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2030年の岡山経済とCO2排出量
2030 年の岡山県経済と CO2 排出量
室田泰弘・越国麻知子 (湘南エコノメトリクス)、[email protected]
1.全体の要約
・2030 年までの岡山県経済のマクロ経済、産業構造、CO2 排出量についてエコノメイト・
モデルを用いて試算する。
・試算にあたっては、トップダウン・アプローチ(まず日本経済の 2030 年を求め、その枠
。
内で岡山県経済の将来像を見ていく)を採用する(図 1)
・日本経済ではグローバル化に対応し企業の世界化が進む一方で、岡山県経済は水島工業
地帯の存在に引きずられ、産業構造のサービス化が遅れがちになる。このことが県経済の
日本経済に占める位置を徐々に低下させる。
・岡山県のエネルギー需要構造の特色は、産業部門が突出しているところにある。したが
って脱温暖化は、産業構造の転換や産業部門における省エネに注力すると効果的である。
2.計算結果
2.1.2030 年の日本経済
・日本経済の今後の課題は、グローバル化と高齢化への対応である。ここではそれを、
実質 GDP 依存から名目 GNI 依存によって乗り切っていく。つまり日本企業が積極的な海
外進出を果たすことにより「世界企業化」する。こうした企業が世界から稼ぐ利益を国内
還流することにより、国内経済を活性化させる方法を考える。
・緩やかな原油高と円安の下で、日本経済は長引く停滞(secular stagflation)から徐々に
抜け出す。
・産業構造は、サービス化の進行と製造業の成熟化が特徴的である。ただし製造業の中で
も伸びる業種(例:IT 機器関連(ロボット、コンピュータ関連)
)と衰退業種(例:その他
製造)がある。同様に、サービス業でも、伸びる業種(IT サービス、対事業所サービス、
医療・保健・社会保障)と成熟業種(卸売・小売業や輸送)がある。
・業種的にみると、自動車はすでに「世界企業化」しており、海外からの収益が国内に還
流している。他方で鉄鋼、化学、セメントなどは、国内安住を決め込んできたが、今後は
「世界企業化」する以外、活路はないだろう。たとえば鉄鋼の世界需要は急速に伸びてい
るのに、日本メーカーのそれは停滞している。化学では BASF などと比べ、国内企業は売
上でも利益率でもかなわない。同じことはセメントの世界企業であるホルシムやセメック
スと日本企業を比べれば明らかである。
・エネルギー需要は、産業構造のサービス化、高齢化の進行、エネルギー国内価格の上昇
などによって鈍化する。いわゆる環境クズネッツ曲線の表れである。
1
2030年の岡山経済とCO2排出量
2.2.
2030 年の岡山県経済
1)マクロ経済
・モデル構築に際しては、県外依存 (移出、移入の対 GDP 比) が高いので、需要決定アプ
ローチをとる。潜在生産力は失業率の決定に用いる。
・岡山県経済は今後、対全国比で緩やかにその比重を低下させる。
人口は、対全国比で 1.5%程度であり、今後もあまり変わらない(図 2)。
*
* 成長率は日本全体を下回る(図 3)
。GDP の対全国比は 2010 年の 1.47%から 2030
年の 1.34%へと漸減する。
* 失業率で見ると、岡山県は、特に 2030 年において全国水準を上回る。
2) 産業構造
・ここではまず岡山県産業連関表の接続表(1995,2000,2005 年表、2005 年価格)を推定し、
次にそれを利用して 2020 年表、2030 年表を EU 法によって推定した。産業構造のサービ
ス化を反映して誘発係数が緩やかに低下している。
・サービス業、製造業、重厚長大産業の変化を日本全体と比べたのが(図 4)である。日本全
体と同じく、岡山県でもサービス業のシェア拡大、製造業や重厚長大産業(金属地金、化学
製品等)のシェア低下の傾向は見て取れるが、依然として製造業や重厚長大産業の比率(両部
門の合計:36%)が日本経済のそれ(同:23%)に比べて、高いのが著しい特徴となっている。
3)エネルギー需要と CO2 排出量
・ここでは CO2 排出量を最終需要ベースでみていく。これは一次換算すると、電源構成の
変化で CO2 排出量が変化してしまい、県の温暖化対策の効果などが見えにくくなるためで
ある。
・CO2 実績の推定に関して。当方は資源エネルギー庁発表の都道府県別エネルギー消費統
計に独自データを用いて、岡山県の CO2 排出量実績を推定している。これと岡山県発表の
CO2 排出量を比較したのが(図 5)である。これをみると当方の実績推定値は、県発表値のほ
ぼ 9 割の水準となっており、本モデルに基づく CO2 排出量の予測値が、将来予測に利用可
能であることがわかる。
・CO2 排出量に関して特徴的なのは、岡山県の産業用需要の比率が非常に高いことである
。産業用エネルギー需要は、産業構造の転換とともに、減少を続けるが、それでも
(図 6)
脱重厚長大化のテンポは、日本全体のペースを下回る。したがってエネルギー需要の対全
国比(最終需要ベース)は約 4%台を保ち、これは GDP の対全国比 1.3~1.5%より際だっ
て高い。
3.
岡山県経済の将来動向に関する論点
・岡山県経済は現状維持が続けば、今後の日本経済の構造転換に追いついていけない。
このままでいけば、
*
岡山県の GDP シェアは緩やかに低下する。
*
岡山県の失業率は日本全体の平均よりやや高止まりする。
2
2030年の岡山経済とCO2排出量
*
岡山県の産業構造:重厚長大産業や成熟型製造業の比率が高止まりしている。
*
エネルギー需要における産業部門の比重が全国に比べ圧倒的に高い。
・今後、岡山県にとってどのような展開が可能かを検討するに際しては、世界と日本の大
勢を直視していく必要がある。その際、問題なのは水島工業地帯の位置づけである。同工
業地帯は 2012 年で県の製造品出荷額の 51%を占める中心的な存在である。
・日本企業が今後生存していくためには、
「世界企業化」することを求められており、特に
重厚長大型産業ではこの動きが遅れている。それが一挙に進めば、これらの産業の比重が
高い水島工業地帯が急速に空洞化する可能性もゼロではない。
・岡山県の温暖化対策に関して。基本的には、CO2 排出量の大半を占める産業用エネルギ
ー需要の省エネ化を進めることがもっとも岡山県にとって効率的だろう。
‘--------------------------図1 計算の仕組み
日本経済の大きな流れ:
グローバル化、高齢化
日本モデル
エコノメイト・マクロモデル
エコノメイト・産業構造モデル
エコノメイト・エネルギー
需給モデル
経済成長率、物価、失
業率、経常収支など
産業別生産高、主要産
業産出量など
エネルギー需給、CO2排
出量など
日本経済における
岡山県の位置づけ
岡山県モデル
エコノメイト・県マクロ
モデル
経済成長率、物価、失
業率、経常収支など
エコノメイト・県産業構造
モデル
産業別生産高、主要産
業産出量など
エコノメイト・県エネルギー
需給モデル
エネルギー需給、CO2排
出量など
3
2030年の岡山経済とCO2排出量
図2 岡山県の対全国比(人口、GDP)
岡山県の対全国比(人口、GDP、%)
1.55
1.52
1.50
1.51
1.50
1.47
1.44
1.45
1.40
人口
1.34
1.35
GDP
1.30
1.25
2010
2030
2020
実績
予測
図 3 成長率の比較
成長率の比較(GDP、連鎖ベース、%)
1.2
1.0
1
0.8
0.8
0.7
0.6
1.0
日本
0.4
0.4
0.3
岡山県
0.2
0
00/10
10/20
実績
20/30
予測
図4 岡山県と日本の産業別生産額の比較
岡山と日本の産業別生産額の比較(%)
100%
90%
80%
39.78
41.43
70%
53.55
56.43
サービス業
60%
建築・土木
50%
IT
40%
19.89
30%
製造業
19.49
17.68
20%
10%
0%
エネ関連
19.22
17.17
OY _2005
岡山
OY _2030
重厚長大
16.07
9.12
7.09
JP_2005
日本
JP_2030
一次
4
2030年の岡山経済とCO2排出量
図5 岡山県のCO2排出量(実績)
岡山県のCO2排出量(実績:万トン-CO2)
6000
5000
4,831
4,522
4,849
4,395
4,520
4,156
4,823
4,347
4000
3000
岡山県
当方推定
2000
1000
0
1990
2009
2010
2011
図6 岡山県と日本のエネルギー需要の比較
岡山県と日本のエネルギー需要の比較(%)
100.0
90.0 85.8
83.3
82.4
81.4
82.6
80.0
70.0
60.0
50.3
50.0
45.2
43.9
42.6
41.9
家庭
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
産業
3.7
3.5 6.9
1990
4.5
4.4 7.7
5.7
4.8 7.1
7.2
5.1 7.3
2000
2010
2020
実績
8.2
18.8
21.2
20.7
5.3 7.5
24.6
23.2
22.9
22.1
22.0
11.9
13.2
14.4
14.6
14.8
2030
1990
予測
岡山
14.6
17.0
2000
2010
実績
2020
業務
運輸
2030
予測
日本
5