A-02 - 土木学会

A-02
平成25年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第70号
異なるせん断スパン長の CFRP 梁における
破壊メカニズムの画像解析による検討
Digital image analysis of the failure mechanism of CFRP box beams with different shear spans
北海道大学大学院工学院
北海道大学大学院工学研究院
北海道大学大学院工学研究院
北海道大学大学院工学研究院
はじめに
炭 素 繊 維 強 化 ポ リ マ ー (Carbon Fiber Reinforced
Polymer : CFRP)は、軽量かつ高強度で耐腐食性の高い
複合材料である。その材料特性を活かし、航空機、自
動車、スポーツ製品など幅広い分野で用いられている。
土木分野においては、橋脚や桁の補修、補強材として
用いられている。また、高耐久化・維持管理のコスト
削減の観点から橋梁の梁部材などの主要部材としても
期待されている 1)。
CFRP 構造物は薄肉部材により構成されているが、
CFRP の強度や破壊形式といった梁部材の強度特性に
大きく影響を及ぼすことが試験により確認されている
2)
。しかし、せん断スパン長の違いが破壊形式に影響
を及ぼすかは確認されていない。また、異方性を有し、
破壊が脆性的であることから、その損傷・破壊過程の
試験的な把握は容易ではない。このような場合には、
画像解析を用いることで、破壊前のひずみ分布の特徴
を捉えられることが示されている 3)。
本研究では、既往研究で得られた CP と呼ばれる積
層構成からなる供試体の 4 点曲げ載荷試験より、せん
断スパン長を 375mm、285mm、185mm と変えること
により破壊形式に変化があるかを確認する。また、損
傷、破壊過程の詳細な観察をデジタル画像相関法によ
り行う。供試体の表面変位を計測し、ひずみの算出を
行うことで、破壊形態・破壊箇所に及ぼすせん断スパ
ン長の影響の検討を行うことを目的とする。
1.
2. CFRP 梁の曲げ載荷試験
2.1 供試体
曲げ載荷試験に用いた供試体は、CFRP の箱形断面
梁(長さ 1000mm、高さ 100mm、幅 100mm、板厚 5mm)
である(図-1)。供試体は、VaRTM 成形で作られた。
繊維シートを成形型に所定の構成で設置し、真空バッ
クを被せて密閉状態として減圧し、その後樹脂を含侵
させて硬化成形している。繊維シートは多軸の複数層
を 1 組とするもので構成しており、繊維が織られてい
ないため屈曲していない。
今回使用した、供試体種類 CP(cross-ply)は積層構
成において[0/90]5 と表記されるが、これは繊維の向き
が 0 度方向、90 度方向の層を積み重ねて 1 組の多軸連
続繊維シートとしており、それらが 5 組積層されてい
○学生員
正会員
F会員
正会員
倉井
松本
林川
何
翔平
高志
俊郎
興文
(Shohei Kurai)
(Takashi Matsumoto)
(Toshiro Hayashikawa)
(Xingwen He)
ることを示している。今回は[0/90]5/[0/90]5 と表記され
るものを用い梁軸方向(0°)10 枚、梁周方向(90°)
10 枚の合計 20 枚の炭素繊維積層の供試体を使用して
いる。以降、CP のせん断スパン長 185mm、285mm、
375mm をそれぞれ CP185、CP285、CP375 と呼ぶ。
2.2 載荷方法
載荷は図-1 に示す 4 点曲げ載荷により行い、L が
せん断スパン長である。支間長 850mm において CP285
はせん断スパン 285mm、曲げスパン 280mm とし、
CP185 はせん断スパン 185mm、曲げスパン 480mm と
した。計測は画像解析以外に、ひずみゲージと変位計
による計測も行った。載荷は、荷重制御により 4.9kN
ごとに載荷を停止してひずみゲージと変位計の値の計
測を行った。
3. デジタル画像相関法の手順
3.1 画像撮影
画像撮影には Nikon のデジタルカメラ D3100 を使用
した。画素数は 4608×3072 ピクセル(約 1400 万画素)
である。撮影は供試体の側面の図-1 に示す点線枠内
について行う。まず、載荷前(変形前)に撮影を行い、
載荷開始後(変形後)に 4.9kN ごとに載荷を停止し画
像撮影を行った。なお、CFRP 表面は一様な色であり、
画像相関の適用のため、供試体の撮影表面にはラメス
プレーによるランダム模様を付与した上で撮影を行っ
ている。
3.2 二値化
JPEG 形式で保存された撮影画像を 256 階調グレー
スケール画像に変換し、大津の方法 4)を用いて二値化
画像に変換した。グレースケール画像の輝度値ヒスト
グラム、各輝度値を閾値とした時に分けられる二つの
図-1
供試体寸法と撮影範囲(点線枠内)
平成25年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第70号
クラス間分散を計算し、それが最大となる輝度値を最
適な閾値とする方法である。変形前画像について大津
の方法により閾値を決定し、照明条件などに大きな変
化がないことから、変形後画像についても同じ閾値を
用いた。
3.3 画像相関
二値化画像において、200 ピクセル間隔で格子状に
着目点を設定する(図-2)。着目点は、CP285 では梁軸
方向 68 点、梁周方向 12 点の合計 816 点とし、CP185
では梁軸方向に 66 点、梁周方向 12 点の合計 792 点と
した。変形前画像の着目点において 128×128 ピクセル
の正方形領域を二値化画像から切り出した。一方、変
形後画像からは 256×700 ピクセルの長方形領域を切
り出した。長方形領域は、変形後画像において変位し
た着目点を含むように、変位方向に長辺を取っている。
切り出した領域の外の値を 0(黒)とし、それぞれ切
り出し画像を含む 700×700 ピクセルの画像を作成し
た(図-3)。変形前後の着目領域画像について相互相
関を求め、最大値を得る位置が変形後の着目点位置で
ある。画像相関により得られた変位量はピクセル単位
であるため、より細かく変位量を求めるために、サブ
ピクセル単位で推定を加えた 5)6)。
3.4 ひずみの算出
得られた変位量より、ひずみを求めた。格子状の、
200 ピクセル間隔の 4 つの着目点による正方形領域に
ついて、梁軸方向ひずみ、梁周方向ひずみ、せん断ひ
ずみを算出した。
3.5 破壊指標値
本供試体の破壊規準として Tsai-Wu の破壊規準を用
いた。この破壊規準は CFRP のような直交異方性の積
層板において 3 つの応力状態を考慮する式であり、材
料強度から異方性を考慮した係数を得ることができる。
式(1)に Tsai-Wu の破壊規準を示す。ここでは X を梁軸
方向、Y を梁周方向としており、式(1)の係数は材料特
性値を含む式(2)(3)により定まる。
FX  X  FY Y  FXX  X
FYY 
1
 Y T・ Y C
FXX 
1
 X T・ X C
FXY  0.5 FXX・FYY
(3)
FX,FY,FXX ,FYY,および FSS:Tsai-Wu の異方性係数、
σX:梁軸方向直応力、σY:梁周方向直応力、σXT:梁軸
方向引張強度、σYT :梁周方向引張強度、σXC :梁軸方
向圧縮強度、σYC:梁周方向圧縮強度、τXYU:面内せん
断強度、τXY:面内せん断応力、
Tsai-Wu の破壊規準では左辺の破壊指標値が右辺の
1 と等しくなったとき破壊が生じると考える。
4 載荷試験と画像解析の結果
4.1 試験結果と破壊形態
CP185-1、CP185-2 の曲げ耐力は、それぞれ 126.2kN、
127.4kN であった。損傷過程において、両方共約 100kN
を過ぎたあたりから徐々に破壊音が生じた。そして、
載荷治具端からウェブ部上半分にかけて、肉眼で確認
できるひずみを形成しながら大きな音を伴わないまま
破壊が生じた。CP285-1,2,3 の曲げ耐力は、それぞれ
103.1kN、98.2kN、100.1kN であった。損傷過程におい
て特に破壊音などはなかったが、瞬間的に上フランジ
部とウェブ部で載荷治具端から亀裂破壊が生じた。既
往の研究による CP375-1,2,3 の曲げ耐力はそれぞれ、
74.4kN、78.5kN、82.4kN であり、CP285 と同様の破壊
が生じた。
(図-5,6,7)曲げ耐力は CP185、CP285、CP375
の順に大きかった。それぞれの荷重変位曲線を以下に
示す (図-8,9,10)。
1
1000
2000
3000
3600
3035
3035
2000
2000
1000
1000
1
1
1
1000
図-2
1
200
400
600
2000
3000
3600
供試体の着目点
700
1
200
400
600
700
700
700
700
700
600
600
600
600
400
400
400
400
200
200
200
200
2
(1)
 FYY Y  2 FXY X  Y  FSSτXY  1
2
FX 
1
XT
2

1
XC
FY 
1
YT

1
XC
FSS 
1
( XY )2
(2)
U
1
11
1
図-3
図-4 CP185
図-5
CP285
200
400
600
700
1
1
200
400
600
700
変形前(左)と変形後(右)の着目領域
図-6
CP375
平成25年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第70号
4.2 画像解析結果
CP185-1,2 は 59.1kN、78.3kN と 102.8kN の荷重時に
ついて、CP285-1,2,3 は 59.1kN、78.3kN と破壊前の荷
重時について、CP375-1,2,3 は破壊前の載荷について
の画像を解析した。画像解析により、梁軸方向ひずみ、
梁周方向ひずみ、せん断ひずみ、最大せん断ひずみ、
最大及び最小主ひずみが得られたが、ここでは直交異
方性の積層板に適用できる Tsai-Wu の破壊指標値の分
布に基づき破壊メカニズムの検討を行う。CP185 と
CP285 の破壊指標値分布を図-10 のカラーバーに従い
表示し、画像白枠内の供試体表面について解析した(図
-11,12,13) 。
4.3 破壊指標値の特徴
Tsai-Wu の破壊基準で用いる応力を、供試体表面の
変位と材料特性から算出した。応力変換時に誤差が生
じたため、破壊指標値が 1 を超えたと考えられる。し
かし、結果にはせん断スパン長の違いと破壊指標値に
関係性が見られたことから、解析に大きな影響を及ぼ
さないと考えられる。
150
CP185 と CP285 に共通することとして、59.1kN 載荷
時に載荷治具端に局所的に値の上昇が見られ、 78.3kN、
約 100kN と荷重が大きくなるにつれて供試体ウェブ部
のせん断スパン中央の値が大きくなっている。CP285
における載荷治具端の破壊指標値は、 3 体とも荷重を
加えるにつれて増加するのに対し、CP185 では 59.1kN
載荷時に大きな値をとるものの、CP285 ほど荷重に伴
って増加しない。
せん断スパン長の違いに着目すると、CP375 の破壊
前荷重での破壊指標値は、載荷治具端からとウェブ部
に渡って大きな値を示すのに対し、CP185 の 102.8kN
載荷時の破壊指標値は載荷治具端で大きな値を示して
いないか、大きくてもウェブ部へと広がっていない。
CP285 においては、CP375 と CP185 の中間的な挙動を
示しているのがわかる。
実験において破壊が観察された箇所はいずれも載荷
治具端であり、 破壊指標値の載荷治具端の値は早い段
階から局所的に大きくなっていることが確認されるも
のの、耐力荷重に近づくにつれてウェブ部の値も大き
くなることから、画像解析による破壊指標値の検討で
は破壊の起点を説明することは困難であった。
荷重 (kN)
100
50
L1T1w/S-185-1
L1T1w/S-185-2
0
0
0.0
5.0変位 (mm)10.0
図-7
4.0
15.0
図-10
破壊指標値の数値と色
CP185 荷重変位曲線
150
荷重 (kN)
100
載荷治具
L1T1w/S-285-1
L1T1w/S-285-2
L1T1w/S-285-3
50
CP185-1
59.1kN
0
0.0
5.0変位 (mm)10.0
図-8
15.0
CP185-1
78.3kN
CP285 荷重変位曲線
CP185-1
150
100
荷重(kN)
102.8kN
L1T1w/S-375-1
L1T1w/S-375-2
L1T1w/S-375-3
CP185-2
59.1kN
50
CP185-2
78.3kN
0
0.0
図-9
5.0変位(mm) 10.0
CP375 荷重変位曲線
15.0
CP185-2
102.8kN
図-11
CP185 の破壊指標値
平成25年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第70号
結論
本研究では、CFRP 箱形断面梁の 4 点曲げ載荷のせ
ん断スパン長を 185mm、285mm、375mm とする条件
で、供試体表面の撮影と画像解析を行い、せん断スパ
ン長が損傷・破壊過程に及ぼす影響について検討した。
積層構成の同じ供試体を 4 点曲げ載荷試験において、
せ ん 断 ス パ ン 長 185mm(CP185) 、 285mm(CP285) 、
375mm(CP375)として行った。曲げ耐力は CP185、CP285、
CP375 の順に大きかった。
最終的な破壊は載荷治具端で発生し、上フランジの
亀裂とウェブ部の亀裂、剥離が観察された。CP185 で
はせん断による変形が見られ、CP285 では脆性的に材
料破壊がされた。
画像解析の破壊指標値の結果から、せん断スパン長
375mm では載荷治具端とウェブ部の値が共に大きく
なっていたのに対し、285mm と 185mm においては、
耐力荷重に近づくにつれてウェブ部の値が増加し、載
荷治具端の値の増加が小さくなった事が確認された。
画像解析による破壊指標値の検討では破壊の起点を
説明することは困難であったため、さらなる検討が必
要である。
5.
参考文献
1) 土木学会:FRP 橋梁‐技術とその展望‐、2004.
2) 岡松広忠:CFRP 梁の曲げ載荷試験における損傷・
破壊過程の画像解析(北海道大学工学院修士論
文,2011)
3) 松本高志、峯村貴江、真砂純一、林川俊郎:
デジタル画像相関法によるひずみ場計測と撮影条件
の検討、土木学会北海道支部論文報告集
Vol.64,A-1,2008.
4)大津展之:判別及び最小2乗基準に基づく自動しき
い値選定法、電子情報通信学会論文誌 D, Vol.J63-D,
No4, pp.349-356, 1980
5)真砂純一、松本高志、櫻庭浩樹、木戸英伍、林川俊
郎:箱型断面 CFRP 梁の曲げ載荷試験とデジタル画
像相関法によるひずみ分布計測、土木学会支部論文
報告集 Vol.66,A-2,2010.
6)松本高志、櫻庭浩樹:箱形断面 CFRP 梁の曲げ挙動
と画像解析によるひずみ計測、土木学会論文集 A2
(応用力学),Vol.67,No.2(応用力学論文集
Vol.14),pp.I_793-800,2011.
載荷治具
CP285-1
59.1kN
CP285-1
78.3kN
CP285-1
103.1kN
CP285-2
59.1kN
CP285-2
78.3kN
CP285-2
98.2kN
CP285-3
59.1kN
CP285-3
78.3kN
CP285-3
100.1kN
図―12
CP285 の破壊指標値
載荷治具
CP375-1
74.4kN
CP375-2
78.5kN
CP375-3
82.4kN
図-13
CP375 の破壊指標値