予測及び評価の結果(冷却方式の複数案)(PDF形式:593KB)

5.4
冷却方式の複数案に関する比較検討
冷却方式に関する複数案(F 案、G 案)が環境影響要因として関係する計画段階配慮事
項は、海水温と海域に生息する重要な動物及び生育する重要な植物である。
5.4.1
水質(水温)の現況
水質(水温)の調査項目、調査方法及び調査結果は「5.2.1
水質(水温)の現況」に
示すとおりである。
5.4.2
海生動物の現況
海生動物の調査項目、調査方法及び調査結果は「5.2.2
海生動物の現況」に示すとお
りである。
5.4.3
海生植物の現況
海生植物の調査項目、調査方法及び調査結果は「5.2.3
りである。
5-91
海生植物の現況」に示すとお
5.4.4
海生動物及び海生植物の予測
(1)複数案
海生動物及び海生植物への影響は、冷却方式についての複数案について予測した。
・F 案:海水冷却方式
・G 案:空気冷却方式(工業用水+冷却塔)
(2)予測項目
冷却方式の複数案についての予測項目は、水温変化による海生動物の重要な種の生息
及び注目すべき生息地、海生植物の重要な種の生育及び生育地の変化の程度とした。
予測対象範囲は、温排水の影響範囲を十分に網羅する範囲とし、予測対象種はその範
囲内に生息・生育または分布している可能性が高い重要な種である表 5-4-1 に示す 13 種
及び 2 箇所とした。
これら予測対象種の確認地点及び分布状況を図 5-4-1 に示す。
表 5-4-1
No.
類別
種
予測対象種
名
備
考
1
ヒメムツアシガニ
福岡県 RDB:情報不足
2
メナシピンノ
福岡県 RDB:準絶滅危惧
3
ナメクジウオ
水産庁 RDB:危急種
マルテンスマツムシ
環境省 RL:絶滅危惧Ⅰ類
カミスジカイコガイダマシ
環境省 RL:絶滅危惧Ⅱ類
6
サクラガイ
環境省 RL:準絶滅危惧
7
ムシロガイ
環境省 RL:準絶滅危惧
8
ヒロオビヨフバイ
環境省 RL:絶滅危惧Ⅰ類
9
アコヤガイ
水産庁 RDB:危急種
ゴマツボ
環境省 RL:絶滅危惧Ⅱ類
ヒメエガイ
環境省 RL:絶滅危惧Ⅰ類
オビクイ
環境省 RL:絶滅危惧Ⅱ類
スナメリ
福岡県 RDB:準絶滅危惧、
水産庁:希少種
アラメ場
注目すべき生育地
ガラモ場
注目すべき生育地
4
5
10
11
底生生物
付着生物
12
13
14
15
海産哺乳類
海生植物
5-92
図 5-4-1
海生生物の確認地点及び分布状況
5-93
(3)予測方法
重要な種の生息・生育環境の変化は、動物の生態への影響があるとされる 1℃の水温上
昇範囲を計算することによる手法を用いて、拡散範囲と重要な種の生息環境の分布状況
との関係により予測した。
1℃の水温上昇範囲は、発電所の計画段階における温排水影響の簡易予測手法として提
案されている「水中放水による温排水拡散範囲の簡易予測手法(片野尚明・曽我雅海・五
十嵐由雄、電力中央研究所報告、U88071、1988)」を用いて求めた。以下に、水温変化の
予測方法を示す。
1)水温の拡散予測
拡散予測範囲は、種々の流動条件下における沿岸方向への最大拡散幅 Lx と沖合への最
大到達距離 Ly で囲まれた包絡範囲と考え、水理実験を通して得られたこれら X と Y を求
めることで導く。
まず、沿岸方向拡散幅 X は(1)式に、沖合到達距離 Y は(2)式に示す。
X=195〔X A ・(1+U/V)〕 1.01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
Y=304〔X A / (1+U/V)〕 0.85 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ただし、
U
:海域流動(m/s)
V
:放流速(m/s)
1 + tanh
=
・ /
1+
・
ただし、
B
:開口幅(m)
Q
:放流量(m3 /s)
HS
:水面から放水口中心軸までの深さ(m)
HU
:水面から放水口までの深さ(m)
IX
:海底勾配
tanh
:双曲線正接
N
:放流口の本数(本)
次に、温排水は海流によって移動(シフト)するため、シフト量 ΔX を考慮する。海域
流動が U0 のとき全量シフトするものとし、近似関係 tanh(a ・ U/U0 )に比例するものとする。
したがって、シフト量 ΔX は、以下の式で求める。
ΔX=tanh(a ・ U/U 0 )・X u=max /2
ただし、a=2(実験係数)、U0 =0.3m/s(実験結果より得られた知見)
5-94
以上の計算結果を受け、1℃上昇の包絡範囲としては、以下の①∼④の 4 点を結ぶ範囲
とする(図 5-4-2)。
放水口を原点の座標:X=Y=0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・①
沖合の最大到達位置の座標:X=0、Y=Y u=0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・②
沿岸方向の最大到達位置の座標:X=(Xu=max /2)+ΔX、 Y=Y u=max ・・・・・・・・③
X=−(Xu=max /2)−ΔX 、 Y=Y u=max ・・・・・・④
そこで、沿岸方向最大拡散幅 L X は(3)式で、沖合最大到達距離 L Y は(4)式で求める。
L X=Xu=max +2ΔX・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
L Y=Y u=0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
ただし、
L X :沿岸方向最大拡散幅(m)
L Y :沖合最大到達距離(m)
△X :海域流動によるシフト量(m)
2)予測条件
水温拡散予測パラメータは、表 5-4-2 に示すとおりである。また、予測包絡範囲の作図
法(イメージ)を図 5-4-2 に示す。
なお、放流方式(鉛直位置)は決定していないが、海底への水中放流方式として計算し
た。
表 5-4-2
項目
水温拡散の予測パラメータ
単位
海水冷却方式
(F 案)
空気冷却方式
(G 案)
トレンチ
(カルバート)
パイプ
放水口形式
−
−
放流量
Q
3
m /s
5.290
0.0439
放流速
V
m/s
1.3226
0.6225
放水口までの深さ
Hu
m
1
4.7
放水口開口高
D
m
4
0.3
放水口幅
B
m
4
0.3
放水口中心軸まで
の深さ
Hs
m
3
4.85
海域流動(恒流速)
U
m/s
0.0
0.0
海底勾配
Ix
−
0
0
本数
N
本
1
1
5-95
備考
F 案:457,100 m 3 /日
G 案:3,800m 3 /日
から算出
放流深度は決まっていな
いが、海底放流として設定
海図・関門港若松
(平成 25 年 7 月)
図 5-4-2
予測包絡範囲の作図法(イメージ)
5-96
(4)予測結果
海水温が 1℃上昇する最大拡散幅と最大到達距離の予測結果は、表 5-4-3 に示すとおり
である。
海水温が 1℃上昇の拡散範囲は、F 案が沿岸方向最大拡散幅 520m、沖合最大到達距離
700m であるのに対し、G 案が沿岸方向最大拡散幅 2.8m∼17.5m、沖合最大到達距離 8.4m∼
39.1m の範囲と小さい。
このように、海水冷却方式の F 案は拡散範囲が面積約 29.2 万 m 2 と、空気冷却方式の G
案よりも約 12,000 倍大きく 注 )、事業実施想定区域の周辺海域において、生息が確認され
た重要な底生生物 8 種、付着生物 4 種及び海産哺乳類 1 種の生息環境への影響も大きい
と考えられる。一方、G 案の 1℃上昇の拡散幅と到達距離はそれぞれ 20m 未満、40m 未満
と小さく、海生生物への影響も小さいと考えられる。
また、注目すべき生育地であるアラメ場とガラモ場については、放流点から約 2km 以上
離れており、いずれの案も温排水の影響は及ぶものではない。
表 5-4-3
1℃上昇による最大拡散幅と最大到達距離の予測結果
冷却方式の複数案
海水冷却方式
(F 案)
空気冷却方式
(G 案)
沿岸方向最大拡散幅
沖合最大到達距離
Lx(m)
Ly(m)
0m
520
700
-1m
−
−
-2m
−
−
-3m
−
−
-4m
−
−
-0m
2.8
8.4
-1m
3.6
10.2
-2m
4.8
13.1
-3m
7.5
19.0
-4m
17.5
39.1
水深
注)放流方式(鉛直位置)は決定していないが、海底への水中放流方式として
計算した。
図 5-4-3
予測した水深の位置関係と温排水の放流イメージ(F 案)
注) 拡散面積は{(沿岸方向最大拡散幅 Lx+沖合最大到達距離 Ly)÷4} 2 ×3.14 で算出した。
5-97
注)放流方式(鉛直位置)は決定していないが、海底への水中放流方式として
計算した。
図 5-4-4
5.4.5
予測した水深の位置関係と温排水の放流イメージ(G 案)
海生動物及び海生植物の評価
冷却方式の違いによる 1℃上昇の拡散範囲の比較を表 5-4-4 に示す。これによると、1℃
上昇の拡散範囲は、F 案が沿岸方向最大拡散幅 520m、沖合最大到達距離 700m であるのに
対し、G 案は沿岸方向最大拡散幅 2.8m∼17.5m、沖合最大到達距離 8.4m∼39.1m と小さい。
同じ表層の 1℃上層拡散範囲の面積を比較すると、海水冷却方式の F 案は約 12,000 倍と
大きく、水環境(水温)、海生動物及び海生植物への影響も懸念される。
したがって、海水冷却方式 F 案と空気冷却方式 G 案を比較すると、G 案の方が影響を低
減できると評価される。
表 5-4-4
項
冷却方式の影響に関する評価結果
海水冷却方式
(F 案)
空気冷却方式
(G 案)
最大拡散幅
520m
2.8m∼17.5m
最大到達距離
700m
8.4m∼39.1m
▲
⃝
目
1℃上昇範囲
(m)
重要な種への影響の程度
備考)⃝:別案に比べて影響は低減される。
▲:別案に比べて影響は大きい。
5-98