Ni 基超合金USC141TM の700℃級A-USCボイラーチューブへの応用 Application of Ni Based Superalloy USC141TM for Boiler Tubes of 700ºC-Class A-USC Power Plants 青木 宙也* 上原 利弘* Chuya Aoki 鴨 志 田 宏 紀 ** Toshihiro Uehara 今野 晋也 ** Shinya Imano Hironori Kamoshida 佐藤 恭 *** Takashi Sato 700℃級 A-USC(Advanced-Ultra-Super-Critical:先進超々臨界圧)発電プラントのボイラー チューブへの使用を目的として, Ni 基超合金 USC141 の固溶化処理材におけるクリープ破断特性と クリープ中の組織変化について調査した。固溶化処理材の 700℃,100,000 時間におけるクリープ 破断強度は,時効処理材と同様,約 180 MPa と予測した。これはクリープ中に析出強化が作用す るためである。この推定クリープ破断強度は,A-USC の 100,000 時間における目標強度 100 MPa を満足している。この結果より,USC141 のチューブを試作し,現在,ボイラーチューブとしての認 定取得評価を進めている。 The creep rupture properties and microstructural changes during creep tests in solution treated Ni based superalloy USC141 were investigated in order to use this alloy for 700℃ class A-USC boiler tubes. The creep rupture strength at 700℃ for 100,000 hours in solution treated USC141 was estimated as about 180 MPa, which is almost the same as that of solution treated and aged alloys. This happened because precipitation strengthening occurred during the creep test. This predicted creep rupture strength is much higher than the 100,000 hours’ 100 MPa strength required for boiler tubes. As a result, we tried to produce USC141 boiler tubes and are evaluating the various properties required for approval of USC141 boiler tube material. ● Key Word:Ni 基超合金 , A-USC,ボイラーチューブ ● Production Code:USC141 ● R&D Stage:Prototype 過熱器や再熱器のボイラーチューブ,高温高圧蒸気をター 1. 緒 言 ビンに送るためのパイプ等が 700℃以上の高温にさらされ 地球温暖化の要因である CO 2 の排出を抑制するために るため高温強度が必要になる。そのため,従来約 600℃以 発電プラントの高効率化が求められている。化石燃料の中 下の温度で使用されてきたフェライト系耐熱鋼では高温強 でも石炭は埋蔵量が多いが,発電に使用したときの CO 2 度が不足する。高温強度としては特にクリープ破断強度が 排出量が多いため,石炭火力発電の発電効率向上が重要視 重要である。700℃級 A-USC への採用には,700℃ − 10 5 されている。蒸気の高温高圧化によって発電効率は向上し, h で 100 MPa 以上のクリープ破断強度が必要となるため, 現在では,蒸気条件 600℃,25 MPa 以上の USC(Ultra- 700℃以上で高温強度の高い Fe-Ni 基または Ni 基のオース Super-Critical:超々臨界圧)プラントが使用されている。 テナイト系超合金の使用が必須となる。 しかし,今後更なる発電効率を目指して蒸気条件 700℃, 日立製作所と日立金属は過去に USC の蒸気タービンの 35 MPa の A-USC(Advanced-Ultra-Super-Critical:先進 高温化に対応するため,650℃級の蒸気タービンのブレー 超々臨界圧)プラントが欧州,米国,日本を中心に開発さ ド,ボルト用にγ’ (ガンマプライム)析出強化型 Ni 基超 プラントでは,蒸気タービンのロー 合金 USC141 を開発した 2)。この合金は,固溶化処理とし タやブレード,ボルトの他,高温高圧蒸気をつくるための て 1,066℃で 4 h 保持したあと空冷し,時効処理として れている 1)。A-USC * 日立金属株式会社 高級金属カンパニー ** 三菱日立パワーシステムズ株式会社 *** バブコック日立株式会社 8 日立金属技報 Vol. 30(2014) * High-Grade Metals Company, Hitachi Metals, Ltd. ** Mitsubishi Hitachi Power Systems, Ltd. *** Babcock-Hitachi K.K. Ni 基超合金 USC141TM の 700℃級 A-USC ボイラーチューブへの応用 850℃で 4 h 保持したあと空冷,次いで 760℃で 16 h 保持 要するため,固溶化処理材での使用が望ましい。USC141 し た あ と 空 冷 の 2 段 時 効 処 理 を 施 す こ と で, 粒 界 に の固溶化処理材を 700℃程度で長時間使用した場合,使用 M23C6,粒内にγ’を析出させた組織形態となる。この合 温度が時効処理温度に近いため,使用中に時効析出が進行 金の特長として,熱膨張係数が小さいこと,マクロ偏析が し強化していくと予想しているが実績データがない。そこ 生じにくいこと 3),時効処理材において優れたクリープ破 で, 本 研 究 で は,USC141 の 固 溶 化 処 理 材 に つ い て, 断強度とクリープ破断延性を兼備していることが挙げられ A-USC のボイラーチューブへの使用の可能性を検討する る。図 1(a) (b)は,USC141 の時効処理材の試験温度 ため,固溶化処理材のクリープ破断特性と組織変化を調査 600,650,700,750,800℃における破断寿命とクリープ することとした。 破断応力の関係,破断寿命と試験温度のラーソンミラーパ ラメータ (温度の違いを補償する時間と温度の関数)とク 2. 実験方法 リープ破断応力の関係をそれぞれ示している。ラーソンミ ラープロットから 700℃− 105 h におけるクリープ破断強 表 1 に USC141 の主要化学成分を示す。USC141 の鍛 度は推定値で約 180 MPa であるため,A-USC の目標ク 造材に固溶化処理として 1,066℃で 4 h 保持したあと空冷 リープ破断強度 100 MPa 以上を満足するものと考えてい し,長手方向に沿って平行部の長さ 30 mm,平行部の直 る。したがって,USC141 はもともと 650℃級の蒸気ター 径 6.35 mm の平滑クリープ破断試験片を採取し,試験温 ビン用途に開発された合金であるが,700℃級 A-USC 部 度 650,700,750,800℃でクリープ破断試験を実施した。 材への使用が期待できる 4)。蒸気タービンのブレード,ボ 試料のミクロ組織については,SEM(Scanning Electron ルトには時効処理材を使用することで要求特性を満足でき Microscope: 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 ),FE-EPMA(Field るものと予想しているが,ボイラーチューブは溶接施工を Emission Electron Probe Micro Analyzer:電解放射型電 子プローブマイクロアナライザ) ,TEM(Transmission (a) Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)を用いて調査 Stress (MPa) 1,000 : 600℃ した。結晶粒度番号(GS#)については,JIS 規格に準じ : 650℃ 光学顕微鏡で結晶粒度標準図との比較により求めた。ク : 700℃ リープ破断材の粒内γ’の定量評価については,γ’ の SEM : 750℃ 像から画像解析により円相当径を算出した。なお,光学顕 : 800℃ 微鏡,SEM 像,FE-EPMA 反射電子像,FE-EPMA 元素マッ プ画像は紙面上下方向がすべて鍛造負荷方向としている (紙面左右方向は材料の長手方向)。 表 1 USC141 の主要化学成分 Table 1 Typical chemical composition of USC141 100 1 10 100 1,000 10,000 100,000 Time to rupture (h) C Cr Mo Al Ti Ni 0.03 20 10 1.2 1.6 Bal. (mass%) (b) 1,000 : 600℃ : 650℃ Stress (MPa) : 700℃ : 750℃ : 800℃ 3. 実験結果および考察 3. 1 初期組織 図 2(a)(b)に固溶化処理材の FE-EPMA 反射電子像 を示す。なお,固溶化処理材の結晶粒度番号は光学顕微鏡 観察により JIS 規格で GS#5.5 であった。白色と黒色に見 える化合物は未固溶炭化物であり,粒界には炭化物等の化 180 合物は析出していないことが確認できる。この組織形態を 700℃−105 h 100 17 18 19 20 21 22 23 初期組織としてクリープ破断試験を実施した。 24 25 (a) (b) Grain boundary (T+273)×(20+Log tr)×10−3 T: Test temperature (℃) tr: Time to rupture (h) 図 1 USC141 の時効材のクリープ破断強度 (a)破断寿命とクリープ破断応力の関係 (b)ラーソンミラーパラメータとクリープ破断応力の関係 Fig. 1 Creep rupture strength of USC141 after aging (a) creep rupture strength as a function of rupture time (b) creep rupture strength as a function of Larson-Miller parameter Undissolved carbide 10 μm 2 μm 図 2 固溶化処理材の FE-EPMA 反射電子像 (a)低倍率 (b)高倍率 Fig. 2 FE-EPMA, backscattered electron images in solution treated (a) low magnification (b) high magnification 日立金属技報 Vol. 30(2014) 9 3. 2 固溶化処理材のクリープ破断特性 傾向であるが,試験温度 700℃以上では両者は同程度とな 図 3(a) (b) (c)に固溶化処理材の破断寿命とクリープ る。これは,試験温度 650℃で少なくとも 3,000 h 程度ま 破断応力の関係,破断寿命と破断伸びの関係,試験温度と では,粒内のγ’析出や粒界の炭化物等の化合物析出が途 破断寿命のラーソンミラーパラメータとクリープ破断応力 中段階であることが原因と考えられる。図 3(b)より,固 の関係をそれぞれ示す。 時効処理材のデータも併せて示す。 溶化処理材のクリープ破断伸びは時効処理材と同様,おお 図 3(a)より,試験温度 650℃における短時間側のクリー むね 20 % 以上の良好な延性を示している。図 3(a)より プ破断寿命において,固溶化処理材は時効処理材より短い 試験温度 650℃では,固溶化処理材は時効処理材よりク リープ破断強度が低いが,試験温度 700℃以上においては 両者はほぼ同程度であるため,図 3(c)のラーソンミラー (a) 1,000 : 650℃ (ST) プロットより,700℃− 10 5 h に相当する固溶化処理材の : 700℃ (ST) クリープ破断強度は時効処理材と同様,約 180 MPa と予 Stress (MPa) : 750℃ (ST) : 800℃ (ST) 測される。したがって,固溶化処理材においても 700℃級 : 600℃ (ST) + (Ag) A-USC の目標強度を満足すると推察される。 : 650℃ (ST) + (Ag) : 700℃ (ST) + (Ag) : 750℃ (ST) + (Ag) : 800℃ (ST) + (Ag) (ST): Solution treatment (Ag): Aging Ongoing 100 1 10 100 1,000 10,000 100,000 Time to rupture (h) 3. 3 クリープ破断材の粒内組織 図 4(a) (b) (c)に固溶化処理材における試験温度 700, 750,800℃のクリープ破断材の粒内γ’の SEM 像を示す。 γ’のサイズはクリープ破断寿命が長くなるにつれて,ま た試験温度が高いほど大きい。図 5 に示す JMatPro で計 算した USC141 の温度と平衡析出量の関係図から,γ’の 固溶温度は約 920℃であり,700,750,800℃はγ’の析出 : 650℃ (ST) 90 : 700℃ (ST) 温度域であることがわかる。したがって, 図 4(a) (b) (c) 80 : 750℃ (ST) で観察されるγ’は試験中に析出したものである。 70 : 800℃ (ST) 固溶化処理材の試験温度 700,750,800℃および時効処 Elongation (%) (b) 100 : 600℃ (ST) + (Ag) 60 50 40 : 650℃ (ST) + (Ag) 理材の試験温度 700℃におけるクリープ破断材の粒内γ’ : 700℃ (ST) + (Ag) の平均粒子半径を画像解析により定量評価した。図 6 に : 750℃ (ST) + (Ag) 30 : 800℃ (ST) + (Ag) 20 (ST): Solution treatment (Ag): Aging 10 クリープ破断寿命の 1/3 乗とγ’の平均粒子半径の相関関 係を示す。固溶化処理材におけるクリープ破断材のγ’の 平均粒子半径は,クリープ破断寿命の 1/3 乗と直線関係に 0 1 10 100 1,000 10,000 100,000 Time to rupture (h) (a) (c) 1,000 tr = 525.0 h tr = 2,765.3 h tr = 5,911.2 h tr = 1,032.8 h tr = 2,440.1 h tr = 8,180.4 h tr = 133.1 h tr = 426.0 h tr = 786.2 h : 650℃ (ST) : 700℃ (ST) Stress (MPa) : 750℃ (ST) : 800℃ (ST) : 600℃ (ST) + (Ag) (b) : 650℃ (ST) + (Ag) : 700℃ (ST) + (Ag) : 750℃ (ST) + (Ag) : 800℃ (ST) + (Ag) 180 (ST): Solution treatment (Ag): Aging 700℃−105 h 100 17 18 19 20 21 22 23 24 (T+273)×(20+Log tr)×10−3 25 T: Test temperature (℃) tr : Time to rupture (h) 図 3 USC141 の固溶化処理材および時効材のクリープ破断強度 (a)破断寿命とクリープ破断応力の関係 (b)破断寿命とクリープ破断伸びの関係 (c)ラーソンミラーパラメータとクリープ破断応力の関係 Fig. 3 Creep rupture strength of USC141 in solution treated and after aging (a) creep rupture strength as a function of rupture time (b) creep rupture elongation as a function of rupture time (c) creep rupture strength as a function of Larson-Miller parameter 10 日立金属技報 Vol. 30(2014) (c) tr: Time to rupture (h) 200 nm 図 4 固溶化処理材のクリープ破断材におけるγ’粒子の SEM 像 試験温度(a)700℃ (b)750℃ (c)800℃ Fig. 4 SEM Images of γ’ particles after creep rupture test in solution treated test temperature (a) 700℃ (b) 750℃ (c) 800℃ Ni 基超合金 USC141TM の 700℃級 A-USC ボイラーチューブへの応用 Mol (%) 20 15 γ’ 10 μ 5 M23C6 0 600 700 M6C 800 900 1000 Mean particle radius of γ’(nm) 100 25 : 700℃ (ST) : 700℃ (ST) + (Ag) : 750℃ (ST) : 800℃ (ST) 80 60 40 20 1100 (ST): Solution treatment (Ag): Aging 0 10 Temperature (℃) 図 5 JmatPro による USC141 の温度と平衡析出量の関係 Fig. 5 Equilibrium calculation of USC141 by JMatPro あることから,クリープ破断試験中に析出したγ’が 1/3 20 30 Time to rupture1/3 (h1/3) 図 6 固溶化処理材のクリープ破断寿命とγ’平均粒子半径の相関 関係 Fig. 6 Correlation between mean radius of γ’ particles and creep rupture life in solution treated 乗則に従って成長しており,粗大化過程にあることがわか る。一方,時効処理材の試験温度 700℃におけるクリープ 3. 4 クリープ破断材の粒界組織 破断材も同様に,γ’の平均粒子半径はクリープ破断寿命 図 7 は,固溶化処理材の試験温度 700℃におけるクリー の 1/3 乗と直線関係にあるが,その傾きは固溶化処理材と プ破断材(クリープ破断寿命 tr = 16,385 h)の FE-EPMA 比較して小さい。この原因として,試験温度が時効処理温 反射電子像と C,Cr,Mo,Ti,Al の元素マップ画像を示 度よりも低いため,時効処理で析出したγ’は試験途中ま している。粒界に化合物の存在が確認される。図 2(a) (b) で安定であると考えられる。時効処理 (850℃で 4 h 保持し の固溶化処理材では粒界に化合物は観察されなかったた たあと空冷,次いで 760℃で 16 h 保持したあと空冷)は, め,図 7 で観察される粒界化合物はクリープ破断試験中 ラーソンミラー法で 700,750,800℃での保持時間に換算 に析出したものと考えられる。反射電子像から粒内および すると,それぞれ 6,350,436,39 h に相当する。つまり, 粒界には黒色と白色に見える化合物が観察される。元素 時効処理で析出したγ’ は図 6 中に点線で示すように,試験 マップ画像から黒く見える化合物は C,Cr,Mo が濃化し 温度 700,750,800℃において,それぞれ約 6,350 h(18.51/3 ていることから M23 C6 と判断できる。また,粒界に一部 h) ,436 h(7.61/3 h),39 h(3.4 1/3 h)近辺を境に成長速度 BSE Ti,Al が同一箇所に濃化している部分はγ’相である。そ の他,反射電子像で白く見える化合物は,Mo が濃化して が増加すると考えられる。 C Cr Ti Al tr = 16,385 h tr: Time to rupture (h) M23C6 Mo compound Mo 1 μm 図 7 固溶化処理材の試験温度 700℃におけるクリープ破断材の FE-EPMA 反射電子像および元素マップ画像 Fig. 7 FE-EPMA, backscattered electron image and elemental map images after creep rupture test at 700℃ in solution treated 日立金属技報 Vol. 30(2014) 11 いるが C は濃化していないことから炭化物以外の Mo 化 図 4,図 7 のように粒内にγ’ ,粒界に M23C6,γ’および 合物が析出しているものと考えられる。 μ相が析出していることが明らかとなった。つまり,粒内 Mo 化合物は図 5 の平衡計算結果からμ相である可能性 はγ’,粒界は M23C6,γ’,μ相によって強化しているも が考えられる。図 8(a)に Mo 化合物の暗視野像と[001] のと考えられる。μ相は TCP 相であるが,観察例が報告 入射の電子回折図形,図 8(b)にシミュレートしたμ相 されている Alloy252 や Alloy41,Alloy625 においてクリー -Fe7W6 の [001]入射の電子回折図形を示す。Mo 化合物と プ破断寿命の低下は表れていないと報告されている 5)。ま μ相 -Fe7W6 の電子回折図形が一致していることがわか た,Alloy80A の粒界γ’や Ni-20Cr-20W 合金の粒界α2-W る。また,表 2 に Mo 化合物の TEM-EDX 分析の結果と 相において,析出量が増加するにつれてクリープ速度が減 JMatPro で計算したμ相の 700℃における平衡組成を示 少し,粒界析出物の種類とは関係なく粒界が強化される機 す。TEM-EDX 分析結果と平衡計算値はおおむね同程度 構が提唱されている 6)。したがって,USC141 においても であることからも Mo 化合物はμ相であると言える。化学 μ相の粒界析出はクリープ破断寿命を低下させる効果はな 量論組成から Mo 化合物はμ相− (Ni,Cr)7Mo6 と同定し いと考えられるが,さらに長時間破断寿命の組織観察を行 た。以上の結果から,固溶化処理材のクリープ破断試験に い,その影響を見極める必要がある。 おいて,粒界には M23C6,γ’およびμ相が試験中に析出 していることがわかる。 4. USC141 のボイラーチューブ認定取得評価 (a) (b) 図 3 より,固溶化処理材の 700℃− 10 5 h に相当するク リープ破断強度は約 180 MPa と予測され,A-USC の目標 クリープ破断強度 100 MPa 以上を満足する見込みである。 そのため,固溶化処理材でもボイラーチューブへの使用が 可能と判断し,チューブの認定評価を開始した。図 9 は, USC141 のボイラーチューブ試作材の外観写真を示してい る。形状や割れ等の問題はなく良好に試作ができているこ とを確認した。チューブ試作材の曲げ性や溶接性を調査し た結果,良好であった。また,クリープ破断試験は進行中 500 nm 図 8 Mo 化合物の TEM 解析 (a)暗視野像および[001]入射電子回折図形 (b)μ相 -Fe7W6 の[001]入射電子回折図形(シミュレーション) Fig. 8 TEM analysis of Mo compound (a) dark field image and [001] zone axis SAD pattern (b) [001] zone axis SAD pattern of μ phase-Fe7W6 (simulation) であるが,現段階では良好なレベルであることを確認して いる。 表 2 Mo 化合物の TEM-EDX 分析結果と JMatPro による 700℃ でのμ相平衡組成(at%) Table 2 EDX analysis of Mo compound and equilibrium calculation of μ phase by JMatPro (at%) Evaluation contents Ni Cr Mo EDX analysis of Mo compound 34.5 18.0 47.5 Equilibrium calculation of μ phase by JMatPro 29.4 22.9 47.7 μ相は hcp 構造で A7B6 型の TCP(Topologically ClosePacked)相として知られている。Mo を多く含む既存の Ni 基合金では Alloy252 や Alloy41,Alloy625 で観察の報告 例があり,hcp 構造の M6C が成長するに伴いμ相が形成 されると報告されている 5)。 高いクリープ強度を発揮するためには,粒内だけを強化 しても相対的に粒界が弱化してしまうため,両方を強化し なければならない。USC141 は本来, 時効処理で粒内にγ’, 粒界に M23C6 を析出させて強化させる設計である。今回, 固溶化処理材のクリープ中の組織変化を調査した結果, 12 日立金属技報 Vol. 30(2014) 100 mm 図 9 USC141 のボイラーチューブ試作材の外観 Fig. 9 Appearance of USC141 trial tube Ni 基超合金 USC141TM の 700℃級 A-USC ボイラーチューブへの応用 5. 結 言 引用文献 USC141 の固溶化処理材について,クリープ破断特性と 1) 福田雅文:特殊鋼 60 巻(2011) ,6 号,p8. 金属組織を調査した結果,以下の結論を得た。 2) 大野丈博,上原利弘,都地昭宏,桂木進,今野晋也,土 井裕之:CAMP-ISIJ,vol.21(2008),p1026. 3) 梶川耕司,佐藤健史,山田人久:鉄と鋼,vol.95(2009), No.8,p21. 4) 鴨志田宏紀,佐藤順,今野晋也,土井裕之:耐熱金属材 料 123 委員会研究報告 vol.50(2009),No.3,p305. 5) C.T.Sims,N,S,Stoloff,W.C.Hagel:SUPERALLOYS Ⅱ, p222. 6) アブデル・モネム・エルバタハギ,松尾孝,菊池實:鉄と鋼, 第 76 年(1990)第 5 号,p125. (1)固溶化処理材の 700℃− 10 5 h における推定クリープ 破断強度は,時効処理材と同様,約 180 MPa である。 これは 700℃級 A-USC の目標クリープ破断強度である 100 MPa 以上を満足しているものと考えられる。 (2)固溶化処理材のクリープ破断試験材の金属組織は, 粒内にγ’が析出しており,破断寿命の 1/3 乗則に従っ て成長している。また,粒界には M23C6,γ’の他,μ 相−(Ni,Cr)7Mo6 が析出している。クリープ破断試 験中に粒内にγ’,粒界には炭化物等の化合物が析出す るため,固溶化処理材のクリープ破断特性は時効処理 材と同等であると考えられる。 青木 宙也 Chuya Aoki 日立金属株式会社 高級金属カンパニー 冶金研究所 上原 利弘 Toshihiro Uehara 日立金属株式会社 高級金属カンパニー 冶金研究所 博士(工学) 技術士(金属部門) 鴨志田 宏紀 Hironori Kamoshida 三菱日立パワーシステムズ株式会社 今野 晋也 Shinya Imano 三菱日立パワーシステムズ株式会社 博士(工学) 佐藤 恭 Takashi Sato バブコック日立株式会社 日立金属技報 Vol. 30(2014) 13
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