HDMI 2.0の概要:HDを超えた映像体験へ

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Manmeet Walia
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ミックスドシグナル PHY IP 担当
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シノプシス
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HDMI 2.0の概要:HDを超えた映像体験へ
ニュースリリース
What's New in DesignWare IP?
HD を超えた高精細映像を実現する新しい HDMI™ 2.0 は、今後マルチメディア・アプリケーション向けチップの開発者にとって避けて通る
ことのできない重要な規格となります。HDMI 2.0 の主な新機能、およびシノプシスの DesignWare HDMI 2.0 IP の概要について、シノ
プシスのミックスドシグナル PHY IP 担当
シニア・プロダクト・マネージャ、Manmeet Walia がご説明します。
HDMI 2.0 の規格定義における最大の目的は、
「HD を超えた映像体験」をサ
ポートすることにありました。これは、現在の HD デバイスで使われている
ピクセルの数をフル HD の 1920 x 1080 ピクセルから 4 倍以上の 4096 x
たとえば 40 インチ・ディスプレイの場合、18 フィート(約 5.5m)以上離れ
た場所からの視聴であればフル HD(1080p)で十分ですが、それより近い場
合は 4K 解像度にした方が、明らかに画質体験が向上します。
2160 ピクセルへと増やすことを意味します。この「4K」解像度がサポート
されることにより、非常に大型の画面でも、細部まで明瞭な高精細映像を楽
しめるようになります。
必要な画素数を考える
現在のフルHD 1080p で使用するアクティブ・ビデオの画素数は、1920 x
1080(2.1M)ピクセルです。これが 4K UHDになると 4096 x 2160(8.84M)
ピクセルとなり、4 倍以上の画素数でビデオ・データを伝送することになり
シノプシス社が HDMI 2.0 にいち早く対応してくれた
ます。実際の実装では、ビデオ信号以外に制御および音声情報も伝送するた
おかげで、当社の 4K HDTV SoC に HDMI 2.0 の先進機能を
め、必要な画素数はさらに多くなります。
取り入れることができました
HDMI 2.0に準拠したシステムで現在のHD画面の4倍以上の画素数をサポー
Amlogic 社
ト す る に は、帯 域 幅 の 拡 大 が 必 要 で す。HDMI 2.0 の「4K モ ー ド」で は、
Senior Director of Business Development
2250 本の水平ラインと 4400 個の垂直ピクセルを使用します。HDMI 2.0
Michael Mo 氏
は 60 fps(フレーム / 秒)のリフレッシュ・レートをサポートしています。
構成され、各色に 8 ビットの色情報を使用します。
図 1 に、HDMI 2.0 規格の主要な機能をまとめます。
また、HDMI プロトコルでは映像と音声の伝送に TMDS(Transition-
4K x 2K
帯域幅
TMDS スクランブル
ちらつきのない 60Hz
10.2Gbps から
18Gbps へ拡大
EMI を低減
YCbCr 4:2:0
21:9
デュアル表示
新しいカラリメトリ
フォーマット
シネマ・サイズを完全に
サポートする新しい
フレーム・フォーマット
2 つのビデオ /
オーディオ・ストリーム
CEC 2.0
エラー検出
オーディオ機能
ケーブルの特性を補正
先進の高効率オーディオ
(HE-AAC)と
32 チャンネル・オーディオ
では、8 ビットのデータを 10 ビットの符号に変換します(8b10b 符号化)。
この方式には、ビット・シーケンスにおける1と0の数が均等になるなど、い
くつかの有利な特性があります。8ビットのデータに2ビットの制御情報を付
加して送信することにより、TMDS信号のトランスコードを可能にしています。
検証編
Support Q&A
4400 x 60 x 30 = 17.82Gbps となります(図 3;P18 掲載)。
フィジカル編
したがって、これらすべてのデータを転送するのに必要な帯域幅は、2250 x
Support Q&A
3 x 10 = 30 ビットとなります。
論理合成編
HDMI 2.0 も TMDS 符号化を使用するため、1 ピクセルに必要なビット数は
Support Q&A
リモコンの操作性が向上
Minimized Differential Signaling)符号化を使用します。TMDS 符号化
What's New
in DesignWare IP?
そして 1 ピクセルは赤・緑・青(RGB)や黄・青・赤(YCbCr)などの 3 色で
画面のちらつきを解消
図 1. HDMI 2.0 規格の主な特長
HDMIバージョン1.4は帯域幅の上限が10.2Gbpsで、最大解像度ではフレー
ム・レートが 30Hz に制限されていましたが、HDMI 2.0 では 60Hz がサポー
4K モードの必要性
トされます。
HD を超える解像度は本当に必要なのでしょうか。図 2 は、さまざまな画面
サイズと視聴距離でどれだけの解像度が必要かをグラフにしたものです。一
般に、大画面では視聴距離が短くなるほど多くの画素数が必要になります。
60
す。この現象を「フリッカー」と呼びますが、帯域幅を 2 倍に拡大してフレー
ム・レートを引き上げるとフリッカーのない表示が可能となり、画質が大幅
に向上します。
視聴距離︵フィート︶
50
1080p で十分
720p で十分
40
TMDS の改良
4K で十分
30
8b10b 符号化では 1 と 0 が同じ数だけ生成されますが、非常に高い周波数で
同じパターンのスイッチングを繰り返すとエネルギー・ピークが発生し、電
20
磁妨害(EMI)が大きくなるというトレードオフがあります。HDMI 2.0では、
8K で十分
10
0
30 fps の場合、人間の目にはフレーム間の点滅がちらつきとして認識されま
各データ・レーン(赤、緑、青)の速度が 3.4Gbps から 6Gbps へ向上してい
ます。
8K 以上が必要
10
20
30
40
50
60
70
80
90
画面サイズ(対角寸法、インチ)
図 2. 画面サイズ、視聴距離、画面解像度の関係
100
110
120
エネルギー・ピークの発生を防ぐため、HDMI 2.0 は TMDS 符号化にスク
ランブル処理を導入しています。スクランブルを行うことによって 1 と 0 が
17
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前ページより続く
垂直ブランキン グ
4096x2160 ビデオ・フレームの TMDS 区間
データ・アイランド区間
コマンド区間
コマンド区間
アクティブ・ビデオ
2160アクティブ・ライン
2250ライン︵トータル︶
ビデオ・データ区間
データ
アイランド
区間
●
2250 水平ピクセル
●
4400 垂直ピクセル
●
60 フレーム/秒
●
8 ビット/色
●
3 色(RGB または YCbCr)
●
10/8(TMDS 符号化)
= 17.82Gbps
水平ブランキング
4096 アクティブ・ピクセル
4400 ピクセル(トータル)
図 3. 4K x 2K ビデオ
フレームの帯域幅
長く連続し、エネルギー・ピークが大幅に緩和されEMIも軽減します(図4)。
人に識別できない程度で、まさに「ロスレス」体験といえます。HDMI 2.0
後 方 互 換 性 の た め、HDMI 2.0 で は 1 レ ー ン 当 た り の デ ー タ・レ ー ト が
クやケーブル・メーカーへの負担軽減につながります。
の実装に必要な帯域幅が大幅に削減されることは、ワイヤレス・ネットワー
3.4Gbps を超える場合のみスクランブルが必須となっています。
ピクセル 0
ロスレス映像体験を実現する色符号化
HDMI 2.0 では新しいカラリメトリ・フォーマットの YCbCr 4:2:0 が導入
ライン 0
されており、ピクセルの各色を8ビット(合計24ビット)で表現した場合(す
なわち先の計算式で求めた値)よりも少ない画素数で 4K モードを実装でき
るようになっています。これは、色符号化によって 4K モードを 60Hz でサ
ポートするのに必要な全体的な帯域幅を半分に削減しているためです。
ライン 1
ピクセル 1
Y00
Y01
Cb00
Cr00
Cb01
Cr01
Y10
Y11
Cb10
Cr10
Cb11
Cr11
ライン 0
ライン 1
ピクセル 0
ピクセル 1
Y00
Y01
Y10
Cb
Cr
Y11
従来のカラリメトリ方式では、黄(Y)、青(Cb)、赤(Cr)の 3 色をそれぞれ 8
ビットで表現します。これを YCbCr 4:4:4 と呼びます。
図 5. YCbCr 4:4:4(左)と YCbCr 4:2:0(右)の概念図
色符号化はピクセル単位ではなく、隣接する 4 つのピクセルを 1 つのグルー
プとして処理します。グループ内の各ピクセルは、Y に関しては 8 ビットの
情報を維持しますが、Cb と Cr についてはグループ内の 4 ピクセルの平均を
21:9 のアスペクト比をサポート
現在のテレビはほとんどがアスペクト比 16:9 をサポートしています。これ
とります。
に加え、HDMI 2.0 では 21:9 のディスプレイもサポートしています。アス
これにより、4 ピクセル(1 グループ)の色情報を表現するのに必要なビット
なり前から 21:9 フォーマットでの撮影が標準となっています。このため、
ペクト比は、横長の方がより現実世界を忠実に反映します。事実、映画はか
数は、96(4 x 24)から48(Yのみ4 x 8、CbとCrはそれぞれ8)に半減します。
この方式は従来の半分の帯域幅で実装でき、しかも画質の違いはほとんどの
21:9 はコンテンツ不足で普及が伸び悩んだ 3D の二の舞いにはならないで
しょう。
エネルギー・ピークにより
EMI が発生
スクランブリングなしの TMDS データ・チャネル
図 4. TMDS スクランブルにより、エネルギー
18
エネルギー・ピークが
-20dB 減少
スクランブル適用後の TMDS データ・チャネル
ピークと EMI が減少
最近では、家電メーカー各社がそれぞれ独自にリモコン・システム用の
Bluetooth® リンクを開発しており、さまざまな機能を実行できるようになっ
ていますが、それでも他社製の機器は操作できません。ユニバーサル・リモ
コンも市販されてはいますが、面倒な設定が必要であるなど使い勝手の悪い
シノプシスの DesignWare HDMI 2.0 IP
シノプシスは IP ベンダの中で最も早く HDMI 2.0 対応製品を発表し、すでに
いくつものデザインへの採用が決定しているほか、28nm テクノロジ・ノー
ドでのテスト・チップも完成しています。シノプシスの DesignWare HDMI
ものが多く、必ずしもすべての機能を操作できるわけではありません。
2.0 IP には Linux® プラットフォーム用のソフトウェア・ドライバが完備し
メーカー独自の技術に基づくリモコンに代わり、HDMI 2.0 では一連の動作
など、HDMI 2.0 規格に準拠した製品の早期市場投入が可能になります。
コードを定義することで理想的なユニバーサル・リモコンを実現する CEC
(Consumer Electronic Control)2.0 と呼ばれる技術を導入しています。
一度インスタンス化しておけば、HDMI ケーブルで接続された最大 15 台の
CEC 2.0 対応機器を制御できます。たとえば、テレビ、セットトップ・ボッ
クス、DVDプレーヤーをテレビのリモコンだけで操作できるようになります。
最新技術情報
ンのインテグレーションが可能になります。
存在するのが現状です。
Technology Update
ションが提供されることにより、リスクを抑えて短期間で HDMI 2.0 デザイ
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いて、DVD、テレビ、セットトップ・ボックスなど機器の数だけリモコンが
エミュレーション・キットも必要です。これらを包括的に揃えたIPソリュー
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なっていることが消費者の大きな不満となっています。ほとんどの家庭にお
トローラ、検証用IP、ソフトウェア、オペレーティング・システム・ドライバ、
News Release
家電機器のリモコンが標準化されておらず、メーカーごとにリモコンが異
提供する IP ソリューションでは十分とは言えません。設計には PHY、コン
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CEC 2.0 をサポート
ており、これまで数週間を要していたソフトウェア開発が数時間で完了する
DesignWare HDMI 2.0 IP を用いたインプリメンテーションは、他の IP に
比べ面積、消費電力、性能の面できわめて大きな優位性があります。図 6 は、
DesignWare HDMI 2.0 TX「4K」PHY を 28nm プロセスでインプリメント
した場合のレイアウトで、面積は非常に小さく抑えられています。
低レベル・エラーの検出
デジタル
非常に広帯域の信号をエラーなく伝送するには、高品質なケーブル(なるべ
く短いもの)とコネクタが必要です。多くの場合、ケーブルの問題は画質の
低下という形で現れます。
PLL
CH2
CH1
CH0
CLK
従来の HDMI 規格は、ソース機器(セットトップ・ボックスなど)からシン
が発生してもシステムで検出することはできませんでした。
I/O リング
HDMI 2.0 は双方向通信が可能な新しいエラー検出機能を採用しており、エ
ラーの発生をシンク機器からソース機器へ報告することができます。ソース
機器はエラーの発生回数をカウントし、必要があれば帯域幅を制限して(す
なわち画面解像度を下げて)画質を維持しようとします。
オーディオ・チャネル数の大幅な増加
モードをサポートしています。
「当社がシノプシス社の HDMI IP ソリューションを採用したのは、シノプシス
社がマルチメディア分野におけるミックスドシグナルとシステムレベルの高度
なノウハウを強みとしているためです。シノプシス社が HDMI 2.0 にいち早く
対応してくれたおかげで、当社の 4K HDTV SoC に HDMI 2.0 の先進機能を取
り入れることができました。シノプシス社は信頼のおける IP ベンダとして、高
品質な製品と専門家による技術サポートを提供してくれました。これにより、
当社は HDMI 以外のチップ機能に開発リソースを集中的に投下できました」
Amlogic 社
たとえばカーナビ画面の場合、助手席からは映画が見え、運転席からは地図
が見えるようにもできます。また、この機能をテレビ・ゲームに使用すると、
1 台のテレビで 2 人のプレーヤーが別々の画面を見ながら対戦できるなど、
さまざまな応用法が考えられます。
デュアル表示モードは、2 つの偏光イメージを重ね合わせて表示し、別の角
度から見ると異なるイメージが見えるという 3D テレビとよく似た原理を応
用しています。
検証編
視聴位置が少し違うだけで 2 つの異なる映像と音声を楽しめるデュアル表示
の育成にも取り組んでいます。
Support Q&A
HDMI 2.0 では、2 つの独立したビデオ / オーディオ・チャネルを使用し、
のほか、HDMI 規格に関心のある多くの企業と緊密に協力してエコシステム
フィジカル編
デュアル表示
関与しているほか、テスト装置メーカーや大手家電メーカー、ファウンドリ
Support Q&A
います。
ています。たとえば HDMI Forum に参加して新しい仕様の策定に積極的に
論理合成編
に、HDMI 2.0 ではオーディオ・チャネルの数が最大 32 へ大幅に増加して
シノプシスは、新しい HDMI 規格のエコシステム形成に重要な役割を果たし
Support Q&A
8 チャネル・オーディオによるサウンド体験では満足できない視聴者のため
図 6. 28nm プロセスでインプリメントした DesignWare HDMI 2.0 TX「4K」PHY のレイアウト
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in DesignWare IP?
ク機器(テレビなど)への片方向通信しかサポートしておらず、伝送エラー
Senior Director of Business Development
Michael Mo 氏
詳細情報
ホワイトペーパー:How HDMI 2.0 Will Enrich the Multimedia Experience
https://www.synopsys.com/dw/doc.php/wp/hdmi_2.0_wp.pdf
●
シノプシスの HDMI IP ソリューション
http://www.synopsys.com/IP/InterfaceIP/HDMI%20Solutions/Pages/
default.aspx
●
HDMI レシーバのデータシート
https://www.synopsys.com/dw/doc.php/ds/c/dwc_hdmi_rx_csds.pdf
●
HDMI 2.0 IP の選択
HDMI 2.0 には多くの新機能がありますが、その中心に位置づけられるのが
HD を超える解像度をサポートする画素数の大幅な増加です。
商用の IP ソリューションに求められる条件としては、上質なホーム・シア
ター・システムを実現すべく設計された HDMI 2.0 の豊富な新機能をサポー
トしていることが挙げられます。しかしハードウェア・ネットリストだけを
著者紹介
Manmeet Walia シノプシス ミックスドシグナル PHY IP 担当 シニア プ
ロダクト マネージャ。15 年以上にわたり、幅広いアプリケーション分野の
ASSP、ASIC、IP 製品に関するプロダクト マーケティング、プロダクト マネジ
メント、システム エンジニアリングを手がける。トレド大学にて電気工学の修
士号、サンディエゴ州立大学にて経営学修士号(MBA)を取得。
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