Kobe University Repository : Kernel

 Kobe
University Repository : Kernel
Title
ES細胞における遺伝子ネットワーク解析 (助成研究報告
)
Author(s)
山中, 伸弥 / 三井, 薫
Citation
神戸大学医学部神緑会学術誌, 17: 118-120
Issue date
2001-08
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81007720
Create Date: 2015-01-31
助成研究報告一一
ES細胞における遺伝子ネッ トワーク解析
奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育センター
,
.緒言
山
中 申
イ
井
弥
(
6
2年卒)
薫
100000
距 性 幹 (ES) 細胞は?動物の早期目玉から分離され
た細胞であり,すべての細胞へ分化する能力(分化全
ト由来の ES細胞が開発され, ES細 胞 か ら 分 化 さ せ
患者に移植する治療が期待されている.細胞移植療法
記余
た心筋や神経細胞を心筋梗塞やパーキンソン病などの
(凶knu)
能性)を維持したまま,半永久的に増殖する.最近ヒ
の実現のためには, ES細胞の増殖と分化全能性の維
ある.本研究の目的は ES細胞の増殖と分化全能性維
この目的のために我々はまず ES細胞で発現する遺
I遺伝子破壊が遺伝子ネットワークに及ぼす影響を解
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を明らかにすることである.
析した.
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持における遺伝子ネットワークを解析し,その全体像
その評価を行った.次に同 DNAアレーを用いて NAT
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100
持機構を遺伝子レベルで正確に理解することが重要で
伝子を集めた ES細胞特異的 DNAアレーを作製し,
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ト
100
1000 10000 100000
未分化 (
Cy3)
図 1 ES細 胞 特 異 的 DNAJ7レーによる解析.未分
化 ES細胞由来の RNAを Cy3で,分化レチノ
イン酸 (RA) 刺激した ES細胞由来の RNAを
Cy5で標識し,アレーと反応した.実線は両
者でシグナルが等しいことを,点線は両者で 2
倍の差があることを示す.
2. 方 法
DNAアレーの作製と解析は宝酒造株式会社と共同
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l
(平均0.991)であった.標識する RNAとして T
で、行った.ノックアウトマウスの作製は米国グラッド
RNAと P
o
l
y(
A
) RNAを用いたが大きな差は無かっ
ストーン研究所と共同で、行った.
た. しかし,標識する蛍光を入れ替えて実験を行った
場合,遺伝子によってはデータのばらつきが認められ
3. 結 果
た.
1. ES細胞特異的 DNAアレーの作製と評価
ノーザンプロットとの比較
効率良く遺伝子ネットワーク解析を行うため, ES
ES細 胞 特 異 的 DNAアレーに含まれる 84遺伝子の
細胞で発現する遺伝子を集めた DNAチップを作製し
うち 70遺伝子に関してはノーザンプロットによる解析
た.遺伝子としてはレチノイン酸による ES細胞分化
も行った.まず感度について比較したが
誘導時に発現が変化すると予測される 66遺伝子,およ
で大きな違いは認められなかった.次に,各遺伝子の
びハウスキーピング遺伝子 1
8遺伝子の合計84遺伝子を
レチノイン酸による発現量変化ついて, DNAアレー
用いた.
とノーザンブロットの結果を比較した.直接比較が可
再現性
能であった 46遺伝子の中で26遺伝子はノーザンプロッ
未 分 化 ES細胞由来の RNAを Cy3で,分化誘導し
2つの方法
トにより 2倍以上の遺伝子発現変化が示された.これ
た ES細 胞 由 来 の RNAを Cy5でそれぞれ標識し,
らのうち 22遺伝子については DNAアレーによっても
DNAアレーにより解析した. ES細胞分化に伴い, 1
7
2倍以上の変化が認められた.変化率はほぼ同じ数字
遺伝子は 2倍以上発現が上昇し
が得られたが,ノーザンプロットで最大の変化率 (
6
0
8遺伝子は 2分の l
以下に減少した(図 1)
. 3回実験を繰り返したが,
倍)を示した DLK1遺伝子に関しては DNAアレーで
再現性は高く,相関係数は 0.993,0.984お よ び0.995
は 4倍の差しか出なかった.また残りの 4遺伝子につ
-118-
神緑会学術誌
いては
2
0
0
1年
第1
7
巻
種にみられる高度に分化した軟骨や筋肉細胞は認めら
DNAアレーにおいては 2倍以上の変化は認め
れなかった.
られなかった
遺伝子発現解析
性を有する蛋白質で,新しい癌抑制遺伝子の候補であ
NAT1の ES細胞分化における役割を遺伝子レベル
NAT1+
'
E
S細胞と NAT1← 細 胞
における遺伝子発現プロファイルを DNAアレーより
検討した. N
AT1
- 細 胞 に お い て は ,d
l
k1や IGFBP
る.我々はノックアウトマウスを使った解析により,
3など遺伝子など発現変化が抑制されていた(図 2).
2. N
AT1遺伝子破壊
ES細胞における遺伝子発現プ
で解析するために,
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NAT1は翻訳開始因子の一つである eIF4G と相向
1
しかし c
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n遺伝子の発現変化は
NAT1が発生初期の細胞分化に必須であることを明ら
かにした.そこで,今回 E
S細胞分化における NAT1
NAT1 ES細胞でも正常であった.これらの結果よ
りN
ATlが E
S細胞分化における遺伝子カスケードの
十
の機能を解析した.
特定経路を制制していることが明らかとなった.
NAT1:遺伝子破壊 ES細胞における分化異常
NATl遺伝子のヘテロ変異 ES細胞を高濃度の選択
4. 考 察
薬剤存在下で培養することによりホモ変異細胞を樹立
本研究においてはまず E
S細胞で発現している遺伝
NAT1遺伝子の発現
消失が確認された. N
ATl
'
E
S細胞はフィーダー細
子を集めた
胞上で未分化状態に保った場合は正常の形態を示し
た. DNAアレーの再現性は高く,ノーザンプロット
た.また全般的な蛋白質合成および増殖速度にも異常
とほぼ同ーの結果が得られた.現在,遺伝子の数をさ
した.ノーザンプロットにより
は認められなかった.しかし,
DNAア レ ー を 作 製 し , そ の 評 価 を 行 っ
らに増やした
NAT1一'
E
S細胞にお
E
S細胞特異的 DNAアレーを作製中で
ある.少数の遺伝子に関して,標識する蛍光の組合せ
いては,フィーダー細胞除去やレチノイン酸刺激によ
NATl
'
E
S細 胞
により結果が異なったり,ノーザンブロットと結果が
をヌードマウスの皮下に移植し形成された寄形腫は大
一致しなかったりする場合があった.これらは他の研
部分が未分化細胞からなり,正常 E
S細胞由来の奇形
究者によっても指摘されており,今後の課題である.
る分化誘導が障害されていた.また
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図2
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NAT1
-ES細胞における遺伝子発現. NAT1
+
-ES細胞においてレチノイン酸で
'
'
分化誘導したときに 2倍以上発現が誘導される遺伝子について, N
AT1
一一E
S細胞
'
におけるレチノイン酸刺激後の発現レベルを示す.値は N
AT1
+
-ES細胞での発現
j
レベルを 1とした時のものである.
- 119-
次にこの DNAアレーを用いた解析の結果, NAT1
参考文献
は分化に伴う遺伝子ネットワークの特定の経路を制御
1
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M.,
Miura,
K
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, Iwao,
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していることを明らかとした.翻訳開始因子に類似す
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するかは不明であるが,今回の結果は転写制御因子で
ある p300遺伝子をリボザイムにより抑制した場合と
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, Maeda,M
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類似している.現在, p300との閣連を含めて NAT1
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Iwao,
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が特定の遺伝子ネットワークを制御するメカニズムに
/
p97IDAP5i
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ついて解析をすすめている.
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