事例5 1.企業情報 2.沿革

事例5
一番大切な資産=スタッフのために働きやすい職場づくりを目指して
ES(従業員満足)の向上が、CS(顧客満足)の向上をも生み出した
1.企業情報
社
名
株式会社
CS【店舗名:Carrefour(カルフール)】
所 在 地
草加市高砂2-1-20-1105
資 本 金
3,000千円
T E L
048-954-7353
業
美容室
従業員数
56人
種
事業内容
都心部に近く、歴史と産業、シニアと若者が交わる「活気ある街・草加」
で、草加駅周辺を中心に「HAIR カルフール」、「HAIR & Relaxation grow(グ
ロウ)」「LOHAS(ロハス)カルフール」「LOCO(ロコ)カルフール」など直営
5店舗、フランチャイズ2店舗の美容室と写真スタジオ「C’est Beau(セ・
ボー)」を展開しています。
経営コンセプトは「美容師の地位向上を目指した業態開発と人材育成」で
す。若手人材の育成に力を入れるほか、女性の働きやすい職場環境づくりの
一環として、複数の保育士も雇用しています。
U R L
http://cs-sa.jp/
2.沿革
平成18年
平成19年
3月
8月
9月
11月
平成21年 9月
平成22年10月
11月
カルフール(1号店)を草加駅西口徒歩1分にオープン
法人成りし、株式会社CSを設立
「経営革新計画」承認取得
カルフールロハス(2号店)を草加駅東口徒歩1分にオープン
美容室の居抜き店舗を活用し、カルフールロコ(3号店)を草加駅西
口徒歩2分にオープン
美容室の居抜き店舗を活用し、カルフール Grow(4号店)を谷塚駅
東口徒歩1分にオープン
美容室の居抜き店舗を活用し、カルフールオハナ(5号店)をせんげ
ん台駅西口徒歩5分にオープン
現在に至る
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3.
「経営革新計画」に取り組んだきっかけ
◆
従業員から経営者へ。目指していた理想と現実の差に愕然とする…
社長は、美容専門学校の卒業後、大手美容室に就職・勤務した経験を有する。勤務もち
ょうど10年目を迎えたころ、理容室を営んでいた両親が引退するという話が持ち上がる。
これを機に独立し、「楽しく働くことができる労働環境づくり」を目指そうと決意したの
は、平成18年3月のことであった。
経営者となって、目の回るような日々が続く。一歩ずつ着実に歩みを進め、新たな美容
室も何とか軌道に乗ったころ、何気なくふと自社を振り返ってみたときのことだった。
「当
初目指していた労働環境にはほど遠いではないか…」社長は、軌道に乗せた美容室の次の
ステップとして、当初の夢であった職場環境の改善に向けた取組を行う決意を固めた。
◆
やりたいことはたくさんある。しかし、何から手をつければ…
まさに初めての取組である。何から始めればいいのか、いや、そもそも何をすればいい
のか全く分からなかった。しかし、社長には強い味方がいた。創業時から常に相談をして
いた草加商工会議所である。
「きっかけ作りの第一歩として事業計画、特に行動計画を作ってみてはどうか?」とア
ドバイスを受ける。やりたいことはいっぱいあるが何から手をつけるべきかを整理する必
要があると考えていた社長に、「これだ!」と稲妻が走った。経営革新計画への取組がス
タートした瞬間であった。
4.
「経営革新計画」の実践
~ 工夫したこと、苦労したこと
テ ー マ
美容師の地位向上のための業態開発と人材育成の実施
計画期間
平成19年1月~平成22年12月(4年計画)
~
【平成19年8月承認】
◆
自社の現状分析で見えていなかったことが次々と明らかに。
事業拡大を目指す中で課題となっていた「美容スタッフの定着率向上と労働環境の改
善」を、大きな目標に据えた。そのために何が必要なのか、何を行えば実現できるのかを
追求することから経営革新の取組は始まった。そして、「新たな美容業態の開発」と「人
材育成」を同時に達成するための取組が目標に据えられた。
内部環境・外部環境、強み・弱み…自社の現状分析が進められた。その中で、夢を実現
するためには財務基盤がまだまだ脆弱であることが明らかになっていった。「一足飛びに
は夢には近づけない」
「目標を実現するためにはしっかりとした段階を踏んでいこう」。早
くも計画策定の効果が出た瞬間であった。
◆
夢に向かった3ステップ。「地に足のついた」計画を。
夢の実現のために3つのステップを刻むことが決定された。
まず1年目は、経営基盤を固め、次の展開に必要な利益を確保することを目的とし、多
様な顧客ニーズに合致した<専門的なトータル美容サービスの提供>に着手。
ついで2年目は、これら新サービスのさらなる活用を模索し、<顧客店舗と連携した出
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張ヘアメイク>を実施。草加近辺に立地する飲食店等、毎日ヘアメイクが必要な店舗にス
タッフを派遣し、ヘアメイクを施術する。
そして3年目に計画の総仕上げとして新しい業態の店舗の開店<従業員育成のための
美容室づくり>を目指すものであった。
夢の実現に向けて着実なステップを刻む「地に足のついた」計画が完成した。
◆
「新サービスの開発」と「コスト意識の浸透」。一石二鳥の効果を目指して。
「どのようなサービスが望まれるのか」。まず行
ったのは、顧客の潜在的ニーズを把握することであ
った。「お客様と2時間も話ができる仕事はほかに
はない。お客様の声を活かすのにこんなに恵まれた
仕事はない」。そう語る社長のもと、スタッフ一同
による情報収集が行われた。
その結果は、予想外のものであった。顧客のニ
ーズは、あまりに多岐に渡ったのである。そこで、
17,000人にも上る来店客のデータを徹底的
に分析。そして提供する新サービスを、美容専門
様々なサービスをワンストップで提供
分野の中でも特に当社が優位性を持つ3メニュー
「エクステンション」、「プチエステ」、「ネイル」に絞り込んでいった。
一方で、美容師にコスト感覚を浸透させることも必要であった。いわば「アーティスト」
でもある美容師は、自らが求める美を追求するがあまり「コスト」「時間単価」の感覚が
疎かになる傾向があるという。
社長は、
「1時間で1サービス」をスローガンとして掲げ、1つのサービスを一定の時
間内に完了させるようスタッフにさまざまな工夫をさせた。「分かりやすい」言葉によっ
てスタッフに浸透したコスト意識は効果を発揮し、売上向上とコストカット(回転率アッ
プ)による財務状況の改善が実現された。
「『コスト意識を持て』をか『スピードアップしろ』とか言ってもダメだっただろう。
誰にでも『分かる』言葉で浸透を図ったのが良かった」と社長は語る。
◆
固定観念を排して新たな展開を。「多様な働き方」の提供を実現。
夢を実現するための体力はついた。次に
目指したのは、従業員に多様な働き方がで
きる体制づくりである。「全ての固定観念
を排して、検討しよう」と様々な展開を模
索 し た 結 果 、 B t o C
( Business-to-Consumer 企 業 と 一 般 消
産休中のスタッフや出産後に復帰したスタッフ
費者の取引)が当たり前の美容室において
BtoB(Business-to-business 企業間の取引)への展開<顧客店舗と連携した出張ヘ
アメイク>を進めることとなった。草加近辺に立地する飲食店等、毎日ヘアメイクが必要
な店舗にスタッフを派遣し、ヘアメイクを施術するものである。
この取組の良いところは、施術する時刻がある程度見込めることであった。必要人員の
配置が計画的に行えるこの取組によって、スポット的な雇用形態を可能にした「新たな雇
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用スタイル」を確立した。当社の近隣地域に住み、結婚や出産を機に引退した元美容師や
短時間勤務希望のヘアメイクアーティストでも気軽に働けるような「多様な働き方」を整
えた。社長が目指す「楽しく働くことができる労働環境づくり」がまた一歩進んだ瞬間で
あった。
◆
社長の夢を具現化する新店舗の開店。
そして3年目、計画の総仕上げの時期を迎えた。スタッフのキャリアアップモデルを「見
える化」する。そして、その一つのゴールとして新業態の店舗をオープンさせるものだ。
従来から、新人→アシスタント→ジュニアスタイリスト→スタイリストという流れはあっ
た。しかし、アシスタントやジュニアスタイリストにはなかなか活躍の場がなく、モチベ
ーションの維持が一つの課題でもあった。
そこで、新店舗のコンセプトは<従業員育成のための美容室づくり>とし、将来独立を
希望するジュニアスタイリストに運営を任せ、施術料を低価格に抑えるものとした。この
取組は大成功を収める。「技術的にはスタイリストに及ばないものの低価格なサービス」
を提供するという、お客様にとっての選択肢を広げたこの取組は、新たな顧客層の獲得に
つながった。さらに活躍の場を与えられた従業員のモチベーションアップは離職率の低下
として表れ、会社にとっては人材育成コストの削減という副産物ももたらした。
一方で、美容専門学校への訪問を行い、積極的にインターンシップ受入を申し出た。実
践的な学習カリキュラムを組むことが可能となる美
容学校、一定程度のスキルを有した新人美容師の確
保を見込むことが可能となる当社。両者にとってW
in-Winの関係が構築された。こうして「学生
~就職~アシスタント~ジュニアスタイリスト~ス
タイリスト~独立」というキャリアアップモデルの
企業内託児施設も完備
見える化と、美容師のライフサイクルに合わせた多
様な働き方のできる受け皿の整備によって、社長の
夢は実現する日を迎えた。
◆
「スタッフが楽しく働けるために」。
社長の行動原理は明確である。
「どうすればスタッフが楽しく働けるか」、全ての行動が
この理念に基づいている。
今回の取組でも、「働きやすい環境づくりのためには、風通しの良い組織づくりが不可
欠」だと、社員とのコミュニケーション、特に現場と事務方のコミュニケーションを大事
にした。
全店舗の店長が参加するブレックファーストミーティングや、毎日8時半から勉強会な
ど、今回の経営革新の取組を機に開始された意思疎通を密に行うための取組は現在も続い
ている。
5.
「経営革新計画」の成果
◆
売上・利益の向上と客単価・リピート率の向上
新たなサービスの提供により、顧客のリピート周期が0.5ヶ月短縮。客単価も平均で
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300円アップし、売上も4倍に。
◆
従業員満足の向上と様々な就業形態による雇用の創出
従業員の定着率が向上し、一般的に平均3年と言われる本業界で平均10年を誇る。結
婚・出産で引退していた元美容師等も含め40人超の雇用を創出。
6.支援者の声
◆
草加商工会議所 山崎
修 さん
株式会社CS・逸見社長の強みは、
「行動力」と「実現力」。常に
ユニークなアイデアを数多く持ち、そのアイデアを実現するため
に常に行動する。
逸見社長との出会いは8年前で「この社長と付き合うには、常
識にとらわれた提案だけでは絶対に満足してもらえない」と、私
自身が気持ちを締めたことをはっきり覚えています。例えば、2
店舗同時オープンの創業。そして、翌年には法人成りと3店舗目
の出店。次から次へと行動する逸見社長に経営革新を薦めたのは、
そんな時でした。
経営革新を薦めるパターンとしては異例と言えるかもしれません。なぜかと言えば、
その理由は「逸見社長の行動スピードを緩めること」と「計画の進捗状況を確認する」
ため。
まず支援の最初に行ったことは、社長の考えを書面に落として整理すること。そして、
何よりも優先したことは行動計画の作成に重点を置いたこと。
経営革新計画が完成したことで、スタッフも社長の考えを理解することができ、スタ
ッフ全員が同じベクトルを持つことができました。今では、新たに事業展開する場合は
必ず事業計画を練り、そして、その計画に則って行動し、計画を実現されています。
現在、直営5店舗、フランチャイズ2店舗の美容室とレンタル衣装&写真スタジオを展
開。株式会社CSのますますの発展に期待します。
7.
「経営革新計画」成功の秘訣
◆
◆
スタッフを大切にする企業理念を掲げ、社内に根付かせていること。
目標実現のための着実なステップを刻み、実践したこと。
8.これから「経営革新計画」に取り組む皆様へのメッセージ
経営革新計画と聞くと、例えば今までに無いすごいアイデアを生み出すような、一発逆転
的な印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、弊社が考える経営革新計画の第一歩とは、
「己を知ること」。つまり、現状抱えている問題や課題をはっきりと把握することです。現
状を把握することにより、今の会社に何が足りないか、そしてこれから何をすべきかが明確
となり、自然と今後の計画も見えてきます。こう書くと、さも当たり前のように聞こえます
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が、当たり前のことができていない会社って想像以上に多いんです。大切なのは「当たり前
のことにいかに真摯に取り組み、高い精度で実現させるか」ではないでしょうか。
企業の成長に一発逆転はありません。常に改善点を探し、目標をたて、必死に知恵を絞っ
て創意工夫し、そして達成させる。その地道な繰り返しこそが、企業に経営革新をもたらせ
てくれるんだと僕は思っています。
株式会社CS
逸見 貞治 社長
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