論文要旨・審査の要旨

学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
論
文
題
目
駒﨑
主
査
江石
義信
副
査
上阪
等、東條
義利
尚子
Serodiagnosis of Mycobacterium avium complex pulmonary disease in
rheumatoid arthritis
(論文内容の要旨)
<要旨>
glycopeptidolipid (GPL)は Mycobacterium avium complex (MAC)の細胞壁構造の一部であり、
Mycobacterium tuberculosis や Mycobacterium kansasii には認められない。近年この GPL に
対する IgA 抗体(抗 GPL 抗体)を用いて肺結核やその他画像上肺 MAC 症と類似する疾患と比較し
たところ肺 MAC 症で血清抗 GPL 抗体価の有意な上昇が報告され、本抗体の肺 MAC 症診断にお
ける有用性が示されている。一方、肺 MAC 症の胸部画像所見はしばしば関節リウマチ(RA)に関
連した肺病変と類似し鑑別に苦慮する。抗 GPL 抗体価を ELISA 法で測定した結果、肺 MAC 症
合併 RA 患者(RA w/ MAC)の抗 GPL 抗体価は、肺 MAC 症非合併 RA 患者(RA w/o MAC)、肺病
変のない RA 患者(RA only)や健常者(HV)と比較して有意な上昇を示した。RA w/ MAC(疾患群)
と RA w/o MAC(非疾患群)に対して receiver operating characteristic (ROC)曲線を作成し、cutoff
値を 0.7U/ml としたところ感度 100%、特異度 90%であり、血清抗 GPL 抗体が RA 肺病変と MAC
肺病変を鑑別するのに有用であることを確認した。RA w/ MAC の画像上の病変範囲と抗 GPL 抗
体価は相関が認められず、評価した病変には RA 肺病変が含まれており病変範囲を過大評価して
いる可能性が示唆された。
<背景>
非結核性抗酸菌症は近年罹患率が増えてきているとの報告が散見される。日本においては非結
核性抗酸菌症の 7 割が Mycobacterium avium complex (MAC)によるものと診断されている。MAC
は免疫不全の人だけでなく、免疫正常な人に対しても慢性、進行性の肺疾患の原因となる。関節
リウマチ(RA)患者では胸部 CT 上、しばしば気管支や肺に病変を認め鑑別が必要となる。RA 患者
において有症状の気管支拡張症の合併は 1-3%であるが、HRCT で検討するとその 30%程度に気
管支拡張を認めるという報告もある。RA に関連した濾胞性気管支炎や気管支拡張症の画像所見
は肺 MAC 症でも類似する所見であり、画像的に肺 MAC 症と鑑別するのは非常に困難である。
TNF-α 阻害薬はマクロファージ等の炎症細胞において抗炎症効果を発揮することで RA の治療薬
として用いられる。一方で細胞内寄生菌の非結核性抗酸菌による感染症は TNF-α 阻害薬使用中に
増悪することが知られており、TNF-α 阻害薬の使用開始時に検討を要する非常に重要な問題であ
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る。この論文では血清抗 glicopeptidolipid(GPL)抗体が肺 MAC 症と RA に関連した濾胞性気管支
炎や気管支拡張症を鑑別するのに有用であることを確認した。
<方法>
肺 MAC 症合併 RA 群(RA w/ MAC)14 例、胸部画像所見のある肺 MAC 症非合併 RA 群(RA w/o
MAC)20 例、胸部画像所見のない RA 群(RA only)20 例、健常者群(HV)25 例の血清サンプルを使用
した。各群の criteria は、RA 患者をまず胸部異常陰影の有無によって 2 群に分け、陰影無しは RA
only 群に振り分けた。陰影有りは胸部陰影が肺 MAC 症として妥当な症例についてさらに 2 群に
分けた。喀痰や気管支洗浄液から MAC が検出された症例を RA w/ MAC 群、MAC が検出されな
かった症例を RA w/o MAC 群へ振り分けた。肺 MAC 症の criteria は米国胸部学会の criteria に準
拠し、RA w/ MAC 群と RA w/o MAC 群の全症例には胸部 CT を施行し肺 MAC 症として矛盾しな
い胸部所見を確認した。血清は ELISA 法にて抗 GPL 抗体を測定した。ELISA 法に影響を与える
とされる rheumatoid facter(RF)は今回使用した RA 全症例で 500 IU/ml 以下であり ELISA 法に影響
を与えるほど高い数値の症例はいなかった。
肺 MAC 症は画像的に空洞型(FC)、結節気管支拡張型(NBE)と分類不能の 3 型に分類した。また
病変範囲については Moore の定義にしたがい肺を計 10 区画に分け病変が存在する区画数とした。
CT 所見については呼吸器科医師 2 名と放射線科医師 1 名によって評価した。
<結果>
RA w/ MAC 群、RA w/o MAC どちらも NBE 型が高い割合を占め、RA w/ MAC 群は他群と比較
して有意に高い抗 GPL 抗体価を示した。RA w/ MAC 群(疾患群)と RA w/o MAC 群(非疾患群)につ
いて receiver operating characteristic (ROC)曲線を作成したところ area under the curve (AUC)は 0.95、
最良カットオフ値は 0.7U/ml であった。カットオフ値を 0.7U/ml とした場合、感度 90%、特異度
100%となった。RA w/ MAC 群 14 例について治療内容によって 3 群に分類した。すなわち標準 3
剤、単剤、無治療の 3 群であり、抗 GPL 抗体価は各群間で有意差を認めなかった。RA w/ MAC
群について抗 GPL 抗体価と病変範囲については明らかな相関関係を認めなかった。
<考察>
RA 患者の 30%に CT 上肺内病変を認めたという報告がある一方で RA 患者における非結核性抗
酸菌症の頻度は報告がない。肺 MAC 症と RA に関連した濾胞性気管支炎や気管支拡張症の鑑別
は画像所見からは難しいが、今回の研究で用いた抗 GPL 抗体は鑑別に有用であることがわかっ
た。抗 GPL 抗体を使った肺 MAC 症と画像上肺 MAC 症と類似する疾患とを比較した報告では感
度 84.3-87.9%、特異度 94.2-100%であり、今回の研究でも同様な結果のため RA 患者に対しても抗
GPL 抗体は肺 MAC 症診断に有用であると考えられた。RA 患者 54 例のうち 14 例がプレドニゾロ
ンを内服し、34 例がメトトレキサートを使用していた。ほとんどの RA 患者が複数の RA 治療薬
を使用していたが RA w/o MAC 群においてプレドニゾロン使用が有意に多かった。RA w/ MAC
群、RA w/o MAC 群のどちらの群でもプレドニゾロン使用例と非使用例の抗 GPL 抗体価には有意
差を認めなかった。肺 MAC 症治療前後の抗 GPL 抗体価は治療成功群と治療失敗群との比較で治
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療成功群では抗 GPL 抗体価が有意に低下したとの報告がある。今回の研究では後向き研究という
こともあり採血のタイミングが各症例でばらつきがあったことや治療内容にばらつきがあったた
めに治療前後の抗 GPL 抗体価の変化をみることはできなかった。そのため治療内容により抗 GPL
抗体価を比較した。肺 MAC 症の病変範囲と抗 GPL 抗体価は相関関係を認めたとする報告がある。
しかしながら今回の研究では相関関係を確認することができなかった。この理由として病変には
一部 RA による病変が含まれ肺 MAC 症病変を過大評価している可能性が考えられた。
<結論>
血清抗 GPL 抗体は RA における肺 MAC 症診断に有用である。
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論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号 甲 第
論文審査担当者
駒﨑
4 6 1 4 号
主
査
江石
義信
副
査
上阪
等、東條
義利
尚子
(論文審査の要旨)
glycopeptidolipid (GPL)は Mycobacterium avium complex (MAC)の細胞壁構造の一部であ
り、Mycobacterium tuberculosis や Mycobacterium kansasii には認められないことから。近年
この GPL に対する IgA 抗体価(抗 GPL 抗体価)の測定が肺 MAC 症の診断に利用されつつある。
他方、関節リウマチ(RA)患者ではしばしば肺 MAC 症を合併し、画像診断上 RA 固有の肺病変
と区別が付きにくい場合がある。そこで申請者らは、RA 患者を対象に抗 GPL 抗体の測定が合併
する肺 MAC 症の診断に有用か否かを検討した。研究では、肺 MAC 症を合併した RA 患者 14 例、
胸部画像所見を有するが肺 MAC 症を合併していない RA 患者 20 例、胸部画像所見のない RA 患
者 20 例、健常者 20 例を対象に、ELISA 法を用いて血清中の抗 GPL 抗体を測定した。その結果、
肺 MAC 症を合併した RA 患者は肺 MAC 症を合併しない他群と比較して有意に高い抗 GPL 抗体
価が検出された。免疫系に異常があり、かつ免疫修飾治療を受けている RA 患者を対象に抗 GPL
抗体を測定した報告はこれまでになく、治療中の RA 患者においても抗 GPL 抗体価測定が肺 MAC
症の診断補助に有用であることを明らかにした有用な臨床研究であると評価した。
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