民間エンジン MRO ビジネス - 公益財団法人 航空機国際共同開発促進

(公財)航空機国際共同開発促進基金 【解説概要 25-6】
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民間エンジン MRO ビジネス
1.初めに
民間エンジンの MRO(Maintenance, Repair and Overhaul )ビジネスは従来のエアラ
イ ン や 専 門 整 備 工 場 で の エ ン ジ ン 整 備 だ け で な く 、 OEM ( Original Equipment
Manufacturer)による囲い込みや、オプションと言われている他のサービス提供がおこな
われるなど近年は広がりを見せている。本稿では、民間エンジンの MRO ビジネスについて
歴史・現状を俯瞰したうえで、今後の展望につき触れていきたい。
2.市場の規模
今後の民間航空機の市場規模は、20 年後には 2 倍近くになるとの需要予測が出されてい
る(図1参照)
。アジアを中心とした航空輸送の需要拡大を背景としたもので、エンジンビ
ジネスは MRO を含めて現状より大きく拡大することになる。
民間エンジン MRO 市場もエンジンの信頼性向上による ON-WING LIFE(機体からエ
ンジンを整備のため取下ろすまでの期間)の延長や ETOPS 機注1の導入(例えば、機体あ
たりのエンジンは 4 台から 2 台へ減少する)による 1 機あたりのエンジン台数の減少の傾
向もあるが、中型機(120 席~169 席)の大幅な市場拡大などにより、今後も成長が見込ま
れている。 市場規模についてはエアライン整備工場や OEM 整備工場での統計が取りづら
く正確な統計数値ではないが、おおよその現在の市場規模は年間あたり約 2 兆円と見込ま
れており、これらは今後 10 年で倍増するのではと見込まれている。
注1:双発機が洋上飛行をする際に課せられる飛行安全上の義務として、緊急時にエンジン1基
のみで飛行する場合の制限時間(120 分や 180 分)目標を満たした航空機。
図1 民間航空機に関する需要予測1)
1
3.歴史
1)
総論
民間エンジン MRO ビジネスのプレイヤーは、エアラインの整備工場、整備専門会社、
OEM の整備工場であり、市場環境や OEM の戦略の変化もあり、シェアーに変遷が見られ
る。大まかに(イメージ的に)纏めてみると以下のようになってくる。
(図2参照)
図2 市場占有率の経年変化 概念図
各年代の特徴を以下に纏めてみる。
2)
~1980 年代
新製エンジン販売の手段のひとつとして、エンジンを購入したエアラインやエンジン販
売を拡大するために地域毎のメンテナンスセンターとしての役割を果たす会社へ、OEM よ
り整備ライセンスが比較的簡単に付与され、エンジン整備はこれらの会社がおこなってい
た。OEM はスペアー部品販売を柱としたビジネスモデルを維持し、資金力や技術力を持つ
大手エアラインが自社機搭載のエンジンを整備する自社工場を持つことが多かった。
3)
~1990 年代
OEM がライフサイクルでのサービス提供をおこなうようになり、ビジネスモデルの変
容・拡大が打ち出されてきた。OEM がエンジン整備工場のネットワークを立ち上げるとと
もに、部品の修理技術開発にも取組むようになってきた。中型機の市場も広がり始め、エ
アラインが自社でエンジン整備工場を持たず、その整備を外注する割合も増えてきた。
4)
~2000 年代
OEM はライフサイクルビジネスによる囲い込みをより強固なものにするために、エンジ
ン販売時にメンテナンスもパッケージで提供するビジネスモデルを展開する場合も出てき
た。PBTH(Power By The Hour ),FHA( Flight Hourly Agreement ), TotalCare などの名称
で呼ばれるもので、飛行時間当たりの整備費用単価を決めて、飛行時間に応じて整備費用
を積み立てていく方式である。また、整備費用低減のために、中古部品や PMA (Parts
Manufacture Approvals)と言われる NON-OEM 部品が注目されるようになってきた。
OEM のシェアーの増加の要因として旅客運送に専念する LLC(Low Cost Carrier)の台頭も
見られるようになってきた。
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4.現状
OEM によるライフサイクルビジネスモデルはさらに進められ、エンジンタイプによって
は市場の 70%を OEM が確保するケースも出てきている。以下に主な OEM、
整備専門会社、
エアライン系列の整備会社を紹介する
1)OEM / RR ( Rolls-Royce)
TotalCare のブランド名でエンジン販売時にライフサイクルサポートをセットで販売し
ている。大手エアラインとは J/V(Joint Venture)工場を設立して、囲い込みをおこなってい
る。以下は米国アメリカン航空とのエンジン整備に関する J/V の説明である(図3参照)。
図3 RR 社のアメリカン航空とのエンジン整備に関する J/V2)
2)OEM / PW ( Pratt & Whitney )
OEM のエンジン整備工場を米国外にも設立し、囲い込みを図っている。米国の工場には
技術やノウハウを蓄積するマザープラント機能を持たせ、アジア(シンガポール・トルコ
など)で顧客の近くに整備拠点を作り、囲い込みを加速する戦略である。また、部品修理
工場も同様に米国以外にも設立して、囲い込みを進めている(図4参照)
。
PW ホームページより(http://www.pw.utc.com/Capabilities)
図4 PW 社のエンジン整備工場と取り扱っているエンジン型式3)
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3)OEM / GE ( General Electric )
大型エンジン(GE90/CF6)
、中型エンジン(CFM56 シリーズ)、小型エンジン(CF34
シリーズ)ごとに、自社の整備拠点や提携(ライセンス先)整備会社のネットワーク拠点
を構築し、囲い込みを図っている。部品修理もタービン部分の修理提供など高付加価値が
見込まれる分野での囲い込みを続けている。以下の GE ホームページに世界規模の MRO ネ
ットワークが見られる。http://www.geaviation.com/services/mro-network/
4)独立系 / MTU Aero Engines
自社が開発・生産に関わったエンジン(V2500 など)だけでなく、他のエンジンタイプ
(GE90 など)についても OEM とライセンス契約を結び、幅広いラインナップを持ち(図
5の Independent MRO の項目参照)
、欧米だけでなく、中国にも J/V を設立している(図
5の Airline Joint Venture の項目参照)
。部品の修理と開発も行っているが、中古エンジン
を買取り部品取りすることにより収益確保を図ってもいる。近年は日本の商社と組んで、
リース事業にも参入してきた(図5の Other services の項目参照)
。
図5 MTU Aero Engines 社が整備するエンジン4)
5)エアライン整備 / Lufthansa Technik
自社エアラインが運用する機体・エンジン・APU など幅広いラインナップを持ち、世界
市場に進出している。OEM が囲い込みを進めるなか、新規の機体・エンジン購入に際し、
整備ライセンスを取得するとの戦略で整備能力を確保している。 また、PMA 部品や
DER(Designated Engineering Representative) 修理にも積極的であり、OEM の戦略とは
違ったアプローチで市場確保を図っている。
(図6参照)
4
図6 Lufthansa Technik 社の世界市場進出5)
5.このビジネスを支える制度
世界市場を前提とした民間エンジン MRO ビジネスには世界的に共通したこのビジネス
を支える制度がある。ひとつは品質関係の制度として、米国の FAA( Federal Aviation
Administration)、欧州の EASA(European Aviation Safety Agency)
、日本の JCAB(Japan
Civil Aviation Bureau) などに代表される各国の航空局による工場認定制度であり、もうひ
とつは国際条約(ケープタウン条約)などによる資産保全制度が代表的なものとして見ら
れる。以下に概略を記す。なお、航空 PL 保険のような重要な制度もあることも付記してお
く。
1)航空局による工場認定制度
航空機の登録国は機体毎に決めていくとの考え方に従って、飛行安全を担保するために、
各国航空局はエンジン整備をおこなう工場に対し監査をおこない、認定保証書を発行する
ことにふさわしい、品質システム・管理を実施しているかを審査している。
なお、FAA は DER (Designated Engineering Representative )制度を導入しており、こ
れにより独立した資格をもつ人が認定した文書を OEM のマニュアルと並列に使えるよう
になっている。OEM の独占に対抗し、市場競争を保つことを狙いとしたものである。 エ
ンジン整備では特に部品の修理開発でこの制度が活用されることがある。
2)国際条約(ケープタウン条約)による資産保全制度
民間エンジンMROビジネスにおいても、顧客の与信状態を把握し、売掛債権を確保し
回収することが不可欠である。航空機ファイナンスの基本となる国際的なルール(取決め)
として、OECD公的輸出信用アレンジメント
別添Ⅲ
民間航空機輸出信用セクター了
解とケープタウン条約がある。前者(OECD 取決め)は航空機ファイナンスの基本ルール
5
を定めたものであり、ケープタウン条約は債権確保のルールを取り決めたもので、航空機
だけでなくエンジンも保護対象になっている。航空機は各国での機体登録制度があったが、
エンジンについては動産扱いで今までは登記の制度がなく、資産管理に難があった。
リ
ース会社・ファイナンス会社・OEM が集まり、現在ではケープタウン条約のもとエンジン
についても国際的な機関に登録ができるようになっている。具体的には民間事業者
Aviareto(SITA(80%)とアイルランド政府(20%)
)のJVへ登録管理実務が委託さ
れている。登録の Objects (機体・エンジン・ヘリ) 76,930, 登録権利 234,470
(2010
年末現在)となっている。なお、このケープタウン条約には債権回収方法の取決めもある
が専門的になるので省略したい。また、本条約に日本は未参加である。
6.今後の展望
OEM による囲い込みはエンジン整備だけにとどまらず、これに付帯するサービスも取り
込むことに今後はなっていくと思われる。これは、従来の大型機を運用する各国を代表す
る大手航空会社のように自社に整備部門を構え、各種の整備をおこなってきたエアライン
だけでなく、LCC (Low Cost Carrier)に代表される、航空輸送に専念し、整備などは外注
するビジネスモデルを有するエアラインの増加が背景にある。 (図7参照)
図7 エンジン整備と付帯サービスの概念図
オプションと言われる付帯サービスの各項目につき概略を説明する。
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1)ラインサポート
エンジンに関わるラインでの各種サポートサービス。エンジンや QEC (Quick Engine
Change ) 部品の機体からの脱着や ON-WING(機体にエンジンが付いた状態)での検査な
どが具体的なもの。必要となる治工具・検査器具・補用部品・メカニックも準備しておく
もの。 中小のエアラインはラインでの人員を削減できるメリットがある。
2)エンジンリースサポート
短期のリースのエンジンの提供をおこなうもの。急なエンジントラブルでスペア―エン
ジンが無い場合に、AOG (Aircraft on Ground )を避けるためなどに利用される。事前に一
定額の費用を負担することにより、リースエンジンの緊急時の確保の保証やリース費用の
割引などが契約に織り込まれることがある。エアラインはスペア―エンジンの保有比率や
AOG のリスクを下げられるメリットがある。
3)ライン交換補機サポート
ラインにて交換される補機部品の提供をおこなうもの。ロータブル品(同等の代替品)
を事前に準備しておく。契約によっては交換される補機の整備費用を含む場合もある。エ
アラインはライン交換用の補機在庫を節約できるメリットがある。
4)エンジン輸送サポート
整備が必要になったエンジンの整備工場との往復輸送のアレンジを提供するもの。エン
ジン輸送のフライト・通関・保険付保などをおこなう。
5)遠隔故障診断
エンジンに積まれている電子制御装置よりエンジンの運航データーを入手し、エンジン
状態を解析し、エンジントラブルの予防保全措置や故障原因の解析をおこなうもの。OEM
によってはこの分野に大きな投資をおこない、ライフサイクルサポートの次の目玉として
育てようとしている。
7.まとめ
民間エンジン MRO ビジネスは刻々と市場環境やビジネスモデルが変容するとてもアク
テブなビジネスである。 次世代の民間エンジンでは GTF (Geared Turbo Fan)エンジンの
導入や、新素材のエンジンコア部分への適用など新技術が導入され、それに見合ったエン
ジン整備の技術確立も必要になってくる。
(なぜなら、民間エンジンは性能・品質を競う製
品として継続し、エンジンタイプ毎の差別化が無くなるものではないからである。) また、
このビジネスはライフサイクルビジネスとして性格をさらに強めていくものと考えられて
いる。 飛行安全を第一として、更なる競争が今後も続くものと考えている。
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参考文献
1)一般財団法人 日本航空機開発協会:民間航空機に関する需要予測 2013-2032
2)TAESL 社ホームページ http://www.tasel.com
3)PW 社ホームページ http://www.pw.utc.com/Capabilities
4)MTU Aero Engines 社ホームページ http://www.mtu.de/en/
5)Lufthansa Technik 社 2012 年年次報告書(Annual Report)
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