橡 1 - MATe 三重県農業技術情報システム

卸売市場における青果物産地評価モデルとマトリックス産地戦略モデルの構築
三重県科学技術振興センター農業技術センター
経営部
大泉賢吾
キーワード:卸売市場、青果物、産地評価、AHP、産地戦略
研究の背景
青果物のマーケティングに関する研究の重要性は増加しているが、これまでは定性的な
研 究 を 中 心 と す る も の が 多 く 、「 競 合 す る 産 地 に 対 す る 戦 略 や ポ ジ シ ョ ニ ン グ 」 な ど の 計
量的構築に結びつくものは少ない。また、産地戦略や産地のポジショニングをビジュアル
に示すことができれば、青果物マーケティング戦略の目標達成への強力な支援策になると
考えられる。
そこで、青果物流通の相当部分を占める卸売市場における計量的な産地戦略モデルを構
築するとともに、これを三重県の産地に適用し、構築するモデルの有効性を検証する。
研究成果の概要
1 . 分 析 モ デ ル の 検 討
分析方法は実践的に活用できることが必要であることから、ある程度手法が簡易で、産
地へのマーケティング戦略の示唆など具体性が必要となるが、この課題を追求する基本的
な手法としてAHP法を選択した。
AHPは、目標の設定、階層図の検討、要因間の一対比較、整合度・整合比の検討、重
要度の決定、代替案の決定という一連のプロセスからなるが、中でも階層図の構築が最も
重要である。このため、まず卸売市場における青果物評価の基準とすべき要因を卸売業者
や経済連卸売市場駐在員などの協力で抽出するとともに、農産物マーケティングや品質評
価基準に関する文献の調査から、階層を構築する重要な要因の選択を行った。また、品目
により様々な評価基準があることから、三重県の主要青果物であるイチゴ、トマト、ミカ
ンに限定した検討を行い、図1のような階層構造をAHP評価モデルとする。
2.マトリックス産地戦略モデルへの拡張
まず、AHP評価モデルにおける個々の青果物評価基準に係る代替案の当該産地の計算
値から競合産地の計算値を減じて得た値を産地競争力とする。次に、AHP評価モデルに
おける青果物評価基準の各々の重要度をX軸、産地競争力をY軸にとり、各評価基準のポ
ジ シ ョ ニ ン グ を 行 う 。 戦 略 の 重 要 度 を 区 分 す る X 座 標 Lw 及 び 産 地 競 争 力 を 区 分 す る Y 座 標
Lxd は 、 評 価 基 準 の 重 要 度 の 平 均 値 と 産 地 競 争 力 の 平 均 値 に よ り ポ ジ シ ョ ニ ン グ を 行 い 、
このポジションから各評価基準に関する青果物のマトリックス産地戦略を次のとおり区分
す る ( 図 2 )。
① 防 衛 強 化 戦 略 :このポジションにある評価基準は、産地競争力が強く卸売市場での重
要度も高いため、産地が現状の優位性を強力に守る戦略を展開しなければならない。この
ポジションは防衛に失敗すると産地の評価が大きく低下するなど、戦略上非常に重要な役
割を担っている。
② 改 善 強 化 戦 略 :このポジションにある評価基準は、卸売市場の重要度は高いが産地競
争力が低いため、強力に産地改善を行い競争力を高める戦略を展開しなければならない。
改善強化に成功すれば自らの産地競争力をかなり向上させることができるとともに、競合
する産地の評価はかなり低下する重要な戦略である。
③ 選 択 的 防 衛 戦 略 :このポジションにある評価基準は、産地競争力はあるが卸売市場の
重要度が低いため、産地が得意なもの、今後重要度が高くなると予想されるものなど防衛
内容を選択する戦略を展開しなければならない。この選択によって生じる余力は改善強化
のポジションにある評価基準などに振り向けることが重要である。
④ 選 択 的 改 善 戦 略 :このポジションにある評価基準は、産地競争力が低く卸売市場の重
要度も低いため、改善のプライオリティは低く、今後重要度が高くなると予想されるもの
など産地に余力があれば選択的に取り組む戦略で十分である。
3 . 分 析 モ デ ル に よ る 計 測 結 果
モデル検証のための調査対象は、三重県中央卸売市場、北勢公設地方卸売市場、名古屋
中央卸売市場の北部市場及び本場とした。調査は留め置き法によるアンケート調査とし、
111 業 者 か ら 回 答 を 得 た が 、 A H P 分 析 時 の 整 合 度 ・ 整 合 比 0.15 以 下 の デ ー タ を 解 析 対 象
と し た た め 本 稿 の 分 析 業 者 数 は 69 と な り 、 こ の 内 訳 は イ チ ゴ が 26、 ト マ ト が 19、 ミ カ ン
が 24 で あ る 。
( 1) A H P 評 価 モ デ ル の 計 測 結 果
AHP評価モデルによる産地評価基準重要度の計測結果は図1のとおりである。
3 品 目 と も 「 出 荷 量 」、「 品 質 」、「 出 荷 情 報 」 は 「 価 格 」 よ り 重 要 度 が 高 い 。 と り わ け
「品質」の重要度は高く、卸売市場の評価が近年の量販店の戦略転換(低価格路線から商
品価値重視への転換)を反映していると考えられる計量的結果が得られた。
ま た 、 第 2 レ ベ ル で 注 目 す べ き は 「 出 荷 情 報 」 の 重 要 度 で あ り 、「 出 荷 量 」 の そ れ と ほ
ぼ 等 し く 「 品 質 」 の 重 要 度 に 近 い 値 で あ る 。「 出 荷 情 報 」 の 重 要 性 は 産 地 に お い て も 理 解
されているものの、ほぼ「出荷量」に相当する価値があることが明らかとなった。
一 方 、 第 3 レ ベ ル 以 下 の 重 要 度 で は 、「 鮮 度 保 持 」 の ほ か 、「 栄 養 健 康 」、「 安 全 性 」、「 経
過時間」の重要度が高い。また、第5レベルでは「甘味」の重要度が他の評価基準よりか
なり高くなっている。
( 2) マ ト リ ッ ク ス 産 地 戦 略 モ デ ル の 適 用 結 果
次にAHP評価モデルによるイチゴの三重県中央卸売市場と名古屋中央卸売市場の計測
結果を、マトリックス産地戦略モデルに適用する。なお、今回の適用は第2レベルの6評
価基準(価格、出荷量、品質、販促・PR、出荷情報、信用)を用いる。
防衛強化戦略をとるのは、三重県中央卸売市場の品質、出荷情報、出荷量、名古屋中央
卸売市場の品質である。また、改善強化戦略は名古屋中央卸売市場の出荷量が該当する。
さらに、選択的防衛戦略は名古屋中央卸売市場の販促・PRなどである。最後の選択的改
善戦略には、名古屋中央卸売市場の価格、三重県中央卸売市場の販促・PRなどが該当す
る。
青果物の産地戦略では、卸売市場の評価や自らの産地競争力を、迅速かつ計量的に把握
することが重要な課題になる。このため、青果物産地のマーケティング戦略の中に、この
青果物産地評価の計量分析モデル、或いはマトリックス産地戦略モデルが位置づけられ、
卸売市場における産地競争力が一層強化されることを期待する。
残された問題点
競合する産地が多い場合は、代替案比較の質問数を増加しなければならないので回答者
に多大の負担を与えことになる。
また、イチゴ、トマト、ミカンの評価を基本としたが、評価基準の大きく異なる品目の
場合は階層構造の再検討が必要である。
さ ら に 、 マ ト リ ッ ク ス 産 地 戦 略 モ デ ル は 「 防 衛 と 改 善 」、「 強 化 と 選 択 」 の 区 分 ( Lw、 Lxd)
に 各 評 価 基 準 の 平 均 値 を 用 い た が 、ケ ー ス に 応 じ た 感 覚 的 な 使 い 分 け が 必 要 な 場 合 も あ る 。
文献
〔1〕大泉賢吾(1999)青果物産地のマーケティング戦略の計量的構築,農林業問題研究,第34巻第4号,PP.36-46
〔2〕刀根薫(1986)ゲーム感覚意思決定法,日科技連出版社,PP.1-42
〔3〕フィリップ・コトラー著,村田昭治監修(1996)マーケティング・マネジメント,プレジデント社,PP.23-251
担当研究機関名等
研究機関名:三重県科学技術振興センター農業技術センター
研究担当者:大泉賢吾,木村友香
研 究 期 間 : 1996 ∼ '98 年
研究種別:県単独研究
経営部
産地評価階層
第2レベル **
**
**
価 格
0.143
0.142
0.114
出荷量
0.213
0.185
0.192
w1
w2
品質評価階層
注3
第3レベル **
第4レベル
*
**
代替案
**
**
**
第5レベル
w17
w11
食味
0.045
0.029
0.044
w18
w19
嗜好性
0.118
0.076
0.088
w 12
第1レベル
市場の
青果物
産地評価
1.000
1.000
1.000
w
w3
品 質
0.301
0.259
0.236
w 13
w14
注2
w 15
w8
w9
栄養・健康
w10
安全性
w4
w5
w6
0.099
0.084 w16
0.076
流通鮮度
0.077
0.101
販促・PR
0.121
0.162
0.189
出荷情報
0.208
0.104
信用
0.123
0.128
0.044
0.051
0.034
0.008
0.007
0.014
肉質舌触
第6レベル *
0.026
0.016
0.017
0.011
0.007
0.013
0.006
0.005
0.006 0.014
0.030 w21
果色
0.010
色
0.021
0.008
0.021 w22
0.010
つや 0.006
0.007
0.010
w23
大きさ
0.005
0.004
0.032 w24
0.009
外観形状
0.019
形状 0.007
0.016
0.005
0.013
w25
キズ傷み
0.007
0.011
0.007
香り 0.007
0.008
0.061
0.045
鮮度保持
0.044
w20
w7
甘味
酸味
**
**
**
**
経過時間
0.040
0.048
0.038
果肉色
0.038
0.040
0.032
図1 AHPによる青果物産地評価モデルと青果物への適用結果
強
三重・
出荷量
三重・
品質
三重・
価格
名古屋・信用
Lxd
ョ
産
地
競
争
力
ポ
ジ
シ
防衛強化
戦略
三重・
出荷情報
名古屋・販促PR
三重・
信用
名古屋・品質
名古屋・出荷情報
ン
三重・
販促PR
選択的改善
戦略
弱
改善強化
戦略
名古屋・価格
Lw
弱
三重県
の青果物
産地評価
0.575
0.537
0.548
xN
競合する
産地
の評価
0.425
0.463
0.452
注1:Wは各評価基準であり、XM、XNは代替案である産地評価である。
2:3段の数値はモデルの適用結果であり、上段からイチゴ、トマト、ミカンの評価基準重要度又は代替案評価値である。
3:分析総数69(整合度・整合比0.15以下)における分散分析による品目別、階層別の有意差レベルであり、*は5%、**は1%を示す。
選択的防衛
戦略
xM
名古屋・出荷量
重要度ポジション
図2マトリックス産地戦略モデルとイチゴへの適用結果
注1:戦略のポジション区分(Lxd、Lw)は、各軸の値の平均値である。
2:三重は三重県の市場、名古屋は名古屋市場を表す。
3:図1の第2レベルの評価基準に対するポジショニングである。
強