,h u x x v x x = + dv x dx v x′ =

阿部顕三・遠藤正寛『国際経済学』有斐閣アルマ
補 論
2014 年 2 月 17 日 公開
第2章
国際貿易の経済分析:基本的枠組み
Web 資料 2-1
数式による第 4 節と補論の説明
第 4 節と補論の内容を,全微分と準線形効用関数を用いて,より厳密な形で説明する。
相対価格と需要曲線
国内には多数の消費者が存在し,一般的にはそれぞれ異なる選好(好み)を持つ。ただ,
国際貿易や貿易政策が一国全体の経済厚生,あるいは効率性に及ぼす影響を考察する際に
は,一国全体の経済厚生を代表的な消費者の経済厚生から表現できれば,その考察が容易
となる。ここではその理論的背景を説明する。
(1) 個々の消費者による意思決定
まず,個々の消費者が意思決定をするとして,経済全体の需要曲線を導出してみよう。
ここでは国内に n 人の消費者がいるとする。本書では,すべての消費者が同一の選好を持
ち,さらにその選好が準線形の効用関数で表されると仮定する。このとき,第 h 消費者の
 x1h , x2h   v  x1h   x2h と表すこと
)は dv  x1h  dx1h  v  x1h  となり,第 2
第 i 財の消費量を xih として,その消費者の効用関数を u
ができる。この場合,第 1 財の限界効用( MU1
財 の 限 界 効 用 ( MU 2 ) は 1 な の で , 第 1 財 の 第 2 財 に 対 す る 限 界 代 替 率 は
MU1 MU 2  v  x1h  となる。
予算制約のもとで消費者が効用を最大にするためには,(i) 限界代替率と相対価格が等し
くなり,かつ (ii) 予算制約が等式で満たされている必要がある(このことは,ミクロ経済
学で学ぶ)
。これを式で表現すると,第 i 財の価格を Pi ,第 1 財の相対価格を p1
 P1 P2 ,
第 2 財で表した第 h 消費者の実質所得を I h として,
(i) v  x1h   p1 , および (ii) p1 x1h  x2 h  I h
となる。これらの 2 本の方程式から,両財に対する需要が決まる。この場合,(i) 式から,
第 1 財の需要は第 1 財の相対価格のみに依存することがわかる。
また,
第 2 財の需要は(ii) 式
から導出でき,第 1 財の相対価格と第 2 財で表した実質所得に依存して決まる。このよう
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に,一方の財(ここでは第 1 財)の需要で所得効果を考えなくてよいのが,準線形効用関
数の特長である。第 1 財の限界効用がその消費量の増加とともに逓減するならば, x1h が増
加(減少)すると v  x1h  の値は減少(増加)する。この関係と (i) 式より,第 1 財の相対
価格が下落(上昇)すると第 1 財の需要量が増加(減少)することがわかる。
経済全体の需要量はすべての消費者の需要量を集計したものである。(i) 式から求められ
る第h消費者の第 1 財に対する需要関数は,どの消費者についても同一の関数型であるの
で,それを x1h  x1 ( p1 ) としてみよう。すなわち, x1 ( p1 ) は v( x1h ) の逆関数である。この
とき経済全体の第 1 財に対する需要量 X 1 は, X 1 

n
h 1
xih  nx1  p1  となる。この関係を
描いたのが,図 2-W1 中の右下がりの需要曲線 D である。図 2-W1 の縦軸は第 1 財の相
対価格,横軸は第 1 財の一国全体での数量である。部分均衡分析の説明で用いた需要曲線
では縦軸に名目価格を取っているが,この図では相対価格となっていることに注意しよう。
また,第2財で表した経済全体の実質所得を I とすると,第 2 財に対する経済全体の需要
量 X 2 は,集計された予算制約式から X 2  I  p1 X1  I  p1nx( p1 ) となる。
図 2-W1 相対価格と需要曲線・供給曲線
相対価格
E
a
b
c
d
O
数量
(2) 代表的消費者による意思決定
次に,この需要曲線は,代表的な消費者が経済全体の消費量を決定すると考えても導出
できることを示そう。代表的消費者の効用関数を
U ( X1 , X 2 )  u( X1 )  X 2  nv( X1 / n)  X 2
としてみよう。この場合,第 1 財の限界効用( MU1 )は du
 X1 
dX1  v  X1 / n  となり,
第 2 財 の 限 界 効 用 ( MU 2 ) は 1 な の で , 第 1 財 の第 2 財 に 対 す る 限 界 代替 率 は
MU1 MU 2  v  X1 / n  となる。
この代表的消費者が,経済全体の予算制約の下で効用を最大にするように経済全体の両
財の消費量を決めるとしよう。この場合も,(i) 限界代替率と相対価格が等しくなり,かつ
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(ii) 予算制約が等式で満たされている必要がある。すなわち,
u  X 1   p1
v  X1 / n   p1 , および (ii) p1 X1  X 2  I
が満たされていなくてはならない。関数 v の逆需要関数は x1 ( p1 ) であるから,条件(i)より,
(i)
あるいは
X1 / n  x1 ( p1 ) となる。したがって,経済全体の第 1 財の需要量は X1  nx1 ( p1 ) となり,各
消費者が個別に消費を決定する場合と同じ需要関数を得る。
第 2 財についても同様である。
したがって,代表的な消費者が経済全体の消費を決めると仮定して議論してもよい。
相対価格と供給曲線
図 2-W1 には相対価格と一国全体の供給量の関係を表した供給曲線 S も描かれている。
完全競争下で個々の生産者は自分が生産している財の価格と限界費用が等しくなるように
供給量を決定するので,生産者の意思決定だけを考えるのであれば,供給量は他の財の価
格に影響されない。では,なぜ相対価格に依存した供給曲線が導かれるのであろうか。
(1) 個々の生産者による意思決定
たとえば,2 つの財が労働だけを用いて生産されるとしてみよう。また,第 i 財を生産す
る企業(生産者)は mi だけあり,すべて同一の技術を持つとしよう。第 h 生産者の生産量
を yih ,労働投入量を lih として,その生産関数を yih  fi (lih ) と表す。労働の限界生産物
dfi  lih  dlih  fi lih  は労働投入量の増加につれて逓減すると仮定する。経済全体の労働の
供給量は一定で,労働が完全雇用されるように労働市場で調整が行われていると考える。
労働が生産者間を自由に移動できるとすると,生産する財の種類を問わず,国内すべての
生産者において賃金率は等しくなる。ここではその賃金率を W と表す。さらに,両財の生
産物市場も労働市場も完全競争下にあるとする。
完全競争下で第 i 財の第 h 生産者が名目総利潤 ih  Pi yih  Wlih  Pi fi (lih )  Wlih を最大
化するためには,その労働の限界生産物価値,すなわち Pi fi  lih  ,が賃金率 W に等しくな
るように労働投入量を決めなくてはならない。あるいは, fi lih   W / Pi とが成立しなけれ
ばならない。そこで, fi  lih  の逆関数を li で表すと,第 i 財の第h 生産者の労働需要は
lih  li (W / Pi ) と表すことができる。したがって,第 i 財の生産に投入される総労働量 Li は,
m
Ll   hi 1 lih  mili (W / Pi ) と な る 。 ま た , 第 i 財 の 総 供 給 量 Yi は ,
m
Yi   hi 1 yih  mi fi (li (W / Pi )) で表すことができる。
(2) 代表的生産者による意思決定
次に,代表的な生産者が経済全体の労働投入量や供給量を決定すると考えた場合でも,
個々の生産者の意思決定によって得られる経済全体の労働投入量や供給量を導出できるこ
とを示そう。いま,第 i 財の代表的な生産者の生産関数を Yi  Fi ( Li )  mi fi ( Li / mi ) として
みよう。ここで,dFi ( Li ) / dLi  Fi ( Li ) と表そう。この場合も,利潤を最大にするように Li
を決定するためには, Fi ( Li )  fi ( Li / mi )  W / Pi が成立しなくてはならない。関数 f i の
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逆関数は li であるから, Li / mi  li (W / Pi ) となる。したがって,第 i 財の総労働投入量は
Li  mili (W / Pi ) となり,個々の生産者が意思決定した場合と同じとなる。また,総生産に
ついても同様である。
そこで以下では,両財とも代表的生産者が意思決定をしているとしてみよう。賃金率は
両財の生産部門で等しいので,これより両部門間で労働の限界生産物価値が等しくなる。
   P2 F2L2   W が成立している。これを相対価格 p1 を用いて変形する
と, p1 F1L1   F2L2   W P2 となる。
つまり, P1 F1 L1
ここで,第 1 財の相対価格が上昇すると,新たな価格で労働の限界生産物価値が賃金率
に等しくなるように,第 1 財の生産者は雇用する労働量 L1 を増やそうとする。このとき,
労働の完全雇用の条件から,第 2 財の生産者が雇用する労働量 L2 は減る。すると,労働の
 L1  は低下し, F2  L2  は上昇する。最終的には,新しい
限界生産物は逓減するので, F1
相対価格のもとで p1 F1L1  と F2L2  が等しくなるまで,第 2 財から第 1 財に労働が移動す
る。
こうして,第 1 財の相対価格が上昇すると,第 1 財の生産で雇用されている労働量が増
加し,その結果第 1 財の供給量が増加する。図 2-W1 の右上がりの供給曲線 S は,この関
係を一国全体の生産者について表したものである。
この例によって第 1 財の相対価格と第 1 財の供給量の関係が示されたが,一般的にも完
全競争下での生産者の利潤最大化行動と生産要素の資源制約を同時に考慮することによっ
て,ある財の相対価格と供給量の関係を導くことができる。第 3 章では,労働だけで生産
が行われるが,労働の限界生産物が一定である場合の供給曲線を導出している。さらに第 4
章では,2 つの財が 2 つの生産要素で生産される場合の供給曲線を導出している。いずれに
しても,これらの相対価格と供給量の関係を表した供給曲線は,個々の生産者の利潤最大
化行動だけでなく,生産要素市場が均衡していることも前提として描かれていることに注
意しよう。
閉鎖経済と自由貿易の均衡
この経済の均衡は,相対価格で表した需要曲線と供給曲線を用いて表すことができる。
再び労働だけで生産が行われるようなケースを考えてみよう。この経済には,第 1 財と第 2
財の財市場と労働市場が存在する。図 2-W1 の供給曲線を描く際には,すでに労働市場が
均衡していることを前提としている。したがって,ワルラス法則を考慮すれば,第 1 財の
市場で需給が一致すれば,自動的に第 2 財の市場も需給が一致し,すべての市場で需給が
一致する。
この国の閉鎖経済の均衡を見つけるためには,図 2-W1 において国内の需要曲線と供給
曲線が交差する点を見つければよい。したがって,点 E が閉鎖経済の均衡点となり,その
~
ときの均衡相対価格は p1 となる。
*
次に,この国が小国であり,自由貿易をしているとしよう。第 1 財の国際相対価格が p1 で
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ある場合,第 1 財の国内需要 X 1 が国内供給 Y1 を上回っているため,この国は第 1 財を
*
*
X 1*  Y1* だけ輸入する。これより,ワルラス法則を踏まえれば,この国は第 2 財を輸出す
る。
効用と相対価格・実質所得との関係
相対価格を用いて描かれた需要曲線や供給曲線から,代表的消費者の効用水準,あるい
は経済厚生を導出してみよう。上述の代表的消費者の予算制約式 (ii) を変形すると
X 2  I  p1 X 1 となるので,代表的消費者の効用を
U  u X 1   p1 X 1   I
と表すことができる。この右辺第 1 項は第 2 財で表した第 1 財の消費者余剰を表し,右辺
第 2 項は第 2 財で表した実質所得である。第 1 財の相対価格 p1 が与えられると,生産・消
費・所得が決まり,それによって代表的消費者の経済厚生 U が決まる。ここでは, p1 が変
化すると U がどのように変化するかを検討することで, p1 と U の関係を明らかにする。
第 1 財の相対価格 p1 が変化すると,第 1 財の消費量 X 1 が変化する。また,第 1 財と第 2
財の生産量の変化を通じて,実質所得 I も変化する。このうち後者の実質所得の変化分は,
ひとまず実質所得の外生的な変化分 dI と扱っておく。
 u ( X 1 )(dX 1 / dp1 )  p1 (dX 1 / dp1 )
 X 1dp1  dI となる。このうち, u ( X 1 )(dX 1 / dp1 )  p1 (dX 1 / dp1 ) は p1 の変化分が X 1 の
変化を通じて引き起こす効用の変化分, X 1 dp1 は p1 の変化分が直接及ぼす効用の変化分,
dI は実質所得の変化分が直接及ぼす効用の変化分である。
ここで,需要曲線上では u ( X 1 )(dX 1 / dp1 )  p1 (dX 1 / dp1 ) がゼロになる。これは,需要
量は代表的消費者の効用最大化によって導出されるため,需要曲線上では常に u ( X 1 )  p1
すると, dp1 と dI が引き起こす効用の変化分は dU
が成り立っているからである。したがって,代表的消費者の効用の変化分は
dU   X 1dp1  dI
と簡単になる。この式は
効用の変化分=-第 1 財の需要量×第 1 財の相対価格の変化分+実質所得の変化分
を意味する。
消費者余剰と生産者余剰の変化
代表的消費者の効用の変化分 dU
  X 1dp1  dI は,2 つの項から構成されている。右辺
第 1 項の  X 1 dp1 は,第 2 財で表した第 1 財の消費者余剰の変化分を各消費者について集
計したものである。たとえば,図 2-W1 において相対価格が
p1* ならば,第 1 財の一国全
*
体の需要量は X 1 となる。ここで第 1 財の相対価格が dp1 だけ変化したとすると,第 1 項に
対応した効用の変化分は,
X 1* dp1 となる。この値を図中の面積で表せば, (a  b  c  d )
となるが,d の領域は相対価格の変化分に需要量の変化分を掛け合わせた値の 1/2 であり,
相対価格の変化分を十分に小さく取ればその値を無視することができる。したがって,第 1
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項に対応した面積分は近似的に  (a  b  c) となり,第 2 財で表した第 1 財の消費者余剰の
変化分とみなすことができる。
次に,右辺第 2 項の dI は,実質所得の変化分である。先ほどは dI を外生的な変化分とし
て扱ったが,そもそも dI は第 1 財の相対価格の変化分 dp1 が各財の国内生産量の変化分 dYi
を通じて引き起こしたものであるので,ここでこれらの関係を明示的に考察しよう。
国内の生産活動によって生じた収入がすべて国内の消費者に帰属するならば,生産者の
収入総額が経済全体の名目所得となる。したがって,第 2 財で表したこの国全体の実質所
得は両財の生産額を第 2 財の価格で割った値, pY1  Y2 に等しい。
 Fi Li  とする。ここで Li は第 i 財の生産に雇用さ
れる国内労働の総量である。Yi  Fi Li  を実質所得に代入すると, p1 F1 L1   F2 L2  と表
第 i 財の一国全体での生産関数を Yi
現できる。先に述べたとおり,各生産者が利潤を最大にし,部門間で賃金率が等しければ,
両財の限界生産物価値は等しく, p1 F1L1   F2L2  が成り立っている。したがって,実質
所得の変化分 dI は
dI  Y1dp1  p1 F1L1 dL1  F2L2 dL2  Y1dp1  p1 F1L1 dL1  dL2 
となる。しかし,労働が完全雇用されていれば,両部門での労働投入量の変化の合計は 0
となるので, dL1  dL2  0 より, dI  Y1dp1 となる。
一般的にも,完全競争下の均衡においては p1dY1  dY2  0 が成立することが知られてい
るので,実質所得の変化分は dI  Y1dp1 となり,第 1 財の相対価格の変化で表すことがで
きる。
図 2-W1 において相対価格が
p1* ならば,第 1 財の供給量は Y1* となる。ここで第 1 財の
相対価格が dp1 だけ変化したとすると,効用の変化分の第 2 項(実質所得の変化分)に対応
*
するのは Y1 dp1 である。この値を図中の面積で表せば,a となるが,b の領域は相対価格の
変化分に供給量の変化分を掛け合わせた値の 1/2 であり,相対価格の変化分を十分に小さく
取ればその値を無視することができる。したがって,第 1 項に対応した面積分は近似的に
a  b となり,第 2 財で表した第 1 財の生産者余剰の変化分とみなすことができる。
このように効用の変化分は,第 2 財で表した消費者余剰の変化分と生産者余剰の変化分
を足し合わせたものに等しい。2 つの財がある場合でも,第 2 財で表した余剰の値を用いる
ことによって,あたかも部分均衡分析の場合と同じように効用の変化を表すことができる。
交易条件
一 国 全 体 の 実 質 所 得 の 変 化 分 dI  Y1dp1 を 先 に 導 い た 一 国 全 体 の 効 用 の 変 化 分
dU   X 1dp1  dI に代入すると, dU   X 1dp1  Y1dp1  Y1  X 1 dp1 となる。これは,
効用の変化分=第 1 財の輸出量×第 1 財の相対価格の変化分
を意味している。第 1 財が輸入されている場合(輸出量がマイナスの場合)
,第 1 財の相対
価格が下落すれば効用は上がる。
輸出財の価格を輸入財の価格で割った値は交易条件と呼ばれる。この数値が上昇(下落)
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するときに交易条件が改善(悪化)するという。上式からわかるように,輸入財の相対価
格が上昇(下落)すると交易条件が悪化(改善)し,それによって経済厚生が減少(増加)
する。
たとえば図 2-W1 において,第 1 財の相対価格が
p1* から dp1 だけ上昇すると,第 2 財で
表した総余剰は c だけ減少する。逆に,上式で第 1 財が輸出されている場合には上の式の
Y1  X 1 はマイナスの値となるため,輸出財の価格が上昇すると交易条件が改善し,経済厚
生は上昇する。輸出財の価格が上昇すれば,ある財を 1 単位輸出したときに,他の財をよ
り多く輸入し,消費することができる。この理由から,交易条件の改善は経済厚生を上昇
させる。
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