Kobe University Repository : Kernel

 Kobe
University Repository : Kernel
Title
膀胱がんに対する制限増殖型アデノウイルスベクターを
用いた新規治療法の開発
Author(s)
寺尾, 秀治 / 長屋, 寿雄 / 後藤, 章暢
Citation
神戸大学医学部神緑会学術誌, 28: 70-71
Issue date
2012-08
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81006791
Create Date: 2015-02-01
助成研究報告
膀胱がんに対する制限増殖型アデノウイルスベクターを用いた
新規治療法の開発
兵庫医科大学 先端医学研究所 細胞・遺伝子治療部門
寺 尾 秀 治(平成13年卒,大学院,平成19年卒)
長 屋 寿 雄(広島大・薬,平成 8 年卒,札幌医科大大学院,平成14年卒)
後 藤 章 暢(産業医科大,昭和62年卒,大学院,平成 4 年卒)
はじめに
て CAR 及び CD46の発現量を調べた.
浸潤性膀胱癌は再発率が高く,予後も不良であるた
め,より効果的な治療法が切望されている癌の一つで
キメラ型細胞融解性アデノウイルスベクターの作製
ある.癌に対する遺伝子治療臨床研究において,欧米
腫瘍特異的プロモーターである MK プロモーター
を中心として 5 型アデノウイルスベクター(Ad5)を
の下流にアデノウイルス由来の E1遺伝子を繋いだ
用いた遺伝子導入法の開発が進んでいる.Ad5の接着
MKp/E1を作製した.その MKp/E1をアデノウイル
のターゲット分子である CAR はタイトジャンクショ
ス ベ ク タ ー Ad5も し く は Ad5の フ ァ イ バ ー ノ ブ を
ンを構成するタンパク質であるが,正常細胞に比べて
Ad35のファイバーノブに置換したアデノウイルスベ
膀胱癌では,その発現は低くなることが知られてお
クター(Ad5F35)に導入することで,Ad5/MKp-E1
1)
り ,癌に対する Ad5を用いた遺伝子導入効率低下の
及び Ad5F35/MKp-E1を作製した.
要因となっている.そこで,我々は RGD 配列や35型
アデノウイルスベクター(Ad35)のファイバーノブ
(F35)を導入したキメラ型アデノウイルスベクター
を作製し,アデノウイルスベクターによる CAR 非発
2,3)
膀胱癌細胞に対するキメラ型細胞融解性アデノウイル
スベクターの抗腫瘍効果の検討
Ad5/MKp-E1及 び Ad5F35/MKp-E1を 膀 胱 癌 細 胞
現癌細胞株への遺伝子導入効率の改善に成功した .
株及びヒト胎児腎細胞株に10 virus particles/cells の
また,安全性の面から,癌細胞に遺伝子を特異的に
濃度で感染させ, 5 日後の殺細胞効果を Alamar blue かつ効率良く発現させるために,癌細胞内で特異的に
assay により測定した.アデノウイルスを感染させ
活性化される腫瘍特異的プロモーターを用いた遺伝子
ていない細胞を100として,Ad5/MKp-E1感染群及び
治療法の開発も同時に行われている.我々は腫瘍特異
Ad5F35/MKp-E1感染群について Tukey 検定を用い
的プロモーターの一つであるミドカイン(MK)プロ
て比較検討した.
モーターに着目し,膀胱癌細胞株で細胞融解性ウイル
(*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001)
4)
スベクターの抗腫瘍効果を明らかにした .
今回の研究で,我々は,膀胱癌に対して高い遺伝
結 果
子導入効率が期待されるファイバーノブ改変型 Ad5
膀胱癌細胞株における CAR 及び CD46発現の確認
ベクターに腫瘍特異的プロモーターである MK プロ
膀胱癌細胞株において5637,KK47細胞株では Ad5
モーターを組み合わせたキメラ型細胞融解性ベクター
のターゲット分子である CAR の発現を確認できた
を作製し,その抗腫瘍効果について検討を行った.
が,T24,TCC-SUP では CAR を検出できなかった.
一方,Ad35のターゲット分子である CD46は全ての細
方 法
胞株において,その発現を観察することができた(図
膀胱癌細胞株における CAR 及び CD46発現の確認
1 ).
ヒト膀胱癌細胞株5637,KK47,T24,TCC-SUP 細
胞,コントロールとしてヒト胎児腎細胞株 HEK293細
キメラ型細胞融解性アデノウイルスベクターの作製
胞から細胞溶解液を作製し,ウェスタンブロット法に
遺 伝 子 組 換 え 操 作 に よ り, 表 1 の よ う な MK プ
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神緑会学術誌 第 28 巻 2012 年
図 1 膀胱癌細胞株での CAR および CD46のタンパク質発現
表 1 制限増殖型アデノウイルスベクターの構造
図 2 膀 胱癌細胞株での制限増殖型アデノウイルスベク
ターによる殺細胞効果
なかったが,5637,KK47細胞では CAR タンパク質
を検出することができた.また,CD46 タンパク質は
今回用いた全ての細胞株で検出することができた.こ
ITR: adenovirus inverted terminal repeat sequence, MKp: midkine promoter, pA: polyadenylation signal, F5: the fiber knob of adenovirus type 5, F35: the fiber knob of adenovirus type 35.
れらの結果から,Ad35のファイバーノブを導入した
ロモーターによって E1遺伝子の発現が制御される
本研究は再発率が高く予後も不良である浸潤性膀胱
ア デ ノ ウ イ ル ス ベ ク タ ー(Ad5/MKp-E1, Ad5F35/
癌のより効果的な治療の開発に向けた基礎的研究と
MKp-E1)を作製し,HEK293細胞を用いてそれらの
なった.
ベクターを大量に調製した.
アデノウイルスベクター(Ad5F35)が広範囲の膀胱
癌細胞株に対して抗腫瘍効果を示すことがわかった.
謝 辞
膀胱癌細胞に対するキメラ型細胞融解性アデノウイル
本研究を行うにあたり,平成23年度の神緑会研究助
スベクターの抗腫瘍効果の検討
成金を賜りましたことを,前田盛会長ならびに神緑会
膀胱癌細胞株にアデノウイルスベクターを感染させ
会員の皆様へ心より深謝いたします.
たところ,KK47細胞では,Ad5/MKp-E1と Ad5F35/
MKp-E1での違いを見出すことはできなかった.しか
文 献
し,5637,T24,TCC-SUP 細 胞 に お い て,Ad5F35/
1 ) Sachs MD, Rauen KA, Ramamurthy M et al. MKp-E1の殺細胞効果は Ad5/MKp-E1と比較して有
(2002): Integrin alpha(v) and coxsackie adenovirus 意に上昇していた(図 2 ).
receptor expression in clinical bladder cancer. Urology, 60: 531-536.
考 察
2 ) Terao S, Acharya B, Suzuki T et al. (2009): 本研究では,ファイバーノブ改変型 Ad5による膀
Improved gene transfer into renal carcinoma cells 胱癌細胞に対する抗腫瘍効果について調べた.CAR
using adenovirus vector containing RGD motif. 非発現細胞株である T24,TCC-SUP 細胞において,
Anticancer Res, 29: 2997-3001.
ファイバーノブ領域を改変したアデノウイルスベク
3 ) Acharya B, Terao S, Suzuki T et al. (2010): ター Ad5 (Ad5F35/MKp-E1)の抗腫瘍効果はファイ
Improving gene transfer in human renal carcinoma バーノブ領域を改変していないアデノウイルスベク
cells. Exp Ther Med, 1: 537-540.
ター (Ad5/MKp-E1)に比べて有意に上昇している
4 ) Terao S, Shirakawa T, Kubo S et al. (2007): ことを明らかにした.感染効率の鍵となる細胞表面
Midkine promoter-based conditionally replicative の CAR,CD46の発現を膀胱癌細胞で調べたところ,
adenovirus for targeting midkine-expressing human T24,TCC-SUP 細胞では CAR タンパク質を検出でき
bladder cancer model. Urology, 70: 1009-1013.
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