FT/IR application data

FT/IR application data
新しい FT/IR 分析情報
Date
●080-AT-0236
July 1, 2014
●VIR-100/200/300 用オートコンタクト ATR による粒状ガムの測定
1. はじめに
赤外分光法における ATR 法は、試料とプリズムを密着させることで試料の表面情報を取得する測定
手法です。日本分光では、従来手動で行われていた試料押さえ部の昇降を電動・自動化したオートコン
タクト ATR を開発しました。オートコンタクト ATR は、試料とプリズムの密着圧力を再現性良く制御
できます。この特長を活かして、壊れやすい試料や変形しやすい試料に対する密着圧力を制御すること
で測定した事例や、VIR に標準搭載されている合否判定機能と組み合わせたルーチン測定事例について
報告しました(FT/IR application data 080-AT-0235)
。
今回は、オートコンタクト ATR を利用した新たな応用事例として、試料圧着回数によるスペクトル
変化を粒状ガムをモデルサンプルとして測定しましたので報告します。
2. 測定
チューインガムは、板状・粒状などの形態だけでなく、噛んだ際の食感、味の持続時間などが異なる
様々な商品が市販されています。これらの比較を感覚的ではなく、数値を基に行うことができれば製品
評価などに応用できると考えられます。
そこで今回は、市販の粒状ガムをプリズム上に設置し、人間の咀嚼動作を再現した条件を設定して測
定を行いました。平均的な成人男性の咬合力は約 65kg と言われており、歯 1 本(組)当たりに換算す
ると平均約 4.6kg となることから、この値を密着圧力に設定しました。さらに、咀嚼動作を再現するべ
く ATR の試料押さえの昇降を 100 回繰り返し、昇降ごとにスペクトルを取得しました。VIR 用スペク
トル測定プログラムに標準搭載されている繰り返し測定機能とオートコンタクト ATR を組み合わせれ
ば、ボタン 1 回の操作で試料押さえの昇降と測定を自動的に繰り返し行うことが可能です。
<測定条件>
装置:
VIR-100
-1
分解:
4 cm
積算:
16 回
測定法: ATR 法
検出器:
DLATGS
測定回数:100 回
付属品: ATRS-100-VIR+AC-ATR-VIR
(プリズム:ZnSe)
密着圧力:260kg/cm2(プリズム面上基準)
4.6kgf(試料押さえ負荷重量)
図 1 試料設置イメージ(枠内:拡大)
本社・工場 192-8537 東京都八王子市石川町 2967-5 TEL 042(646)4111 代表 FAX 042(646)4120
東京 03(3294)0341 / 北海道 011(741)5285 / 北日本 022(748)1040/筑波 029(857)5721 /西東京 042(646)7001 /
神奈川 045(989)1711/名古屋 052(452)2671 / 大阪 06(6312)9173 / 広島 082(238)4011/九州 092(588)1931
3. 結果と考察
昇降 10 回までのスペクトルを図 2 に、100 回までの 10 回ごとのスペクトルを図 3 に示します。1740cm-1
近傍および 1235cm-1 近傍にエステルの吸収ピークがあることから、このガムはベースに酢酸ビニルが使用さ
れていると考えられます。また、745cm-1 近傍にはキシリトールに帰属されるピークが確認できます。そこで、
これらのピーク強度変化に着目しました。まず、ガムベースの 1740cm-1 近傍のピーク強度変化に着目し、ピ
ーク高さの変化をプロットした結果を図 4 に示します。5 回目程度まではピークが増加し、以降はピーク強度
が比較的安定することがわかりました。さらに、キシリトールの 745cm-1 近傍のピーク高さ変化をプロットし
ました(図 5)
。40 回程度までは徐々にピーク強度が増加し、以降はピーク強度がほぼ一定となることが確認
できました。これらのことから、ガムを噛んだ際に、ガムベースは噛み始めの早い段階で歯になじみ、味や成
分(キシリトール)は徐々に表面に浸み出してくるということがわかりました。
0.35
0.7
0.3
0.6
Ab
Abs
0.4
0.2
1800
1700
Wavenumber [cm-1]
Abs
0.2
0.1
0
740
760
720
Wavenumber [cm-1]
Abs
0
2000
4000
図2
Wavenumber [cm-1]
1000
4000
650
650
Wavenumber [cm-1]
図3
1~10 回のスペクトル変化
0.08
1000
2000
1~100 回のスペクトル変化(10 回毎)
0.15
0.07
40 回以降ではピーク
5 回以降ではピーク
Abs
0.1
Abs
強度は安定
0.06
強度は安定
0.05
0.05
0.04
0.03
1
2
4
6
8
10
1
20
密着回数
図4
-1
1740cm (酢酸ビニル)の
ピーク高さ強度変化
40
60
80
100
密着回数
図5
-1
745cm (キシリトール)の
ピーク高さ強度変化
このようにオートコンタクト ATR は、チューインガムをはじめとする食品等の試料を繰り返しプレスして
その変化を追跡するのに有効なことがわかりました。本測定のさらなる展開としては、アミラーゼ等の酵素を
添加し、37°C 程度の恒温*状態で測定を行うことで、より口内に近い状態を再現して詳細な評価できると考え
られます。
*恒温・加熱での ATR 測定についてはご相談ください。