XAFS 法とは ○新田清文 JASRI/SPring-8 [email protected] X 線吸収微細構造(XAFS)法は、着目する任意の X 線吸収原子の局所的な電子状態(価数、対称 性)と動径構造を得ることができる優れた手法である。本講演では XAFS の 4 文字にちなんで XAFS に関わる下図に示す 4 つの要素、1.X-ray, 2. Absorption, 3. Fine Structure, S.SPring-8 に ついて述べ、XAFS に関わる知見を学んで頂く予定である。 図 1. 透過 XAFS 計測の概念図 1 X:X-ray(X 線について) X 線は電磁波の一種であり、エネルギー(波長)が 40eV(30nm)-200keV(0.006nm)程度の領域に渡 る。さらに 40eV-2keV 程度の低エネルギー領域の X 線を軟 X 線、20keV-200keV 程度の高エネルギ ー領域の X 線を硬 X 線と言う。ただし、軟 X 線と真空紫外線(VUV)、硬 X 線とγ線の境界域は不確 定である。電磁波はそのエネルギーによって相互作用する対象が異なるが X 線の主な相互作用対 象は内殻電子であり、その相互作用を利用して様々な測定手法に適用されている。 この章では X 線についての概説と物質との相互作用、様々な計測に必要な X 線をどのようにし て得るか、また得られた X 線の強度をどのように測るかについて解説する。 2 A:Absorption(吸収について) 電磁波が物質(試料)に照射されると様々な相互作用を受け強度を失う。このことを電磁波の吸収 という。X 線領域でも X 線は物質との相互作用により吸収を受け様々な過程(散乱、蛍光、熱等) をとるが、それぞれの過程が起こる確率は物質やエネルギーによって大きく変わる。そこで X 線 のエネルギーを連続的に変えながら試料前後の X 線の強度(I0,I)を測定し、X 線のエネルギーを 横軸に、吸光度(μ=ln(I0/I))を縦軸にプロットしたものが X 線吸収スペクトル(XAS)である。 この章では X 線吸収に主として寄与する光電効果およびその緩和過程について述べる予定であ る。 1 μt(arb.unit) 3 F:Fine Structure(微細構造について) X 線吸収スペクトルには物質に含まれ る元素によって異なる吸収端と呼ばれる 不連続な領域が元素のイオン化エネルギ ーに対応したエネルギーに現れる。XAFS とはこの吸収端付近(-100eV~1000eV)で 起こる起源の異なる 2 つの微細構造を指 す。図 2 に例として Cu foil の K 吸収端 XAFS スペクトルを示す。XAFS スペクトル を解析することにより X 線吸収原子(吸収 端に対応した原子)周囲の局所構造に関 する情報を抽出することができる。この 章ではこの 2 つの微細構造(XANES,EXAFS) についての解説を行う。 0.5 Cu K-edge XANES EXAFS 0 9000 10000 E(eV) 図 2. Cu-foil の XAFS スペクトル XANES とは X-ray Absorption Near-edge Structure(X 線吸収端近傍構造)の略であり、 その名の通り、吸収端近傍(-50-+50eV)の領域に現れる構造のことを言いう。XANES は吸収原子 の電子状態やその配位状況を反映してその構造が変化するため、XANES を解析することにより物 質中でその原子がどのような状態で、どのような配位環境で存在しているかを知ることができる。 EXAFS は、Extended X-ray Absorption Fine Structure(広域 X 線吸収微細構造)の略であり吸 収端より高エネルギー側に現れる振動構造である。吸収端以上のエネルギーでは光電効果によっ て内殻電子が光電子として飛び出し、その波長と原子間距離との関係から光電子波が強め合った り打ち消しあったりする。これが EXAFS の起源となり振動構造の解析をすることにより吸収原子 付近の局所構造を得ることができる。 4 S:SPring-8(SPring-8 における XAFS 計測) SPring-8 とは、兵庫県の播磨科学公園都市にある第 3 世代放射光施設である。この章では XAFS 法の実用例として SPring-8 における XAFS ビームラインとそこで行われている XAFS 計測を紹介す る予定である。 SPring-8 において共用ビームラインとしてユーザーに供されている XAFS ビームラインは以下 の表に示す通りである。(光源の BM:偏向電磁石、SU:軟 X 線アンジュレーター、U:アンジュレー ター、HU:ヘリカルアンジュレーター) BL01B1 BL14B2 BL25SU BL27SU BL28B2 BL37XU BL39XU BL40XU 光源 BM BM SU SU BM U U HU エネルギー 3.8-113keV 3.8-70keV 0.2-2keV(B ブランチ) 0.18-3.5keV 5-40keV 5-113keV 5-37keV 8-17keV 研究分野 汎用 XAFS,薄膜・希薄試料 汎用 XAFS,薄膜・希薄試料 XMCD,ナノビーム 軟 X 線 XAFS 時分割エネルギー分散 XAFS ナノビーム蛍光分析、高輝度 XAFS XMCD、ナノビーム、全反射偏光 XAFS 時分割 QXAFS この章では汎用 XAFS ビームラインである BL01B1 を例にとり XAFS の基本的な測定法の紹介を行 い。SPring-8 で行うことができる XAFS 計測法を実例を交えて紹介する予定である。
© Copyright 2025 ExpyDoc