R1315 - 立命館大学

様式3
R1315
NEXAFS 法による金属ナノ粒子表面上に吸着した有機分子の化学状態分析
Chemical states analysis for organic molecule adsorbed on metal
nanoparticle by means of NEXAFS measurement
塚田 千恵a, 小川 智史a, 山中 恵介b, 太田 俊明b, 吉田 朋子a,c, 八木 伸也a,c
Chie Tsukadaa, Satoshi Ogawaa, Keisuke Yamanakab, Toshiaki Ohtab, Tomoko Yoshidaa,c, Shinya Yagia,c
a
名古屋大学大学院工学研究科, b 立命館大学 SR センター, c 名古屋大学エコトピア科学研究所
a
Graduate School of Engineering, Nagoya University, bThe SR Center, Ritsumeikan University,
c
EcoTopia Science Intsitute, Nagoya University
液中プラズマ法で作製した Au ナノ粒子(Au NPs)へのフォスファチジルコリン(PC)分子の吸
着反応に寄与する官能基を明らかにするために、Au NPs または Au 板表面に吸着した PC 分子に対
して N 及び O-K 吸収端 NEXAFS 測定を行った。Au NPs との反応では吸着に寄与していない PC 分
子が多く存在するため反応前後でスペクトルの変化がほとんど見られなかった。しかしながら Au
板表面では反応後にピーク強度の減少が顕著に見られ、PC 分子は親水基部で Au 表面に吸着するこ
とが示唆された。
To reveal the functional groups contributed for the adsorption reaction of phosphatidylcholine (PC) on Au
nanoparticles (Au NPs), N and O K-edges NEXAFS measurements have been carried out for PC adsorbed on
Au NPs or Au sheet. The spectra for before/after PC adsorption reaction on Au NPs do not almost change. On
the other hand, the peak intensity for Au sheet decreases significantly compared with that before adsorption
reaction. This result implies that the spectrum change depends upon the amount of the contribution of PC for
the adsorption reaction. It is thought that the PC adsorbs at the part of hydrophilic group on Au surface.
Keywords: phosphatidylcholine (PC), Au materials, adsorption reaction, N and O K-edges NEXAFS
背景と研究目的: 金ナノ粒子(Au NPs)は
医療分野でドラッグデリバリーシステム[1]
などへの応用に期待されている。しかしなが
らNPsは生体分子との吸着反応活性が高いた
め、生体に対する安全性の評価が必要である。
そこで我々は生体環境を模したin-vitro条件
でAu NPsと生体分子の吸着反応を促し、NPs
表面への吸着に寄与する分子の官能基、及び
反応後に生じるNPsの形状変化について解明
したいと考えた。生体は約 70%が水で構成さ
れるため、吸着反応は水環境下で促すことを
条件とし、また、反応分子は生体細胞膜を成
す主なリン脂質のフォスファチジルコリン
(PC)を選んだ。PC分子は大別して親水基部
と疎水基部の 2 つの部分から成っており、そ
の親水基は水素と炭素以外に窒素(N)、酸素
(O)そしてリン(P)で構成される。PC分子
は親水基または疎水基同士で結合し凝集体を
形成しやすいため、本報告では、Au NPsとPC
分子を反応させた場合の結果に加え、Au板と
PC分子の反応の結果についても記述する。そ
れは、反応後に板表面をmilli-Q水でリンスす
ることで化学吸着した分子のみを残すことが
容易に可能であると考えたためである。よっ
て本研究の目的は、吸着反応前後のN-及び
O-K吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)
スペクトルの変化から、PC分子のAu NPsへの
吸着に寄与する官能基を明らかにすることで
ある。
実験: 以下に2種類の試料及び標準試料の
作製方法、そして測定の詳細について記す。
(1)Au NPsとPC分子の吸着反応
Au NPsコロイド水溶液は液中プラズマ法
[2,3]を用い、NaCl水溶液中で2本のAuロッド
間にグロー放電を起こし作製した。続いてPC
粉末をmilli-Q水に溶かし、遠心分離にて凝集
体を沈殿させた。その上澄み液をAu NPsコロ
イド水溶液中に滴下し、吸着反応を促した。
未反応のPC分子を除去するため、反応により
生じた沈殿物を別の容器に取り出してmilli-Q
水を加えた後、再び生じた沈殿物の上澄み液
を取り除きmilli-Q水を加える、というリンス
様式3
標準試料であるAuと未反応のPC分子は、
PC水溶液をAu板表面に滴下し自然乾燥させ
て作製した。この試料をPC multilayerと記す。
またFePO4粉末はIn板に擦りつけ、O-K吸収端
NEXAFSの標準試料として測定した。
N-及びO-K吸収端NEXAFS測定は、立命館
大学SRセンターBL-2で実施した。測定は全電
子収量法(TEY)で行った。入射光エネルギ
ーは、h-BN粉末のN-K吸収端及びα-Fe2O3粉末
のO-K吸収端NEXAFSスペクトルの第一ピー
クをそれぞれ399.1 eVと529.4 eVにすること
で校正した。
結果、および、考察:
Fig.1、2 に PC/Au NPs 及び PC/Au sheet の
N-K 吸収端 NEXAFS 測定の結果をそれぞれ
赤色で示す。PC/Au NPs のデータは In 板のス
ペクトルを差し引いた後を示している
(PC/Au NPs - In sheet と記す)。また、青色で
標準試料の PC multilayer のスペクトルも示す。
PC multilayer、PC/Au NPs、PC/Au sheet の全
てのスペクトルで 403.6 eV にピークが見られ
るが、PC 分子は N-CH3 の結合を有するため、
このピークは N-CH3 のσ*(N-C)に由来すると
いえる。PC/Au NPs - In sheet と PC multilayer
のスペクトルを比較すると、394~410 eV で同
じ形状を示した。ここには示さないが、
NEXAFS 測定を行った試料と同じ沈殿物に対
して透過型電子顕微鏡による観察を行ったと
ころ、リポソームの凝集体と考えられる像が
得られ、かつ Au NPs が吸着していない箇所
(全てのリポソーム表面が Au NPs の吸着で
覆われていない状態)が多く見られた。した
がって Au NPs と未反応の PC 分子が多く存在
しているため、PC/Au NPs - In sheet のスペク
トルは PC multilayer と比べて変化が見られな
かったと考えられる。一方で、PC/Au sheet
は PC multilayer と比較して 403.6 eV のピーク
強度が減少している。これは PC 分子が Au
板表面に N-CH3 のメチル基で吸着し、Au 板
からσ*(N-C)に電子が流入したことや、N-C 結
Total Electron Yield (arb. units)
(2) Au板とPC分子の吸着反応
Au板をPC水溶液中に浸して吸着反応を促
した後、板表面をmilli-Q水でリンスして化学
吸着した分子のみを残した。この試料を
PC/Au sheetと記す。
合が解離したために生じたと考えられる。
N K-edge (TEY)
403.6eV
σ*(N-C)
400
410
420
PC multilayer
PC/Au NPs - In sheet
400
405
410
Photon Energy (eV)
415
Fig.1. N K-edge NEXAFS spectra for PC/Au NPs In sheet and PC multilayer.
Total Electron Yield (arb. units)
の作業を数回行った。沈殿物はIn板に滴下し、
自然乾燥させた。この試料をPC/Au NPsと記
す。
403.6eV
σ*(N-C)
N K-edge (TEY)
PC multilayer
PC/Au sheet
395
400
405
410
415
Photon Energy (eV)
420
425
Fig.2. N K-edge NEXAFS spectra for PC/Au sheet
and PC multilayer.
Fig.3 に PC/Au NPs - In sheet、PC/Au sheet、
PC multilayer および FePO4 粉末の O-K 吸収端
NEXAFS 測定の結果を示す。PC 分子は O-C
及び O-P の結合をもつ。岡島らは PC 分子で
はないが、有機分子について、Fig.3 に示す位
置に O=C や O-C 結合に関するπ*及びσ*のピ
ークや肩構造が見られると報告しており[4]、
これらの位置は本研究で得られたスペクトル
の位置とも一致した。また、O=P 及び O-P 結
合をもつ FePO4 粉末のスペクトルにもπ*やσ*
に起因するピークや肩構造が確認され、それ
らの位置についても近いピーク位置に同様の
結果が得られた。PC/Au NPs - In sheet と
PC/Au sheet の ス ペ ク ト ル に つ い て 、 PC
multilayer のそれと比較してそれぞれピーク
強度が減少しているため、上記の結合の酸素
原子にて Au NPs や Au 板表面に吸着している
と考えられる。特に、PC multilayer に見られ
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た 531.5 eV のπ*の鋭いピークの強度が減少し、
かつ 545 eV 付近の肩構造が PC/Au NPs - In
sheet や PC/Au sheet では消失していたことか
ら、PC 分子は O=C や O=P の酸素で結合し、
それら二重結合が解離したと推測される。こ
の結果は、あいちシンクロトロン光センター
や広島大学放射光科学研究センターで実施し
たリン K 吸収端 NEXAFS 測定の結果から得
られた吸着モデルとも一致する。以上の結果
から、PC 分子は親水基部の全体で Au 表面に
吸着していると考えられる。
O K-edge (TEY)
536.4 eV
O1s→σ*(O-CH 2)
[4]
Total Electron Yield (arb. units)
534.4 eV
O1s(O-C)→π*(O=C)
[4]
538.3 eV
539.5eV
around 545 eV
O1s→σ*(O=C) [4] and σ*(O=P)
531.5 eV
O1s(O=C)
→π*(O=C)
[4]
PC multilayer
PC/Au NPs - In sheet
540.0 eV
O1s→σ*(O-C) [4]
around 545 eV
O1s→σ*(O=C) [4] and σ*(O=P)
PC multilayer
PC/Au sheet
544.6 eV
O1s→σ*(O=P)
530.2 eV
O1s(O=P)
→π*(O=P)
537.3 eV
O1s→σ*(O-P)
FePO4 powder
531.5 eV
O1s(O-P)→π*(O=P)
520 525 530 535 540 545 550 555 560 565
Photon Energy (eV)
Fig.3. O K-edge NEXAFS spectra for PC/Au NPs In sheet, PC/Au sheet, PC multilayer and FePO4
powder, respectively.
文 献
[1] F. Wang, Y.-C. Wang, S. Dou, M.-H. Xiong,
T.-M. Sun and J. Wang, J. Am. Chem. Soc. 5
(2011) 3679.
[2] H. Nameki, private communication in Aichi
Prefectural Technical Report (2010).
[3] T. Mizutani, Y. Abe, H. Hamaguchi, H.
Nameki and S. Yagi, Thomson Reuters database
(2012).
[4] T. Okajima, K. Hara, M. Yamamoto, K. Seki,
BUNSEKI KAGAKU 59 (2010) 477.
論文・学会等発表
[1] C. Tsukada, T. Tsuji, K. Matsuo, G. Kutluk, H.
Nameki, T. Yoshida, S. Yagi,
The 4th International Symposium on Surface and
Interface of Biomaterials : ISSIB2013 (口頭発
表)
[2] 塚田千恵、松尾光一、野本豊和、アーリ
ップ・クトゥルク、沢田正博、生天目博文、
谷口雅樹、吉田朋子、八木伸也、
第 27 回日本放射光学会年会・放射光科学合同
シンポジウム (ポスター発表)