Title 細菌の薬剤耐性に関する研究: 第9報 薬剤耐性結核菌;pdf

Title
細菌の薬剤耐性に関する研究: 第9報 薬剤耐性結核菌感染マウスの治
療実験
Author(s)
石井, 俊和; 荒井, 正宏; 柳下, 靭男; 毛利, 正
Citation
金沢大学結核研究所年報 = Annual report of the Research Institute of
Tuberculosis, Kanazawa University, 16(1): 95-99
Issue Date
1958-06-20
Type
Departmental Bulletin Paper
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/2297/41221
Right
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http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
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細菌の薬剤耐性に関する研究
第 9 報
薬剤耐性結核菌感染マウスの治療実験
金沢大学結核研究所細菌免疫部(主任
柿下正道教授)
石 野 俊
和
荒 井 正
宏
柳 下 靱
男
毛 利
正
(受付:昭和32年12月2日)
緒
言
結核化学療法の進歩と普及に伴ない,薬剤耐
核剤の治療効果を検討し,或程度の効果を期待
性結核菌の出現は重要な研究課題となって来
しうると報告しているが,今回私達はSM耐
た.
性結核菌(10,0007/ml耐性)(SM-R]及び
この問題につぎさきに当教室の松田'),三枝3)
INH耐性結核菌(1007/ml耐性)[INH-R):
は患者より分離せる薬剤耐性結核菌を使用した
で感染したマウスに対し当該薬剤の効果を追究
実験的結核モルモット及びマウスに対する抗結
しいさ上か知見を得たので報告する.
実験材料並びに方法
1)実験動物は体重20gm前後の雑系マウスを用い,
使用菌株は当教室保存の人型結核菌H2株より得られ
たSM耐性株(10,000r/mlSM-R)INH耐性株
(100r/mllNH-R)で,マウスへの接種はソート
治療群の半数は治療終了翌日(早期剖検群とする)
残り半数は治療終了2週間後(後期剖検群とする)エ
ーテル麻酔にて殺し実験に供した.(第1表参照)
3)観察方法:実験動物は各週毎に体重の測定を行
ン培地に発育した3週間目の菌苔を吸湿,秤量,磨砕
い,剖検時には肺,肝,脾及び淋巴腺の肉眼的病変度
し,生理的食塩水で1mg/0.1mlの菌液を作りその
を観察した.
0.1mlの腹腔内注射によった.
2)治療方法:供試マウス20匹ずつにSM-R又は
又実験群ごとにマウスの各臓器ごとに0.1gmあて
集めてすりまぜ,これを1%苛性ソーダ液をもって
INH-Rを接種し,各感染マウスのうち14匹を治療
1;10又は1:100に稀釈しその0.1mlずつを1%小川培
群とし,残りの6匹を非治療群の対照とした.治療は
地4本にうえ菌定量培養を行った.(又一部は10%フ
腹腔内接種後15日目より4週間行った.薬剤はSM−R
ォルマリン水で固定し,病理組織標本を作製したがそ
感染マウスにはSM,INHF=R感染マウスにはINH
の成績については別に報告する)
のそれぞれ10mg/kgを週6回背部皮下に注射した.
石野・荒井・柳下・毛利
96
ー
−
−
一
−
−
−
−
一
一
一
中
一
一
千
一
一
一
実鹸 成績
群の肺の病変度は治療群よりやや強かったが定
1)SM-R感染マウスにおける成績
量培養の成績は早期ではSM群>対照群で後期
a)体重の増減(第1図参照)
一般に治療群,非治療群共に体重の増加が見
においてはSM治療群=対照群であった.
2)INH-R感染マウスの成績
られ両群の増加度に著差は認められなかった.
a)体重の増減
b)剖検時肉眼的所見
一般に治療群,非治療群の両群共に体重の増
i)肺の所見(第2図参照)
両群において共に結節を認め早期に剖検した
加が見られたがその増加度に差異はなかった.
ものでは両群の間に病変度の差異はほとんど認
b)剖検時肉眼的所見
められなかったが後期においては非治療群の病
i)肺の所見(第2図参照)
変は強く治療群との間に差異が認められた.
両群共に病変はSM-R接種群に比し軽く,
結核結節は両肺に数個認められる程度で両群の
ii)脾の所見
脾の病変は肉眼的には発赤並びに腫脹あるい
は実質性肥大(×1.2∼×3.O)であるが治療群
の1例(No.18)を除く全例において変化を認
間にほとんど差異は認められなかった.
ii)脾,肝の所見
腫脹発赤を認め,両群間に差はなかった.
iii)淋巴腺所見
めたが両群間に差異は見られなかった.
肺門腺,肝門腺,鼠膜腺:殆ど全例に腫脹
iii)肝の所見
病変は脾と同様であるが程度は遥かに軽い.
を見たが両群の問に程度の差異は見られなかっ
両群の間に差異は見られなかった.
た.
iV)淋巴腺所見
c)臓器内結核菌の定量培養成績(第2表参照)
肺門腺,肝門腺,鼠膜腺:非治療群の全例に
腫脹を認めたが両者間の差は明かでなかった.
c)臓器内結核菌の定量培養成績(第2表参照)
INH-R感染群における集落数は肺>肝=脾
であったが非治療群と治療群の間に差は認めら
れなかった.
SM-R感染群の臓器内生菌数は肺>脾>肝の
小括2..
順であり,早期剖検群ではSM治療群>対照
以上の実験成績を要約するとINH-gR接種
群の関係にあったが後期ではSM治療群=対照
群では治療群と対照群との間に肉眼的病変の差
群となった.
は認められなかった.しかしてその肺の病変は
小 括 1
SM-R感染群に比し軽度なものが多かった.
以上の実験成績を要約すれば,早期剖検群に
各臓器の定量培養成績も治療群と対照群との間
おいては,治療群と対照群との間に所見の差は
に大差は認められなかった.
認められぬ様であったが,後期剖検群では対照
考
薬剤耐性結核菌による実験的結核症に対する
接
治療に関してはいまだ定説がないが松田')註')
註.81)患者荒永の喀暎より分離せる菌株で荒永株といわれSM10,000r/ml,PAS400r/mlに完全耐性
を示した.
註:2)患者米谷の喀咳より分離せる菌株で米谷株といわれSM1,000r/ml,PAS並びにINH107/mlに
完全耐性を示した.
’
細菌の薬剤耐性に関する研究
一■一一一一一■ー_−−−一一一−一一一−−−−=−−一一一一一一一④−−−今一一一一一一一一一_−−一一一一
.97
一 一 − 一 一 一 一 ー マ ー ー ー − − − − ■ −
岡田2),三枝3)註2)はSM耐性菌に対するSM
治療の効果が或程度期待されると報告している
し又,SMは一般的な生体防衛機能を昂進させ
SM治療を病変より見れば剖検の時期によって
はやや有効のごとくであったが,臓器内菌数で
ると報告4)5)6)7)するものもある.
は殆ど無効と推定された.
しかし一方には動物実験で無効であると主張
するものも少くない8)9)10)
本実験ではSM耐性菌感染マウスに対する
INH耐性菌に対するINH治療の効果に関
しては三枝3)により重複耐性結核菌感染マウス
最近小酒井等11)は臨床的にSM・PAS併用
の場合はSM107/ml,PAS17/mlの双方に耐
性の場合,PAS・INH併用の場合はPAS
17/ml,INH17/mlの双方に耐性の場合,SM・
PAS・INH併用の場合はSM10r/ml,PAS
17/ml,INH17/mlのいづれにも耐性の場合
に対するINH治療は有効であったと報告して
いるが,そのINH耐性度はわれわれの使用菌
株に比べ低いものであった.
本実験ではINH耐性菌感染INH治療マウ
スにおいても病変度,定量培養成績共に対照群
とほとんど差が見られなかった.
に臨床効果が期待出来ないと報告している.
結
論
私達は人型結核菌H2より分離したSM耐性
ぞれ当該薬剤をもって治療終了後病変度並びに
株並びにINH耐性株を腹腔内に感染したマウ
臓器内結核菌の定量培養成績を非治療群と比較
スに対し当該薬剤による治療を行い次の如き結
するにほとんど差を認めなかった.
よって高度薬剤耐性菌の感染に対しては当該
果を得た.
SM耐性菌並びにINH耐性菌感染群にそれ
文
薬剤の治効は期待出来ない.
献
1)松田知夫:金大結研年報,12(下),17,
微病誌,4,311,1951.7)塩谷一雄:金大
1954.2)岡田景俊:金大結研年報,13(中),
結研年報,13(中),145,1955.8)手塚孝:
37,1955.3)三枝慶一郎:金大結研年報,
結核,31,17,1956.9)Youmans,G・P.,
15(上),53,1957.三樹蕊一郎:東京医事
etal.:Proc.,Soc・Exp・Biol.&Med.,63,131,
新誌,74(12),21,1957.4)野中宏:日本
1946.10)Feldman,W、H.,etal.:Am・Rev.
病理学会々誌,39(地方会),16,1950.
Tbc.,57,163,1948.1・1)小酒井望,他:
5)尾関一郎:結核,27(5),5,1952;27(6),
最新医学,12(12),129,1957.
1,1952;27(7),22,1952.6)生垣賢:日
石野・荒井・柳下・毛利
98
−
第 1 表 実 験 方 法
0 1 2
擬似
↓↓↓’
非治療 治療
早期 剖検群
R
,
,
I
。
↓
1
.
×
↓
<一……………・…………………。.…一矛×
リ
ニリ
●
|
後期剖検群
非
治療一治療
腓感染群又は崎感染群
SI
4 3 5 8
0 1 5
日
。中
L
一一 ↓
l r↓
一一
3 4
↓
一 一 ×
一
↓
そ一・・・・・・0・・・●■・0・・・・・●・・・DDD●・・・・●・DC・・・・●・・●●●ー炉
↓感染←………←投薬期間×剖検
第2表臓器内結核菌の定量培養成績
肺
蕊
脾
肝
xlO×100
×10×100
×10×100
冊458
61058
1,105223
920216
13015
297179
15615
17311
34554
冊660
14938
9323
49275
33541
45539
671109
13156
18558
50556
44234
1086
471162
26892
7227
タリ1淵
ムー後割
口
爵
植
甘日通
註:1)各数値はマウス1頭よりの臓器0.1gmあて集めてすり混ぜ,その
10倍又は100倍稀釈したもの0.1mlより発育した集落数にして,培
地4本の集落平均値である.冊……集落数1,000個以上
2)培養日数…………5週間
×
99
第1図体重増加曲線(%)
耐H耐性菌感染群
SM.耐性・菌感染群
齢,
%
回﹄同U旧§夕t囚
140
J30
120
テーマー巳
110
100
I
週
5
1 2 3 4 6
7 8 週
第2図治療実験における肺剖検所見
1)SM治療群
治療終了直後剖検(早期剖検群)治療終了2週後剖検(後期剖検群)
対 照
I
治 療 群
輔 照
治 療 群
ロ ■ 一
1
2
﹃口。。
緋十十上
肺病変度
4坪均 71819110116117FFI
腿=
3 5
6 坪均 、
3
: 14 、
1
1
.1
1
5
18 1
9
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一 一
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Kげ
2)INH治療群
治療終了直後剖検(早期剖検群)
対霞
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治療終了2週後剖検(後期剖検群)
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、治療群
4
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肺病変度
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81 32 38 39 40
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−肉眼的変化のないもの
+かろうじて結節を認めるもの
+結節10ヶ以内
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細菌の薬剤耐性に関する研究
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結節10ケ以上
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