スリムクリート®の現場打設による護岸構造物のリニューアル

大林組技術研究所報
No.78 2014
スリムクリート®の現場打設による護岸構造物のリニューアル
平
田 隆 祥
石 関
嘉 一
武
田 篤 史
浜 地
克 也
(本社土木本部)
Renewal of the Shore Protection Structure by“SLIM-Crete®”Placement
Takayoshi Hirata
Yoshikazu Ishizeki
Atushi Takeda
Katsuya Hamachi
Abstract
This paper describes the renewal of shore protection structures made of reinforced concrete using
ultrahigh-strength fiber-reinforced concrete (SLIM-Crete®). Shore protection structures require durability
against salt damage. The use of steel bars with SLIM-Crete® is unnecessary, especially for thin structures and
when the material itself is highly durable. Moreover, because renewal construction has many constraints, a
material that can be placed onsite is suitable. This paper present the design and example renewal of a shore
protection structure that had been damaged by salt using normal-temperature hardening-type SLIM-Crete®.
概
要
®
本稿は,高強度かつ高じん性の超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート 」を使用した護岸構造物の
リニューアルについて報告する。護岸構造物は,塩害に対する耐久性の向上が必要不可欠である。特に,かぶ
りの増加による対策が困難となる薄肉の構造物では,無筋でかつ材料自体の耐久性が高い超高強度繊維補強コ
ンクリートの使用が適している。また,リニューアル工事は制約条件が多いため,現場打設が可能な材料の利
点が大きい。本稿は,常温硬化型の超高強度繊維補強コンクリートを用いて,塩害劣化を受けた護岸構造物を
リニューアルした事例の設計および施工について報告する。
1. はじめに
護岸構造物は,飛来塩分のみならず海水飛沫を直接受
けるため,塩害に対して非常に厳しい条件であり,耐久
性を向上させる方策が不可欠である。例えば,鉄筋位置
まで塩分が浸透することを低減するために,かぶりを大
きくすること1)や,塩分浸透性が小さい高強度コンクリ
ート1)が利用されている。また,鉄筋自体の腐食抵抗性
を向上するために,エポキシ樹脂塗装鉄筋 2)の利用も有
効である。
しかし,波返しのように薄肉の部材においては,かぶ
りを大きくとることは部材厚に占めるかぶりの割合が著
しく大きくなってしまい,自重の増加から基礎の変更と
なり合理的な設計とは言い難い。高強度コンクリートを
用いたとしても,その程度は改善されるものの,部材厚
に占めるかぶりの割合が大きくなることの改善は困難で
ある。また,エポキシ樹脂塗装鉄筋は,鉄筋組立後にエ
ポキシ樹脂の損傷を確認しタッチアップによる補修を行
で無筋構造とすることが可能である。UFCとは,2004年
に土木学会から発刊された超高強度繊維補強コンクリー
トの設計・施工指針(案)(以下,UFC指針と称す)3)
において,超高強度モルタルと高強度鋼繊維で構成され
ており,150N/mm2以上の圧縮強度と5N/mm2以上の引張
強度を持つ材料と定義されている。内部に鋼材を用いる
際にも,かぶりを20mm設けることで100年以上の耐久性
を有するとされており,薄肉の護岸構造物に非常に適し
ていると考えられる。
しかし,UFC指針に記載されるUFCは,熱養生が不可
欠であるため工場生産が必要となり,設計や施工におい
て大きな制約となっている。そこで,常温でも硬化し,
設計や施工において通常のコンクリートと同様に扱うこ
とができる現場打設が可能なUFCとして,常温硬化型
UFCのスリムクリートを開発した4)。
本稿は,スリムクリートの概要を示すとともに,塩害
劣化を受けた波返しを有する護岸構造物を,スリムクリ
ートを用いて現場打設によりリニューアルした事例につ
わなければならないが,薄肉部材においては確認・補修
作業が困難であり,施工性に劣ると言わざるを得ない。
これらの方策に対し,超高強度繊維補強コンクリート
(Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete,以下UFC
と称す)により構築すれば,その引張強度を用いること
いて設計および施工の内容を報告する。
設計に関しては,現場条件を示したのち,補修と再構
築を比較検討するとともに,現場条件に即した構造計画
および設計方法を示す。施工に関しては,施工手順およ
びスリムクリートの品質管理について記載する。
1
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No.78
スリムクリート®の現場打設による護岸構造物のリニューアル
Table 1 スリムクリートの標準配合
Mixed Proportion of SLIM-Crete
試験項目
単位量(kg/m3)
補強繊維
W/B*
水
(%)
15.5
プレミックス
230
1830
細骨材
330
Table 3 スリムクリートの特性値
Characteristic Value of SLIM-Crete
減水剤
32
(kg)
157
特性値
試験方法
圧縮強度
180N/mm2
JIS A 1108
ひび割れ発生強度
8.0 N/mm2
JIS A 1113
引張強度
8.8 N/mm2
ヤング係数
4.6×10 N/mm
ポアソン比
0.2
熱膨張係数
10.7×10-6/℃
4
JSCE127-3.2.3
2
*B:結合材量
JIS A 1149
ゲージ貼り付け
により測定
JCI「マスコンクリートの
ひび割れ制御指
針 2008」に準拠
クリープ係数
0.7
指針に準拠
Photo 1 高強度鋼繊維
High-strength Steel Fiber
Table 2 フレッシュ試験項目および判定基準
Fresh-concrete Test Items and Criterion
試験項目
判定基準
モルタルフロー(㎜)
260 ㎜±30 ㎜(落下なし)
空気量(%)
3.5%以下
サイクル数(回)
Fig. 1 凍結融解サイクル数と相対動弾性係数
Result of Freezing and Thawing Test
鋼繊維には一般建設用鋼繊維とは異なる高強度鋼繊維
を使用した。使用した鋼繊維をPhoto 1 に示す。
高強度鋼繊維は,延伸製法により製造された自動車タ
イヤに使用するスチールコードである。表面は真ちゅう
でメッキされおり,一般の建設用鋼繊維の引張強度
1,000N/mm2に対して引張強度は2,000N/mm2以上で,形状
は直線状である。
Photo 2 モルタルフロー
Mortar Flow
2.2
フレッシュ性状
モルタルのフロー値は260±30mm,スランプフローは
800±100mmと流動性が良好であり,間隙が30mm以下の
狭隘部においても閉塞することなく充填が可能である 3)。
なお,フレッシュ試験の品質管理項目および判定基準を
Table 2 に,モルタルフローの状況をPhoto 2 に示す。
2. スリムクリートの概要
2.1
構成材料
スリムクリートのモルタル部分は,セメント等の反応
性微粉末と微粉細骨材を混合したプレミックス粉体,水,
2.3
細骨材,および特殊高性能減水剤(SP)で構成されてい
る。また,空気量は消泡剤を用いて,3.5%以下に調整し
た4)。このモルタルは熱養生等の特殊な養生を行わなく
ても常温で所定の強度特性を発現できるものである。配
合をTable 1 に示す。
硬化特性
スリムクリートは高強度かつ高じん性で,圧縮強度
180N/mm2 以上,引張強度8.8N/mm2 以上の材料強度を有
している4)。スリムクリートの特性値をTable 3 に示す。
2
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スリムクリート(左) 高強度コンクリート(右)
(断面寸法:40×40 ㎜,赤色:元素 Cl)
Photo 3
EPMA による塩化物イオンの浸透状況
Chloride Ion Distribution by EPMA
Fig. 2 摩耗試験結果
Result of Abrasion Test
6000
PCa版
Photo 4
促進期間 52 週の中性化深さの状況(n=3)
Accelerated Carbonation Depth (52weeks:n=3)
1500
2.4
耐久性
凍結融解試験(JIS A 1148に準拠)における2試験体の相
対動弾性係数をFig. 1 に,温海水乾湿繰返し試験におけ
るスリムクリート(左)と高強度コンクリート(圧縮強度
300
2000
200
波返し
94N/mm2,W/C30%)(右)との塩化物イオンの浸透状況の
EPMA画像をPhoto 3 に,促進中性化試験(JIS A 1153に
準拠)における促進期間52週のスリムクリートの中性化
深さの状況をPhoto 4 に示す。
凍結融解試験4500サイクル終了時における相対動弾性
係数は,2試験体ともほぼ100%で低下が認められなかっ
た。また,温海水乾湿繰返し試験30回において,高強度
コンクリートは,全体に塩化物イオンが浸透しているの
に対して,スリムクリートは塩化物イオンが浸透せず,
塩化物イオンの浸入に対して高い抵抗性があることが確
認できた4)。
促進中性化試験の促進期間52週(1年)における割裂面
は表層部に至るまでほぼ赤紫色で,中性化深さは0.01mm
以下となり,中性化に対して高い抵抗性を有しているこ
とが確認できた4)。
これらの結果より,スリムクリートは通常のコンクリ
ートと比較して,高い耐久性を有していることが分かる。
Fig. 3
スラブ
護岸構造物の断面図(リニューアル前)
Cross Section (Before Renewal)
ンクリートの摩耗量に対しても37%程度であり,スリム
クリートの耐摩耗性が非常に高いことが分かる。
3. 護岸構造物の設計方法
3.1
対象構造物と要求性能
2.5
耐摩耗性
スチールロッド式摩耗試験装置を用いた常温硬化型
UFCスリムクリートの摩耗試験結果および普通コンクリ
対象構造物は民間工場施設に設置された岸壁の護岸構
造物であり,Fig. 3 に示すように波返しおよび防風壁を
有している。本工事における施工延長は265mである。護
岸としての機能だけでなく,背面のヤードを越波した飛
沫から保護するため,工場の事業において重要な構造物
ート(圧縮強度18N/mm2,21N/mm2)と高強度コンクリ
ート(圧縮強度88N/mm2)の摩耗試験結果5)をFig. 2 に示
す。
普通コンクリートの摩耗量と比較すると,スリムクリ
ートの摩耗量は15%程度と小さかった。また,高強度コ
となっている。
防風壁は,1500mm間隔の鉄骨トラス(柱断面H150)によ
りPCa版が支持されている構造である。PCa版や鉄骨トラ
スに大きな劣化は見当たらなかった。
壁部の背面は埋土となっており,防風壁支持トラス基
3
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防風壁
Photo 5
リニューアル前の状況
Shore Protection Structure before Renewal
Fig.5
コア採取
護岸構造物の断面図(リニューアル後)
Cross Section (After Renewal)
得られた表面塩化物イオン量Cs(平均値:Cs=8.06~
20.01kg/m3) お よ び 拡 散 係 数 Dc(Dc=0.44×10-8 ~ 1.48×
10-8cm2/s) を用いて,再びFickの拡散方程式(t=30年)を適
用して分布とした。
同定した塩化物イオン量分布をFig. 4 に示す。発錆限
界は既設コンクリートの配合が不明であるため,2010年
制定ではなく,2007年制定のコンクリート標準示方書 6)
に示される値を示している。鉄筋位置では発錆限界を超
えているケースが複数あることが分かる。
補修によるリニューアルの仕様とする場合,使用材料
に違いがあっても,かぶりの除去,鉄筋除錆,断面修復,
表面被覆という手順が一般的である。しかし,本構造の
(n=6)
深さ(cm)
Fig. 4 既存躯体の塩化物イオン量調査結果
Chloride Ion Distribution of the Depth Direction
礎のほか各種のインフラ管類が設置されている。このイ
ンフラ管類は工場の事業において重要な役割を果たして
いるため,損傷のリスクを小さくする必要があるととも
に,迂回や移設も困難であった。
リニューアル前の護岸構造物の状況をPhoto 5 に示す。
かぶりが剥落し,露出した鉄筋が腐食している状態であ
った。このような構造物のリニューアルに対して,以下
の要求性能が設定された。
a) 50年の延命を目標として,20年間はメンテナンス
を最小限とする。
b) 防風壁はそのまま利用する。
c) 背面のインフラ管類への影響は最小限にする。
d) 越波飛沫に対して現況と同程度の性能を確保する。
場合は,かぶりのみを再構築しても,コンクリート中に
残される塩化物量が多いため,鉄筋が再び発錆すると想
定され,50年の延命を目的とするためには一般的な耐久
性の材料によるリニューアルは不適であると判断した。
3.3
構造計画
既存躯体の状況を調査するために,かぶりの剥落や浮
きが観察されないスラブ4点,壁部2点においてコアを採
取し,塩化物イオン量を同定した。
塩化物イオン量の分布の同定は,以下の手順により行
った。表面から深さ方向に20㎜毎の5試料(深さ100㎜ま
で)の塩化物イオン量を「JIS A 1154:硬化コンクリート
要求性能を満たし,コストを低減できるように構造計
画を行った結果,Fig. 5 に示す構造を採用した。検討内
容を以下に示す。
要求性能 a)の耐久性を確保するためには,1章に示す
様にかぶりの増加,高強度コンクリートの適用,エポキ
シ樹脂塗装鉄筋の利用などが考えられるが,かぶりの増
加による自重の増加やエポキシ樹脂塗装鉄筋による施工
の不確実性を考慮し,100年以上の耐久性がある3)とされ
るUFCによる構造とした。
次に,要求性能 b)の防風壁再利用を考慮し,防風壁を
存置したまま施工すると設置が困難となるプレキャスト
工法とせず現場打設とすることとした。その結果,材料
は既往のUFCではなく常温硬化型のUFCであるスリムク
リートとなる。さらに,要求性能 c)の背面のインフラ管
類への影響を考慮し,背面埋土の掘削を省略するために,
中に含まれる塩化物イオンの試験方法(硝酸銀滴定法)」
により測定した。塩化物イオン量分布はFickの拡散方程
式1)(t=30年)が適用できるとし,最小二乗法によりそれ
ぞれの表面塩化物イオン量Csおよび拡散係数Dcを算定し
た。
既設壁部の一部を存置して型枠利用することとした。既
設壁部は構造体としては考慮しない。
なお,波返し(スラブ)の張出し長は,数値波動水路
CADMAS-SURFを用いたVOF法による水理解析7)により,
要求性能 d)の越波飛沫量が現況と同程度という条件を
3.2
補修によるリニューアルの検討
4
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満足するように1500㎜から1250㎜に低減を行っている。
3.4
施工手順を次に示す。
① ブラケット足場の設置
② 既設構造物のはつりおよび撤去
③ はつり面の計測
④ 型枠設置
設計方法
設計上考慮した外力は,自重,スラブ部への上載荷重
(5.0kN/m2) お よ び 風 荷 重 ( 水 平 方 向 :2.5kN/m2 , 鉛 直 方
向:3.5kN/m2)である。
設計は許容応力度法によることとし,自重+上載荷重
を長期,自重+風荷重を短期として考慮した。
UFCの許容応力度は,UFC指針3)には定められていない
が,限界状態としてひび割れ発生強度を設定して,ひび
割れ発生強度の1/3を長期許容応力度,その1.5倍を短期
許容応力度とした。
設計の延長単位は,防風壁の柱間隔から5mとした。
UFC壁部およびスラブ部は,無筋コンクリートとして
計算し,型枠利用の既設壁部は構造上考慮しなかった。
底版部は,Fig. 4 に示す塩化物イオン量分布より,コ
ンクリートを10cmはつれば塩化物イオンを含む部分を
ほぼすべて除去できると考え,10cmはつり取りスリムク
リートで再形成することとした。
既設底版とUFCの接合部は,既設底版にあと施工アン
カーにより鉄筋を挿入し,鉄筋コンクリートとして設計
した。新旧コンクリートの接合部は,塩分環境としては
必ずしも厳しくはないが重要な部分であるため,アンカ
ー鉄筋としてエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いた。
底版と 壁部の 接合部 は, UFCが連 続して いる幅が
⑤
⑥
⑦
⑧
4.2
既設構造物の撤去および型枠の設置
既設構造物はスラブ部が海側に突出しているため,作
業用の足場が設置できない。そこで,ブラケット足場を
設置し,既設構造物にアンカーを打込み,作業足場を設
置した。足場の設置後,コンクリートカッターを用いて
スラブ部を切断し,クレーンにより陸側に撤去した。そ
の後,壁部を設計深さまでコンクリートブレーカーを用
いてはつり,撤去した。はつったコンクリートはクレー
ンにて陸側に撤去した。壁部の既設コンクリートの撤去
状況をPhoto 7 に示す。
既設構造物のコンクリート厚さは設計値と必ずしも一
致しないため,スリムクリートの打設量を把握する目的
で,既設構造物のはつり面の平滑度を測定した。測定は,
設計型枠面に定規を設置して水糸を張り,型枠面とはつ
り面までの距離を200mm間隔で,コンベックスを用いて
計測することとした。測定結果はパソコンに入力し,ス
リムクリートの打設量を算出した。
はつり面の計測後,型枠を設置した。スリムクリート
は流動性が高く壁脚部の側圧が上昇するので,型枠の設
計は液圧として行った。また,流動性が高いと,型枠の
継ぎ目部や既設構造物との接合部より,材料が流出する
危険性がある。そこで,流出する危険性が予見できる箇
所にシーリング材を用いてシールを行った。型枠の設置
状況をPhoto 8 に示す。
50mm少ないため,鉄筋を挿入することとし,鉄筋コン
クリートとして設計した。
4. 護岸構造物の施工方法
4.1
スリムクリートの練混ぜ数量決定
スリムクリートの練混ぜおよび運搬
スリムクリートの打設
型枠の脱型
施工手順
護岸構造物の施工は後述の手順により実施した。構造
物は,Photo 6 に示すように陸側から海側に張り出す形
状であるため,作業を行う際,仮設足場等の設置が課題
となった。
また,既設壁のはつり面と型枠の間にスリムクリート
を打設するため,はつり面の平滑度によりスリムクリー
トの打設量が変動する。そのため,はつり部の計測を高
い頻度で実施し,スリムクリートの打込み数量を決定し
た。
4.3
練混ぜおよび打込み
スリムクリートの練混ぜは市中の生コンプラントで行
った。市中の生コンプラントの練混ぜは,通常のコンク
リートの出荷に影響を及ぼさない午前5時から午前7時の
間に行った。1日の練混ぜ数量は7.0m3程度であり,前日
Photo 7
既設構造物の撤去状況
After Removal of a Degradation Part
Photo 6
既設構造物の撤去前状況
Before Removal of a Degradation Part
5
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300
5.0
フロー
空気量
4.0
280
3.0
270
2.0
260
1.0
フロー値管理値:260±30mm
空気量管理値:3.5%以下
250
Photo 8
型枠の設置状況
Form Timbering
空気量(%)
フロー値(mm)
290
0.0
0
3
6
9
12
製造回数(回)
15
18
Fig. 6 フロー値と空気量
Flow Value and Air Content
40
コンクリート温度
35
外気温
温度(℃)
30
25
20
15
10
Photo 9
打込み状況
Placement Using Bessel
管理値:コンクリート温度10℃以上
5
0
0
3
6
9
12
製造回数(回)
15
18
Fig. 7 材料温度と外気温
Material Temperature and Atmosphere Temperature
4.4
脱型
打込み後,表面が乾燥しないように膜養生剤を散布し
て養生マットを設置し,材齢7日後に脱型を行った。脱型
を行った結果,耐久性に影響を及ぼす著しい劣化は認め
られなかった。脱型状況をPhoto 10 に示す。
Photo 10
脱型状況
The Completion of Renewal
4.5
3
品質管理
までに,はつり面の状況に応じて0.1m 単位で発注した。
運搬は通常のアジテータ車を用いた。スリムクリート
の密度は通常のコンクリートの2.3と比較して2.4と若干
大きいため,アジテータ1車当たりの積載量は4.0m3以下
とした。
スリムクリートはベッセルに投入し,クレーンを用い
て打ち込んだ。1回の打設量は0.5m3~1.0m3である。当初,
コンクリートポンプ車を用いて打ち込む計画であったが,
高さ6mの防風柵を越えて防風柵近傍でブームを操作す
スリムクリートの品質管理は,前出のTable 2 に示す
方法で荷卸し時のフレッシュ試験を,Table 3 に示す方
法で硬化物性の 圧縮強度や引張強度を施工日毎に確認
した。
荷卸し時におけるフロー値と空気量の関係をFig. 6
に,スリムクリートの温度と外気温の関係をFig. 7に示す。
また,圧縮強度の管理結果をFig. 8 に,UFC指針に示さ
れる方法で,曲げ強度の試験結果から算定される推定引
張強度をFig. 9 に示す。
るため,コンクリートポンプ車は用いなかった。打込み
は壁部とスラブ部の2回に分けて実施した。壁部を打ち込
み,巻き込みエアーが抜けることによる沈下が停止する
のを確認したのち,スラブ部を打ち込んだ。打込み状況
をPhoto 9 に示す。
フロー値の平均は275mm(265~283mm)となり,変
動係数は1.6%で管理値の範囲内であった。また,空気量
は,1.5%~2.7%の範囲となり管理値の範囲内であった。
アジテータ車による運搬中の攪拌により,空気量の増大
も懸念されたが,その傾向は認められなかった。
6
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20
推定引張強度(N/mm2)
圧縮強度(N/mm2)
220
平均値:200N/mm2
標準偏差:3.2N/mm2
210
フレッシュ試験はモルタルフローおよび空気量を測定
200
した。モルタルフロー,空気量の基準値は230±30mm,
3.0%以下であり,
双方とも基準を十分満足する結果であ
190
った。また,圧縮強度用の供試体は打込み時に採取し,
実躯体と同条件で養生を行い,材齢28日で実施した。す
180
管理値:180N/mm2以上
べての打設において,設計基準強度180N/mm2を十分満足
170
する結果となった。品質管理試験の結果を図-6に示す。
0
3
6
9
12
製造回数(回)
15
17
14
11
8
管理値:8.8N/mm2以上
5
18
0
3
6
9
12
製造回数(回)
15
18
Fig.9 曲げ強度から算定した引張強度の結果
The Estimated Result of Tensile Strength
Fig.8 圧縮強度の品質管理結果
The Test Result of Compressive Strength
また,外気温が30℃~10℃の範囲で品質管理を行った
が,フロー値や,空気量への影響は少なく,スリムクリ
ートは,外気温による影響を受けにくいことが明らかと
なった。
2
平均値:12.7N/mm2
標準偏差:0.7N/mm2
本稿が,今後,スリムクリートを用いた構造計画や,
設計および施工の参考となれば幸いである。
謝辞
2
次に,圧縮強度の平均値は 200N/mm (195 N/mm ~2
06N/mm2)となり,管理下限値の 180N/mm2 を上回る結
果となった。また,変動係数は 1.6%であり,ばらつきが
小さいことが確認された。
さらに,UFC 指針に示される方法で引張強度を確認し
た結果,推定引張強度の平均値は 12.7N/mm2(11.5N/mm2
宇部興産株式会社との共同研究成果を活用しました。
関係各位に深謝いたします。
参考文献
~14.5N/mm2)となり,管理下限値である 8.8 N/mm2 を
満足した。
なお,スリムクリートの引張強度が曲げ強度から推定
できることは,既往の報告4)で確認されている。
1)
2)
5. まとめ
3)
本稿は,常温硬化型UFCのスリムクリートを,護岸構造
物のリニューアルに適用した事例の設計と施工に関して
報告した。
従来のUFCは,その優れた強度特性や耐久性にもかか
わらず,工場製作に限るという制約と高価であることか
ら適用が進んでいるとは言い難い。これに対し,本稿に
おいて報告した護岸構造物では,スリムクリートを用い
ることで工場製作の制約を取り払った。
今回の施工により,スリムクリートの現場施工性が再
確認できた。また,薄肉部材に適用することで,優れた
強度特性や耐久性というUFCの特長を最大限に活かして
いる。今後もスリムクリートの適用範囲の拡大が期待で
きる。
4)
5)
6)
7)
7
土木学会:コンクリート標準示方書・設計編,土木
学会,2013.3
土木学会:エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる鉄筋コン
クリートの設計施工指針[改訂版],コンクリートラ
イブラリー112,土木学会,2003.11
土木学会:超高強度繊維補強コンクリートの設計・
施工指針(案),コンクリートライブラリー113,土
木学会,2004.10
土木学会:超高強度繊維補強コンクリート「スリム
クリート」に関する技術評価報告書,技術推進ライ
ブラリーNo.10,土木学会,2012.3
石関嘉一他:常温硬化型UFCを用いた耐摩耗部材の
開発,コンクリート工学,Vol.51,No.11,2013.11
土木学会:コンクリート標準示方書・設計編,土木
学会,2007.12
沿岸開発技術研究センター:数値波動水路の研究・
開発 CADMAS-SURF 数値波動水路の耐波設計へ
の適用に関する研究会報告書,沿岸開発技術ライブ
ラリーNo.12,沿岸開発技術研究センター,2001.1