光触媒吸着材 ~有害有機物を吸着して分解~ 信州大学 工学部 物質工学科 准教授 酒井 俊郎 我々が目指す吸着材 UV 有害有機物を分解 有害有機物を吸着 多孔質材料(高比表面積) (有害有機物の吸着) + 光触媒 (有害有機物の分解) 光触媒吸着材 有害有機物を吸着して分解!⇒永続的に吸着作用を発現! 従来技術とその問題点 多孔質材料(メソポーラスシリカなど)と光触媒(酸化チタン)の複合化 MCM-41 MCM-48 複合化 + + 有機物 MCM-50 酸化チタン n-オクチルトリエトキシシラン、 n-ドデチルトリエトキシシランなど 問題点 ・調製に多段階操作が必要 メソポーラスシリカなど ・焼成など高温処理が必要 ・有機修飾処理が必要 我々が目指す製造方法 必要最小限の原料・操作・エネルギーから、 必要なものだけを簡単に創り出す。 キーワード ・簡単(使用試料数・量の削減・単純操作) ・多様性(穏和条件、低エネルギー印加) ・調和(環境調和、材料選定や調製条件、洗浄、 省エネルギー) 開発技術 ~酸化チタン/界面活性剤ナノスケルトンの低温合成~ Surfactant (structure-directed agent): Cetyltrimethylammonium bromide (C16TAB) TiO2 precursor:Titanium oxysulfate sulfuric acid hydrate(TiOSO4・xH2SO4・xH2O) Procedure 60 mM C16TAB aq. solution 3 M TiOSO4 aq. solution Stirring at 60 ˚C for 24 h Washing and filtering Drying at 120 ˚C for 10 h TiO2/C16TAB Nanoskeleton 反応開始剤(酸・塩基)フリーメソポーラス材料合成 Shibata, H.; Mihara, H.; Mukai, T.; Ogura, T.; Kohno, H.; Ohkubo, T.; Sakai, H.; Abe, M. Chem. Mater. 2006, 18(9), 2256-2260. TiO2/C16TABナノスケルトン Micron-sized aggregates (observed by SEM; VE-9800, KEYENCE, 20 kV) White precipitate Hexagonally ordered structure (observed by TEM; H-7650, Hitachi High Technology, 120 kV) • 細孔径が~3 nmの蜂の巣状 構造(ヘキサゴナル構造) • 長周期構造 50 nm 50 nm Sakai,T.; Yano, H.; Ohno, M.; Shibata, H.; Utsumi, S.; Sakamoto, K.; Adachi, S.; Koshikawa, N.; Sakai, H.; Abe, M. J. Oleo Sci. 2008, 57(11), 629-637. TiO2/C16TABナノスケルトン 10 8 6 4 2 (100) -1 I(q) (cm ) 1 8 6 4 (110) (200) 2 0.1 8 6 4 2 0.01 0.1 50 nm 2 2 3 4 56 3 4 56 10 1 -1 q (nm ) 500 Intensity (a.u.) 400 300 200 100 50 nm • 細孔径が ~3 nmの蜂の 巣状構造 ⇒ (100), (110), (200)の3 つのピーク→ヘキサゴナ ル構造 • 長周期構造 • アナターゼ結晶の骨格 ⇒ XRDパターン; (101), (004), (200) and (105) 0 20 (101) (004) (200) 30 40 50 2θ (degree (λCuKα )) (105) 60 Sakai, T.; Yano, H.; Ohno, M.; Shibata, H.; Torigoe, K.; Utsumi, S.; Sakamoto, K.; Koshikawa, N.; Adachi, S.; Sakai, H.; Abe, M. J. Oleo Sci. 2008, 57(11), 629-637. TiO2/C16TABナノスケルトンの形成機構 アモルファスチタニア (含水酸化チタン) チタニア前駆体 結晶性チタニア (アナターゼ) CTABミセル チタニア前駆体 “ヘキサゴナル状アモルファスチタニ ア/C16TABナノスケルトン” “ヘキサゴナル状結晶性チタニア Spherical micelles and TiOSAH (titanium(IV) sulfate) /C16TABナノスケルトン” • Formation of rod-like micelles with hydrated titanium(IV) oxides, and hexagonal structure • Polymorphic crystallization on rod-like micelles and boundary between rod-like micelles →Growth of titania crystals, and saturation of the crystals on the rod-like micelles Sakai, T.; Yano, H.; Ohno, M.; Shibata, H.; Torigoe, K.; Utsumi, S.; Sakamoto, K.; Koshikawa, N.; Adachi, S.; Sakai, H.; Abe, M. J. Oleo Sci. 2008, 57(11), 629-637. 新技術の特徴・従来技術との比較(製造方法) • 簡便な調製法(2水溶液の混合のみ) – 通常は、溶媒蒸発法など • 界面活性剤と前駆体のみ使用 – 通常は反応開始剤を使用 • 開始剤などの添加剤、エネルギー印加が不要 – 反応開始・結晶化等に反応開始剤やエネルギーを印加 • 水溶媒 – 通常は有機溶媒(アルコールなど) • 溶液中で60℃の温和な条件で結晶化 – 通常は焼成処理などが必要 • 有機修飾処理が不要 – 通常は有機修飾処理が必要 新技術の特徴・従来技術との比較(吸着・分解) セチルトリメチルアンモニウムブロミド 水溶液 ( C16TAB) C16TAB TiO2 TEM XRD 重縮合反応 + 酸化硫酸チタン硫酸水和物水溶液 (TiOSO4 xH2SO4) TiO2/C16TAB ナノスケルトン ヘキサゴナル状の酸化チタン(アナターゼ)骨格 界面活性剤を骨格内部に大量に含有 TiO2/C16TABナノスケルトンによる水中溶存有機汚染物質の吸 着・光触媒分解 有害有機物 光触媒分解 有害有機物 吸着 UV 利 点 界面活性剤の可溶化能を利用し、 有機化合物の細孔内への取り込みを促進 吸着した有機汚染物質をTiO2の 光触媒作用により分解 TiO2/C16TABナノスケルトンによる 水中溶存フェノール化合物の吸着 TiO2/C16TAB ナノスケルトン アナターゼ 疎水性の高い吸着質ほど TiO2/C16TABナノスケルトンに 効率的に吸着 TiO2ナノスケルトン アナターゼ 吸着質がTiO2ナノスケルトンに 効率的に吸着しない 界面活性剤の有無が重要、疎水性相互作用が大きく影響 TiO2/CnTABナノスケルトンの光触媒活性 ~4-n-ヘプチルフェノールの分解~ 吸着剤 (5 mg) 1.5×10-5 M HPh 水溶液 (50 ml) 超音波で分散 (1 min) 攪拌 (暗所下、24 h) UV照射 上澄み 分取 遠心分離 (3500 rpm, 20 min) (365 nm, 2 mW cm-2) 吸光度 測定 紫外可視分光光度計 (HITACHI U-1900) 水溶液中の4-n-ヘプチルフェノールの 濃度を測定 Adsorbent Specific surface area (m2 g-1) Amount of adsorbed HPh for 24 h (10-5 mol L-1) Total amount of HPh Initial degradation adsorbed for 24 h and rate of HPh under degradated during UV UV irradiation irradiation for 48 h -7 mol L-1 h-1) (10 (10-5 mol L-1 ) Control (HPh aqueous solution) - 0 0.036 0.156 TiO2/C12TAB Nanoskeleton 2.1 0.377 0.706 0.638 2.8 0.587 0.775 0.783 2 1.264 1.31 0.274 TiO2/C14TAB Nanoskeleton TiO2/C16TAB Nanoskeleton TiO2/C18TAB Nanoskeleton Calcined TiO2/C16TAB Nanoskeleton 2.3 1.369 1.44 0.166 65.4 0.208 0.871 1.279 MCM-41/C16TAB 60.3 1.366 1.364 0.283 MCM-41 1077 0.385 0.377 0.22 Silica gel 680.4 0.399 0.423 0.189 TiO2/CnTABナノスケルトンは光触媒活性を発現 酸化チタン/界面活性剤ナノスケルトンの用途拡大 ~細孔径拡大 ~ • 現状:細孔径 ~2 nm(典型的な細孔径サイズ) • 大きな分子(有用な分子)を細孔内に導入するためには 細孔径が小さすぎる。 7 ~ 15 nm ~2 nm X TiO2/CnTABナノスケルトンの細孔径拡大 ~膨潤ミセルの利用~ 膨潤ミセル CnTABミセル Anatase nanocrystal チタニア前駆体 膨潤剤(油) TiOSAH 細孔径拡大のための試薬 構造形成誘発剤 膨潤剤(油) Cetyltrimetylammonium bromide ( CH3(CH2)15N(CH3)3・Br;CTAB ) ①1-hexadecanol (C16H33OH;C16OH) OH CH3 N+ CH3 ・Br- CH3 ② n-decane ( C10H22 ;C10 ) チタニア前駆体 Titanium oxysulfate sulfuric acid hydrate ( TiOSO4・xH2SO4・xH2O ) ③1,3,5-trimethylbenzene ((CH3)3C6H3;TMB) TMB膨潤C16TABミセルを用いた TiO2/C16TABナノスケルトンの調製 C16TABミセルによるTMBの 可溶化・膨潤 1 2 3 TiO2/C16TAB複合 ナノスケルトンの調製 4 H2O 25 g C16TAB 0.55 g + TMB agitation at 60℃ for 24 h (or 1 week) 5 6 7 8 9 11 13 15 = TMB/C16TAB (molar ratio) 3M TiOSAH aq. 25 g Agitation at 60℃ for 24 h *TiOSAH/C16TAB= 50 (molar ratio) Filtering Washing by water Dry at 120 ℃ for 10 h TiO2/CTAB Nanoskeleton TiO2/C16TABナノスケルトンのd100値の変化 XRD patterns (100) d100 = micelle diameter + wall thickness (~1 nm) :Ordered structure TMB/CTAB = rTMB TMB;1,3,5-trimethylbenzene rTMB 2θ/deg. 0 2.17 4.07 4 2.13 4.17 7 7 2.11 4.19 8 8 1.97 4.48 12 1.43 6.18 16 1.29 6.85 20 No remarkable ordered structure 0 d100/nm Intensity 4 12 ~4 nm 16 20 2 4 6 2θ/deg.(λCuKα) 8 10 TMBの添加により、d100 値が~7 nm まで拡大 細孔径拡大に及ぼす膨潤剤の影響 8 C16OH C10 TMB d100 (nm) 7 6 ~7 nm (rTMB=16) ~5 nm (rC16OH=1) ~6 nm (rC10=6) 5 4 3 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 Molar ratio of Swelling agent / CTAB d100値の最大値 d100値が最大となったときの 膨潤剤の量 ⇒ C16OH (~5 nm) C OH ⇒ (r 16 =1) C16OH < < C10 (~6 nm) C10 (rC10=6) < TMB (~7 nm) < (r TMB =16) TMB d100値の最大値 ∝ d100値が最大となったときの膨潤剤の量 TMB添加系のTiO2/C16TABナノスケルトン No TMB (rTMB=0) TMB addition (rTMB=16) 50 nm Honeycomb-like structure with pore size of ~3 nm⇒ d100 spacing of 4.07 nm estimated from XRD 50 nm Honeycomb-like structure with pore size of ~5 nm⇒ d100 spacing of 6.85 nm estimated from XRD 細孔径が 5 nm まで拡大! 細孔径拡大のための膨潤剤(油)の役割 8 TMB d100 (nm) 7 6 5 4 膨潤ミセル・ エマルション領域 可溶化領域 3 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 Molar ratio of Swelling agent / CTAB • 可溶化領域(飽和条件)では細孔径拡大はしない。 • 細孔径拡大は、余剰の油滴が存在する状態でのみ起こる。 • 余剰の膨潤剤(油)が細孔径拡大に重要な役割を担っている。 20 細孔径拡大のための油滴の重要性 Swollen micelle CTAB micelle Swollen micelles, oil droplets and TiOSAH Anatase nanocrystal TiOSAH Swelling agent TiOSAH 油滴は膨潤剤の供給源 (?) 膨潤ミセル径とTiO2/C16TABナノスケルトンの 細孔径との相関性 d100spacing and micelle diameter (nm) SAXS patterns TMB/C16TAB molar ratio 8 16 d100 spacing of TiO2/C16TAB Nanoskeleton 7 12 6 5 8 4 4 0 d100 3 Micelle diameter FT-1 2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 Pair-distance distributions: p(r) 20 TMB/C16TAB molar ratio TMB/C16TAB molar ratio 12 p(r) • 膨潤ミセル径とチタニア/CTABナノ骨格構造体のd100値 は~1 nm 異なる (d100 値 = 細孔径 + 壁厚 (~1 nm)) • 膨潤ミセルがテンプレートとなっている。 • 油滴自身はテンプレートとして作用していない (?) 16 8 4 0 ナノスケルトンプロジェクト (2006-2012) “国際宇宙ステーションを利用したナノスケルトン材料の創製と応用” このイメージは、現在表示できません。 このイメージは、現在表示できません。 微小重力環境(10-6 G)の特徴 • 沈降や対流がない。 – 弱い相互間力による自己組織化プロ セスが阻害されない。 – 濃度差による対流が生じない。 ⇒規則性の高い配列。 対流の無い静かな環境で、完 全性の高い素材や結晶ができ る。 • 比重の異なる液体が混ざった 状態を維持できる。 ⇒地上では得られない新しい物質 地上 宇宙 沈降が無い 対流が無い 宇宙実験の成果 ■実験の概要 • • • 宇宙環境特有の油を分散させ続けることが出来 る特徴を利用して、自己組織化によるナノスケル トン®の細孔の大口径化を実現し、大きな機能性 分子の取り込みを可能とした。 ナノスケルトンは大きな表面積と、骨格の高い性 能から、「触媒」としての活躍が期待されている。 その第一歩として、「チタニア光触媒」「色素増感 太陽電池」を対象として製品化に向けた研究開 発を実施中 水中の有害物質除去剤としての用途で特許取得 ナノスケルトン 従来材料 (メソポーラス) 壁に触媒性能あり 細孔間隔 3 nm程度 空洞状酸化チタン等 細孔間隔(7~15nm)の実現 壁に触媒性能なし (機能性高分子の取り込み) ■宇宙実験成果 実験結果 ナノスケルトン:ナノレベルの多孔質で、 骨格(孔壁)が高い機能性を有する素材 産業応用上の成果 有効に働いた 宇宙実験特有の効果 油剤と混ぜた状態で作 製することにより、細 孔間隔(細孔径)が拡 大 より大きな機能性高分子の 比重の異なる物質を長時間 取り込みを可能とする成果。 混ざった状態に保つ 細孔の向きが揃った (配向性向上) 地上ではいまだ再現できて いない、貴重な特性データ を取得 物質をより規則的に配列さ せる 25 ナノスケルトン ミキシングバッグ ~2液を混合・化学反応~ アルミナボール: このイメージは、現在表示できません。 宇宙実験時に宇宙飛行士が 手振りで撹拌する際に撹拌 効果を高める。 165 撹拌子: mm 宇宙実験打上準備時に地上 でスターラーによる撹拌を行 う。 レンチを用いてバッグクリップを取り外す クリップ: 106mm 宇宙実験開始までに確実に 溶液を隔離し、化学反応を生 じさせないようにする。 使用実績 ・酸性溶液(硫酸)の封入 ・撹拌子等を含んだ条件での打上・回収 実験開始時に、 宇宙飛行士による手振り攪拌を行う 想定される用途 • • • • • • • • 環境分野(大気、水質、土壌浄化) エネルギー分野(色素増感太陽電池) 農業分野(空気浄化用園芸用ポット) 建築分野(シックハウス症候群防止、トイレ、セ ルフクリーニング) 塗料分野(セルフクリーニング塗料) 自動車分野(超親水性サイドミラー、セルフクリ ーニング) 交通分野(超親水性カーブミラー、セルフクリー ニング) 化粧品分野(日焼け止め、紫外線吸収剤) 今後の展開 ~使用性・再利用性の向上~ TiO2/CnTABナノスケルトンと材料との複合化 布・紙とTiO2/CnTABナノスケルト ンを複合化 ⇒ろ紙、フィルターとして使用 ガラス、セラミック(ブロック、陶器、 園芸用ポットなど)とTiO2/CnTAB ナノスケルトンを複合化 実用化に向けた課題 • 現在、粉末として使用しているが、使用性を向上 させるために、材料との複合化が必要である。 • 大容量の汚染水の浄化処理が可能かどうか検 証する必要がある。 • 実用化に向けて、流通式(連続式)での浄化性 能を評価するシステムを構築する必要がある。 企業への期待 • 大容量の汚染水を浄化処理するシステムの 構築が必要なため、浄化システムの開発技 術を持つ企業との共同研究を希望。 • シート加工・製紙の技術を持つ企業との共同 研究を希望。 • 酸化チタン製品、多孔質材料、触媒の開発を 行っている企業との共同研究を希望。 • 現在、新規環境浄化システム、新規環境浄 化材料を開発中の企業、開発を考えている 企業との共同研究を希望。 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :有機物吸着材及び有機物吸 着方法 • 出願番号 : 2010-043817 • 登録番号 :特許第5574290号 • 出願人 :信州大学、東京理科大学、 宇宙航空研究開発機構、株式会社資生堂 • 発明者 :酒井俊郎、阿部正彦、酒井 秀樹、越川尚清 お問い合わせ先 信州大学工学部物質工学科 准教授 酒井 俊郎 TEL 026-269 - 5405 FAX 026-269 - 5424 e-mail tsakai@shinshu-u.ac.jp 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) きぼう利用プロモーション室 [email protected] 〒305-8505 茨城県つくば市千現2-1-1 筑波宇宙センター
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