平成26年 9月 増え続ける訪日客に対する受け入れ体制について

2014 年 10 月 1 日
増え続ける訪日客に対する受け入れ体制について
公益財団法人交流協会台北事務所(研修生)
後藤 俊治
2013 年の訪日外客数は 1,000 万人を初めて突破し、過去最高となった。うち
台湾からは 221 万人(前年比 50%増)と、国・地域別にみると韓国に次いで2
位を記録した。今後さらに福岡へ訪日客を呼び込むためには、観光に関するイ
ンフラの整備、魅力あるローカル情報の発信等、ソフト・ハード両面での取組
みにより訪日客の満足度を高め、SNS 等で「口コミ」の発信者となってもらう
ことが必要である。
1.増加する訪日客の現状
日本政府観光局(JNTO)によると、2013 年の訪日外客数は 1,000 万人を初
めて突破し、過去最高となった(図1)。観光庁が取り組むビジット・ジャパン
(VJ)事業が 2003 年に開始されて以降、訪日客数は順調に拡大している。この
勢いは今年に入っても続いており、観光庁の久保長官は 2014 年の訪日客数につ
いて、年間 1,200 万人台を目指すとの見解を示している。
増加の要因としては、円安の影響、格安航空会社(LCC)の就航拡大による
路線数の増加、東南アジア諸国向け観光査証(ビザ)の発給要件の緩和などが
考えられる。
政府は、東京オ
リンピックが開催
される 2020 年をめ
どに、訪日客 2,000
万人の目標を掲げ
ており、オリンピ
ック効果により日
本への注目度がア
ップするこの機会
を捉えて、国を挙
げた更なる訪日客
誘致の取組みが進
められるものと思
図1:訪日外国人旅行者数の推移(出典:JNTO ホームページ)
われる。
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中でも、台湾からの 2013 年の訪日客数は 221 万人(前年比 50%増)と、訪日
客の5人に1人を占め、国・地域別にみると韓国に次いで2位を記録した。台
湾からの訪日客数は、2013 年 2 月から 18 か月連続で各月の過去最高を更新し続
けているが、さらに、2014 年 1 月~7 月推計値では、前年比で3割以上上回る
ペースで伸びており、国・地域別で韓国を抜き1位となっている。
2.台湾からの訪日客の特徴・動向
台湾からの訪日客について観光庁の資料をもとに見てみると、観光・レジャ
ー目的の割合が高く、しかもリピーターが多いため、主要な観光地は既に訪問
済み、もしくは詳しい人が多い(図2)。そのため、魅力的な観光情報の発信と
同時に、台湾ではまだあまり知られていない独自の観光情報を提供し、訪日客
を飽きさせない工夫を行う等、その特徴に応じた取組みが重要となる。
また、旅行の際の情報源としては、個人のブログ・インターネットの割合が
高い。さらに、旅行者の過半数を女性が占め、特に 20~30 代が多いことから、
こうした対象を意識した情報発信も効果的である。一方、他国・地域よりも、
旅行会社のウェブサイトやパンフレットも役立ったという割合も高いことから、
現地旅行会社への効果的な PR も引き続き不可欠だ。
なお、訪日客に人気の土産品としては、「菓子類」「衣類」「医薬品・健康グッ
ズ」が挙げられる。「医薬品」は日本人の感覚からすると若干違和感があるが、
安全・安心な日本製へのニーズは高い。
図2:訪日台湾人の消費動向
(出典:観光庁「訪日外国人の消費動向
平成 25 年年次報告書」
)
3.訪日客を取り込むための取組み例
こうした増加する訪日客に対し、日本各地では様々な取組みが行われている。
東京メトロと東京都交通局では、外国人と首都圏以外から東京を訪れる旅行
者を対象として、通常よりお得な乗り放題きっぷ「Tokyo Subway Ticket」(1
日~3日券)を発売しているほか、オフラインでも使える乗換アプリ(中国語
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繁体字にも対応)の提供も行っている。
また、台湾でブームとなっているサイクリングを通した新たな観光 PR の取組
みもある。広島県と愛媛県を結ぶ「しまなみサイクリングコース」は、台湾中
部の「日月潭サイクリングコース」と、日本国内初となるサイクリングコース
に関する姉妹協定の締結へ向け準備を進めている。双方は協定締結の効果とし
て、交流の拡大と知名度の向上による観光客の増加を狙っている。両コースは、
2014 年に日本で公開された日台合作のサイクリングロードムービー「南風」で
も採り上げられ、注目度が高まっている。
その他、日台双方の路線の魅力を発信し合う姉妹鉄道協定の締結も盛んだ。
2013 年 4 月には江ノ島電鉄(神奈川県)と台湾北部の平渓線(新北市)が、2014
年 4 月には由利高原鉄道・鳥海山ろく線(秋田県)と台湾の平渓線が、相次い
で協定を締結している。さらに、2014 年 10 月には、いすみ鉄道(千葉県)と、
台湾中部の集集線(南投県)が協定を結ぶ計画となっており、鉄道交流の進展
がみられる。
江ノ島電鉄と平渓線の取組みでは、互いの使
用済み1日乗車券を交換できるサービスを実
施している。具体的には、江ノ電の使用済み1
日乗車券を平渓線に持参すると「平渓線1日周
遊券」が無償で提供され、同様に平渓線の使用
済み1日周遊券は「江ノ電の1日乗車券」と交
換できる。キャンペーン開始から1年間での利
用は 5,000 人を超え、2014 年 3 月末で終了予
定だったこのキャンペーンは、2015 年 3 月末
まで1年間延長された(図3)。
図3:江ノ電・平渓線との乗車券交流
(出典:江ノ島電鉄株式会社)
4.訪日客の受け入れ体制に関する課題
しかしながら、急増する訪日客に対し、日本側の受け入れ体制がまだ追い付
いていない場合も多い。
まず挙げられるのは、インフラ面の整備である。海外からの訪日客を本格的
に受け入れ始めてまだ間もないため、外国語標記や無料 Wi-Fi(ワイファイ)環
境の整備等が不十分であることは、従来より指摘されている。旅行先で情報の
収集・確認ができる無料 Wi-Fi 環境の整備は必須事項である。宿泊ホテルを選
ぶ際、無料 Wi-Fi 環境の有無を判断基準の一つとする旅行者は多い。
また、台湾からの訪日客は、日本の四季折々の風景、特に雪や桜、紅葉など
に非常に興味がある。こういった名所の見ごろは期間限定のものであるため、
人気観光地には観光客が一斉に押しかけ、観光バスの手配が追いつかない等の
問題も起きている。国土交通省は、時限的に貸切バスの営業区域の緩和を行う
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ことでこれに対応しているが、根本的な解決とは言えず、今後いかに季節・場
所を分散化するかがカギとなる。本県としても、メジャーな観光資源のみなら
ず、これまで海外向けに発信してこなかったローカルな魅力を発信していくこ
とが必要となってくる。
また、交通インフラの面では、台湾の旅行会社から「福岡空港から中心市街
地までは地下鉄でつながり、距離的にも近いが、国内線ターミナルまでバス移
動する必要があり、若干分かりづらい。」、
「国際線ターミナルから路線バスで中
心市街地まで行こうとしても、車内にスーツケース置場がないため、タクシー
で移動せざるを得ない。」などの指摘があった。旅行者の目線に立った体制整備
により、リピート率を更に増やすことができるのではなかろうか。
5.福岡への訪日客増加のために
訪日客を増やすためには、前項で挙げたソフト・ハード両面での課題の解決
により、実際に訪れた人の満足度を高めることが必要である。既に福岡市では、
自治体主体としては最大級の「Fukuoka City Wi-Fi」1を整備している。2014
年 8 月には利用手順の簡素化や、専用サイトによる利用エリアなどの情報発信
も開始されており、本県としても訪日客の利便性向上のため、積極的に PR すべ
きだと考える。
また、訪日客の分散化のための魅力的なローカル情報の発信には、有名ブロ
ガーの招聘が効果的である。発言の影響力も大きく、また、我々が気付かない
福岡の良さを発見してもらうことも可能となるなど費用対効果が高いと思われ
る。特に、今後増加が見込まれる個人旅行者に対しては、インターネットを活
用した情報発信の重要性はますます高まる。県域を超えた協力体制で観光ルー
トの創設・PR に引き続き取り組むことはもちろん、ウェブサイトを多言語で展
開し、国ごとに人気の視点やポイントを変えて PR する等、きめ細かな取り組み
も必要だ。今年は 10 月から、九州国立博物館において「台北國立故宮博物院」
特別展も開催されるため、これと合わせて九州・福岡ローカル情報を発信し、
興味を持ってもらうには絶好の機会である。
加えて、受け入れる側である我々の意識も変えていかねばならない。海外か
ら多くの訪日客を受け入れているという意識を常に持つことで、困っている旅
行者へ声をかけたり、自然な交流が活発になれば、福岡を訪れる訪日客の満足
度はさらに高まり、結果として、台湾から福岡への訪日客の増加につながるの
ではないだろうか。
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福岡市が提供する、観光客の利便性向上等を目的とした無料の公衆無線 LAN サービス。平成 26 年 7
月 29 日からは、5言語対応「Fukuoka City Wi-Fi 専用サイト」
(日本語、英語・韓国語・中国語(簡
体字・繁体字)
)をオープンし、訪日客を含めた観光客の更なる利便性の向上を図っている。
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