臨床試験におけるミックス法を用いた研究の動向 P5-7

2014年3月14‐15日 日本臨床試験研究会第5回学術総会 東京大学伊藤国際学術研究センター
臨床試験におけるミックス法を用いた研究の動向
P5‐7
八田 太一1)、 成田 慶一1)、 村山 敏典1)、横出 正之1,2)
1)京都大学医学部附属病院 早期臨床試験部
2)京都大学大学院医学研究科 臨床創成医学分野
背景
被験者リクルートが要となる臨床試験を医療サービスの
一形態とするならば、参加によって得られる価値(期待や
満足など)を提供することが必要となる補足①。
しかしながら、参加者の当該臨床試験への期待や満足と
いった主観的体験は多様であり、臨床試験の目的や方法
と主観的体験へのアプローチには隔たりがある。
目的
本邦の臨床試験における質的研究やミックス法研究補足②
の動向を概観し、参加者の主観的体験を副次的に捉える
ための研究デザインを検討する。
方法
臨床試験登録やグラント申請書を網羅的に検索し、質的研
究やミックス法を援用した研究を段階的に抽出する。
検索エンジン
「UMIN‐CTR」、「KAKEN」、「MHLW GRANTS SYSTEM」
検索語群①
「質的研究」、「質的アプローチ」、「質的手法」
検索語群②
「ミックス法」、「マルチメソッド」、「混合研究法」、「Mixed Method」
2014年2月28日検索
結果
Step 1
網羅的検索
検索語を含む研究すべて
(重複を除く)
Step 2
研究分野で抽出
(KAKENのみ)
看護学、臨床心理学、
医療社会学、健康科学、
社会福祉学、心身医学、
精神神経科学
Step 3
目的・方法で抽出
検索語群①
検索語群②
UMIN‐CTR: 3
MHLW: 37
KAKEN: 1011
UMIN‐CTR: 2
MHLW: 2
KAKEN: 52
UMIN‐CTR: 3
MHLW: 37
KAKEN: 512
UMIN‐CTR: 2
MHLW: 2
KAKEN: 10
UMIN‐CTR: 3
UMIN‐CTR: 2
MHLW: 1
KAKEN: 3
MHLW: 15
全てを満たす研究課題
・対象者の主観的体験を志向
KAKEN: 108
・医療者、患者、家族を対象
・在宅を含む医療現場でのデータ収集
・質的分析について具体的記載
Step 4
臨床試験での研究
( ):仮説生成的介入の試行
UMIN‐CTR: 0
MHLW: 0
KAKEN: 0(15)
UMIN‐CTR: 0
MHLW: 0
KAKEN: 0
140
補足①
・価値は顧客の知覚(使用・経験)によってのみ認識・創造され、
提供者は価値の前提のみを提供することが可能。
(Vargo and Lusch, 2006, 2008)
・顧客の積極的参加によって、顧客と提供者双方の価値が創造
され、提供者のパフォーマンスが向上する。
(Chan, Yim, and Kam, 2010)
↓
患者を医療サービス提供プロセス(価値共創プロセス)に参加さ
せる仕組みや要因(価値が生じる前提)が重要。
森村(2013)5)より引用・改変
補足②
量的アプローチ
理論を演繹的に検証
(仮説検証的)
クローズエンドな問いかけ
多数の参加者から得られた
数値をデータとする
統計学的分析
研究の妥当性は、独立した
判定者や統計的手法による
質的アプローチ
現象の意味を機能的に理解
(仮説生成的)
オープンエンドな問いかけ
少数の参加者から得られた
言葉・イメージをデータ
テキスト分析・類型化
研究の妥当性は、参加者、
研究者、読者に委ねられる
Creswell and Plano (2007)6)より引用・改変
考察
①質的手法を援用したKAKEN採択課題は1990年代より増加し、
近年ではその約半数を医療系分野が占める。また、質的研究を
組み込んだ臨床試験は検索されなかったが、質的研究で仮説生
成的に開発されたプログラムを試行した研究は15件確認された。
・網羅的検索に関する制約
「臨床試験」、「介入研究」を検索語に加えることで、あるいは、
「インタビュー」、「逐語」など研究手続きに関するより具体的な検索語
を加えることで、研究課題の検索能が向上した可能性がある。
・データベースに関する制約
質的研究でモデル化されたプログラムを試験的に用いる場合、
当該施設の倫理審査を経ると考えられるが、その全てがUMIN‐CTR
に登録されるとは限らない。また、現行の研究課題については、
KAKENやMHLWでタイムラグが不可避である。
②海外の動向として、米国ではミックス法を用いたグラント申請
が増え1)、NIHはミックス法研究実施に関するガイドラインを作成
した2)。また英国でもRCTに付随して質的研究が実施されている3)。
③近年、Methodologistを研究計画の段階から参画させ、質的研
究を副次的に埋め込んだRCTが報告されている4)。医療者との対
話や参加者の日誌などをデータとして蓄積し、参加体験を共有す
る研究デザインを組むことは、参加者と研究者の双方にとって
価値を生み出す前提の一形態と考えられる。
COI 開示
本発表で開示すべきCOI関係にある企業などはありません。
120
医療系分野
100
参考文献
全分野
80
60
40
20
0
1985
1990
1995
2000
2005
2010
質的研究を用いた医療系採択課題数の年次推移
(Step 2 MHLWとKAKENによる549件を表示)
1) Plano Clark, V. L. (2010). The Adoption and Practice of Mixed Methods: U.S. Trends in Federally Funded Health‐Related Research. Qualitative Inquiry, 16(6), 428‐440.
2)Drabble, S., O'Cathain, A., Thomas, K., Rudolph, A., & Hewison, J. (2014). Describing qualitative research undertaken with randomised controlled trials in grant proposals: a documentary analysis. BMC Medical Research Methodology, 14(1), 24.
3)Creswell JW, Klassen AC, Plano Clark VL, Smith KC, for the Office of Behavioral and Social Sciences Research (OBSSR): Best practices for mixed methods research in the health sciences. [http://obssr.od.nih.gov
mixed_methods_research]. National Institutes of Health.
4) Plano Clark, V. L., Schumacher, K., West, C., Edrington, J., Dunn, L. B., Harzstark, A., et al. (2013). Practices for Embedding an Interpretive Qualitative Approach Within a Randomized Clinical Trial. Journal of Mixed Methods Research, 7(3), 219‐242.
5)森村 文一. (2013). 医療サービスにおける価値共創プロセスの設計に関する研究. 第20回ヘルスリサーチ
フォーラム. ファイザーHR財団
6) Creswell JW, & Plano Clark, V. L. (2007). Designing and conducting Mixed Methods Research. Sage. MORE−ICプロジェクトURL [http://www.kuhp.kyoto‐u.ac.jp/~rinsho/more‐ic/index.html]