神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014 Ni-W 電鋳金型を用いたガラスインプリントの研究 電子技術部 電子材料チーム 安 井 学 黒 内 正 仁 金 子 智 小 沢 武 本研究では,ニッケル‐タングステン(Ni-W)電鋳金型が硼珪酸ガラスを対象とした熱インプリントで 25 回の使用 に耐えられることを確認した.また,作製直後は非晶質であった Ni-W 金型が,22 回の熱インプリント後には結晶質 に変化していた.結晶化による Ni-W 金型の破損は見られなかった. キーワード:Ni-W,電鋳,金型,硼珪酸ガラス,熱インプリント,再現性 い た . ま た , ガ ラ ス は 硼 珪 酸 ガ ラ ス で あ る D263 1 はじめに (SCHOTT 製,ガラス転移温度( Tg ):830 K,1.1 mm 厚,15 mm 角)を用いた.Ni-W 金型とガラスの取 ガラスや樹脂などの粘弾性体,粘塑性体の成形におい て熱インプリントは有用である.特に,ガラスを対象とし 付けは以下の通りである. た熱インプリント(ガラス熱インプリント)は,マイクロ 図 1 に示すように下部ヒータ上にガラス状カーボン 流体チップや光学デバイスなどの量産技術として有望視さ (Glassy carbon: GC)を敷いた.GC の上に Ni-W 金型を載 れている.そして,化学反応を対象とするマイクロ流体チ せ,その上に D263 ガラス片を設置した.更に,ガラス片 ップには耐薬品性と耐熱性が要求されることから,硼珪酸 上に GC を 2 枚載せた.なお,GC を用いた理由は Ni-W ガラスの適用が有望である 1).一方で,ガラス熱インプリ 金型やガラス片が各ヒータに融着することを防止するため ントでは,金型材料の選定がきわめて重要となる.筆者ら である. は,ブラウン管用ガラス成形金型の離型層に使用されてい 次に,ガラス熱インプリントを以下の手順で行った. たニッケル‐タングステン‐モリブデン(Ni-W-Mo)膜 酸素を除去するためにチャンバー内を 0.07 Pa まで真空引 Ni-W 膜を金型材料に用いること きした.その後,D263 の Tg 以上である 883 K に Ni-W 2)に着目し,組成が近い を提案した.そして,硼珪酸ガラスや光学ガラスに対して, 金型とガラス片を加熱した.そして,0.89 MPa の圧力を Ni-W 膜が離型性に優れた金型材料であることを確認した 600 秒間維持した後,圧力を除荷し,473 K まで自然冷 3,4).さらに,マイクロ流体チップや光学デバイスに対応 却した.冷却と同時に除荷することで,D263 と Ni-W の できる金型として,フォトリソグラフィと電析技術を組み 熱膨張係数の差によりガラス片が金型から剥がれ易くして 合わせた電鋳により Ni-W 電鋳金型(Ni-W 金型)を開発 いる.以下,同一の金型を用いてガラス熱インプリントを した 5,6). 25 回行った. 熱インプリントでは,金型の耐久性(使用回数など) 3 実験結果 が重要である.しかし,Ni-W 金型を含めて,ガラスを対 図 2 に 23 回の熱インプリント後に Ni-W 電鋳金型から 象とした熱インプリント用金型の耐久性に関する報告例は 少ない.これは一度の熱インプリント実験に数時間かかり, 剥離したガラス片表面の SEM 写真を示す.Ni-W 電鋳金 データが取りにくいことが原因と考えられる.そこで,本 型と同様に最小線幅約 20 μm,線間隔約 20 μm のパター 報では 25 回と限られた回数ではあるが,ガラスを対象と ン(以下,40 μm 周期パターン)がガラス表面に転写で した熱インプリントに Ni-W 金型が繰り返し使用できるか きていることを確認した. また,図 3 に 23 回のインプリント後の Ni-W 金型の 検証し,この程度の回数であれば,Ni-W 金型が使用でき SEM 写真を示す.Ni-W 金型に変化はなかった. る可能性を示した. 図 4 にレーザ顕微鏡により熱インプリント毎における 2 実験方法 実験には前報 5,6)と同じ方法で作製した ガラス上の 40 μm 周期パターンの断面形状を測定した結 Ni-W 金型を用 果を示す.全ての熱インプリントにおいて 40 μm 周期パ 74 神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014 ターンが形成できていた.しかし,各ガラス片のパターン きるジグを検討し,試験片全体に均一に加圧することで熱 の高さにばらつきが生じた.この原因としては, 図 1 に インプリントの高さ方向の精度向上を目指す.また,Ni- 示したように単純にガラスを載せた Ni-W 金型を GC で挟 W 金型の結晶化が熱インプリントの特性に与える影響を み込んだ固定方法では,GC やガラス片,Ni-W 金型に生 検討する. じる傾きや厚みのばらつきなどにより,熱インプリント毎 文献 に加圧が変動したことが考えられる. 1) T. R. Dietrich et al.;Chem. Engi. & Tech., 28, 1 図 5 に熱インプリント前の Ni-W 金型,22 回の熱イン プリント後の Ni-W 金型及び Ni-W 金型の基板に使用した (2005). Incoloy 909 の X 線回折の測定結果を示す.熱インプリン 2) 吉武優ほか;日本国特許公開平 08-188441 (1996). ト前では Ni-W 金型はブロードを示し,非晶質であったが, 3) 22 回の熱インプリント後では Ni-W 金型は結晶質に変化 M. Yasui et al. ; Japanese Journal of Applied Physics, 48, 06FH08 (2009). 4) 安井学ほか;電気学会論文集 E 部門誌, 第 128 巻, 第 していた.結晶化によって Ni-W 金型の破損が危惧された 11 号, 431 (2008). が,図 3 に示した Ni-W 金型では,破損個所は見られな 5) かった. 安 井 学 ほ か ; 日 本 機 械 学 会 論 文 集 (A), 79, 507 (2013). 4 まとめ 6) 硼珪酸ガラスを対象とした熱インプリントに対して Ni- 安井学ほか;神奈川県産業技術センター研究報告, No.19,20~24 (2013). W 金型が 25 回繰り返し使用できることを示した.また, 結晶化による Ni-W 金型の破損は見られなかった. 今後の課題として,Ni-W 金型とガラスに均一に加圧で 図 1 ヒータ上に設置した Ni-W 金型とガラス片の模式図 図 4 ガラス上の 40μm 周期パターンの断面形状 図 2 熱インプリントを行ったガラス表面の SEM 写真 図 5 Ni-W 金型と Incoloy 909 の X 線回折の測定結果 図 3 23 回目のインプリント後の Ni-W 金型の SEM 写真 75
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