ナショナル・グリッド・ガス

14-I-0082
2015 年 2 月 25 日
株式会社日本格付研究所(JCR)は、以下のとおり信用格付の結果を公表します。
ナショナル・グリッド・ガス・ピーエルシー
【据置】
外貨建長期発行体格付
格付の見通し
(証券コード:−)
A
安定的
■格付事由
(1) ナショナル・グリッド・ガス・ピーエルシー(NGG)は、英国グレートブリテン島において規制事業であ
る天然ガスの導管ネットワークの所有・操業を行う英国の民間事業法人であり、1986 年に民営化された
旧英国ガス公社の導管事業部門の承継会社。英国及び米国にて電力・ガスのインフラ事業を手がけるナシ
ョナル・グリッド・グループの中核企業の 1 つ。NGG の格付は、規制枠組みと高い参入障壁に守られた
強固な事業基盤と安定した収益構造に支えられている。他方、格付は、所属するグループに共通する巨額
の設備投資ニーズと恒常的な配当圧力に基づく高い負債依存度に制約されている。格付の見通しは安定的
である。NGG は、13 年 4 月以降 8 年間に亘り適用される RIIO と呼ばれる収入規制の下、送配するガスの
価格や量に左右されず、今後も安定的に収益・キャッシュフローを計上し続けると共に、恒常的に上場企
業である親会社に配当を拠出することが想定されるものの、その額は規制上の制限内に収められる。した
がって、負債依存度を含めた当社の財務指標は、一定の範囲内で推移するものと見られる。
(2) ナショナル・グリッド・グループは、上場企業であるナショナル・グリッド・ピーエルシー(National Grid
plc)を持株会社とし、英国グレートブリテン島及び米国北東部で、主に地域独占の規制事業である電
力・ガスの輸送・配給ネットワークの保有・運営を手がけており、規制対象事業が売上の 95%(14/3 期、
以下同じ)を占める。英国では、NGG と共に、イングランドとウェールズで送電システムの保有・運営
を行う National Grid Electricity Transmission plc(NGET)が中核子会社であり、NGG、NGET、米国子会社
National Grid USA の 3 社が、グループの営業利益のそれぞれ 36%、27%、20%を計上。グループの売上
高・特別損益等考慮前の営業利益のうち、46%・70%が英国での事業に、54%・30%が米国での事業に起
因する。米国事業は、英国に比べ、収益性が低く、また規制料金が物価に連動しておらず物価上昇率を上
回る経営改善努力が常に求められるなど、事業環境は相対的に厳しい。グループの信用力は、規制事業か
ら生じる安定した収益・キャッシュフローに支えられているものの、その財務構造は、巨額の設備投資と
継続的な配当支払いを迫られる上場インフラ企業という特徴を反映し、負債への依存度が高い。高い配当
性向(10/3 期∼14/3 期平均 62%)を反映し、デットエクイティレシオ(純有利子負債ベース)は 1.8 倍
と高く、純有利子負債/営業キャッシュフローも 5.3 倍に達している(共に 14/3 期)。グループの債務負
担は重く(15/3 期のグループ全体の元利払いは 39 億ポンドの見通し)、資本市場へのアクセスの維持が
極めて重要となっている。とはいえ、比較的安定したキャッシュフローの下、債務の償還期限の平準化努
力に加え、多額の現金・有価証券の保持(14/3 期末時点の残高 40 億ポンド)や銀行によるクレジットラ
インの維持(同 29 億ポンド設定。全額未使用)により、潤沢な流動性を確保している。グループは、財
務方針としてインタレスト・カバレッジ・レシオを長期的に 3.0∼3.5 倍とすることと(14/3 期は低金利
環境下で目標を上回る 4.1 倍)、配当政策として今後見通せる限り、毎年少なくとも英国小売物価指数
(RPI)に沿い配当額を増加させることを、目標として掲げている。
(3) NGG は、英国グレートブリテン島において、地域独占である天然ガスの送配にかかる導管ネットワーク
の所有・操業を手がける民間事業法人。株式はグループ内で 100%保有されており、NGG は、グループ
の総資産の 38%、売上の 20%、営業利益の 36%を占める(14/3 期)
。英国では、ガス事業の規制緩和が
進んでおり、地域独占を維持するガスの導管事業と、一般に開放され競争が促進されているガスの調達・
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販売事業とが、完全にアンバンドリングされている。NGG は、前者に特化しており、後者のガスの調
達・販売事業は、生産者からガスを購入しサプライヤーに供給するガス仲介業者(シッパー)と、シッパ
ーからガスを購入し需要家に販売するサプライヤーが担っている。NGG は、送ガス事業では、グレート
ブリテン島でガスの全国輸送ネットワークを保有・運営しており、全長約 7,660 キロメーター超の高圧パ
イプと 23 の圧縮施設を有す。配ガス事業では、グレートブリテン島に 8 区域ある配ガスネットワークの
うちイングランドとウェールズの 4 区域にて保有・運営を行っており、全長約 131,000 キロメーターの配
ガス・パイプラインから成るネットワークを有す。NGG の導管事業の顧客はシッパーであり、売上の約
8 割を上位 10 社からの支払いに依存している。但し、顧客基盤の集中に対しては、社内にクレジットモ
ニタリング体制を構築し、与信枠を管理し、必要に応じ一定の信用補完措置を講じている。また、仮に未
払いが生じても、規制上、未払い分を翌期に回収することが認められている。
(4) NGG の売上の 9 割近くを占める導管事業は独占事業であり、1986 年ガス法に基づき、英国ガス電力市場
監督局(Ofgem)の規制下に置かれている。具体的には、Ofgem との契約に基づき、「収入上限(Allowed
Revenue)」が設定されており、NGG はこれを割り振る形で顧客であるシッパーに使用料を課している。
現在は、13 年 4 月から 8 年間の期間で施行されている「RIIO(Revenue = Incentives + Innovation +
Outputs)」と呼ばれる収入規制が適用されており、収入上限は、以下の手順で算出される:①安全性や信
頼性、環境負荷、顧客カバレッジ、顧客満足度など、規制事業者に求められるアウトプットを設定、②同
アウトプットの達成に必要な効率的な投資・操業コスト(支出総額)を決定、③支出総額のうち一定部分
は年度内の回収を認める(Fast Money)、④年度内の回収を認めない部分については「規制対象資産
(Regulatory Asset Value、RAV)」として積み上げ(RAV はその後 RPI にリンク)
、RAV に基づく減価償却
額と一定のリターン(15/3 期では、送ガス事業が 4.38%、配ガス事業が 4.24%)を算出、⑤Fast Money、
RAV に基づく減価償却額とリターン、及び、租税負担等の必要コストを足し合わせ、収入上限を算出す
る。価格やボリュームといった予期しうる不確実要因が生じた場合は 12 ヵ月ごとに行われる価格改定後
の収入上限に反映し調整する。また、これらでカバーされない理由(例えば効率化努力や技術革新)によ
り必要コストが減少(または増加)した場合には、同減少分(または増加分)を翌々年度以降に規制事業
者と顧客との間でシェアする(=規制事業者から見ると、必要コストの減少(増加)に基づく収入上限の
減少分(または増加分)を一部にとどめる)ことにより、規制事業者に効率化努力を促す仕組みが採用さ
れている。RIIO 適用初年度となった 14/3 期には、NGG の送ガス・配ガス事業の収益性(ROE)は共に
13%と、規制上の想定(共に 10%)を上回るものとなった。
(5) NGG は、規制の下、安定的な売上・利益・キャッシュフローを計上し続けている。14/3 期の売上・特別
損益等考慮前の営業利益・営業キャッシュフローは、30 億ポンド(前期比 0%増)、15 億ポンド(同
1.1%減)
、17 億ポンド(同 2.6%増)と、前年から概ね横ばいとなった。NGG の財務構造は、事業特性に
基づく多額の設備投資並びに配当拠出圧力を反映し、債務への依存度が高い。今後 5 年を見通すと、
NGG は毎年 7∼9 億ポンドの設備投資を予定している。また、NGG は、親会社への多額の配当支払いを
続けている(14/3 期には 6 億ポンド拠出)
。14/3 期末の純有利子負債は 88 億ポンドと、前期末の 93 億ポ
ンドからやや減少したものの、純有利子負債/営業キャッシュフローは 5.2 倍、デットエクイティレシオ
(純有利子負債ベース)は 1.4 倍と、依然として重い。NGG は、ナショナル・グリッド・グループに所
属する一企業ではあるものの、NGG が規制事業を手がけるにあたり、Ofgem から認可されたライセンス
上、NGG とグループ内の他企業と一定の距離を保つ「リングフェンス」条項を遵守する必要がある。
「リ
ングフェンス」は、具体的には、①対象となる規制事業を適確かつ効率的に実施するための資金の確保②
規制対象資産の処分の禁止③規制対象以外の事業拡大の禁止④担保・保証提供やクロスデフォルトの禁止
⑤規制上の義務違反に至るような親会社などの指示の禁止⑥配当の制限―などが規定されている。NGG
は今後も、安定的に収益を計上し、恒常的に配当を拠出すると見られるものの、その額は Ofgem の規制
を満たす範囲内に抑えられる。したがって、NGG の負債依存度の高い財務構造が大きく変動する可能性
は低いと見られる。
(担当)仲川 聡・幾島
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真
■格付対象
発行体:ナショナル・グリッド・ガス・ピーエルシー(National Grid Gas plc)
【据置】
対象
外貨建長期発行体格付
格付
見通し
A
安定的
格付提供方針に基づくその他開示事項
1. 信用格付を付与した年月日:2015 年 2 月 23 日
2. 信用格付の付与について代表して責任を有する者:藤本
主任格付アナリスト:仲川 聡
幸一
3. 評価の前提・等級基準:
評価の前提および等級基準は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に「信用格付の種類
と記号の定義」
(2014 年 1 月 6 日)として掲載している。
4. 信用格付の付与にかかる方法の概要:
本件信用格付の付与にかかる方法の概要は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に、
「コーポレート等の信用格付方法」
(2014 年 11 月 7 日)
、
「都市ガス」
(2011 年 12 月 7 日)、
「親子関係にある子会社
の格付け」
(2007 年 12 月 14 日)として掲載している。
5. 格付関係者:
(発行体・債務者等)
ナショナル・グリッド・ガス・ピーエルシー(National Grid Gas plc)
6. 本件信用格付の前提・意義・限界:
本件信用格付は、格付対象となる債務について約定通り履行される確実性の程度を等級をもって示すものである。
本件信用格付は、債務履行の確実性の程度に関しての JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該確実性
の程度を完全に表示しているものではない。また、本件信用格付は、デフォルト率や損失の程度を予想するもので
はない。本件信用格付の評価の対象には、価格変動リスクや市場流動性リスクなど、債務履行の確実性の程度以外
の事項は含まれない。
本件信用格付は、格付対象の発行体の業績、規制などを含む業界環境などの変化に伴い見直され、変動する。ま
た、本件信用格付の付与にあたり利用した情報は、JCR が格付対象の発行体および正確で信頼すべき情報源から入
手したものであるが、当該情報には、人為的、機械的またはその他の理由により誤りが存在する可能性がある。
7. 本件信用格付に利用した主要な情報の概要および提供者:
・ 格付関係者が提供した監査済財務諸表
・ 格付関係者が提供した業績、経営方針などに関する資料および説明
8. 利用した主要な情報の品質を確保するために講じられた措置の概要:
JCR は、信用格付の審査の基礎をなす情報の品質確保についての方針を定めている。本件信用格付においては、
独立監査人による監査、発行体もしくは中立的な機関による対外公表、または担当格付アナリストによる検証など、
当該方針が求める要件を満たした情報を、審査の基礎をなす情報として利用した。
9. JCR に対して直近 1 年以内に講じられた監督上の措置:なし
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また
はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、
的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また
は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、
金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因
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って、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするも
のでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。格付は原則として
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■NRSRO 登録状況
JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の 4 クラ
スに登録しています。(1)金融機関、ブローカー・ディーラー、(2)保険会社、(3)一般事業法人、(4)政府・地方自治体。
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部
TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026
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http://www.jcr.co.jp