材料表面に新しい機能を付与して材料の

論
文
内
容
の
要
旨
氏名
永井
太一
表面処理技術は、材料表面に新しい機能を付与して材料の高機能化や長寿命化など
の特性改善に寄与するため広い産業分野に応用されている。表面処理技術の中でも湿
式めっき法は大面積の成膜が容易であり、生産性が高く、また大気圧下で行えるので
設備コストを抑えることができるなどの特徴があり、機能性薄膜作製法として広く利
用されている。めっき膜の機能性には、装飾、防食の機能の他、機械的機能、電気的
機能、物理的機能などが含まれるが、本研究では機械的機能の中でも硬さに着目し、
めっき法による硬質ニッケル系合金薄膜の作製を試みた。多結晶体である金属材料の
強 化 方 法 に は 、固 溶 強 化 、結 晶 粒 微 細 化 、析 出 強 化 、分 散 強 化 な ど が 知 ら れ て い る が 、
本研究では固溶強化、結晶粒微細化、析出強化の3つの強化機構に着目した。また、
めっき膜の物性はその結晶構造に直接由来するものであり、結晶構造を制御するのは
めっき膜組成であり、その組成を制御するのが電極反応、溶液反応、そしてめっき条
件である。本研究では、以上のような観点からめっき条件がプロセス全体に及ぼす影
響を考察し、硬質薄膜作製のための検討を行った。
W お よ び B の 共 析 に よ る 硬 質 ニ ッ ケ ル め っ き 膜 の 作 製 で は 、面 心 立 方 構 造 で あ る Ni
マ ト リ ク ス に 対 し て 、置 換 型 固 溶 す る W およ び 侵 入 型 固 溶 す る B を 合 金 化 さ せ 、最 大
硬さが得られる膜組成領域の探索を試みた。電解法では、W および B の共析メカニズ
ムを理解し、めっき条件(タングステン酸ナトリウム濃度、グリシン錯化剤濃度、め
っ き 電 流 密 度 ) を 制 御 す る こ と に よ り 、 W: 0〜 19 at.%、 B: 0〜 18 at.%の 広 い 組 成 範 囲
の Ni-W-B 三 元 合 金 め っ き 膜 の 作 製 に 成 功 し た 。 め っ き 膜 へ W や B が 共 析 す る こ と に
よ っ て 結 晶 粒 径 が 微 細 化 し 、結 晶 粒 径 2〜 3nm の 領 域 ま で 硬 さ が 増 加 す る 傾 向 が 見 ら れ
た 。そ し て 、膜 組 成 領 域 Ni 82-86 W 4-8 B 8-12 at.%に お い て 最 大 硬 さ 800〜 850Hv が 得 ら れ た 。
結晶粒微細化が必ずしも硬さ増加に関与しない膜組成領域が存在することから、硬さ
は結晶粒微細化および固溶強化の複合的な要因により発現したものと考えた。また、
無 電 解 法 で は 膜 組 成 領 域 Ni 79-83 W 8-11 B 8-11 at.%に お い て 電 解 法 と ほ ぼ 同 様 に 最 大 硬 さ
800〜 850Hv が 得 ら れ た 。 以 上 の よ う に 、 Ni-W-B 三 元 合 金 め っ き 膜 で は 膜 組 成 を 制 御
することにより硬質クロムめっき膜に匹敵する硬さが得られることが明らかとなった。
ア ミ ノ 酸 添 加 に よ る 硬 質 ニ ッ ケ ル め っ き 膜 の 作 製 で は 、Ni 系 め っ き 膜 中 へ C や N を
共析させ侵入型固溶や結晶粒微細化などの強化機構により硬質化を試みた。アミノ酸
は、生体物質の構成ユニットであり、環境への負荷も少ない有機物である。また、ア
ミノ酸はアミノ基とカルボキシ基をもち、α炭素に H および側鎖が結合した構造であ
り 、そ の 側 鎖 の 違 い に よ っ て ア ミ ノ 酸 の 特 性 が 異 な る 。側 鎖 の 構 造 と し て は 20 種 類 の
も の が 広 く 知 ら れ て い る 。 電 解 Ni め っ き 浴 へ 種 々 の ア ミ ノ 酸 添 加 を 検 討 し た 結 果 、 S
含有アミノ酸であるメチオニン、芳香族アミノ酸であるトリプトファン、塩基性アミ
ノ酸であるリジン、ヒスチジン、アルギニンを添加するとめっき膜中に C が多く共析
することを見出した。共析するアミノ酸の添加濃度増加に伴ってめっき膜中の C 含有
量が増加し、結晶粒径が微細化した。硬さは、共析するアミノ酸の種類に関わらず、
結 晶 粒 微 細 化 に 伴 っ て 増 加 し 、結 晶 粒 径 が 10〜 15nm 程 度 の 領 域 で 最 大 500〜 550Hv が
得 ら れ 、 純 Ni め っ き 膜 と 比 較 し て 2.5 倍程 度 増 加 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。
ま た 、 無 電 解 Ni-B め っ き 浴 へ 種 々 の ア ミ ノ 酸 添 加 を 検 討 し た 結 果 、 電 解 Ni め っ き
浴への添加と同様にトリプトファン、リジン、ヒスチジン、アルギニンの添加はめっ
き膜中に C や N が多く共析する現象を見出した。共析するアミノ酸の添加は、めっき
膜中の B 含有量に関わらず、析出したままのめっき膜の硬さを減少させた。しかしな
が ら 、高 B タ イ プ 浴 へ の ア ミ ノ 酸 添 加 は 、Ni 3 B 化 合 物 の 結 晶 化 を 促 進 す る 効 果 が あ り 、
225〜 250℃ 程 度 の 低 温 の 熱 処 理 に よ っ て お よ そ 1400Hv 程 度 の 高 い 硬 さ が 得 ら れ る こ
と が 明 ら か と な っ た 。 そ し て 、 225〜 400℃ ま で の 広 い 温 度 領 域 で 安 定 し た 高 い 硬 さ が
維 持 さ れ た 。ま た 、低 B タ イ プ 浴 へ の ア ル ギ ニ ン の 添 加 は 、300℃ 以 上 の 熱 処 理 に お い
て Ni の 結 晶 成 長 を 阻 害 し 、 硬 さ の 減 少 を 抑 制 す る 効 果 が あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。
本 研 究 に よ り 、め っ き 法 に よ る 硬 質 ニ ッ ケ ル 系 合 金 薄 膜 作 製 の た め の 指 針 が 得 ら れ た 。