まちづくりとしての公共FMに向けて

Campus Planning and Management Office
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Facilities Management Department
Nagoya University
まちづくりとしての公共FMに向けて
田原市 公共施設あり方検討委員会
2014.02.25
名古屋大学
Kazuhisa Tsunekawa
恒川 和久
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本日お話しする内容
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公共施設の課題 ∼問題の本質は?
田原市公共施設の特性 ∼把握すべき実態
総量縮減 ∼西尾市施設再配置実施計画より
利用の構想力 ∼他都市の事例から
まちづくりとしてのFM 公共施設の課題
∼問題の本質は?
公共施設に関わる3つの問題
1.施設の急速な老朽化 公共施設の多くは、都市化の進展とともに、国の施策方針
等にしたがって集中的に整備されてきた。これらのストッ
クを一斉に更新する時期が迫っている。
2.人口の減少と少子化・高齢化
人口減少、少子化・高齢化が進み、住民のライフスタイル
の変化とともに、公共サービスのあり方が問われている。
3.厳しい財政状況 生産年齢人口の減少や、長引く景気の低迷により、自治体
の財政状況は厳しさを増し、必要性の高い公共施設まで良
好な状態で保てなくなる恐れがある。
田原市/建設年別公共施設面積
旧耐震基準
高度経済成長期
合併
バブル崩壊後の 合併特例債 公共投資
による建設
田原市/公共施設累積面積と人口の推移
人口
それほど人々の公共施設ニーズは増えたのか?
公共FMにおける問題の本質は?
高度経済成長期に形成された法律や制度
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そこから脱却し得ていない政治
法律を守り、予算を執行する行政
相互扶助システムが崩壊し、「お上」に頼る市民
20世紀型の経済制御システムは機能しているのか?
FMに取り組んでいる自治体
•  政令指定都市、県庁所在都市
•  首都圏、関西圏、中部圏の大都市近郊都市
•  合併した(一部の)自治体
自治体におけるFMの気運は大きく高まっているが、
未だ公共施設の課題に気付いていない
(より財政力の低い)自治体にこそFMが必要
ファシリティマネジメント(FM)とは
組織の目標達成のために、ファシリティを経営資源として
① 経済的なコストで
② 良好なファシリティを
③ 最小必要なものをタイムリーに
長期にわたって提供すること
公共施設の課題を
3つの目標別にみると・・・
・資金不足
・運営費不足
財務
・老朽化
・耐震化
・リスク対応
・新サービス対応
品質
供給
・余剰施設
・不足施設
財務・品質・供給の目標達成のためのマネジメント
公共施設のFM二大戦略(一般論として)
<現在の施設群>
<将来の施設群>
現在余剰
量
①
施
設
総
量
顕在・潜在
見
直
将来余剰
資
産
質
見
直
適
正
化
見
直
② 計画保全による長寿命化
見
直
将来付加
目標設定のためには適切な情報を共有することが重要
→ そのための公共施設白書
公共FMは自治体経営の本質である
マネジメントは組織固有の使命を果たすためにある
企業は顧客を満足させることによって支払いを受ける。
公的機関は予算によって運営される。成果や業績によって
支払いを受けるのではない。
P.F.ドラッカー「マネジメント∼基本と原則」より
公共FMの推進には、自治体の真のマネジメントが不可避 教育、医療、福祉、文化、等、多くのサービスが「ハコ」
で提供される。しかし、公共サービスのあり方そのものが問
われている。防災、まちづくり、環境・・・、を含めて。
その自治体にしか存在し得ない、場所に根ざした施設を如
何に使うか?
公共FMは自治体経営の目標を具現化する
本質的な取組である。
田原市公共施設の特性
把握すべき実態
人口と公共施設面積(東海4県人口20万人以下の自治体)
西尾市
K市
田原市
Y市
M市
H市
※各自治体の公共施設面積は、東洋大学PPPセンター公開資料「全国自治体公共施設延床面積データ」による
可住地人口密度と住民一人あたり公共施設面積
田原市
K市
全国平均 3.45 ㎡/人
M区
西尾市
Y市
H市
※各自治体の公共施設面積は、東洋大学PPPセンター公開資料「全国自治体公共施設延床面積データ」による
田原市 ライフサイクルコストと財政状況
•  耐用年数を60年とした場合、将来50年の間、年間平均
約40億円必要。
•  平成24年の普通建設事業費及び維持補修費決算額は、
約8億円。
→このまま、すべての公共施設を維持更新することは困難
施設用途ごとポートフォリオ ∼保育園
•  昭和55年前後に一斉に建設されており、相対的に築
年数が長く、劣化が進んでいる。
•  施設設置時の定員に対する充足度は約50%。
→ 民間委託・幼保一体といった解決も必要では?
被災想定と公共施設配置
•  南海トラフ巨大地震発生時に市域の約13%が津波浸水
想定区域となることを予測。
•  津波によって被害を受けると想定される公共施設が、
37施設ある。
公共施設白書の課題?
○「田原市公共施設白書」を見て
• 公共施設やその立地は災害に強いか?
• 施設の老朽化を更新や改修によって長寿命化する予算が将
来にわたって確保できるか?
• 各施設の市民の利用状況には偏りが多いのでは?
• 地域コミュニティのニーズに沿った施設となっているか?
• 高齢化や人口減少を見据えた施設の立地となっているか?
• 総合計画や都市マスタープランと整合しているか?
(総合計画は街の方向性を示しているか?)
○ 白書は目的ではなく手段 ブームだからつくるのではない
○ 先人たちが築いてきたモノを適切に評価し、
優先的に考えるべきことの見極めが大事
公共施設白書で語られるべき情報
財務
運営経費
老朽度
耐震性能
品質
施設総量
稼働状況
供給
(白書では)施設自体の品質に関するデータは少ない
•  耐震性能、老朽度、バリアフリー性能以外にも、立地、
品格、防災性、環境性といった、土地や建築が備える
(数値化しづらい)品質性能があるはず
•  現在の利用状況はあるが、潜在的なニーズ(あるべき
サービスレベル)を探ることはできていない
各自治体の用途別住民一人あたり公共施設面積
6.09 ㎡/人
3.75 ㎡/人
3.29 ㎡/人
2.38 ㎡/人
※用途区分は自治体データにより異なるので要注意
2.26 ㎡/人
田原市の公共施設の特徴
人口が少なく、財政状況が厳しい自治体ほど、人口減
少度合いが厳しく、維持すべき公共施設面積も大きい
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3市町合併による格差解消のねじれ
半島という他地域に依存しづらい立地
市民館の存在∼他自治体のコミュニティ施設にない規模
保育園、市営住宅 ←→ 福祉施設
余裕のある施設規模 圏域の広さによる利用率の低迷
自動車利用に依存した施設立地
災害危険地域での施設立地
→まだまだ見きれていない状況を丁寧に見ることが重要
総量縮減の方策
西尾市施設再配置実施計画より
ポートフォリオによる公共施設再配置の方向付け
西尾市公共施設再配置基本計画より 評価軸の設定が重要だが、
再配置実施に向けてプロットできている自治体はほとんどない
西尾市 公共施設再配置工程表(ロードマップ)
西尾市 公共施設再配置を進める上での基本理念
■基本理念1
公共施設の3M(ムリ・ムラ・ムダ)の解消と
リスクマネジメント(危機管理戦略)
・財政規模にふさわしい経営規模(行政サービスの範囲)に見直し
・公共施設にかかるコストは自治体経営の舵取りに大きく影響
・新たな公共施設の建設は施設のスクラップ&ビルドを条件に
■基本理念2
ハコモノに依存しない行政サービスの提供
∼施設重視から機能優先へ∼
・建設本位の「ハコモノ行政」の後遺症
・選択と集中で限られた財源(税金)を本当に必要な行政サービスに
・一機能・一施設」という従来型の施設配置のあり方からの脱却
■基本理念3
市民と行政が共に考える公共施設の未来
・各地域に公共施設を全く同じバランスで配置することは不可能
・補完性の原理(自助)(共助)(公助)
西尾市 公共施設再配置基本方針
■基本方針1
人口減少に伴って、機能を維持する方策を講じながら、公共
施設の保有総量を段階的に圧縮するため、原則として、新た
な公共施設は建設しない。
ただし、政策上、新たな公共施設の建設を計画した場合、既
存施設の廃止を進めることで、施設の保有総量の抑制を図る
ものとする。
■基本方針2
現有の公共施設が更新(建替)時期を迎える場合、機能の優
先順位に基づき施設維持の可否を決め、優先度の低い施設は
原則として、すべて統廃合を検討する。
■基本方針3
公共施設のマネジメントを一元化して、市民と共に公共施設
再配置を推進する。
西尾市 公共施設再配置実施計画(案)
新たなまちづくりの出発点∼8つの再配置プロジェクト
1. 
2. 
3. 
4. 
5. 
6. 
7. 
8. 
吉良地区の多目的新生涯学習施設整備等のための再配置
一色地区の新公共空間創造等のための再配置
学校教育関係施設の長寿命化等のための再配置
資料館機能(重複施設)の再配置
弓道場機能(重複施設)の再配置
地区集会施設機能の再配置
未利用・低利用施設の再配置
再配置戦略の継続的な推進のためのFM施策
吉良地区の多目的新生涯学習施設整備等再配置
一色地区の新公共空間創造等のための再配置
中日新聞 西三河版 2014年2月8日
西尾市 公共施設再配置実施計画(案)
西尾市 公共FMプロセスにみるFM er の役割
地味な取組でもできることからやる
→成果と引き換えに環境を整える 先進事例に学ぶ 先進自治体連続講演会で庁内にFMを浸透
金をかけずに行う、つかえる人を使う
データベースは手段。最初から過大なシステムをつくらない
白書も自前で、毎年成果を重ねてバージョンアップ
計画は大胆に、実施は慎重に緻密に
住民ワークショップによる実施方針策定
サービスプロバイダー方式の事業提案型PFI
必要十分条件(組織・データ・トップの理解・予算・・・)を
整えてからのFM導入は非現実的
利用の構想力
他都市の事例から
公共施設再配置の方策
1)機能集約による総量削減
2)異種用途の複合化、集約化、合築化
3)広域化、国・県・自治体間連携
4)民間への権限委譲、運営委託
5)PFI,PPP等による民間の知恵の導入
•  縦割り区分に基づく施設種別を超えて、市民のニーズに
あった 器 としての複合的施設で対応
•  特に(公共施設配置の基本単位である)小学校をコミュ
ニティの核にすべき
•  数値化しにくい施設の 場所 や 建築 の価値を見極めるこ
とも重要
「武雄市図書館」という挑戦
常識を打ち破ることが、 市民価値の向上に繋がる。 公共施設のイノベーション
開館1ヶ月で10万人来館
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TSUTAYAが指定管理者として運営
スターバックスの珈琲を手に読書
365日21時まで開館
20万冊の蔵書。その9割が書架に並ぶ
600タイトルのマガジンストリート
書籍販売や音楽・映像レンタルの蔦屋書店
T カードの導入、ポイント付加
「武蔵野プレイス」その街に住みたくなる公共施設
•  図書館、生涯学習センター、市民活動センター、青少年センターといっ
た公共施設の類型を超えて機能を融合
•  人を集める「場」の力を生み出す建築設計
•  全庁的な予防保全の推進等、FMに基づく施設の位置づけ
•  武蔵野コミュニティ方式といわれる「自主三原則(自主参加、自主企画、
自主運営)」のもとに、市民の手で運営。
「アオーレ長岡」まちなかに市役所を再編
用事がなくてもぶらりと
立ち寄れる場所
本庁・窓口機能と災害対策
本部以外の庁舎機能は、ま
ちなかに分散配置
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全天候型の「ナカドマ(屋根付広場)」
1階&ガラス張りの「議場」
ナカドマと一体利用が可能な「アリーナ」
市役所の「コンビニ・カフェ」
指定管理者制度ではなく市の直営でもない アオーレモデル
利用する市民の視点に立ち、自由度の高い運営を実現するために組織化
田原市中央図書館
県下でも有数の魅力的な図書館
文化会館・体育館等との複合施設
場の魅力を引き出す
GISによる各町丁目の公共施設充足度
GISによる各町丁目の公共施設充足度/人口比
集会室の充足度
集会室の充足度/人口比
利用者のアクティビティと施設のキャパシティ
イメージ
異なる区分の施設でも、同様の利用者のアクティビティがみられる
利用者のアクティビティと施設のキャパシティ
イメージ
異なる区分の施設が、同様のアクティビティを受け入れられる
室のキャパシティをもつ→施設の用途ではなく、部屋の用途で考えるべき
「利用の構想力」による施設再配置計画へ
●「公共施設=官営施設」ではない
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「サービス=施設」ではなくとも最適な解を見出す
「保有」と「利用」を分けて考える
施設の用途ではなく、部屋の用途で考える
地域が自らの権利で、保有・管理・運営できる仕組み
● 縮小の時代の「施設配置計画」へ
•  現代の地域コミュニティのあり方から、公共サービスを
見直す
•  車移動・IT活用等、現実に即した施設の圏域を配慮
•  広域都市マスタープラン、地域防災計画との整合
→自分の市域だけで考えない
まちづくりとしてのFM
市民とつくるまちのための公共施設
地域力向上による減災ルネサンス
ワークショップ in 田原市 2014.2.22(土)
福江地区
伊良湖地区
神戸地区
減災ワークショップで聞かれた市民の声から
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小学校が廃止となっても避難場所は必要
公共施設の避難場所としての安全性確保が必要
高台移転を視野に入れた都市計画
高齢者問題、外国人問題、医療問題、観光問題など、
まちづくりの課題が防災対策と直結
•  自助・共助・公助それぞれの
役割を認識すること
すべてを行政がやってくれる
わけではない
•  日常のコミュニティ・地域力が
いざというときの備え
公共施設を日常の場に
まちづくりとしての公共FMに向けて
●公共FMは新しいまちづくりの第一歩
•  拙速にことを進めすぎないことも重要
•  ブームに乗ることの弊害を反省すべき
•  同じ市域でも場所によって施設によって状況は異なる
•  地域や場所の特性を読み解くこと
→何を指標として判断するのか(何により合意するのか)
十分な検討が必要
●どうつくるか∼プレデザインから始まるプロセス
•  多様なステークホルダー、専門家の参画による構想
•  顔の見えない市民に訴えない限りFMは成立しない
•  将来世代に負担を先送りしないことを共有
脱近代的 ファシリティマネジメントに向けて
○ なぜFMは面白いか∼本質の見極めが重要だから
必要なのは「ストック利用の構想力」
新しい社会システムへ∼法制度、マネジメント、参加
オープン・イノベーション型の方法論へ
○ FMはきわめて近代的・科学的経営手法だが・・・
マネジメントの本質は豊かさの追求
科学的な根拠に基づきながら、人に寄り添うFMを
○ まちや施設の目利きを育てる
財務も大事だが、場所に根付いた空間の価値を見極める
個の自立を促した近代的価値観から、元もと日本人がもっ
ている共に生きる価値観を取り戻すためのFMへ
公共施設あり方検討委員会 委員のことばから
公共施設って一体なんでしょうか?これまで私たちの生
活を豊かにするお手伝いをしてくれた施設ばかりです。
でも、私たちが何気なく使っている施設も永遠の命があ
るわけではありません。次第にほころび始めたもの、息
絶え絶えのものなどさまざまです。今までお世話になっ
た公共施設はいつまでも大切に使っていきたいとは思い
ますが、維持管理するためには膨大な費用も必要となり
ます。そのあり方などが問われることになります。そこ
で改めて次のことを考えてみました。
(以下、続く)
ご清聴ありがとうございました。
名古屋大学 ファシリティマネジメント研究会
http://fm.campus.provost.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学 恒川和久建築研究室
http://comweb.campus.provost.nagoya-u.ac.jp/tsunekawa/
恒川和久
[email protected]