医農理工文連携による 「におい」の最先端総合研究 研究代表者 岡本 剛(基幹教育院 / 医学研究院 准教授) ■研究の背景と目的 嗅覚系は最も原始的な感覚系でありながら、その応答メカニズムはよくわかっていません。「におい」の感じ 方やその生理活性効果などについては、経験的、観察的、定性的な知見が蓄積されてきました。その一方で、に おいの生理応答について客観的かつ定量的な科学的データは不足しているのが現状です。私たちの研究では、に おいの応答メカニズムの解明を目指し、においの種類・濃度とそれらが生体内に及ぼす効果の程度を定量化する ことを目的としました。においの生理応答について分子、遺伝子、細胞、神経系、行動、心理の各レベルで調べ るため、医学、農学、理学、工学、心理学の専門家が密に連携し、においに多階層で多角的に取り組む研究拠点 を形成しました。 嗅覚系の解明 とその応用 九州大学 (医農理工文連携による「におい」の最先端総合研究) 実験 ヒト心理 医学研究院 人間環境学研究院 システム情報科学研究院 動物行動 ヒトの心理実験 注意・心的表象・情動喚起 脳波・心電図の計測・分析 脳 システム生命科学府 基幹教育院 全ての実験データの解析 理論モデル構築 シミュレーション 理学研究院 自律神経系 マウスの生理実験 培養神経細胞 脳切片免疫染色 細胞 遺伝子 近畿大学 農学研究院 O におい物質 理論 H O におい刺激の精製・提示・分析 マウスの行動実験 ホルモン動態・時計遺伝子 福岡女子大学 ■主な研究成果 においの新しい効果 植物の葉由来のにおいが、線虫の感覚の鋭敏化や寿命伸長に効果があることを見 出しました。感覚の鋭敏化はにおいの応答メカニズムを明らかにする上で大きなヒ ントになります。また、寿命伸長はヒトへの応用が期待されます。 線虫を「におい」存在下で飼育する 嗅覚の鋭敏化が起こるかを、 化学走性を指標に解析する 匂い物質 Chemotaxis index= Chemotaxis index 1 0.8 A B/A+B * * A 飼育時に嗅がせたにおい 0.6 Control 0.4 Compound A 0.2 0 プレート上の匂い B BZ IAA PZ BZ:ベンズアルデヒド IAA:イソアミルアルコール PZ:ピラジン 植物由来の香気成分A とピネンを嗅がせて飼 育した線虫は、嗅覚が 鋭敏化することがわ かった。 におい応答の濃度依存性と成分の組合せ依存性 スギ精油やジアセチルを用いた実験で、濃度によって生理応答が異なる事がわかり ました。次に、「覚醒維持効果を持つ月桂樹葉のにおい」の主成分であるシネオール と「睡眠誘発効果を持つモミ葉のにおい」の主成分である酢酸ボルニルの効果を調べ る実験では、前者には効果が無く後者に効果がある事がわかりました。濃度依存性と 成分の組合せ依存性は、においの応答メカニズムを解明するための重要な手がかりに なる可能性があります。 においの濃度によって脳活動に与える影響が異なる(スギ精油の結果) 視覚オドボール課題 高頻度(60%) 低頻度(20%) 低頻度(20%) 防音・暗室 視覚刺激 モ ニ タ 嗅覚刺激 空気 脳波・心電図等計測 $" %" &" !" ボタン押し #" 対照 0.45 波平均振幅(uV) におい刺激 脳波β波(14∼30Hz : 速い成分) 覚醒度が高くなると増加 濃度群間で、 振幅の変化パターンが異なる においの濃度によって 脳活動に与える影響が異なる '" 高濃度 0.4 低濃度 中濃度 0.35 SE,n=14 Rest1 Task1 Task2 Task3 Rest2 においの単一主成分に効果があった例(酢酸ボルニルの結果) (-)-酢酸ボルニル提示:1日1時間を2週間 スムーズな休息期移行 活動量亢進 嗅球の時計:影響なし Control Bornyl acetate (60C) 60 高濃度 40 20 0 0 4 8 12 16 20 24 Zeitgeber time (hours) Control Bornyl acetate (50C) 60 中濃度 40 肝臓の時計:Per2亢進 20 0 4 8 12 16 20 24 Zeitgeber time (hours) 80 Control 低濃度 40 20 0.004 Per2 Li Per2 0.003 0.002 0.001 0 4 8 12 16 20 16 20 ZT ZT 8 4 12 ZT 0 ZT 0 0.000 ZT Counts / min Bornyl acetate (30C) 60 Normalized expression 0 ZT Counts / min 80 Per2 Normalized expression Counts / min 80 24 Zeitgeber time (hours) 活動リズムが変化 末梢のリズムが明確化 Advanced Olfactory Researches in Cooperation with Medicine, Agriculture, Sciences, Engineering, and Psychology Project manager: Tsuyoshi Okamoto (Faculty of Arts and Science, Associate Professor) analysis We conducted experiments on olfactory response at various levels of organism such as biomolecule, gene, cell, nervous system, behavior, and psychology. Our research produced following two important findings. First, experiments using essential oil of Japanese cedar or diacetyl showed some concentration dependences of olfactory response. Second, experiments using single major component of plant-derived scent with cells, mice, and human subjects, showed great difference in degree of physiological effect. For example, cineole, which is the major ingredient of scent from laurel leaves, had no effect on maintenance of wakefulness against the scent from laurel leaves. On the other hand, bornyl acetate, which is the major ingredient of scent from fir leaves, had some sleep-inducing effects as well as the scent from fir leaves. Both the concentration dependence and the combination dependence on odor components may be important for understanding the mechanism of olfactory response. !" #" $" %" Control &" '" Concentrationdependent High concentration Middle O H Low O 研究課題: 医農理工文連携による 「におい」 の最先端総合研究 研究組織: 医,農,理,シス情,人環 審査部門:学際・複合・新領域 採択年度:H24 整理番号:24425 種目:E-3タイプ (特定プロジェクト研究) 代 表 者 : 岡本 剛(基幹教育院/医学研究院 准教授)
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