2014年2月18日 「博士学位請求論文」審査報告書 審査委員(主査)理工学部専任教授 吉村 英恭 (副査)理工学部専任教授 平岡 和佳子 (副査)理工学部専任教授 渡邉 友亮 1 論文提出者 原田知明 2 論文題名 「 フェリチンに内包した希土類ナノ粒子の作製と光学特性」 (Synthesis and photoluminescence of ferritin protein encapsulated rare earth nanoparticles) 3 論文の構成 本論文は以下に示す 9 章から構成されている。 第1章 序論 第2章 実験方法 第3章 Y, Eu, Tb, Tm ナノ粒子の作製と評価 第4章 Y:Eu, Y:Tb, Y:Tm ナノ粒子の作製と光学特性 第5章 H-Fer を用いた Y:Eu と Y:Tb ナノ粒子の作製と光学特性 第6章 YVO4 ナノ粒子の作製と評価 第7章 YVO4:Eu ナノ粒子の作製と光学特性 第8章 YVO4:Dy ナノ粒子の作製と光学特性 第9章 総括 4 論文の概要 本論文は,フェリチンと呼ばれる中心に空洞を有するタンパク質を利用して希土類元素 のナノ粒子を作製する方法を確立させ,その組成,構造,光学的特性について報告してい る。 第 1 章では,本研究の目的,研究に使用したリコンビンナントフェリチンについての解 説,賦活型蛍光体についての説明が記述されている。 第 2 章では,本研究で用いたタンパク質の精製法について述べ,組成や構造を調べた電 子顕微鏡,エネルギー分散型 X 線分析装置, X 線回折装置の使用条件や試料の作製法につ いて記述されている。また,光学的特性を調べるための分光光度計,蛍光光度計,寿命計 測装置について紹介している。 第 3 章では,イットリウム(Y),ユーロピウム(Eu),テルビウム(Tb),ツリウム(Tm)のナ ノ粒子をフェリチン内部に形成させる方法について記述し,その大きさの分布,組成,構 1 造について述べている。Y ナノ粒子については 5.7±0.9 nm の狭い粒径分布を得た。また, どの元素も合成したナノ粒子の約 95%はアモルファスであり,残りの約 5%は結晶構造を持 つことが確認された。結晶性ナノ粒子の電子線回折,X 線回折から得られた面間隔は,そ れぞれの元素の立方格子結晶の面間隔と一致した。さらに合成したナノ粒子の安定性につ いて調べた結果,pH7 ではナノ粒子の溶出が見られたが,pH8 以上の溶液中であれば長期間 安定であることを示した。 第 4 章では,Y ナノ粒子を母体として Eu,Tb,Tm を賦活したナノ粒子を作製して,それ らの光学的特性を調べた結果について述べてある。Y:Eu ナノ粒子は赤い発光を示し,その スペクトルから Eu イオン近傍の環境が Y2O3 と Y(OH)3 の中間的であることを結論した。Y:Tb ナノ粒子は緑色の発光を示し,スペクトルから Tb イオンの環境が Y(OH)3 に近いことを示 した。Tm については発光が観察さず,フェリチンとの相互作用による消光の可能性が示唆 された。 第 5 章では, H サブユニットだけをもつリコンビナントフェリチンを用いて Eu および Tb を賦活した Y ナノ粒子を形成させた例を示した。H サブユニットは鉄酸化活性部位を持っ ており,空洞内部が酸性アミノ酸に富んでいることから希土類のナノ粒子形成にも有効で あろうと予想したが,ナノ粒子形成,スペクトルとも L フェリチンを使った場合と同じで あるとの結論を得た。 第 6 章では,Y とバナジウム(V)を含むナノ粒子をフェリチン内部に形成させる手法につ いて記述してある。フェリチン内部に両元素を含むナノ粒子を形成させるためには,フェ リチン外部溶液中で YVO4 の沈殿を作らせないようにキレート剤 EDDA の添加が不可欠であ ることを示した。作製したナノ粒子はアモルファスであったため化学構造は決められなか ったが,274nm に大きなピークをもつ吸収スペクトルから O2-2p-V5+3d の遷移が存在するこ とを示した。 第 7 章では,Y-V ナノ粒子に Eu を賦活したナノ粒子をフェリン内部に形成させ,その光 学特性を計測した結果について述べている。賦活する Eu の濃度を増加させた場合,V の濃 度は変化せず Y の濃度が減少することから,Y と Eu は同じ位置を占めていることが予想さ れた。発光寿命は Y:Eu の場合より長くなり,発光強度も強くなった。特に紫外励起(274nm) では強い赤発光が目視できるようになった。 第 8 章では,Y-V ナノ粒子にジスプロシウム(Dy)を賦活したナノ粒子をフェリン内部に 形成させ,その光学特性を計測した結果について述べている。Eu に比較して賦活濃度は半 分程度になった。482nm および 572nm に強い発光ピークを持ち,目視では黄色の発光が観 察された。 第 9 章は論文のまとめと今後の展望について述べてある。 5 論文の特質 ナノ粒子は電子機器の微小化などの工業的な目的のみならず,生体物質に対する分子標 識や医療目的に使用されるようになり,様々な作製方法が報告されるようになった。作製 法の主流は気相中での成長や液相中での凝集反応を利用しているが,その場合粒子の大き さを揃えることはなかなか困難である。また,ナノ粒子は水溶液中では凝集しやすく安定 に長時間分散させることができない。このような欠点を克服するために本研究ではタンパ ク質の内部にナノ粒子を形成させ,大きさが揃い水溶液中で安定に分散するナノ粒子を作 ることを提案している。 フェリチン内部に CdS や CdSe などの半導体ナノ粒子を形成させる 報告がこれまでなされていたが,いずれも蛍光が観察されないか,または非常に弱いかで 蛍光ナノ粒子としては使用できない状態にあった。形成されたナノ粒子の結晶性が悪いこ 2 とから発光効率が落ちていると考えられている。本研究論文では,ナノ粒子の結晶性によ らない発光性イオンからの発光を利用する方法をとって,フェリチンによる希土類ナノ粒 子の作製を行っている。さらに母体を Y 単独のものから V を含むナノ粒子にしたことで OH 基による無輻射遷移が減少し,明るい発光を実現できた。以上をまとめると,タンパク質 に被覆された明るい発光性ナノ粒子を得る手法を確立させたことになる。このことはバイ オイメージングなどの応用に大きく道を開く。 6 論文の評価 本研究論文は,フェリチン内部に希土類のナノ粒子を形成させる方法を検索し,その 構造的,光学的評価を丁寧に実験して報告している。成果は国内学会のみならず国際学会 や国際的な雑誌で発表され,高い評価を得た。また,その結果多くの研究室と共同研究が すすむことになった。論文の成果は発光性ナノ粒子の応用に向けて大いなる貢献があった と判断される。 7 論文の判定 本学位請求論文は,理工学研究科において必要な研究指導を受けたうえ提出されたも のであり,本学学位規程の手続きに従い,審査委員全員による所定の審査及び最終試験に 合格したので,博士(理学)の学位を授与するに値するものと判定する。 以 3 上
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