フィンランド産業電力 (証券コード:−)

14-I-0069
2015 年 1 月 21 日
株式会社日本格付研究所(JCR)は、以下のとおり信用格付の結果を公表します。
フィンランド産業電力
(証券コード:−)
【変更】
外貨建長期発行体格付
格付の見通し
AA
ネガティブ
→
→
AA−
安定的
■格付事由
(1) フィンランド産業電力(TVO)は、フィンランド国内で原子力発電所 2 基(オルキルオト 1・2 号機、共
に出力 880MW)を運営し、株主に原価で卸売電する卸電気事業者。当社の格付は、
「マンカラ」と呼ばれ
るフィンランド独自の発電事業の共同投資型ビジネスモデル、全国の電力消費量の 18%(14 年 1∼9 月)
を供給する主要な電力源としての役割、1979 年以来の長期に亘る安定的で優れた原子力発電所の運営実
績、並びに、低い発電コストに支えられている。当社の債務弁済費用を含む発電所の操業にかかる固定費
は、定款上、株主が、受電の有無に関わらず、出資比率に応じて支払うことが義務付けられている。加え
て、当社の現在の発電コストは市場価格を大きく下回るため、仮に株主による不払いが生じても、差し止
めた電力を市場に売却することで費用を回収することが可能となっている。当社は 05 年以来、欧州加圧
水型炉(EPR)を採用した原子力発電所オルキルオト 3 号機(OL3、出力 1,600MW)を建設している。
OL3 の運転開始見込みは、当初の 09 年から延期が相次いだが、建設は進んでおり、TVO は 14 年 9 月に
「コントラクターによると 18 年後半」と公表した。OL3 の建設費用は工期延長により大幅に増加してお
り、現在当社は追加費用負担をめぐりコントラクターとの間で係争中となっている。現在の訴額を考慮す
ると、仮に仲裁に勝訴したとしても、同機の稼働後に当社の平均発電コストが大きく引き上がることは避
けられない。北欧の電力価格の見通しが弱含む中、相対的な価格優位性の低下は、株主の経済的インセン
ティブを減ずる上、特定株主の不払いが生じた際に、市場売却により発電費用を完全に回収することをよ
り難しくさせる可能性を高める。こうした展開が視野に入ってきたことを踏まえ、JCR は今般、当社の格
付を 1 ノッチ引き下げた。格付の見通しは「安定的」である。相対的に価格優位性が低下するとはいえ、
現在の先物価格を前提とすると、係争中の仲裁に完全敗訴しない限り、発電費用が市場価格を長期に亘り
継続的に上回る可能性は低いと見られる。また、主要株主による取締役の派遣や株主による劣後融資の適
時の提供に見られるように、株主による当社へのコミットメントは依然として強固である。JCR は引き続
き、OL3 の建設状況・係争結果を踏まえた当社の発電コストの見通しや、電力市場価格の動向を注視し、
必要に応じ格付に反映させていく。
(2) TVO は、フィンランドの電力会社上位 2 社を含む国内の株主 6 社が、69 年に共同で設立し保有する、民
間の原子力発電事業者。総資産は 67 億ユーロ(13/12 期末時点)
、売上高は 3.7 億ユーロ(13/12 期)。株
主は、①フィンランド最大の民間電力会社フィンランド北部電力(PVO(Pohjolan Voima Oy)、58.5%所
有)②国営電力 Fortum の子会社 Fortum Power and Heat Oy(25.8%)③ヘルシンキ市の所有する水力発電
会社 Oy Mankala Ab(8.1%)④地方自治体系のエネルギー供給業者 EPV Energia Oy(6.6%)⑤水化学会
社 Kemira Oyj(1.0%)⑥配電会社 Karhu Voima Oy(0.1%)―から成る。当社の取締役は、これらの主要
株主の代表で占められている。TVO の発電量は 11.2TWh(14 年 1∼9 月実績)と、フィンランド全土の
電力消費量の 18%に上る。当社は現在、同国オルキルオト地区にて、79 年・82 年に運転を開始した
BWR 型原子力発電所 2 基(共に出力 880MW)を運営しているほか、Meri-Pori 石炭凝縮火力発電所
(565MW)の株式 45%、原子力廃棄物の最終貯蔵を行う Posiva Oy 社の株式を 60%所有している。加え
て、当社は、原子力発電所 3 号機(出力 1,600MW)を建設中のほか、将来の 4 号機建設に向けた準備も
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進めている(10 年に国会承認を経ており、現在応札評価中。政府による建設許認可の申請期限は 15 年 6
月。政府は 14 年 9 月に、同申請期限を延長しない方針を決定)
。
(3) TVO は、「マンカラ」と呼ばれるフィンランド独自の発電事業の共同投資型ビジネスモデルに基づき事業
を行っている。具体的には、株主は、出資比率に応じ、発電電力を原価で受電する権利を有する一方、月
次にて、受電の有無にかかわらず固定費(操業・維持・管理費、発電量に関わらない租税負担、保険料、
債務費、減価償却費、原子力廃棄物処理費等)を前月 24 日までに、並びに、受電した場合には変動費
(燃料費や発電量に伴う租税負担等)を決められた期日(通常は翌月)までに、支払うことが定款で規定
されている。仮に、支払いが期日までに行われない場合には、当社は当該株主に対する電力供給を直ちに
差し止め、同電力を市場価格で他の株主にまたは市場で販売することが認められている。当社は、原子力
発電所の運営による発電を、35 年以上にわたり安定的かつ安全に供給してきた実績を有す。年間稼働率
は恒常的に 90%超ときわめて高い水準で推移しており、14 年にも、1 号機が 94.5%、2 号機が 97.4%を
記録した。北欧の統合電力市場ノルドプールにおけるベース価格及びフィンランド地域での市場価格は、
13 年の 38・41 ユーロ/MWh から 14 年 1∼9 月には 29・36 ユーロ/MWh へと低下したが、当社の原子力
発電所 2 基の売電価格は 20 ユーロ/MWh(14 年 1∼9 月平均)とそれらを大きく下回っている。
(4) TVO の発電事業は、建設期間中は発電設備にかかる建設費を元加し、運転開始後には株主に対し発電電
力を原価で供給し資金を回収する「マンカラ」モデルで事業を行っており、TVO の発電事業の純利益は
毎期ゼロとすることが税務当局により認められている。当社は、操業中の原子力発電所 2 基について、常
に 40 年の残存稼働期間を維持するべく追加的な投資を続けているほか、05 年以来、3 号機を建設してい
る。現在 880MW の原子力発電所 2 基を保有する当社にとり、新たな 1,600MW の原子力発電所建設は財
務的に重い負担であるが、自己資本比率を 25%以上に保つとの方針の下、銀行借入、社債発行ならびに
株主による劣後融資の組み合わせによる資金調達を続けている(13/12 期末時点での自己資本比率は
29%)。金融債務の増加に合わせて借換に伴う流動性リスクは拡大しているが、当社は、長期債務の今後
12 か月以内の返済額を継続的に全体の 25%以下に抑えると共に、シンジケート・クレジット・ファシリ
ティなどのクレジットラインを、今後 12 ヵ月の資金ニーズ(含む借換)の 120%以上の額で常に確保す
ることで対応している。14 年 9 月末時点でのシンジケート・クレジット・ファシリティの残高及び現金
の合計は 16 億ユーロと、年間の債務償還額及び投資額の合計を大きく上回る水準に保たれている。
(担当)仲川 聡・佐伯 春奈
■格付対象
発行体:フィンランド産業電力(Teollisuuden Voima Oyj)
【変更】
対象
外貨建長期発行体格付
格付
見通し
AA-
安定的
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http://www.jcr.co.jp
格付提供方針に基づくその他開示事項
1. 信用格付を付与した年月日:2015 年 1 月 19 日
2. 信用格付の付与について代表して責任を有する者:藤本
主任格付アナリスト:仲川 聡
幸一
3. 評価の前提・等級基準:
評価の前提および等級基準は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に「信用格付の種類
と記号の定義」
(2014 年 1 月 6 日)として掲載している。
4. 信用格付の付与にかかる方法の概要:
本件信用格付の付与にかかる方法の概要は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に、
「コーポレート等の信用格付方法」
(2014 年 11 月 7 日)、
「電力」
(2011 年 7 月 13 日)として掲載している。
5. 格付関係者:
(発行体・債務者等)
フィンランド産業電力(Teollisuuden Voima Oyj)
6. 本件信用格付の前提・意義・限界:
本件信用格付は、格付対象となる債務について約定通り履行される確実性の程度を等級をもって示すものである。
本件信用格付は、債務履行の確実性の程度に関しての JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該確実性
の程度を完全に表示しているものではない。また、本件信用格付は、デフォルト率や損失の程度を予想するもので
はない。本件信用格付の評価の対象には、価格変動リスクや市場流動性リスクなど、債務履行の確実性の程度以外
の事項は含まれない。
本件信用格付は、格付対象の発行体の業績、規制などを含む業界環境などの変化に伴い見直され、変動する。ま
た、本件信用格付の付与にあたり利用した情報は、JCR が格付対象の発行体および正確で信頼すべき情報源から入
手したものであるが、当該情報には、人為的、機械的またはその他の理由により誤りが存在する可能性がある。
7. 本件信用格付に利用した主要な情報の概要および提供者:
・ 格付関係者が提供した監査済財務諸表
・ 格付関係者が提供した業績、経営方針などに関する資料および説明
8. 利用した主要な情報の品質を確保するために講じられた措置の概要:
JCR は、信用格付の審査の基礎をなす情報の品質確保についての方針を定めている。本件信用格付においては、
独立監査人による監査、発行体もしくは中立的な機関による対外公表、または担当格付アナリストによる検証など、
当該方針が求める要件を満たした情報を、審査の基礎をなす情報として利用した。
9. JCR に対して直近 1 年以内に講じられた監督上の措置:なし
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また
はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、
的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また
は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、
金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因
のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。また、JCR の格付は意見の表明であ
って、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするも
のでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。格付は原則として
発行体より手数料をいただいて行っております。JCR の格付データを含め、本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。JCR の格付データ
を含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■NRSRO 登録状況
JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の 4 クラ
スに登録しています。(1)金融機関、ブローカー・ディーラー、(2)保険会社、(3)一般事業法人、(4)政府・地方自治体。
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部
TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026
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http://www.jcr.co.jp