2014年10月20日 電源別発電コストの最新推計と 電源代替の費用便益分析 (概要) (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE) システム研究グループ 問い合わせ先:徳重功子、秋元圭吾、小田潤一郎、佐野史典 TEL: 0774-75-2304、E-mail: [email protected] はじめに RITEでは、東日本大震災前の2009~2010年度に日本の電源別発電コ ストの推計(2005~07年程度の時点と将来の見通しの推計)を行っ た。一方、東日本大震災・福島第一原発事故後、日本政府は、2011 年秋にエネルギー・環境会議の下にコスト等検証委員会を設置し、 電源別発電コスト推計を行った。 本報告は、その後の状況の変化等を踏まえ、最新の発電コストの推 計を試みたものである。状況の変化としては、化石燃料価格の上昇 傾向、原発安全対策費の増加傾向、再生可能エネルギー固定価格買 取制度導入とその後の再エネのコスト変化などが挙げられ、これら を含めた検討を行った。 なお、コスト等検証委員会の推計よりも包括的かつ論理的に、電源 別発電コスト推計にアプローチした。 報告書本体は、http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/about-globalwarming/download-data/PowerGenerationCost_estimates_20141020.pdf 各電源はそれぞれの特徴に合わせてミックスして利用することで、発電コスト全体を小さくすることが可 能となるし、またCO2排出削減、エネルギー安全保障の向上など、良いバランスを保つことができる。ここ で示した発電単価がたとえ高くてもそれぞれが重要な電源となり得ることは理解すべきである。 2 2013年の電源別発電コスト推計 原子力8.4円/kWh に対して、風力26.0 円/kWh(原子力比 3.1倍)、太陽光36.8 ~38.8円/kWh(4.4 ~4.6倍) 40 (38.8) 35 発電単価(円/kWh) それぞれのコスト項目 は、一定の仮定をおい て推計しており、信頼 度のレベルも異なる。 報告書本体において 推計の仮定を確認さ れたい。 (36.8) 33.8 電源立地交付金 エネルギーセキュリティ外部費 用 原発事故リスク費用(追加対策 後) CO2外部費用(20$/tCO2) (26.0) 25 21.2 20 15 (8.4) 8.0 (9.5) 7.8 (13.3) 12.5 系統対策費 再処理費、廃棄物処理費 5 解体費 0 原子力 石炭 LNG 調達価格(2013)差額(利潤) 電源立地交付金 0.4 エネルギーセキュリティ外部費用 原発事故リスク費用(追加対策後) 風力(陸上) 太陽光(住 宅用) 太陽光(メガ ソーラー) 4.8 5.0 6.2 0 0 0 0 0 0.09 0.19 1.6 0.6 0.1 0.1 4 0.8 0.8 運転人件費・メインテナンス費 燃料費 原発追加安全対策費 設備費 0.012 CO2外部費用(20$/tCO2) 系統対策費 0.25 再処理費、廃棄物処理費 0.5 解体費 0.05 0.01 0.01 0.1 0.2 0.2 運転人件費・メインテナンス費 2.85 1.18 0.68 3.4 3.4 9 1 4.1 10.3 0 0 0 2.4 1.4 13.7 29.4 20.6 燃料費 調達価格(2013)差額(利潤) 30.6 30 10 3 原発追加安全対策費 0.42 設備費 2.9 - 2013年時点において新設の場合の 推計費用 - 原子力、火力の稼働率を80%、原子 力の稼働年数を40年と想定した場合 注1)コスト項目によっては単純に足す べきではない項目もあり、留意が必要 注2)グラフ中の黒字の数値は黒枠の 合計値、赤字(括弧付き)の数値は赤 枠の合計値に相当 現時点での原発停止に伴う費用便益 4 原発停止に伴う代替費用(円/kWh) 40 35 33.6 30 28.6 25.4 25 20.8 20 15.9 15 10 5 31.6 16.0 8.1 4.3 - LNG代替で約8円/kWh - 石油では約16円/kWh - 風力では約16円/kWh (FIT調達価格ベースで は21円/kWh) - 太陽光では約25~29 円/kWh((FIT調達価格 ベースでは32~34円 /kWh) という大きな追加費用と なっている。 0 -5 設備費等 燃料費等 運転人件費・メインテナンス費 系統対策費 残余原発事故リスク費用 調達価格(2013)差額(利潤) 正味費用(再エネ調達価格利潤込) 回避設備費等 回避燃料費等 回避運転人件費・メインテナンス費 CO2外部費用(25$/tCO2) エネルギーセキュリティ外部費用 正味費用 - 前頁スライドの費用推計に 基づくもの - ただし、本推計では既存原 子力発電の停止に伴う費用 と便益を推計しているため、 回避設備費(便益)には原発 の設備費は含まれない。 2030年の電源別発電コスト推計 25 (25.2) 25.2 (22.0) 22.0 15 10 (12.2) 8.3 (7.5) 7.1 (8.4) 8.0 (10.2) 9.8 (9.1) 7.4 (10.1) 7.8 (25.3) 25.3 (23.8) 23.8 電源立地交付金 (18.8) 18.8 (17.3) 17.3 (16.7) 16.7 エネルギーセキュリティ外部費用 原発事故リスク費用(追加対策後) (13.4) (11.9) 11.5 (13.1) 13.1 (11.6) 11.6 (10.7) 10.7 9.9 CO2外部費用(25~55$/tCO2) 系統対策費 再処理費、廃棄物処理費 解体費 5 運転人件費・メインテナンス費 燃料費 原子力 石炭 LNG 風力(陸上) 上位値 中位値 下位値 上位値 中位値 下位値 上位値 中位値 下位値 上位値 中位値 下位値 上位値 中位値 下位値 上位値 中位値 0 下位値 発電単価(円/kWh) 20 5 太陽光(住宅用) 太陽光(メガソーラー) 原発追加安全対策費 設備費 - 2030年時点において新設の場合の推計費用 - 原子力の稼働率を60~85%、火力の稼働率を80%、原子力の稼働年数を40~60年と想定した場合 - CO2の外部費用は中位値では33$/tCO2を想定 注1)コスト項目によっては単純に足すべきではない項目もあり、留意が必要 注2)グラフ中の黒字の数値は黒枠の合計値、赤字(括弧付き)の数値は赤枠の合計値に相当 - 今後、太陽光についてはコスト低減の可能性も高いものの、一方で、風力、太陽光発電 の導入量増により、系統対策費用の増大が予想される。 競争環境下における事業者の投資判断 6 総括原価主義の状況 投資判断年数 「社会的割引率ケース」:割引率5% 「高期待収益率ケース」:割引率10% 「原子力政策不確実ケース」:割引率15% と想定した場合 事業者としてはこれが合理的な 意思決定だが、社会にとっては 非合理的になってしまう。 投資判断年数 発電所の耐用年数(30~60年程度) 16 14 このとき、社会的な費用とは 離れて事業実施者にとって は高い費用が認識される (11.8) 9.5 (11.8) 9.5 電源立地交付金 (11.9) 10.7 (12.8) 11.6 (12.8) 11.6 エネルギーセキュリティ外部費用 原発事故リスク費用(追加対策後) (10.1) 7.8 CO2外部費用(33$/tCO2) (8.4) 8.0 8 系統対策費 6 再処理費、廃棄物処理費 4 解体費 この外部費用を 回避するための 政策が求められる 2 運転人件費・メインテナンス費 原子力 石炭 LNG 原子力政策不確実ケース 高期待収益率ケース 社会的割引率ケース 0 原子力政策不確実ケース 電力システム改革の下、 競争が進行すると、社会 的コストと、事業者が認 識するコストに乖離が生 じる。政策措置によって その乖離の是正が必要 10 13.3 電力自由化に よって促される (10.9) 外部費用 10.5 高期待収益率ケース 発電単価(円/kWh) 12 原子力を中心としたエネ ルギー政策の不確実性 (13.7) から生じる外部費用 社会的割引率ケース (原子力のバックエンドでは更に長期) 原子力政策不確実ケース 将来、発電所で作った電力が売れ るか不透明感大。ゆえに、短い期 間で投資回収する傾向に(投資判 断の割引率が大きくなる)。 高期待収益率ケース 電力システム改革によって競争が進展した状況 30~60年後も同じように電気は価値 を有することがほぼ確実(他の多くの 財は価値の維持が不透明なものが多 いが、エネルギーはそれらと異なる) 社会的割引率ケース 現時点の電気の価値 燃料費 原発追加安全対策費 原子力を取り巻く政策環境の不確実 性のために生じる外部費用 短期の投資回収の必要性によって 生じる外部費用 実質設備費 分析からの主要知見(1/2) 7 化石燃料価格が上昇しており、原子力と火力発電のコストの差は、コス ト等検証委員会による2011年のコスト推計時よりも更に広がってきてい る。原子力の追加安全対策費用が増大傾向にあることを踏まえても、原 子力は相対的に安価な電源であることは確か。温暖化影響被害費用(炭 素価格)を見込むと、比較的安価な石炭発電に対してもコスト優位性は 大きい。客観的、蓋然性の高い冷静な分析に基づいてその事実は認識す べき。 再エネ固定価格買取制度におけるこれまでの調達価格は、明らかに「適 正な利潤」を大きく超えるものである。このような大きな利潤を確保す ることは、一部の再エネ事業者にのみ利益をもたらし、一方で、多くの 電力ユーザーに過大な負担を負わせるものである。また今後、長期に 亘って日本の産業競争力を低下させる懸念があり、更に、特に経済的弱 者層への負担を大きくするものであるので、早急なる見直しが求められ る。 2030年に向けては、太陽光発電のコスト低減は期待できるものの、導入 量の拡大とともに系統安定化の対策費の増大も予想され、原発を風力や 太陽光発電に代替することによる追加的な費用としては、10円/kWh前後 に及ぶ可能性も高く、相当な負担となる。 分析からの主要知見(2/2) 8 2030年の温暖化影響被害費用(炭素価格)を33$/tCO2見込んだとしても、 石炭発電のコスト優位性は、他電源(原子力を除く)に対して相当大き い。地球温暖化問題対応(CO2排出削減)を考えると、石炭発電の大幅 な拡大は控えるべきではある。しかし、発電コストを考えると、原発拡 大が困難な状況においては、石炭発電の一定程度の利用拡大も視野に入 れておくべき。 電力システム改革により競争が進行した状況、また、現在のようにエネ ルギー・原子力政策の今後が不透明な状況にあっては、本来の社会にお ける費用とは乖離した形で、電気事業者は投資環境のリスクを含めて、 独自の費用認識を形成することとなる。これによって、社会の利益との 乖離が生じる場合があるため、エネルギー、原子力の政策的な不透明性 を取り除きつつ、競争環境進展下で事業者の短期的な利益追求志向に よって生じ得る、長期の社会的利益とのギャップを埋めるような追加的 政策が必要。
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