Flameretardancy of CFRP Composite Materials

特集
フィラー,添加剤と機能性材料
CFRP 材料の燃焼性
京都工芸繊維大学 大越雅之,M.S.Aly-Hassan,濱田泰以
1.はじめに
表1 素材
カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)は,軽
量かつ高強度であることから,金属代替部材として,急速
Control-1
Control-2
100
Carbon Fiber (CF:T300-Toray)
Epoxy Resin: ((3'-4'-
100
に用途を拡大している 1)。しかしながら,多量採用の一方
Epoxycyclohexane)methyl 3'-4'-
で安全性への懸念があり,特にマトリックスが高分子材料
carboxylate ;CEL2021P-Daicel)
であるため燃焼に対する配慮が必要となる 2)。なぜなら,
Bromo-Epoxy(F-2016, ICL-IP )
Sample-1
Sample-2
50
50
50
50
Epoxycyclohexyl20
+Sb3O5(PatoxM)
CFRP のマトリックス材料は,多くがエポキシやフェノー
ルなどの熱硬化性樹脂材料を使用しており,樹脂であるた
め燃焼時には溶融物が拡散し,延焼面積を拡大しつつ燃焼
する傾向がある。そこで,本稿では,その懸念を安心に
変えるため,まずは現象把握から開始した。具体的には,
CFRP の構成材料とそれら複合物の基本的燃焼特性を測定
CF fabric
した結果を報告する。その燃焼挙動は,
輻射熱によるスパー
ク着火,火炎による着火,およびそれらの燃焼を測定した。
このような Multi Layer Research というあらゆる側面か
ら基本的な燃焼挙動を測定することにより,燃焼現象を多
面的に把握することで,燃焼メカニズムを把握し,安全対
Epoxy resin
策を応用することを目的とする。
2.実験
(1)材料
基本特性を見るために CFRP(エポキシ樹脂+カーボン
Br-Epoxy
図1 構造図
(2)試験方法
燃焼における Multi Layer Research 系統を図 2 に示す。
その中から火炎と輻射熱の代表的な試験を実施した。
ファイバー)の構成材料であるエポキシ樹脂(EPO)とカー
Condition
ボンファイバー(CF)
とに対して,
難燃性を観察した。また,
CFRP の比較材料として FR-CFRP(難燃化エポキシ樹脂
+ CF)に対する観察も実施した。表1に材料一覧と図 1
に構造式を示す。これらの材料を成形し,厚み 0.5 mmの
シートを得た。CF の表面処理はしてない。
Flame
Materials(Melt,Vapor,etc.)
Orientation Ignition)
Combustion
Radiation
Size
Shape
Atmospheres
(Temperature, dry and wet,
closed and opened area)
図2 Multi Layer Research 系統図
32
Polyfile 2012.11
―フィラー,添加剤と機能性材料―
表2 UL-94VTM 試験概要
①輻射熱
ISO5660-1 に準じるコーンカロリメーター(東洋精機製)
UL94
UL94
UL94
VTM-0
VTM-1
VTM-2
Each sample’
s after flame time t1 or t2
≦10sec.
≦30sec.
≦10sec.
テージ温度を変更し,生じた火炎の発熱速度(HRR : Heat
Total after flame time in all test burning processes (t1+t2
≦50sec.
≦250sec. ≦50sec.
Release Rate)を測定した。その際の着火はスパークで実
Sum of after flame time and flameless burning time of each
≦30sec.
≦60sec.
≦30sec.
none
none
none
none
none
fire
を用いて,コーンの輻射熱量を変えることで,サンプルス
施した。試験概要を図 3,試験例を図 4 に示す。
Standard Condition
of five samples)
sample after the second flame contact (t2+t3)
Each sample’
s after flame or flameless burning up to
holding clamp
Ignition of marking cotton caused by a flame-emitting
substance or droplet
t1 : burning time after the first flame contact
t2 : burning time after the second flame contact
t3 : flameless burning time after the second flame contact
Cone Heater
3.結果と考察
Sample
(1)火炎試験
UL-94VTM 規格の試験結果を表 2 に示す。Control-1
(CF
自体)は炎による延焼はなかった。しかし,Control-2(エ
ポキシのフィルム)は延焼し,VTM を合格しなかった。
図3 試験概要
Sample-1(CFRP)も延焼し,VTM を合格しなかった。
Sample-2(FR-CFRP) は, 延 焼 が な く,VTM を 試 験 合
格した。以上の結果から,炎による試験は合格するには,
CF そのものか,難燃化したエポキシを用いた CFRP を用
いる必要があることが分かった。次に,その VTM 試験時
の燃焼熱量と時間の関係を図 6 に示す。この測定により,
VTM 試験の合否の詳細が明確化した。Control-2 は,急
激に燃焼し,その最大発熱速度も高い。しかし,Sample-1
は,最大発熱速度が Control-2 以上に高く,激しく燃焼し
ていることが分かる。また,Sample-2 は,最大発熱速度
が Control-2 や Sample-1 よりも著しく低いことが分かっ
図4 試験結果(例)
表 3 UL-94VTM 規格試験結果
VTM
Control-1
Control-2
Sample-1
Sample-2
VTM-0
Failure
Failure
VTM-0
②火炎
マルチコーンカロリメーター(東洋精
機製)を用いて,燃焼するサンプルの
HRR を測定した。評価は,フィルム試
験用の UL-94VTM 規格に準じた。試験
概要を表 2,試験図を図 5 に示す。
図5 UL-94VTM 試験図
図6 UL-94VTM 試験結果
Polyfile 2012.11
33
た。その発熱曲線に,2 つ発熱ピークを持つが,これは
後に繊維の直径が縮小していることが観察された。
その上,
VTM 試験規格による炎の接炎時のピークである。一方,
燃焼後には繊維内部にコアの存在を確認した。燃焼前サン
Control-1 は,Sample-2 よりも最大発熱速度が低く,実際
プルには観察されないことから,燃焼中にコアが発生した
には燃焼もない。しかしながら,僅かではあるが,フレー
可能性がある。この一連の現象は,加熱により繊維は,炭
ムに対して発熱速度を持つ。このことは予想外であった。
でいう「おき火」状態となり,緩やかに燃焼していく,そ
CF は高温で蒸し焼きしているため,無機物に近く,発熱
の過程で内部の例えば,結晶性が異なる不均一部分が燃焼
速度はもたないと予測していたが,実際は異なり,炭の性
し,コアが発生するものと推測している。
質を残している可能性があることが分かった。
このことは,
次項の輻射熱試験からさらに詳細を調査した。
② CFRP
次に,CFRP の輻射熱量の異なる燃焼試験を実施した。
結果を図 9 に示す。輻射熱量が高くなるにつれ,燃焼が急
(2)輻射熱試験
① CF
速に生じることが分かる。輻射熱量 50kW の場合,約 3 秒
CF 単独の輻射熱による燃焼試験を実施した。結果を図
で発火し,その後急激に発熱速度が上昇する。目視でも大
7に示す。輻射熱量 25kW では,
発熱速度に変化はないが,
きな火炎が急速に生じ,短時間に消炎することを確認して
50kW では,変化が生じた。燃焼時間とともに発熱速度の
いる。輻射熱量 25kW の場合,発火が遅くなるが,その後
緩やかな上昇が観察された。目視の燃焼観察では,フレー
の発熱速度の急激な上昇や発熱速度曲線形状は類似のもの
ムは発しないものの発煙を伴った燃焼であることを確認し
であった。また,
輻射熱量 5kW になると,
発火が見られず,
ている。また,燃焼前後の繊維表面を観察した結果,燃焼
低い発熱速度を維持したまま経時する。目視でも,発煙す
後に表面のシワが増加しているように観察された。
そこで,
るが発火は観察されなかった。それら燃焼残渣の電子顕微
燃焼前後の繊維断面を観察した結果(図8,表4),燃焼
鏡写真を表5に示す。CFRP 0kW(燃焼前試験片)では,
CF 間に樹脂が充填されているのに対し,燃焼後の 25kW,
および 50kW 残渣では,CF 間に樹脂の存在が認められず,
CF がむき出しとなっている。かつ,その CF も燃焼前の
CF と比較して,表面のシワが増加している現象が観察さ
れた。また,5kW 残渣は,CF 間に樹脂が部分的に存在し,
CF が見え隠れしている状態であった。目視でも CF だけ
でなく炭化状態(CF と炭の複合体)であった。つまり,
図7 CF 単独の輻射熱による燃焼試験結果
ることを示す。このような試験を Control- 1から -Sample
表 4 試験片の様子
No-Radiation
CF(MD)
1まで順次実施した。それらの結果をまとめ図 10 に示す。
Heat of Radiation
CF(25W;MD)
5kW では,発火はないものの発煙し,燃焼は進行してい
CF(50W;TD)
Heat Release Rate (W/cm2)
200
150
Sample1-50kW(W/cm2)
100
Sample1-25kW(W/cm2)
Sample1-5kW(W/cm2)
50
0
0
20
40
60
80
100
Time of Combustion (sec)
図9 CFRP 輻射熱量の異なる燃焼試験結果
図8 発熱速度と CF 直径の関係
34
Polyfile 2012.11
―フィラー,添加剤と機能性材料―
表5 試験片の様子
CFRP(5kW)
Heat Radiation
CFRP(25kW)
CFRP(50kW)
Total Heat Release (kJ/cm2)
No Heat Radiation
CF
CFRP(0kW)
14
12
10
Control-1
8
Control-2
6
Sample-1
4
Sample-2
2
0
200
300
400
500
600
Temp(℃)
図 11 発熱速度とサンプルステージの温度の関係2
た。総発熱量の高い順番に示すと Control-2(エポキシ樹
脂)> Control-1(CF)> Sample-1(CFRP)= Sample-2
(FR-CFRP)となる。この傾向は図 10 とは異なる。最大
発熱量を一過性のものと位置づけると,総発熱量はその
積分値のため,蓄積量と位置づけられる。その総発熱量
は,Sample-1 よ り も Control-1 の 方 が 大 き い。 こ の 性 質
が,CF の持つ良熱伝導性とも関連がある可能性があり,
図 10 発熱速度とサンプルステージの温度の関係
FRCP の燃焼容易なものとしているのか否かはさらなる
検討が必要である。また,CFRP を難燃化した Sample-2
図 10 は, 燃 焼 物 の 最 大 発 熱 速 度 と サ ン プ ル ス テ ー
(FR-CFRP)は,総発熱量では,Sample-1(CFRP)と同
ジ温度の関係である。最大発熱速度の高い順番に示す
等であり,一過性の最大発熱量としては低燃焼効果が認め
と Control-2( エ ポ キ シ 樹 脂 ) > Sample-1(CFRP) >
られるが,長期的輻射熱の継続に対しては,難燃化可否に
Sample-2
(FR-CFRP)> Control-1
(CF)
であることが分かっ
関連がないことを示している。
た。Control-2 の燃焼が大きいのは樹脂そのものを燃焼し
これら一連の検討により,燃焼エネルギー見地から
て い る た め で あ り,Sample-1 は,Control-2 + Control-1
CFRP に関する特性が部分的に把握できてきた。それで
の混合体のため,非常に単純に考えればそれらを足して
は,燃焼で重要な発火特性についてはどのような挙動をと
半分にした理論値になる。その理論曲線を Theoretical
るのであろうか?図 12 に発火時間とサンプルステージ温
Value of Sample-1(以下 TV Sample-1)として図 10 に示
度の関係を示す。どのサンプルともサンプルステージ温度
した。その結果,Sample-1 は,TV Sample-1 と比較して,
の向上に伴い,発火時間が短くなる。しかし,Control-1
ステージ温度が高いところでは発熱量の値が高くなってい
のみは,CF なので発火がない。ここで,特徴的なのは,
た。もし,CF と樹脂間で燃焼中になんらかの相互作用が
Sample-1 の発火時間が,Control-2 および Sample-2 と比
生じると低くなると考えられるが,逆に高くなっている。
較して,短いことである。サンプルステージ温度 570℃で
このことは燃焼を促進する因子が生じたことを示す。つま
Sample-1 の発火時間 10.8
(秒)に対し,
Control-2 が 15.5
(秒),
り,CFRP は燃えやすい状態となっている。また,CFRP
Sample-2 が 16(秒)であった。つまり,CFRP は,neat
を難燃化した Sample-2 は,最大発熱量が大幅に低下して
エポキシ樹脂より発火が容易である。しかも低温になるほ
いることが分かった。
どその傾向は顕著になる。ところが,難燃化することによ
次に,図 11 に燃焼物の総発熱量とサンプルステージ温
りその傾向は払拭される。
その理由として,
サンプルステー
度の関係を示す。総発熱量は,ステージ温度と相関関係に
ジ温度 416℃で Control-2 が 18.2(秒)に対し,Sample-2
あり,ステージ温度が高くなるのほど総発熱量も増加す
が 20.2(秒)であった。
るが,その傾向はサンプルによって異なることが分かっ
Polyfile 2012.11
35
Temperature(℃)
800
内装
(天板等)
内装
(ファブリック)
600
電池(電解液,フィルム,
Control-1
400
塗装
パッケージ等)
Control-2
Sample-1
200
Sample-2
車両
(FRP,CFRP等)
電池車載車両のイメージ
図 13 調査目的
0
0
10
20
30
40
Ignition Time (sec.)
特に繊維とフィルムにおいては,
図 12 発火時間とサンプルステージ温度の関係
・その形状が比表面積を増大させ,空気との接触面積を増
4.まとめ
大させている。
フレーム試験と輻射熱試験の結果を表 6 に示す。これら
・その軽薄さが火炎の伝熱性を容易なものとさせ,伝播を
のことより下記のことが分かった。
助長している。
・ CFRP は,フレームおよび輻射熱の条件で,樹脂単体よ
ことから,その難燃化が困難という課題が生じている。
りも容易に燃焼する。
その課題に対する仮説として,I.N.Einhorn が示したポリ
・ CF は, フレームや輻射熱による発火はない。ただし,
マーの消炎効果 3)を改良しながら進めていく。
フレームや輻射熱でも熱量は観察されており,そのピー
クは低いものの総エネルギーとしては,CFRP より高い。
・参考文献 ・ 難燃化 CFRP であるが,フレームや輻射熱からは燃焼
1)Aly-Hassan, Mohamed S. ; Hatta,Hiroshi ;
Wakayama, Shuichi , Proceedings of Space Transportation
を遅延させる効果を持つ。
Symposium FY2001 宇宙輸送シンポジウム 平成 13 年度
表6 フレーム試験と輻射熱試験の結果
Control-1
CF
Component
Control-2
100
Epoxyresin
Sample-1
Sample-2
50
50
100
50
50
100
100
120
Br-Epo+Sb203
20
100
Total(Phr)
Flame
UL-94 VTM
Radiation
ISO-5660
VTM-0
Non-Ignition
Failure
Failure
VTM-0
Flamable
Flamable
Flamable
以上の結果より,CFRP 利用の上でのフレームと輻射熱
2)A. SHINDOComprehensive Composite Materials Volume 1;
(ISBN : 0-080437192) ; pp. 1-33
3)I.N.Einhorn,paper presented at polymer conference series
on flammability characteristic of polymeric materials,
university of utah,june, 15 (1970)
・著者紹介
の基本的燃焼挙動を把握することができた。また,それを
難燃化することで,燃焼を遅延させる効果があることが分
かった。しかし,実際の燃焼は,フレームと輻射熱の双方
に暴露されるとともに時間軸などの様々な要因も加わる。
燃焼現象を多面的に把握することで,燃焼メカニズムを把
握し,安全対策に応用することを目的とする。
大越雅之
伝統みらい教育センター
特認教授
M.S.Aly-Hassan
先端ファイブロ科学
准教授
■お問い合わせ先
5.今後の予定
京都工芸繊維大学
当研究室では国民の生活を火災から保護し,安全・安心
伝統みらい教育センター
性を向上させるために容易性可燃物の難燃化を研究する。
〒 606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町
その研究とは,輸送やエネルギー産業に Needs が強く,
TEL 075-724-7850 FAX 075-724-7800
かつ最も難燃化困難と予想される繊維とフィルムを中心に
E-mail [email protected]
取り組む(図 13)
。
URL http://www.mirai.kit.jp/mirai/
36
Polyfile 2012.11
濱田泰以
先端ファイブロ科学
教授