学位審査結果報告書 - 龍谷大学学術機関リポジトリ

学位審査結果報告書
学位申請者:大学院理工学研究科 博士後期課程 物質化学専攻 T11D501 高 峰
学位の種類:博士(工学)
論文題目 :Cu2ZnSnS4 系太陽電池材料の結晶構造評価および印刷/高圧焼結法による太陽電池の作製
1.論文内容の要旨
本論文は、Cu2ZnSnS4(CZTS)系化合物の合成とその結晶構造や光学特性などの物性評価およびスクリ-ン印刷/高
圧焼結法による CZTS 系化合物薄膜太陽電池の作製に関するもので、7 章から構成されている。
第 1 章では、CuInSe2(CIS)系化合物薄膜太陽電池の開発の現状や CIS 系化合物の結晶構造および基礎物性を述べ
た後、CZTS系化合物薄膜太陽電池の開発の必要性と開発の現状を述べ、CZTS系化合物の結晶構造と基礎物性につ
いて述べている。更に、CIS 系化合物薄膜太陽電池の作製方法およびスクリ-ン印刷/高圧焼結法を用いた CIS および
CZTS 系化合物薄膜太陽電池の作製プロセスについて記載されている。
第 2 章では、CZTS 系化合物の合成と薄膜作製方法およびそれらの評価方法ついて記載されている。
第 3 章では、Cu2ZnSnSe4(CZTSe)の結晶構造と禁制帯幅の決定について記載されている。2010 年頃まで CZTSe は
ケステライト型とスタンナイト型の 2 種類の結晶構造が報告されており、それらの構造の違いも十分理解されず、混同し
て用いられていた。これは、ケステライト型とスタンナイト型は結晶構造が似ており、同じ正方晶系で原子番号の近い Cu
と Zn の配置のみが異なるためである。Cu と Zn は原子番号が近いため X 線の原子散乱因子がほぼ等しく、X 線回折
ではこれら 2 つの構造を区別することができない。そこで、中性子回折を行い CZTSe の結晶構造はケステライト型であ
ると決定している。また、CZTSeは禁制帯幅も0.9, 1.02 および1.44 eVと様々な値が報告されていた。そこで、粉末の拡
散反射スペクトルと膜の透過スペクトルを測定して、CZTSe の禁制帯幅をそれぞれ 0.99 および 1.05 eV と算出した。こ
れらの値から、CZTSe の禁制帯幅は CIS の禁制帯幅に近い約 1eV であると結論づけている。
第 4 章では、Cu 不足組成の CZTSe の結晶構造と禁制帯幅について記載されている。CIS では Cu 不足組成側にカ
ルコパイライト型構造を持つ Cu1-XInSe2 相領域が広がっている。しかし、CZTSe における Cu 不足組成側にケステライト
型構造を持つ Cu2(1-X)ZnSnSe4 相領域が広がっているとの報告はなかった。そこで X の値を変化させた Cu2(1-X)ZnSnSe4
試料を合成したところ、0≤X≤0.075 の範囲でほぼ単一相が得られたが、X>0.075 の組成では SnSe2 の不純物が析出した。
そのため、Cu 不足組成のケステライト構造を持つ Cu2(1-X)ZnSnSe4 相の存在領域は 0≤X≤0.075 の範囲で、CIS の場合よ
り狭いことが明らかになった。リートベルト法で求めた Cu2(1-X)ZnSnSe4(0≤X≤0.075) の格子定数 a, c は Cu/(Zn+Sn)比の
減少とともに少し短くなり、c/a も小さくなった。また、X 線吸収微細構造(XAFS)の結果からは Cu/(Zn+Sn)比の減少ととも
に Cu,Zn および Se 周りの局所構造は大きな変化は見られなかったが、Sn 近傍構造に変化が見られた。また、
Cu/(Zn+Sn) 比 が 減 少 し て も ZnSe や Cu2SnSe3 の 不 純 物 相 は 生 成 し な い こ と を 確 認 し た 。 さ ら に 、
Cu2(1-X)ZnSnSe4(0≤X≤0.075)粉末の拡散反射スペクトルを測定して、0≤X≤0.075 の範囲では禁制帯幅はほとんど変化し
ないことを明らかにした。
第 5 章では、Cu2ZnSn(SxSe1-X)4 固溶体の結晶構造と禁制帯幅について述べられている。X 線回折デ-タを用いたリ
ートベルト法により Cu2ZnSn(SxSe1-X)4 の結晶構造解析を行っている。S の固溶量の増加とともに、格子定数 a と c はとも
に短くなり、c/a 比は少し大きくなる。CIS 系太陽電池の場合には CuInSe2 の In を Ga で置換することで禁制帯幅は太陽
電池の光吸収層として理想的な禁制帯幅 1.4 eV に近づけている。そして、高い変換効率の太陽電池が得られているの
は、禁制帯幅=1.1~1.2eV の 0.15<Ga/(In+Ga)<0.30 の範囲である。CZTSe の場合、Se の一部を S で置換して
Cu2ZnSn(S,Se)4 固溶体を作製することで禁制帯幅を広げている。そこで、粉末の拡散反射スペクトルとスクリーン印刷/高
圧焼結法を用いて作製したCu2ZnSn(SxSe1-X)4 膜の紫外・可視・近赤外吸収スペクトルを測定してCu2ZnSn(SxSe1-X)4 固溶
体の禁制帯幅を決定している。Cu2ZnSn(SxSe1-X)4 固溶体膜の禁制帯幅は S の固溶量の増加とともに広くなり、CZTSe
(X=0.0)のときの 1.05eV から、CZTS (X=1.0)のとき 1.51eV まで変化する。
第 6 章では、スクリーン印刷/高圧焼結法による Cu2ZnSn(S,Se)4 太陽電池の作製について述べられている。CZTSSe
粉末に有機溶媒を加えてインクを調製し、調整したインクをスクリーン印刷法により Mo 電極を形成したソーダライムガラ
ス(SLG)基板上に塗布し、乾燥させた。次に加圧焼結した後、各種雰囲気中で熱処理して CZTSSe 膜を得ている。次に、
CZTSSe 光吸収層の上に溶液成長(CBD)法により CdS バッファ-層、RF スパッタ法で i-ZnO 層及び透明導電層(ITO)
層、続いて櫛型Ag 電極を堆積して Ag/ITO/i-ZnO/CdS/CZTSSe/Mo/SLG 構造の CZTSSe 太陽電池を作製している。太
陽電池の変換効率を向上させるために、S/(S+Se)比、粉末の合成条件、焼成雰囲気、膜の焼成温度、太陽電池のポスト
ア ニ - ル 条件 な ど 様 々 な 条件に つ い て 検討 を 行 っ て い る 。 変換効率が 最も 高 か っ た の は 配合組成
Cu1.9Zn1.25Sn(S0.4Se0.6)4.5 で、5%H2S/N2 雰囲気中で 550oC 焼成した CZTSSe 膜を用いて作製した太陽電池で、変換効率
Eff=2.63%で、開放電圧 Voc=372mV、短絡電流密度 Jsc=18.7mA/cm2、フィルファクタ-FF=37.8%であった。
第 7 章では、2 章から 6 章までに記載した研究結果について総括されている。
2. 論文審査結果の要旨
以上の論文内容について審査した結果は以下の通りである。
次世代化合物薄膜太陽電池材料として期待されている Cu2ZnSnSe4(CZTSe)を合成し、結晶構造や光学特性などの基
礎物性を評価することで、CZTSe の結晶構造はケステライト型であることを決定している。粉末の拡散反射スペク
トルと膜の透過スペクトルから禁制帯幅を求め、CZTSe の禁制帯幅は約 1eV であることを決定している。続いて、
Cu不足組成のCZTSeの存在領域と結晶構造および禁制帯幅を決定し、ケステライト構造を持つCu2(1-X)ZnSnSe4 相の存
在領域は0≤X≤0.075の範囲で、格子定数a, c はCu/(Zn+Sn)比の減少とともに少し短くなるが、禁制帯幅はほとんど変化
しないことを明らかにしている。次に、Cu2ZnSn(SXSe1-X)4 固溶体の結晶構造と禁制帯幅を決定し、S の固溶量の増加とと
もに、格子定数 a, c はともに短くなり、禁制帯幅は X=0.0(CZTSe)のときの 1.05eV から、X=1.0(CZTS)のときの 1.51eV ま
でほぼ直線的に変化することを明らかにしている。さらに、スクリ-ン印刷/高圧焼結法を用いて Cu2ZnSn(S,Se)4 系太
陽電池を作製して、変換効率 Eff=2.63%(開放電圧 Voc=372 mV、短絡電流密度 Jsc=18.7 mA/cm2、フィルファク
タ-FF=37.8%)を得ている。
これらのことから、本研究は新規性と独自性があると判定される。本論文において記載されている Cu2ZnSnS4(CZTS)
系化合物の結晶構造や光学特性などの基礎物性およびスクリ-ン印刷/高圧焼結法を用いたCZTS 系化合物薄膜太
陽電池の作製プロセスは、今後の化合物薄膜太陽電池を開発する上での基礎データとして非常に重要であると考
えられる。
学位申請者は 2009 年 3 月に龍谷大学理工学部物質化学科を卒業し、同年 4 月に龍谷大学大学院理工学研究科物
質化学専攻修士課程に入学した。2011 年3 月に龍谷大学大学院理工学研究科物質化学専攻修士課程を修了後、同年
4 月に龍谷大学大学院理工学研究科物質化学専攻博士後期課程に入学し、現在博士後期課程 3 年生である。この間
に、5編の査読付き学術論文(いずれも英文)と1編の査読付き国際会議報告(英文)を発表するとともに、国内外の学協
会において多数の講演を行い、高い評価を受けている。
よって本論文は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認められる。なお、本論文の内容は 3 編の査読付き学術
論文と 1 編の査読付き国際会議報告にまとめられている。
以上の審査結果により本論文は博士(工学)の学位を授与されるにふさわしいものと認定した。
3. 口述試験結果の要旨
2014 年 2 月 25 日、審査員および口述試験委員全員の出席のもとで、学位申請者に対して論文の内容およびこれに
関連する事項について試問を行い、十分な専門学力を有するものと認め、合格と判定した。
4. 学位授与の可否
以上の結果、学位申請者 高 峰 は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認める。
2014 年 2 月 25 日
審査員(主査)
理工学部教授
和田隆博
審査員(副査)
理工学部教授
大柳満之
審査員(副査)
理工学部准教授 青井芳史
口述試験委員
理工学部教授
宮武智弘
口述試験委員
理工学部教授
富崎欣也