実戦トレーニング期:必修テーマ

必修テーマ
本科 / 実戦トレーニング期 / Z Study 添削問題編 /
必修テーマ/難関私立コース 物理
物理の「お約束」
見 本
学習時間
30 分
XQAR1A-Z1J1-01
到達目標
「なめらか」
,
「小物体」
,
「静かに放す」などの物理の問題で頻出の各表現について,その意味を
理解し,問題を解くための適切な考察ができるようになる。
物理のお約束 1
例題1
図 1 - 1 のように,ひとつながりのなめらかな斜面となめらか
な水平面がある。初め,水平面上の点 A に小物体 a が静止してい
る。斜面上で水平面からの高さが h の点 B で小物体 b を静かに放
したところ,小物体 b は斜面を滑り降り,時刻 t = 0 に,点 A
から距離 L だけ離れた水平面上の点 C を通過し,その後,小物
体 b は小物体 a と衝突した。重力加速度の大きさを © として,
以下の設問に答えよ。
問1 点 C を通過した瞬間の小物体 b の速さ vC を求めよ。
問2 小物体 b が小物体 a に衝突する時刻を,vC を用いて表せ。
解 答
問1 b の質量を m とし,水平面を重力による位置エネルギーの
基準とすると,力学的エネルギー保存則より
1
1
m・vC2 + m©・0 = m・02 + m©h
2
2
∴ vC = √2©h 答
お約束1−1
斜面と水平面はともになめら
かなので,b の力学的エネル
ギーは,b を放してから a と
b が衝突するまでの間,保存
される。
お約束1−3
問2 水平面はなめらかである。よって,求める時刻を T とすると,
等速度運動の式より
vCT = L
∴ T =
L
答
vC
お約束1−1
お約束1−2
a と b はいずれも小物体なの
で,点 C を通過してから a に
衝突するまでに b が移動する
距離は,CA 間の距離 L に等
しい。
解 説
問1,問2 b は斜面や水平面に沿って運動するとき,斜面や水平面から非保存力である垂直抗
力を受ける。しかし,この垂直抗力は,b の運動の向きと直交するので,b に仕事をしない。し
たがって,a に衝突するまで b の力学的エネルギーは保存され,点 C を通過してから a に衝突
するまでの b の運動は,速さ vC の等速度運動である。
XQAR1A-Z1J1-02
チェックポイント
お約束1−1: なめらか(滑らか)
,粗い(あらい)
なめらか(滑らか)は,力学の問題で目にすることが多い。その意味は,摩擦がないというもの
である。現実では,摩擦ゼロの物体(面)どうしの接触はない。しかし,摩擦によるエネルギーの
損失や減速が無視できる程度の空間的・時間的なスケールでは,摩擦がないものとして考える場合
がある。そこで,たとえばエネルギー保存等を考えさせたい問題では,
「なめらかな面」などと設
定することが多い。現実では,摩擦は接触する 2 物体の組合せで決まるが,「なめらかな面」はい
かなる物体との間にも摩擦を生じないものと考えてよい。
さらに,空気などの摩擦については,問題文でとくに断りのない限り,無視してよい。
ところで,なめらか(滑らか)とは逆の意味で,「粗い(あらい)
」という表現が用いられる。
「粗い面」は,物体と接触したときに物体との間に摩擦が生じる面である。
お約束1−2: 小物体
小物体や小球は,力学の問題で目にすることが多い。ここでいう「小」とは,大きさが無視でき
るという意味である。同じ意味の表現として,
「小さな物体」などがある。また,同様の表現とし
て,「細い棒」などの「細い」
(太さが無視できるという意味)などもある。
現実の物体は大きさをもち,その運動を考える場合は,重心の並進運動とともに重心まわりの回
転も考慮する必要がある。
たとえば,図 1 - 2 のように粗い斜面上でボールを放すと,現実には,ボール
は回転しながら斜面に沿って運動する。この場合,ボールがもっている重力によ
る位置エネルギーは,並進運動の運動エネルギー,摩擦による熱エネルギー,そ
して回転のエネルギーに転換される。
このように,現実世界の運動を解析する場合,物体の回転を考慮する必
要がある。しかし,高校物理では,大きさをもつ物体(剛体)の回転運動
を考慮しなくてもいいように,
「小物体」
,
「小球」などの表現が用いられ
る。
また,(大きさをもつ)現実の物体の場合,各物体の置かれた位置どう
しの距離と,物体間の最短距離は,等しいとは限らない(図 1 - 3 参照)
。
しかし,大きさが無視できる場合,これらは等しいとみなせる。
お約束1−3: 静かに放す
静かに放すとは,初速度ゼロで運動させるという意味である。たとえば,
図 1 - 4 が与えられ,
「なめらかな斜面上の点 A で小球を静かに放した」とい
う記述があれば,小球は,放された直後から,初速度の大きさ 0 ,加速度の
大きさ © sin i で等加速度運動する(ただし © は重力加速度の大きさ)
。