アンモニウムチタニルサルフエートについて 滝 貞 男 Ammonium Titanyl sulfate SadaoTaki The rate of crystallization of ammonium titanyl sulfate depended on the concentration of t’ hydr・・h1・ri・a・id・・d t・mp・・ature.1・f・a−red・p・・tra・f m・n・hyd・at・, dihyd。ate and th。i, d・hyd「at・d・nes we・e investig・ted・The stru・ture・f amm・ni・m tit・nyl sulfate was discussed. 1 緒 言 ’ 硫安溶液を加えるとただちに結晶が析出して泥状のろ 過困難な微畑結晶になつたり、逆に非常に高い過飽和 チタニウム塩類は一般に加水分解を受け易く、不溶 状態にあるにかかわらず数日たつても僅か結晶が析出 性の塩が多くその合成が困難である。硫酸塩の如きは するにすぎないことがある。晶出に関し検討した結 その種類多く、実験条件のわずかな差により異つた結 果、晶出速度が塩酸濃度および温度に影響されること 晶形態の化合物となり、また普通酸化チタソから出発 を見出した。 して合成されるので長時間を要し、途中で難溶性化合 実 験方 法 物に移行して合成に失敗することもまれではない。反 水を加えた四塩化チタソ(Tio2として34.1%,Cl 応は多く加熱下で行われるので加水分解を防ぐため として36・4%のTiおよびC1を含む)209に当量の に、また酸化チタソの溶解に大過剰の酸を必要とする 濃硫酸を加える。HCI含有量の異なつた溶液を作る ために研究はおおむね高温で酸濃度の高い条件下で析 ため、これをそのまま、あるいは100,80および60 出する結晶について行われることになる。 °Cの各温度に5時間加熱して後、所走温度の。恒温槽 著者らの提唱したアソモニウムチタニルサルフエー に入れる。定温になつたら同温度の当量の硫安(濃度 は10°C飽和水溶液)を加えよく混合する。たえずふ ト合成法1・2)によればきわめて容易に結晶性のよいチ タニウム塩を、高純度、高攻率に得ることができる。 りまぜながら混合後液に白濁が認められた時閲および かつ、アソモニウムチタニルサルフエートはかなり大 結晶が析出して全体が固まり晶出完了とみなされるに きな溶解度をもつている。この化合物については著者 要した時間を測定した。硫安溶液を混合した際、混合 がルチル単結晶の製造原料として適していることを明 液の一部を採取してClの分析を行つた。 らかにし3),それに関連して研究を進めたにとどまり 実験結果および考察 その性状にはなお不明の点が多い。その後得られた結 結果を第1表に示す。この種の実験は各種の条件に 果およびこれまでに得られた結果に基づき結晶構造の 左右されてばらつきの多い結果となり易いが、本実験 推察を行つた結果について報告する。アソモニウムチ では比較的再現性もよく系統的な結果を得ることがで タニルサルフエートには一水塩と二水塩が存在するが きた。しかし、塩酸濃度のもつとも高い場合には例外 以FこれをそれぞれATS・1およびATS・llと略記 的に混合と同時に結晶が析出したり、逆に晶出が非常 する。 に長時間にわたり観察を中止したこともあつた。 塩酸濃度が高い場合あるいは温度が高い場合には一 2 アンモニウムチタニルサルフエート 水塩が析出しており、同一形態の結晶では晶出完了時 晶出速度と瞳酸濃度および温度との関係 間は塩酸濃度が低いほど、また温度が高いほど小さく 水を加えた粘い油状の四塩化チタソに濃硫酸を加え なつている。すなわち、晶出速度は塩酸濃度が低いほ ると盛んに発泡して塩化水素を発生する。しばらくし ど、温度が高いほど大きい。実験範囲では塩酸濃度が て硫安飽和溶液を加えてかきまぜると透明な液体とな 高くなれば溶解度は減少するので過飽和度が大きくな り、ATSが徐徐に析出し、毬には釜体が固つてしま り晶出し易いはずであるのに、実験結果ぱこの逆で塩 う。ところが、濃厚な溶液から結晶を析出させるので 酸が晶出を妨げていることになる。 43 山梨大学工学部研究報告 昭和33年6月 N ているが・得輪た結晶は温度が高いほど大きく・成 長速慶が高温ほど1だきいこどに起因しているのは当然 Table 1.,Crystall ization of ammonium titany・1 sulfate. 竃器簾鞠結晶形 20 30 のことである。(非常に高い過飽和状態からの晶当で 温度による過飽和度の変化は無視できる。) 2.351 ATS.皿 0 25 10 27 3.94 ATS.H 10 30 5.25 ATS・ll 2 15 2.60 10 20 3.97 10 22 4.95 ATS・H ATS・H ATS・H 10 2S l 5.15、 ATS・ll 20「450 U.56 ATS・1 2 アンモニウムチタニルサルフエートの 赤外吸牧スペクトル 赤外線分光光度計によるATSのNaCl領域におけ る吸牧スペクトルを第1図に示す。試料はNujolぺ _スrとした。ATSの合成は既報の方法1溜)に従い・ 吸引ろ過後アルコールで洗いζその臭のなくなるまで 風乾した。脱水試料は、ATS・1を2200Cに加熱し て無水物となし、ATS・11では150および220°Cに 1 3‘ 11 2.68iATS・ll t微量ATS・1 …4.。dATS.L少量ATS.、 5‘ 18 40 20170 12・…・4・ 一水塩の水および二水塩の低温で腕水する水はプロF ソの核磁気共鳴吸牧によれば結晶格子の中に固定され 35 12.7ii ATS.1 4。|3.6。l ATS.1 分子を脱水すると12.4uの吸牧が消失し・9∼10μの 8 65 5.72 3 10 水物の吸政スペクトルはそれぞれ全く同一一一一であつた。 ATS・I ATS・I ATS・I ATS・1 40 180 10.29 3 ATS・1とその無水物、 ATS・llとその一一.fi子脱 i12・261 ATS’1 5 45 2・74 60 加熱してそれぞれ・分子腕水物および無水物を得た。 i5.02 ATS.1,少量ATS・ll 10 , 50 3.92 50 第 9 号 ておらず全くfreeな状態にあり4)、 X線的にも腕水に よる変化は認められない。ところが二水塩の残りの一・ 吸牧に変化が生ずる。この原因を明らかにするために 吸牧帯の帰属を試みた.これまでに多くの化合物の吸 6015.43・ATS・1 政スペクトルが観察されているのでそれらを参照して 結晶の晶出速度は結晶核の肇生速度と核からの成長 行つた。複雑な構造の化合物であり吸政帯が相互に重 速度との和として與えられるが、何れがどの程度に塩 なつて厳密を欠く点もあるがほぼ妥当と思われる。次 酸濃度の影響を受けているかはわからない。白濁時間 にその結果を列記する。(単位はμ) の長い場合には結晶析出完It時聞も長くなつている。 ATS・I 白濁が認められるのは多数の核が発生し、それがある v(N−H)・3.10,3・23 δ(N−H)・6・08・7・07 程度の大きさに成長した状態であるので、これだけで 速断できないが、下記の事実からすれば核発生速度の J・ iS==O) :8.05,8・67,8・86, v(S−−0) :10∼10・6 δ(S=・O):]5付近 v(Ti−0):9・28・9・44・9・73 目安になると思われる。硫酸を加えた四塩化チタソを ATS・1[ 100°Cで加熱、して、できるだけ塩化水素を追い旦}し、 y(N−H):3.10,3.23 δ(N−H):6・09・7 濃塩酸を添加した硫安溶液を加えて所定の塩酸濃度に v(S=0) :8・08,8.70,8・84 〃(S−O) :10∼10・7 した実験では、混合と同時に白濁する。このことから δ(S=0):15付近 v(Ti−0):9・29・9・44・9・81 四塩化チタソと硫酸の混合物中の塩酸により核発生が ATS・II無水物 妨げられることは明らかである。四塩化チタソに硫酸 lt を加えたものは非常に粘く、生売物が如何なるものか iN−H):3.16,3.25,4・27 δ(N−H):6・11,7・10 v(S==0) :8.14,8.80 〃(S−O) :10・3 不明であるが、TiとClとの結合が相当残つていて、 δ(S ==・ O) :ユ5.O v(Ti−0):9・66 ただちに硫安と反応してATSになり得ない状態にあ り、塩化水素を追い出すにつれてC1との結合がなく 金属錯塩の赤外吸牧に関する研究によれば、水分子 なつてATSを生成し易い状態になるものと思われ が金属に配位し、かつ強い水素結合が存在する場合に る。 は700∼10凹cm−1に吸牧帯が存在する5)。12.4uの吸 得られた結晶の大きさは塩酸濃度が高いほど小さい 牧帯はATS・llの高温で脱水する水分子による’もの 傾向にあり、結晶の成長速度も塩酸により妨げられる で、上記の状熊に相当するとも考えられる。しかるに ものと思われる。温度が高いと晶出速度が大きくなつ プロ1・ソの核磁気共鳴吸政によれば4)、この水分子の 44 アソモニウムチタニルサルフエートについて !00 90 60 タo ATS・1 20 o /ee ͡80 言6。 ㍉ 這。 1ρθ 80 6e ATぷ1伽勺W血 亭o 20 2 午 6 8 to 〆晒ム〆(i’“) t2 /チ 0 Fig.1. Infra−re d spectra of ammonium titanyl sulfate. Hは振動しているか、 あるいはひつか\り乍ら廻転 もATS・1に転移することなく、無水物においても していて、水素結合の存在を考えることは無理であ 一水塩と異つた構造で、さらに別な過程をへて脱硫安 る。H20型の基のRockingによる吸牧がこの付近に することは興味あることである。 現れることはよく知られており、脱水により12・4μの ATSを溶解する場・合、二水塩はふつう取扱う可溶 吸牧帯が消失し、かつTi−0結合の伸縮振動による 吸牧が変化することと核磁気共鳴吸牧の結果を合せ考 性塩と同じ程度に室温で速やかに溶解するに反し、一 えると、水がTiに配位しRockingの状態にあると として得られる。そこで一水塩では一Ti−O−Ti−O 水塩はきわめて溶解速度が遅い。また一水塩は針状晶 結論できる。したがつて、ATS・1およびATS・1[[ 一の長い鎖状構造が考えられる。−Ti−O−Ti−0一 はそれぞれ(NH,)2〔Tio(SO4)2〕H20および(NH4)2・ のchainはTiOSO4.H20にみられるが、この場合 SO4は全部一個のTiのみに配位せず他のchainの 〔Tio(SO4)2H2 0〕H,Oと記すのが適当である。 Tiにも配位していてchainを相互に結びつけている 3 アンモニウムチタニルサルフエート 形になつているe)。これがこの化合物が長時間加熱し の結晶構造 てようやく酸に溶解する原因になつているのであろ う。したがつて、ATS・1では SO4 SO4 ATSの構造は複雑で明らかにすることは容易でな いが、これまでの研究結果より若干の推察を行つてみ 1i ll たい。一水塩と二水塩はX線廻折、溶解度、熱分解、 −O−Ti−0−Ti− その他の物理性においても全く異つた挙動を示し、異 SO4 SO4 つた構造を考えねばならない。ATS・[[1を脱水して の如き構造、あるいは一部のSO4が架橋構造をとつ・ ll ll 45 昭和33年6月 山梨大学工学部研究報告 ている構造をしていて、 その間にNH4+が位置し、 た。 第 9 号 さらに水分子が自由に出入できる程度の隙間にH20 ATSおよびその腕水物の赤外吸牧スペクトルを観 が入つていると思われる。 察し、その吸牧帯の帰属を行い、二水塩の高温で脱水 ATS・Hでは結晶状態からして一Ti−O−Ti−O する水はTiに配位していることを結論した。 一の鎖状構造は考えられない。塩酸中でSO4とClと これまでに得た結果よりATSの結晶構造に関し若 の交換がATS・1より起り難いことおよび一水塩よ り低温で硫安が逸出し始めることなどから、Tiに0 終りに、赤外吸牧スペク{トルの帰属に関して有益な と一分子のH20とが配位し、かかるTiとTiの間 助言を頂いた畏友、大阪市立工業研究所、村田弘博士 を二個のSO4が結びつけて少数個連つた構造が妥当 に謝意を表する。 干の考察を加えた。 と思われる。この骨格の間にNH4+が位置し、更に 大きな隙間に残りの一分子のH20が入つているので 文 あろう。 献 1)滝、国富、工化57,534(1954) なお、ATSの熱分解の際に、一水塩ではTiOSO4 2)滝、工化59,1288(1956) と(NH 4)2SO4の比が4:1、二水塩では4:3.2:1 3)滝、工化59,ユ289(1956) および4:1の組成の化合物をへてTiOSO4になる7) 4)S.Taki, Naturwiss.45,10(1958) ことは結晶構造を決定する上に考慮すべきことであ 5)藤田、中本、小林、{譜塩化学討論会 る。 1956年10月 6)G.Lundgren, Arkiv f6r Kemi 10,397 4 線 括 (1956) ATSの晶出速度を検討し、塩酸濃度が高いほど、 7)滝、人:1:鉱物討論会、1957年11月 また温度が低いほど速度が小さいことを明らかにし 46
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