、それは日本における症例対照研究でエビデンスレベル
としてはⅣと低い。CT検診に関しては、行うだけの根拠が明確でない(グレードC)となっ
ている。
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2)病期診断:T、N因子には胸部CT、MRI、超音波検査、気管支鏡検査、縦隔鏡検査、胸腔
鏡検査、FDG-PET などを単独ないし組み合わせて実施する(グレード A)としているが、FDG-PET
のエビデンスレベルはⅢまでである。超音波検査、縦隔鏡検査、胸腔鏡検査に関してはどのよ
うな場合に実施するかの記載がない。
3)非小細胞肺癌の臨床病期別の標準的治療
臨床病期
TNM 分類
治療法
推奨グレード
I
T1N0M0 (IA), T2N0M0 (IB)
手術
A
Ⅱ
T1N1M0 (ⅡA)
手術
A
T3N1M0
手術
B
T1-3N2M0
化学放射線療法
A
T1-4N3M0
化学放射線治療
A
T4(胸水)例,N3(対側肺門)
化学療法
A
TanyNanyM1
化学療法
A
T2N1M0, T3N0M0 (ⅡB)
ⅢA
ⅢB
Ⅳ
☆ 臨床病期 I 期肺癌症例に対する胸腔鏡補助下手術(VATS)は行うよう勧めるだけの根拠が明確
でなく(グレード C)
、行う場合にはエビデンスに基づいた十分なインホームドコンセントのも
とで行うとしている。
☆ 医学的に手術不能の I,Ⅱ期症例には根治的放射線単独治療を行うよう勧められている(グレ
ード B)
。
☆ 非小細胞肺癌に対する術後化学療法は予後を改善するという根拠に乏しく、標準的治療として
行うよう進めるだけの根拠が明確でない(グレード C)とした。しかし、2003 年、2004 年には
IB、Ⅱ期にプラチナ製剤を含む補助化学療法、I 期腺癌に UFT が有効とする無作為化比較試験
の結果が相次いで報告され、標準的治療になりつつある。
☆ 術前治療に関しては勧められるだけの根拠は明確でない(グレード B)
。
☆ 化学放射線治療の適応とならないⅢ期非小細胞肺癌には、根治的放射線単独治療を行うよう勧
められる(グレード B)
。
☆ 高齢者(75 歳以上)でも全身状態が良好な患者(PS0,1)には化学療法を行う(グレード B)
。
レジメンとしてはビノレルビン単剤で高いエビデンスが得られている(レベルⅡ)
。
☆ PS2 の患者は化学療法の対象となる可能性はあるが、行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
(グレード C)
。
☆ 75 歳未満、全身状態良好(PS 0,1)の患者にはシスプラチンを含む併用療法を行う(グレード
A)
。 シスプラチンとの併用には、イリノテカン, ビノレルビン, ゲムシタビン, パクリタキ
セル, ドセタキセルが勧められる(グレード A)
。パクリタキセルの場合はカルボプラチンを併
用してもよい(グレード A)
。
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☆ プラチナ製剤を含む併用化学療法では4コースを行う(グレード B)としているが、有効例に
は 6 コースまで行うことが多い。
4)再発非小細胞肺癌の治療:前化学療法でプラチナ製剤を含む化学療法を施行し、無効、あるい
は再発した症例にはドセタキセルの投与を行う(グレード B)
。上皮成長因子受容体(EGFR)チ
ロシンキナーゼ阻害剤のゲフィチニブは生存を改善する可能性があるが、現時点では行うよう
勧めるだけの根拠が明確でない(グレード C)とした。
5)小細胞肺癌の病期別治療
臨床病期
I期
治療法
推奨グレード
手術
B
限局型(LD)
化学放射線治
A
進展型(ED)
併用化学療法
A
ここで限局型(LD)としているのは、腫瘍の進展が1側胸郭、同側肺門リンパ節、両側縦隔、
鎖骨上窩リンパ節までに限局しているもの。進展型(ED)は LD の範囲を超えて進展したもので、
対側肺門リンパ節は ED に含めている。限局型でも悪性胸水貯留例に関する記載はないが、進展
型と同じ治療が選択される。
☆
小細胞肺癌 I 期症例において外科治療と併用する至適治療法については推奨する十分なエビ
デンスがない(グレード C)が、一般的には術後に併用化学療法が行われている。
☆
限局型で全身状態良好な症例には、化学療法と胸部放射線治療の早期同時併用を行う(グレ
ード A)
。放射線の照射方法に関しては、1 回 1.5 Gy・1 日 2 回の加速多分割照射が優れている
ことが示されている(レベルⅡ)
。照射線量に関しては総量 45 Gy が推奨されているが、エビ
デンスレベルはⅤと低い。化学療法のレジメンについてもシスプラチンとエトポシドの併用が
推奨されているが、これもエビデンスレベルはⅤとなっている。進展型に対するシスプラチン
とエトポシドの併用化学療法は標準的治療である(グレード A)
。シスプラチンと塩酸イリノテ
カンの併用療法も標準的治療として勧められる(グレード B)
。
☆
治療期間は、シスプラチン+エトポシドまたはシスプラチン+イリノテカンの場合4∼6コ
ースが勧められている(グレード A)
。
☆
維持療法は行うよう勧めるだけの根拠はない(グレード C)としている。
☆
PS 不良例(PS2, 3)や高齢者に対しても、多剤併用療法が優れている結果が得られており(レ
ベルⅡ)、行うよう強く勧められている(グレード A)
。ただし、PS4 の患者に化学療法を行う
か否かのエビデンスはない。
6)再発小細胞肺癌の治療:標準的治療はないが、前治療終了後 90 日以上経過後に再発したもの
(sensitive relapse)は化学療法に奏効する可能性が高く、行うよう勧められている(グレー
ド B)
。
7)予防的全脳照射(PCI)に関しては、LD の初期治療で完全効果(CR)が得られた症例に行うよう
強く勧められ(グレード A)
、ED でも CR の得られた場合には行うよう勧められる(グレード B)
。
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本ガイドラインは 2002 年1月時点までのデータベースに基づいたものである。肺癌の診療の中で
も特に治療に関しては日々新しいエビデンスが生れており、それらの情報を加味しながら本ガイドラ
インを適正に利用することが重要である。
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