水素エネルギーシステム Vol .19,No.2,1994 資料 熱電発電研究開発の現状 工業技術院電子技術総合研究所 エネルギ一部環境エネルギー研究室 太田敏隆 はじめに 熱電発電は半導体素子を使って熱エネルキーを直接電気エネルキーに変換する技術 であり、本質的には可動部分を必要としない。このため、保守が不要で信頼性が 高く、小型で静粛な長寿命の発電システムをつくることができる。 1. 原 理 発 電 原 理 で あ る ピ ー ヘ ,i 'J '効 果 を 図 を 用 い て 説 明 す る (1 )。図 1(a)に p 型 熱 電 半 導体に温度勾配を生じさせた瞬間の状態を示した。高温側の正孔数は低温側より も 多 く な り 、 図 の よ う な 正 孔 の 密 度 勾 配 が 生 じ る 。 イ オ ン 化 し た 不 純 物 原 子 (7ク セ 7 'タ ) も 正 孔 と 同 じ 密 度 分 布 を 生 じ る 。 し か し 、 正 孔 が 半 導 体 中 を 自 由 に 移 動 で き る の に 対 し 、 7ク セ 7 タは組織中に固定されているため、正孔だけが拡散して図 1( b )の 平 衡 状 態 に い た る 。 こ の 状 態 で は 正 孔 の 拡 散 力 と 電 界 と が 釣 り 合 っ て い る。この電界を電圧で表したものを熱起電力といい、単位温度差当たりの熱起電 力を t '-ヘ i 'J '係 数 S と い う o こ の 状 態 で 半 導 体 に 負 荷 抵 抗 R を 接 続 す る と 電 流 Iが 流 れ ( 図 1(b)) 、 電 力 を 取 り 出 す こ と が で き る 。 高 効 率 の 熱 電 半 導 体 は 、 熱 伝 導 率 xが小さく、 t '-ヘ け 係 数 Sが 大 き く 、 電 気抵抗率 ρが小さい。これらの物性値で構成される熱電半導体の評価因子を(熱 電 ) 性 能 指 数 Z (K-1 ) と い い 、 絶 対 温 度 を 乗 じ て 無 次 元 化 し た も の を 無 次 元 性 能 指 数 Z Tと い う 。 こ こ で 、 S2 Z宮 、 ρx S2 T ZT = 熱電半導体の最大変換効率苧 ηmax . J . m a xは (ZT+l) 'EA Th - T (1 ) ρx 1/2 (2 ) (ZT+l) 1/2+~L..çー h Th 熱 電 半 導 体 (p型) 高 ìk~端 eiD er}ìl~ ⑤ 。θ1 正孔の拡散 θ⑥ 1 i ) i E t Th 孔トー-ー 単 位 高 端 . . . : : . . . u 負荷抵抗 R 1 止 開放熱起電力 』 r------------------------------~ 正 孔 f z トょこーー v T E + J 品 IJ支 ~Ær一一ーヲ三百九一一Er---211l 時 I /一~ま 位 端 ! f 立 f l ¥ 高 ( a ) 極度差を印加した瞬間の熱電半導体の状態 端 端 ( b ) 平衡状態における熱電半導体の状態 θ:イオン化した不純物原子,⑥:正孔 図 1 I' @θ)唱 玉 石 一 ト?品 一ー「忠、 RTE 。⑥ θて正竺~1) ー 単 If 企 : 内部抵抗 。 (T c) !度 の,..-ー-ー r _1::: 餅草/~一一_Tcl [ 1 支宮. ! , r I t , ー J lk、 “ ー " ー ー 幽 ー 凶 ・ 園 田 園 - (九) ⑥ 。 氏{ 品端 熱電発電の原理 -98- 水素エネルギーシステム Vol .19,No.2, 1994 資料 表 人口衛星 BOM*'出力 /RTG,W(e) 熱電素子材料 P u 2 3 8 燃料形能 変換効率% 比出力 W(e)/kg 1 代表的宇宙用熱電発電器 SNAP-3A SNAP-9A トランジット A トランジット 5 B N 2 . 7 PbTe 2 6 . 8 PbTe 金属 金属 5 . 1 1 .2 9 5 . 1 2 . 2 SNAP-27 SNAP-19 アポロ パイオニア 7 3 . 4 PbTe 4 0 . 3 PbTe/Tags PMC'Z 6 . 2 3 . 0 微細球状酸化物 5 . 0 2 . 3 * 3 MHW-RTG GPHS-RTG ポイジャー ガリレオ/ユリシス 1 5 8 S i G e 2 9 2 S i G e 固形酸化物 固形酸化物 6 . 6 4 . 2 6 . 6 5 . 2 B e g i n n i n go fM i s s i o nの略 H P l u t o n i amolybdenumc e r m e tの略 * 3 T h eSNAP-27s p e c i f i cpoweri sshownw i t ht h ef u e l c a s kmassi n c l u d e d 判 表 2 化石燃料利用熱電発電器とエンジン式発電機の比較 500W 熱電発電器 500W エンジン式発電機 使 用 燃 料 ガソリン、ジーゼル油、 J P 4, J P・5、ケロシン ガソリンのみ 騒 地点で、感知不能 音 無 音 :100m 工場レベルの騒音:100m 地点で感知 重 量 30kg 38kg 平均故障間隔 2, 000時間 250時間 保 守 注油不要、 100時間運転後もバーナーはクリーン 150時間ごとに保守が必要 燃 費 1 .35kg / h 0 . 7 3 k g / h た だ し 、 T h、 T c は そ れ ぞ れ 熱 電 半 導 体 の 高 組 側 と 低 温 側 の 温 度 、 ( T h - Tc) はカルノー効率、 / Th ZT={( ~ Z d T)/(Th - Tc)}*<Th+T c } / 2 で あ る 。 このように、性能指数が大きいと効率も大きくなる。 2. 熱 電 発 電 の 現 状 熱電発電器は宇宙用、海洋用、軍用や僻地用として実用化されている。僻地用 ではハ'イ 7 'う イ ン の 電 飾 防 止 用 電 源 や 通 信 機 用 発 電 シ ス テ ム な ど に 使 わ れ て い る 。 た と え ば 、 通 信 機 用 と し て は 100台 以 上 が 稼 働 し 高 い 信 頼 性 が 実 証 さ れ て い る は ¥ 表 1 に 代 表 的 な 宇 宙 用 発 電 器 を 示 し た け ) 。 最 新 の GPHS R T Gではユニ?ト出力 国 292W、 1000C ま で 使 用 可 能 な SiGe系 熱 電 材 料 を 使 い 、 700Kの 温 度 差 で 7 %弱 の シ ス テ ム 効 率 ( 材 料 効 率 約 10%) を 持 つ 。 7ホ.日用は月面で、ハ.イオニ 7やホ.イシ.ヤ日 0 用 は 太 陽 系 外 で 、 打 ち 上 げ か ら 20年 前 後 に わ た っ て 無 保 守 で 稼 働 し て い る 。 表 2 で 500W級 熱 電 発 電 器 と エ ン シ . ン 式 発 電 機 を 比 較 し た (4ν5) 。 熱 電 発 電 器 は 燃 料の種類を選ばず、低騒音で軽く、また、平均故障間隔が長い上保守が容易であ る 。 燃 費 は エ ン シ ン 式 の 約 2倍 で あ り 、 変 換 効 率 は 半 分 程 度 で あ る 。 こ の 例 は 軍 用 で 2 k Wま で の 様 々 な 出 力 の 発 電 器 が 開 発 さ れ た 。 現 在 使 わ れ て い る 熱 電 発 電 器 の 出 力 は 数 k Wが 上 限 で あ る 。 し か し 、 米 国 の N A S A,D O Eと D O D共 同 で 開 発 し た SP-100計 画 で は 100kW----1MWの 宇 宙 用 熱 電発電システムが要素技術開発の段階をほぼ終え、比較的大規模なシステムが技術的に は 可 能 に な り つ つ あ る 。 図 2 に SP-100システムのサブシステム (PCA. 出 力 9 k Wを 示 した。 T Eセ ル を 最 小 単 位 と し 、 T C Aと い う 中 間 ユ ニ ッ ト を 設 け る こ と に よ り 大 規 模 化 を 可 能 に し て い る 。 出 力 密 度 は 2SkW/m2 (75kW/m3 ) で あ る (6。 ) 以上のように、熱電発電器は高信頼性、長寿命の保守が容易な発電器であるが、 発 電 効 率 が 7 %程 度 と 小 さ い の で 特 殊 用 途 に 使 用 さ れ て い る 。 出 力 は 数 k Wが 上 限 だ が 、 技 術 的 に は M W級 が 可 能 に な り つ つ あ る -99 o 水素エネルギーシステム Vol .19,No.2,1994 資料 … 一 l t il -.omm ¥¥与 ,(61品 1~11 1 1 ¥1分岐怜 創出相1)-1'管 i ' 制 61 ' ) i . j ~、一円.r < ¥と予/ TE七 fし ~lJセ'" C ; i i : 榊印刷 …計聞記品川 イ!:晶 1 ¥ / 図 2 U ジ!::===='===::d.'----I 100kW級 宇 宙 用 熱 電 発 電 シ ス テ ム の サ 7.システム (PCA,出力 9kW ) 3, 研 究 開 発 の 動 向 1983年 か ら 10年 以 上 の 歳 月 と 500億 円 以 上 の 資 金 を つ ぎ 込 ん だ 、 米 国 sp100計 画 は 要 素 技 術 の 開 発 を ほ ぼ 終 了 し 、 地 上 で の 実 地 検 証 の 半 ば の 段 階 で 打 ち 切 ら れ た 。 火 星 の 有 人 探 査 、 SD1や宇宙ステ-Y3ン な ど の 宇 宙 開 発 計 画 が 軒 並 み に 中 止 ま た は 延 期 さ れ た た め に SP-I00計 画 で 開 発 中 の 発 電 シ ス テ ム の 応 用 が 先 送 り さ れ、早急な技術開発は不必要と判断された事が原因である。 し か し 米 国 で は NASA. DOEと DODを ス ホ ン サ 回 と す る 熱 電 冷 却 材 料 の 研 究 開 発 計 画 が 今 年 度 新 た 民 発 足 し 、 宇 宙 用 発 電 材 料 の 2倍 以 上 の 機 関 が 参 画 し て 研 究 が 行 わ れ て い る 。 SP 100計 画 で の 材 料 開 発 は 、 材 料 効 率 を 8 %か ら 10%に 向 上 す ることを目標としていたが、冷却材料の研究計画ではいずれも変換効率を大幅に 向 上 す る こ と ( 例 え ば 20% 以 上 ) を め ざ し て お り 、 実 現 す れ ば ス イ 回 Xシャトルや潜 水 艦 の 空 調 や 冷 蔵 庫 が 7ロ ン 7) 1同 の 熱 電 方 式 に な る ば か り で な く 、 逆 変 換 で あ る 熱 電発電の効率向上にも波及効果が期待できる。 わが国では通産省工業技術院のサンシャイン計画において海洋温度差発電への適用 が検討され、電子技術総合研究所と新エネj 川田・産業技術総合開発機構において 100W 級 装 置 む よ る 実 験 研 究 が 行 わ れ た (7,8) 。 ま た 、 大 阪 大 学 に お い て も 低 温 低 熱 落 差 利 用 熱 電 発 電 シ ス テ ム の 実 験 研 究 が 行 わ れ て い る (9)。コマツでは 200W級 排 ガ ス 利 用 熱 電 発 電 の 実 験 研 究 が 行 わ れ (10)、大阪カ.スでは 100 W 級 LNG冷 熱 利 用 熱 電 発 電 の 実 験 研 究 が 行 わ れ た (11)。新エネル;f'- 関 係 で は 地 熱 発 電 へ の 適 用 (12 )、省 エ ネ ル 下 回 関 係 で は 自 動 車 の 排 ガ ス 利 用 (13) 、 リ ン 酸 型 燃 料 電 池 の 排 熱 利 用 (14)や清 掃 工 場 の 排 熱 利 用 (15) に 関 す る 調 査 が 実 施 さ れ た 。 平 成 5年 度 か ら は 科 学 技 術 庁 振 興 調 整 費 の 枠 組 み で 、 傾 斜 構 造 形 成 に よ る エ ネ ル キ ' ー 変 換 材 料 の 開 発 に 関 す る 研 究 が 開 始 さ れ た (16) 。 熱 電 材 料 の 研 究 は そ の 中 核 に 位 刷 置 付 け ら れ 、 20%以 上 の 変 換 効 率 を 目 標 と し て 産 官 学 30機 関 以 上 が 参 画 し て い る。他にも厚生省科研費、工業技術院ニューサンシャイン計画などで研究開発と調査研 究が行われている。 現者研究開発は米国と日本を中心に行われているが、旧ソ連の蓄積も無視する こ と は で き な い 。 特 に 人 的 に は 2000人 に 上 る 当 該 分 野 の 研 究 者 を 抱 え て い る と ∞ - -1 水素エネルギーシステム Vol .19,NO.2_ 1994 資料 思われ、国際的な協調体制の構築が課題になる。 熱 電 発 電 に 関 す る 技 術 開 発 課 題 は 次 の 通 り で あ る 。 (1) 材 料 変 換 効 率 の 向 上 : 現 状 の 効 率 10%を 20か ら 30%以 上 へ と 向 上 さ せ る 。 効 率 向 上 の 7 7' 口回チについ て は 第 4項 で 述 べ る 。 ( 2) 砥 価 格 化 技 術 の 開 発 : 量 産 効 果 や 7 ロ セ yシンク'技術の適 用 に よ り 77' ロ日千されている。 (3) シ ス テ ム 化 技 術 の 開 発 : 宇 宙 用 で は M W級のシステム が可能になったが、経済性の評価が厳しい地上用の大規模発電システム実用化のた めに、膨大な数の素子を信頼性を確保しつつ組み上げる、システム化技術の開発が 必 要 で あ る 。 (4) 熱 交 換 技 術 の 開 発 : 熱 電 材 料 の 性 能 を 最 大 限 に 発 揮 す る た め に 、 熱交換効率の向上と、均等に加熱し、均等に冷却する技術の開発が必要である。 4. 高 効 率 材 料 の 可 能 性 熱電発電材料の高効率化はこの技術の実用化が始まったころからの課題であり、 近年長い期間の低迷期を脱して比較的組織だった研究開発が行われるようになっ てきた。このような状況が生まれた原因のひとつは昨今のエわけー・環境問題へ の感心の高まりにあると思われる。熱電発電技術は特に未利用エネルトーの有効利 用技術として応用の拡大が強く望まれており、また、逆変換である熱電冷却技術 は 文 字 道 理 の 7ロ ン 7リ ー の 冷 却 ・ 冷 凍 技 術 と し て 、 電 子 テ . ハ . イ ス の 冷 却 ば か り で な く冷蔵庫や空調機への応用が期待されている o 今ひとつの原因は従来大きな足棚 と し て そ の 存 在 が 意 識 さ れ て い た 、 い わ ゆ る 無 次 元 熱 電 性 能 指 数 ZT=lの 縛 り か ら、熱電材料研究者の多くが解放されたことにあると思われる。本項ではこの第 2 の 原 因 に つ い て 概 説 す る と と も に 、 最 近 の 高 効 率 材 料 研 究 の 77.ローチを新材料 探 索 研 究 と 変 調 構 造 材 料 研 究 の 二 つ に 大 別 し 、 そ れ ぞ れ の 77 ローチで採用されて いる研究手法と最近の研究開発動向について述べる。 4園 1 . 高 性 能 材 料 研 究 の 活 性 化 実 用 的 な 熱 電 変 換 材 料 の 研 究 は 31 "7ェ の 熱 電 材 料 に お け る 指 導 原 理 が 発 表 さ れ た 1950年 代 の 後 半 に 始 ま っ た 。 こ の 指 導 原 理 は 半 導 体 ハ ' ン γ 理 論 に 基 い た も の で あ り 、 主 と し て 熱 電 変 換 効 率 を 規 定 す る 性 能 指 数 を 最 大 に す る 最 適 キ ャ リ 7濃 度 が 存 在 し 、 室 温 に お い て は 1025m-3程 度 の 値 で あ る と い う 主 張 で あ る 。 こ の 値 は , 半導体のキャリ 7濃 度 に 相 当 す る 。 3 7ェ の 指 導 原 理 は 1960年 代 の 初 頭 ま で 願 調 に 機能し、現在実用に供されているシリコンケ.ルマニウム (SiGe)系、鉛テルル系及びヒ'スマス ル (BiTe)系 材 料 の 原 型 が 開 発 さ れ た 。 こ の 時 期 に は 熱 電 発 電 器 の 効 率 目 標 は テjレ 30%で は 控 え め と 考 え ら れ 、 冷 蔵 庫 や 空 調 も す べ て 熱 電 方 式 に 置 き 換 え ら れ る 日 が 近 い と さ え 考 え ら れ て い た 。 し か し 、 無 次 元 性 能 指 数 ZTの 上 限 は は る か か な た と 考 え ら れ て い た に も 関 わ ら ず 、 ZT=1の 壁 を 大 き く 打 ち 破 る 材 料 は 30年 近 く に わ た っ て 現 わ れ な か っ た 。 そ し て 1980年 代 の 後 半 に は ZTの 上 限 は お お む ね 1で あ る と い う こ と を 理 論 的 に 示 そ う と す る 試 み さ え 行 わ れ る 状 態 で あ っ た 。 こ の 流 れ を 変 え た の が 元 シ エ 7ト 推 進 研 究 所 の C B.Viningである。 Viningの 主 張 は 以 下 の 通 り で あ る 。 (a) ZT=lが 上 限 で あ る こ と を 示 し た 理 論 的 考 察 は 現 匂 在までに測定された熱電特性のみを説明できる極めて特殊な考察に終止しており、 ZT=1が 上 限 で あ る と い い き れ な い こ と 。 (b) SiGe系 材 料 の 熱 電 特 性 を 予 測 可 能 な 理 論 に 基 づ く と 、 同 材 料 の Z Tは最適キャ ) 17濃 度 に お い て も 1を 大 き く 越 え な い こと。 (c)同じく、 SiG e系 材 料 の 熱 電 特 性 を 予 測 で き る 理 論 に お い て 、 微 視 的 ハ . 7メ ー タ を 実 在 の 元 素 の 範 囲 内 で 変 化 さ せ た 場 合 に 仮 想 材 料 の ZTは 1を 大 き く 上 回 る こ と 。 言 い 換 え れ ば 、 SiGe系 と 同 じ 伝 導 特 性 を も っ 材 料 系 で も ZT=1を 上 回 る ことが物理的にはありうること。 この主張は同時にヨ " 1 7ェ の 時 代 に 考 え ら れ た 変 換 効 率 30%等 の 主 張 を く つ が え -101 水素エネルギーシステム V01 .19,N0.2,1994 資料 す 理 論 は 存 在 し な い こ と も 意 味 す る 。 こ の 主 張 に 基 づ く 研 究 は 1990年 に 細 々 と 始められ、 1992年からはシ.エ 7ト 推 進 研 究 所 に お い て 、 1993年 か ら は 各 所 に お い て 比 較 的 組 織 だ っ て 行 わ れ は じ め た 。 効 率 の 大 幅 な 向 上 を 目 標 と す る 77' ローチは 主 と し て 2つ あ る 。 ひ と つ は 有 望 な 微 視 的 ハ ラ メ ー タ を 持 ち 熱 電 特 性 を 評 価 さ れ た ことのない材料系を研究する新材料の探索であり、もう一つは量子井戸構造など の特異な構造によって発現する量子力学的効果などを利用する変調構造材料研究 の 77' ロ 同 チ で あ る 。 以 下 に 双 方 の 77' ロ ー チ の 代 表 例 を 紹 介 す る 。 4・2.新 材 料 の 探 索 研 究 A; t7テjレ タ ' イ ト 構 造 の 化 合 物 、 特 に 1rSb3 は Rensselaerの Slackと γ ェ7ト 推 進 研 究 所 (JPL) の Cail1atに よ っ て 有 望 な 材 料 で あ る こ と が 独 立 に 予 測 さ れ 、 実 験 研 究 が 進 め ら れ て い る (17) Slackは 全 て の 二 元 化 合 物 を 検 討 し 、 2 8 種 類 の 有 望 な 半 導 体 を 見 い だ し た (18) 。 三 元 お よ び さ ら に 複 雑 な 化 合 物 は ウ ク ラ イ ナ 原 子 力 研 究 所 の Marchuk(Mn4A13Sis)やモスクワ工科大学の Dashevsky (HfNiSn)ら に よ っ て 行 わ れ て い る 。 Slackら に よ っ て 提 案 さ れ た 重 7ェルミオンとその関連物質もコーネル 大学などで、総合的な検討が行われている。 日 本 で は 山 口 大 学 、 東 北 大 学 や 電 総 研 な ど に お い て 、 そ れ ぞ れ ス ク 7テルタ'イト構 造 材 料 (19)、ホ.ロンリッチホウ化物-SiC 系 ( Z0) や 遷 移 金 属 ケ イ 化 物 ( Z 1) な ど の 新 材 料 研 究 が 活 発 に 行 わ れ て い る 。 次 に 示 す Mg2Sio.6GeO.4材 料 は 最 近 日 本 で 行 わ れ た 新 材料の成果である。 7ンチモンを添加した n型 MgzSio.6GeO・4材 料 と 銀 を 添 加 し た p 型 M g2Sio.6 GeO .4材 料 に お い て そ れ ぞ れ 1 .61x10・3K・1(663K)と 2 .67x10-3K-1(629K)の 最 大 性 能 指 数 が 得 ら れ た ( 図 3) (Z2) 。 熱 電 特 性 の う ち 熱 伝 導 率 の 値 は 計 算 値 を 使 用しているが、 p 型 材 料 の 無 次 元 性 能 指 数 Z Tは1.68であり、イリシ.ウム 7ンチモン化 物と同じく有力な新材料の候補である。実用化のためには材料の酸化とマク'ネシウム の蒸発を抑制するための研究が必要であるとされている。 4・ 3 .変 調 構 造 材 料 の 研 究 開 発 (1) 傾 斜 構 造 材 料 3 _2 . 5 . 6 G e O . 4(Ag) M92Si O o 0 • X F・ 3 ロ ー2 、 、 ト 二 1 .5 . 8 E GeTe-AgSbTe~l り/ / お (TAGS)ι/? / //l~S!\1~\_O~ E w Z I . J . . ~\ γ. ' " ¥ l / 0 w / 55 / /・ • I . J . . O O 300 200 300 4 0 0 500 600 7 0 0 T E門P E R A T U A E . TIK 図 3 p 型 MgzSio.6GeO.4に お け る 性能指数の温度依存性 図 4 500 700 900 T (K) 傾斜構造化による性能指数の 向上効果 -102- 3 0 0 1100 1 水素エネルギーシステム Vol .19,No.2, 1994 資料 表 3 傾斜構造熱電発電器の目標性能 高温部 (1300K1 0 0 0 K ) r t温部(lO OOK 6 0 0 K ) 低温部 ( 6 0 0 K 3 0 0 K ) 円盤型、直径2cm O. 5xlcm、素子 x4 ケ 0. 5x1cm、素子 x41 4. 2 8 . 5 9 . 8 発 電 密 度 (W/cm 0 . 6 3 1 .2 1 .3 出 2 . 0 3 . 8 形 状 変換効率(%) 2 ) 力(w) 」 4 . 1 L 一一一 傾斜構造材料を熱電材料に適用するという考えは目新しくはないが、組織的な 実験研究が試みられる例は科学技術振興調整費の計画が初めてである。計画では、 低 温 用 材 料 と し て BiTe系 、 中 温 用 材 料 と し て 鉛 テ ル ル 系 、 高 温 用 材 料 と し て SiGe 系材料を使用し、特に異種材料開の接合部における熱応力の緩和や構成元素の拡 散 防 止 、 性 能 指 数 の 向 上 の た め に 傾 斜 構 造 を 適 用 し 、 最 終 的 に は 温 度 差 1100K に お い て 20% 以 上 の 変 換 効 率 を 達 成 す る こ と を 目 標 に し て い る 。 図 4は 横 軸 に 温 度 を 縦 軸 に 無 次 元 性 能 指 数 を と っ た と き に 傾 斜 構 造 化 に よ る 性 能 指 数 の 向 上 効 果 を 示 し て い る (23)。図中の FGMlと FGM2は そ れ ぞ れ BiTe系と 鉛テルル系及び鉛テルル系と SiGe系 の 聞 に 生 じ る 性 能 指 数 の 低 下 を 補 う 仮 想 的 な 傾 斜 構造材料の性能指数である。 表 3に 傾 斜 構 造 化 の 効 果 を お り 込 ん だ 場 合 の 変 換 効 率 等 の 開 発 目 標 値 の 例 を 示 す 。 発 電 密 度 と 出 力 は 熱 電 発 電 器 の ト 7ハ 』 に 熱 電 子 発 電 器 を 設 置 し 、 入 熱 流 束 2 20W/cm と し た と き の 設 計 値 で あ る 。 こ の 表 の 値 を 目 標 と し て 既 存 材 料 の 傾 斜 構造化や新しい材料作製技術による傾斜構造形成などの研究が進展中である o (2 ) 超 格 子 構 造 材 料 材料作製技術の進展により、今までにない構造の作製が可能になってきた。特 に薄膜技術においては望ましい特性を得るために設計した原子レヘ‘ルの構造を実 現する技術が可能になりつつある。また、電子計算機と物性理論の進展により、 希望する特性を発現するための材料設計や特定の構造が持つ特性の理論的解析が 一部で可能になってきた。このような状況を受けて、マクロスコヒーツクな傾斜構造ば かりでなく、量子井戸構造や一次元構造等のミクロスコヒ。 けなヘテロ構造を利用した 熱電変換材料の研究を行う素地が整いつつある。 6 . 0 4 . 0 。 ト 0 4 トJ 2 . 0 0 . 0 0 . 0 2 0 . 0 4 0 . 0 6 0 . 0 8 0 . 01 0 0 . 0 a(A) 図 5 二 次 元 構 造 BiTe系 材 料 の 性 能 指 数 と 層 の 厚 さ の 関 係 (2)は a0-b0面 の 層 で 二 次 元 構 造 を 作 っ た 場 合 。 破 線 : ハ レ F (1)は aO-cO面の層、 -103- 水素エネルギーシステム \f~lì.19 , N0 .2,1994 資料 このような状況を受けて、最近、薄膜ヘテロ構造を使って性能指数を向上すると いう提案が増えてきてた。現在のところ、理論解析に留まっているが、無次元性 能 指 数 を 10以 上 に 見 積 る な ど ハ ル ク 材 料 の 特 性 を 大 き く 上 回 る 可 能 性 が 示 さ れ て いる ち な み に 、 ZT=10と い う 値 は 30%以 上 の 変 換 効 率 に 相 当 す る 。 o 図 5は 二 次 元 構 造 BiTe熱 電 材 料 の 無 次 元 性 能 指 数 と 各 層 の 厚 さ と の 関 係 で あ る(24)。 実 線 (1)と (2) は 層 の 方 向 を 示 し て い る 。 層 の 方 向 を 適 当 に 選 ぶ と 、 性 能 指 数 は 破 線 で 示 し た ハ レ ク 材 料 の 値 の 13倍 に な る こ と が 示 さ れ て い る 。 続 報 に よ ると、 1次 元 電 子 力 . ^ を 利 用 す る と 性 能 指 数 が 更 に 向 上 し 、 ハ レ ク の 値 の 26倍 に な る こ と が 示 さ れ た (Z5)。他にも BiTe-SbTeや BiTe-SbTe超 格 子 ヘ テ ロ 構 造 に お い て 、 界 面 に お け る 格 子 の 摂 動 に よ る 7ォ / ン の 散 乱 効 果 に よ っ て 熱 伝 導 率 を 大 幅 に 低 減 さ せ 7以 上 の 無 次 元 性 能 指 数 が 得 ら れ る と い う 理 論 予 測 も 行 わ れ た (Z 6 )。実 験による検証が待たれる提案である。 おわりに 熱電材料、モジュール、システムの研究人口は年を追うごとに増えつつある。また、本質的なブレークスルー をめざした研究が活発化していることを考えると、今後の研究開発に注意を払う必要があろう。 参考文献 1. 太 田 敏 隆 、 田 中 耕 太 郎 : 熱 電 変 換 技 術 の 現 状 と 将 来 、 日 本 機 械 学 会 誌 、 95, 786 794,(1992) 2.森 本 ほ か : 低 消 費 電 力 マ イ ク E波通信システム用電源、システム、 NEC技報、 35,Nol1, p.72(1982) 欄 3.D.M.Rowe:United States Thermoelectric Activities in Space, Proc. 8th Int .Conf. on Thermoelectric Energy Conversion, 133・ 142 (1989) 4.G.Guazzoni, J.Angello, and A.Herchakowski:Regenerative Burner System for Thermoelectric Power Sources,Proc. 2nd Int .Con, i on The.rmoe1ectric Energy Conversion, 121・ 125 (1978) 5.G.Guazzoni:MI 1itary thermoelectric generators, D.M. Rowe(ed.), The First European Conf . on Thermoelectrics,Peter Peregrinus Ltd (1988), p.302 6ωV C.Truscello & L.L.Rutger:The SP・ 100 Power System, Proc. Ninth Sympo. Space Nuclear Power Systems(1992),p.l・ 23 武 信 ほ か : 低 熱 落 差 利 用 熱 電 発 電 、 電 総 研 調 査 報 告 208号 (1983) 7.梶JlI 8 .エンシ*ニ 7)1 ン ク 易 振 興 協 会 : 海 洋 温 度 差 発 電 シ ス テ ム の 研 究 、 サ ン シ ャ イ ン 計 画 推 進 本 部 咽 四 (1982) 9.K.Matsuura,D.M.Rowe,K.Koumoto,G.Min, and A.Tsuyoshi:Design optimizationfor a large scale low temperature thermoelectric generator,Proc. 11th Int .Conf . on Thermoelectrics,10・ 16(1992) 10.M.Ohaku and K.Uemura:Thermosiphon・type thermoelectric elecト ricity generationg system using a low grade heat source,Proc.8th .Conf. on Thermoe1ectric Energy Conversion,165 170 (1989) Int 聞 II.K.Hirao,Y.Kitano,M.Hamada, and T.Maruyama:Thermoelectric power generation by thermoelectric devices utilized cold heat of L N G,Proc. 8th Int.Conf. on Thermoelectric Energy Conversion, 160-164(1989) -104- 水素エネルギーシステム Vol .19,No.2, 1994 資料 12.電 力 中 央 研 究 所 : 半 導 体 を 利 用 し た 熱 電 変 換 技 術 の 可 能 性 に 関 す る 調 査 、 新 エ ネ jレ ト ー - 産 業 技 術 総 合 開 発 機 構 (1993) 13.E.Takanose and H.Tamakoshi:The development of thermoelectric generator for passenger car,Proc.12th Int .Conf.on Thermoelectrics 467-470(1994) 1 4 η 電 力 中 央 研 究 所 : 熱 電 変 換 素 子 を 用 い た 発 電 シ ス テ ム に 関 す る 調 査 、 新 エ ネ jレキ'目。 産 業 技 術 総 合 開 発 機 構 (1994) 15.T.Kajikawa,M.lto,E.Shibuya, and N.Hirayama:Conceptual design of thermoelectric power generation system utilizing heat of combustible solid waste,Proc.12th Int .Conf .on Thermoelectrics, 491-496(1994) 16.M.Niino and L.Chen:Projected research on high-effeciency hybrid direct energy conversion system,Proc.12th Int .Conf.on Thermoelectrics,527・ 531(1994) 17.T.Caillat,A.Borshchevsky, and J-P Fleurial:Preparation and thermoelectric properties of p- and n-type I rSb3,Proc.Xlllth InL Conf on Thermoelectrics(1995), to be published. 吻 18.G Slack:New materials and performance limits for thermoelectric 固 cooling, D.M.Rowe(ed.), CRC Handbook of Thermoelectrics,CRC Press Inc.(1995),to be published. 19. K.Matsubara,T.lyanaga,T.Tsubouchi,K.Kishimoto, and T.Koyanagi:Thermoelectric properties of (Pd,Co)Sb3 compounds .Conf . on with skutterdide structure,Proceedings of the Xlllth Int Thermoelectrics(1995),to be published. 他 20。 後 藤 孝 、 伊 藤 永 二 、 向 田 雅 一 、 今 井 義 雄 SiC B4C系共晶セぅ, 'lクスの熱 開 電 性 能 、 第 7 囲傾斜機能材料シンホーシ'ウム論文集(1995),印刷中。 21.Y.Sawade,T.Ohta,A.Yamamoto,T.Tanaka, and K.Kamisako:Large thermoelectric figure of merit value of the undoped ruthenium sesquisilicide by HIP method, Proc. Xlllth lnt . Conf. on Thermoelectrics(1995),to be published. 22.Y.Noda et al .:Materials Transactions,JIM,33,851 855(1992) 由 23.L.W.Whitlow,T.Hirano, and M.Miyajima:Numerical analysis of efficiency improvements in functionally gradient thermoelectric materials,Proc.l1th Int. Conf. on Thermoelectrics(1992)244-248 24.L.D.Hicks & M.S.Dresselhaus:Effect of quantum-wel 1 structures on the therm 0 e1ectric figure 0 f m erit,Physica1 R eview B, 47, (1993),12727-12731 . 25.L.D.Hicks & M.S.Dresselhaus:Thermoelectric figure of merit of a one-dimensional conductor,Physical Review B,47, (1993),16631 -16634. 26.R.Venkatasubramanian,M.L.Timmons, and J.A.Hutchby: 恥1onollithically interconnected, superlattice structured thermoelements (MISST) in Bi2Te3,Sb2Te3, and Bi2Se3 Materials “ for high-performance thermoelec -105
© Copyright 2025 ExpyDoc