孔あき鋼板を活用した風力発電タワー基礎接合部の検討 田中勇志 1. 目的・背景 本研究では,風力発電タワーと基礎の新しい接合形式の 提案を行うことを目的とする.現状標準的な形式は,アンカ ーボルト方式である.アンカーボルト方式は,施工性には優 れているが,ベースプレートに斜め方向ひび割れのコーン状 破壊が起こり,タワーが基礎材から抜け出す可能性も指摘さ れている.従って,本研究では,鋼製タワーとコンクリート 基礎の新たな接合形式として,孔あき鋼板による基礎の設計 図 1 海ノ中道 を行った. 2. 設計荷重の算出 新しい接合形式の風車を設計するため,福岡県福岡市海ノ 中道を対象とし,寸法や発電規模を具体的に風車の想定設計 を行う(図 1).タワーの高さ,及びナセルは,日本大学,郡山 の風車を参照した.また,設計荷重は,日本大学の風車に作用 する速度圧の比率(補正係数)によって算出した(表 1). 図 2 基礎の寸法 2.1 設計荷重の決定 風車の設計荷重を算出するにあたって,長期荷重と短期荷 重を設定する必要がある.長期荷重は,風荷重と固定荷重か ら求めることができ,短期荷重は,風荷重と固定荷重に加え て,地震荷重を考慮することで求めることができる.暴風時 においては,固定荷重と暴風時の風荷重から算出する.日本 大学の風車に作用する設計荷重に表 1 の補正係数を掛けた値 を表 2 に示す. 図 3 標準配筋図 3. 基礎の検討 表 1 補正係数 基礎の寸法を,図 2 に示す.必要鉄筋量を決め,配筋し た.単位幅当たりの鉄筋量に安全率を掛けると,基礎筋 As=10.74 cm2,はかま筋 A’s=5.37 cm2 となった.従って, 風速 長期 短期 日大(m/s) 11 25 60 本研究(m/s) 11 25 34 たりの鉄筋量は次式となり,必要鉄筋量を満足した.構造 計算より得られた標準配筋図を図 3 に示す. 2.865cm2 × 100cm⁄25cm /本 = 11.46cm2 > 𝐴𝑠 = 10.74cm2 { 2.865cm2 × 100cm⁄50cm /本 = 5.73cm2 > 𝐴𝑠 = 5.37cm2 本研究の対象地 補正係数α qy/qn qy(N/m2) 146 752 1083 190.26 982.5 1818 1.303 1.307 1.679 表 2 設計荷重 引張鉄筋断面積 As は D19 を 25cm ピッチで配筋,圧縮鉄 筋断面積 A’s は D19 を 50cm ピッチで配筋すると,1m 当 日大速度圧 qn (N/m2) 参照した風車 (郡山市) 本研究の 風車 定格運転時 カットアウト時 暴風時 短期 地震 定格運転時 長期 カットアウト時 暴風時 短期 地震 長期 風速 11m/s 25m/s 45~60m/s ― 11m/s 25m/s 34m/s ― N(kN) 175.5 175.5 175.5 175.5 175.5 175.5 175.5 175.5 Q(kN) M(kNm) 13.1 239.7 19.8 268.1 1.5 47.0 146.2 2339.5 17.1 312.4 25.9 350.4 2.5 78.9 160.9 2459.4 4.接合部形式の比較 新しい接合部の形式として孔あき鋼板(PBL)を使用した接合部の形 式(以下,PBL 方式とする)を検討した.従来のアンカーボルト方式と PBL 方式の引張力を算出し,比較する. 4.1 アンカーボルト方式 比較対象とした日本大学の風車基礎ではアンカーボルトが,30 本 使用されている(図 4).この基礎に,本研究計画地での風車設計荷重 を入力すると,合計引張耐力 Ttotal は,1280.9kN となった. 図 4 アンカーボルト方式 4.2 PBL 方式 表 3 引張耐力 孔あき鋼板は,板厚 t=12mm,孔径 d=80mm の鋼板を使用 Ti (kN) T1 122.5 T2 120.2 T3 113.2 T4 101.9 T5 86.6 T6 68.1 T7 46.9 T8 23.9 する.孔は,32 個として耐力を算出する.γbは部材係数(=1.0), fcd’はコンクリートの設計圧縮強度(=21N/mm2).孔一個当た りの設計せん断耐力 Qa は下記による. 4.31A − 39.0 × 103 (1) 𝑄𝑎 = 𝛾𝑏 1⁄ 2 𝜋𝑑 2 𝑡 A= ( ) 4 𝑑 ′ 𝑓𝑐𝑑 (2) 図 5 PBL 方式 式 (1), 式 (2) よ り , 孔 一 個 当 た り の 設 計 せ ん 断 耐 力 Qa=137.2kN となる.孔一個当たりのせん断力がこの値以下となれば 良い.タワーの底を半円とし(図 4),引張耐力を算出すると,表 3 よ り,Qa>Ti となり,条件を満足する.また,孔 32 個の合計引張耐力 Ttotal は. 1366.3kN となった. 上記の結果から孔径を 80mm にすると, 貫通鉄筋を用いずとも,必要な耐力を得ることができる.基礎概要 図を図 5 に示す. 図 6 基礎概要図 5.模型作製 縮尺鉄筋を用いて模型作製を行った. 寸法は,縮尺 1/24 とした. 完成図を写真 1 に示す.また,従来のアンカーボルト方式と本研究で 提案した PBL 方式について,施工性の比較を行った.その結果,PBL 方式の方が,基礎の配筋後,基礎接合部にタワーを設置するだけとな り,施工が容易となった. 6. 結論 写真 1 模型完成図 ベースプレートに斜め方向ひび割れのコーン状破壊,タワーが基礎材から抜け出すなどといった従来のアン カーボルト方式の懸念点を克服するため,PBL 方式を用いた接合部の設計を行った.また,本研究の条件の もとでは,PBL に貫通鉄筋を必要としないため,施工性に関してもアンカーボルト方式に比べると優れている ことを確認した. 参考文献 1) 国土交通省:国土地盤情報検索サイト「Kunijiban」 ,www.kunijiban.pwri.go.jp/ 2) 荒井秀樹:構造計算書,日本大学工学部環境保全・共生共同研究センター風車設置工事,2002 3) 土木学会:風力発電設備支持物構造設計指針・同解説,2010 4) 土木学会:複合構造標準示方書 64-67,2009
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