感染と感染性廃棄物のABC【64】

感染のしくみ 接触、即感染ではない 19 免疫まとめ 10 免疫良い面・悪い面
感染と感染性廃棄物のABC 第 64回 感染の基礎 その 42
最近ますます免疫の重要さがいわれております。
この免疫機能をどう高めるかというのは、医療機関関係の方々や処理業者の方々にと
っても、感染性廃棄物からの感染を予防するばかりか、自分たちの毎日の生活を健康で
過ごし、かぜやインフルエンザをはじめ、いくつもの感染症やがんの発生も抑える身体
を保っていくという点からも非常に重要な役割を担ってくれています。
毎日、6,000 個発生しているというがん細胞も、自分自身で意識もないままに、基礎
的な目にみえない免疫という生体防御機能が働いて防いでくれています。
これら一般的な免疫の話としては、我々の毎日の生活の中での免疫機能の高め方など
も重要ですが、これらはまた別の機会にとして、今回および次回では、感染性廃棄物か
らの感染を予防するという観点から免疫の最終として免疫全体についてみてみます。
本シリーズ感染のしくみとして、副題に「接触、即感染ではない」を挙げてきました。
この答えは、免疫の生体防御機能が生体を守ってくれており、接触、即感染にはなら
ないということです。
免疫について、第 61 回は、主に外部からの細菌やウイルスといった病原体などの侵入
物、すなわち非自己についての免疫の流れと攻撃などについて、第 62 回は、主に自分の
細胞ががん化する、あるいは自分の細胞がウイルスに侵入され占領されてしまう、すな
わち自己の細胞についての免疫の流れと攻撃について解説をしました。
これらの免疫は、いずれもヒトという生体を細菌やウイルスから守るという方向で働
いています。
これは当然免疫が良い面で働いている場合です。実は免疫も良い面、すなわち利益と
なる、良い結果を産む、そのような場面ばかりではありません。期待している以外の悪
い面、不利益を産む、悪い結果を産む、このような場面がいくつかあり、全体からみた
なら数でこそ少ないですが、困っている人が多くいるということも事実で、この悪い面
を含めて免疫の全体はどのようになっているかをみてみたいと思います。
なお勝手ながらスペースの都合で感染からみた食中毒は、次回とします。
また、本文末尾に前回の「エボラ出血熱と感染性廃棄物の適正処理」のエボラ出血熱
の現況の補足をしましたのでご覧ください。
実際の場面での免疫 ― 治療法がないエボラ出血熱
これは前回(第 63 回)の臨時トピックス「エボラ出血熱と感染性廃棄物の適正処
理」のp10 にありますように、現在治療薬がまだみつからない現状ですが、現地の医師
は、「免疫の抗体の産生のためか、2週間で回復に向かう人はその後も良好で、この時
点で回復が思わしくないとその後も悪い」と免疫が大きく影響していることを示唆する
発言をしております。
助かる人と命を失う人の差は当然早い段階での治療などの要素もありますが、エボラ
出血熱のように確定的な治療がみつかっていない現状では、結局は、その人の持ってい
る免疫力の差が、助かるか助からないかの結果の差となって現れてきます。
-1-
もし仮に免疫が働かなければ、エボラウイルスの思うままで、必ずや死に至ります。
支持療法のように、おう吐、下血、その他の出血などで失った水分を補給するなどで
は、自ずから限界があります。
前々回(第 62 回)までの説明にあったように、ヒトの生体の持つ獲得免疫は素晴らし
いものでエボラウイルスのような未知のものであっても、すでに体内に抗体を持ってい
るというものです。もし準備されていない場合であったなら、抗原の提示を受けて遺伝
子再構成により、直ちには無理ですが、一定期間後にはエボラウイルスに対する抗体が
用意され、攻撃をするというものです。
この免疫の一連の流れがなければ、今のエボラ出血熱のアウトブレイクの終息はあり
えません。
では良いことばかりでマイナス面はないのかというと、ワクチンは素晴らしいけれど、
反面、100 万分の1などとても小さな確率ですが、副作用で乳幼児が亡くなるということ
も時折ですが起きています。
このワクチンも含めた免疫というものに、良い結果だけを期待したいのですが、今回
のテーマで全体をみるということは、実際には困った問題もいくつかあり、副作用のよ
うなマイナスの面もあるということです。これも頻度、確率からいえば、良い結果が圧
倒的に多いですが、この期待されない悪い面、悪い結果についても解説いたします。
免疫機能の良い面と悪い面
このように免疫も実は、生体にとって都合の良い面ばかりではありません。
表 14 免疫の良い面・悪い面
表14 免 疫 の 良 い 面 ・ 悪 い 面
凡 例: ★良い結果
具体例
★良い結果(非自己に働く)
Ⅰ. 感染免疫
悪い結果
非自己
具体例
悪い結果(過剰に働く)
悪い結果(過剰に働く)
Ⅴ. 移殖免疫
臓器移植拒絶
Ⅱ. ワクチン
Ⅳ.免疫寛容
Ⅵ. アレルギー疾患
★良い結果(自己に働く)
Ⅲ. 腫瘍免疫
悪い結果
(破壊・働かない)
自己
悪い結果(自己に働く)
Ⅶ. エイズ
(免疫不全症候群)
Ⅷ. 自己免疫疾患
[原田 優・TRP]
優・TRP]
-2-
Ⅳ. 移殖免疫
誰しもが良い結果だけ得られるようにとは思いますが、ヒトの生体は各個人で異なり
悪い結果の出る場合も受け入れざるを得なくなります。
これを示したのが、表 14 です。この表に沿って、免疫の良い結果と悪い結果にはど
のようなものがあるか、全体を眺めて免疫のまとめとしたいと思います。
免疫機能の良い面・良い結果
表 14 をみていただくと、お分かりいただけるように免疫の良い結果が期待できるの
は、この内、Ⅰ~Ⅳの4つの場面です。これも外部からの侵入してきた細菌やウイルス
に働く場合(白枠内)と自己の細胞に働く場合と、大きく分けて2つの流れがあります。
第 62 回まで解説してきましたのは、主として感染に対して働く、いわゆる「Ⅰ.感染
免疫」といわれるものです。そして先のB細胞などが抗体を作る場合は、この一部を記
憶するということを利用したのが、「Ⅱ.ワクチン」、あるいは「予防接種」というも
のです。
これが非自己に働くMHCⅡで解説した「良い結果」が得られる、いわゆる免疫の生
体防御機能の面です。これらは獲得免疫の主流となるものです。
もう1つの良い面としては、第 62 回で解説したMHCⅠの自己の細胞に働く、がん細
胞やウイルスに感染した細胞への攻撃があります。
主としてがんなど腫瘍に対して大きな効果を上がるので、「Ⅲ.腫瘍免疫」と呼びま
す。これら3つが免疫の良い結果をもたらす働きです。悪い面としての免疫の過剰な働
きがありますが、4つ目としては、この過剰な働きと反対に「Ⅳ.免疫寛容」というも
のがあり、免疫として過敏に働かないというしくみです。これが上手く働いてくれれば、
食物アレルギーなどは起きないともいえます。これはⅠ~Ⅲのものとは少し異なるので、
色を変えてあります。
Ⅰ.感染免疫、
Ⅰ.感染免疫は、外部から侵入してきた細菌やウイルスに対するもので、MHCⅡの
目印、ユニフォームみたいなものといいましたが、外部からの侵入物にはMHCⅡが付
いて区別が可能で、これを使って抗原提示をして、抗体を作り攻撃をするという形をと
ります。
MHCⅡの非自己の外部からの細菌、ウイルスに対しては、これと同じにB細胞も外
部からの抗原をヘルパーT細胞のCD4陽性T細胞に提示します。CD4陽性T細胞は、
形質細胞と形を変え、最終的には5つの免疫グロブリンを作り出し、抗原に攻撃をしま
す。
Ⅱ.ワクチン(予防接種)
免疫の良い結果の代表の1つが、ワクチン、いわゆる予防接種ともいわれるものです。
この働きは、非自己の細菌、ウイルスなどに働くもので、「Ⅰ.感染免疫」と同じで、
この感染免疫が記憶されるという面を応用したものといえます。
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そしてここで重要なことは先のB細胞の一部は、抗原を除去すると、メモリーB細胞
として記憶されます。このようにすればもし同じような病原体が外部から侵入してくれ
ば、ただちに抗原提示の識別と新たな抗体探しをすることなく、即前回の結果から、抗
体を決定しその抗原に最も効果の高い免疫グロブリンを作り出し、攻撃にかかります。
これがワクチンの原理です。これらはいずれも解説済みのものです。
これも1回で一生に近く効果が持続するものもあれば、数回摂取しなければ効果が得
られないもの、何年かで免疫の効果が消えてしまうものなどあります。
ここでも過剰に働き過ぎて、ごく小さな確率ですが、副作用で乳幼児が死に至るとい
うことも起き、世のお母さん方が頭を悩ましているワクチンもあります。
しかしジェンナーに始まるワクチンは、感染予防、死亡率低下という面では、計り知
れない大きな恩恵をもたらしていることも事実です。
ワクチンの一覧は、表 15 のとおりです。
表 15 主なワクチン
表 15
主
現行のワクチン
な
ワ
ク
チ
ン
代 表 的 な ワ ク チ ン
弱毒生ワクチン
ポリオ、BCG、麻疹、風疹、
おたふくかぜ、水痘
不活化ワクチン
日本脳炎、狂犬病、インフルエンザ、コレラ
A型肝炎、B型肝炎、
肺炎球菌、百日咳
A型肝炎、B型肝炎、肺炎球菌、百日咳
ト キ ソ イ ド
ジフテリア、破傷風
生ワクチンは、抗原(病原体)は、死んでいないものを弱めて使う。
抗体もでき易いが、副作用なども起きやすい。
不活化は、何らかの処理で、抗体(病原体)は死んでいる。
抗体は、生ワクチンに比べて弱い。
[原田 優・TRP]
優・TRP]
トキソイドは、毒素の部分を抽出して弱めたもの。
針刺し事故については、この後に引き続き解説しますが、ワクチンとして有効なもの
ワクチンは、特異的免疫療法の
1種である。
ワクチンは、特異的免疫療法の1
は、B型肝炎ワクチンがあります。感染性廃棄物処理に従事する方は、ぜひ接種するこ
非特異的療法としては、サイトカイン療法、インターフェロン療法、
非特異的療法としては、サイトカイン療法、インターフェロン療法、
とをお勧めします。
G-CSF療法がある。
CSF療法がある。
近年では、医療関係職種の方は、大多数がワクチン接種をするようになってきました。
-4-
インフルエンザワクチンは、通常のものですので対象とはしませんでした。もし新型
インフルエンザが流行などした際にワクチンが間に合えば、これは有効で、必ず受ける
べきワクチンといえます。
残念ながら針刺し事故により引き起こされる可能性のあるC型肝炎、エイズについて
は、ウイルスが変異しやすいために、未だにワクチンの開発に至りません。
エイズでも触れますが、もし予防ということであれば、正しい感染や免疫の知識を持
った上で、各人の常日頃からの免疫力を高めるということが、見直された重要なポイン
トのようです。
Ⅲ.腫瘍免疫
Ⅲ.腫瘍免疫と呼んだ3つ目は、これは、MHCⅠという目印、ユニフォームのよう
なものがあるかどうかで2つの流れになります。この自己の細胞の目印がなければ、細
胞は何らかの形で侵されているとみなし、主としては、がん化してMHCⅠがなくなっ
た細胞と判断し、抗原提示を受けることなく働く自然免疫としてのNK細胞が働きます。
もしMHCⅠが残っていれば、がん細胞の場合でも、ウイルスに侵入された場合でも、
このMHCⅠを使って、自己の細胞に侵入してきて占有しているがん化した細胞なり、
ウイルスをヘルパーT細胞のCD8陽性T細胞に提示します。
この抗原提示を受けるとヘルパーT細胞は、細胞障害性細胞(CTL;キラーT細胞)に
変わり、抗原に対する強力なミサイルのような攻撃をしかけ、がん細胞を排除します。
この3つが免疫機能本来のもので、期待どおりに働く良い面、良い結果をもたらす場
合です。
Ⅳ.免疫寛容
他と若干異なり、アレルギーの項で一緒に解説します。
悪い結果 免疫が働かない場合
それでは悪い面、悪い結果を招くものとしては、どのようなものがあるかをみてみま
すと悪い結果を招くものは中々厄介です。
これにも自己以外、外部からの侵入物、細菌やウイルスなどだけでなく、食べ物など
も含まれますが、これら自己以外に対するものと自己に働くもの(Ⅷ.自己免疫疾患)
との2つに分かれます。
自己以外のものでは、免疫が働き過ぎる、すなわち過剰による弊害の場合(Ⅴ.移植
免疫・臓器移植拒絶、Ⅵ.アレルギー疾患)とそして逆に働かない、不全といわれるも
の(Ⅶ.エイズ)の2つがあります。これらについてみてみます。
Ⅴ.外部からの侵入物に対する免疫の過剰な反応① ― 移植免疫・臓器移植拒絶
その1つは、前々回も触れた「臓器移植」の際に起こる免疫です。
良く遺伝子HLAの検査により、臓器移植が可能とかのニュースなどをみたことがあ
ろうかと思います。このHLAは、MHCⅠと同じです。MHCⅠがなるべく近いヒト
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からの移植であっても、全く同じ自己の細胞でなければ、免疫の機能としては、外部か
らの侵入物として攻撃してしまいます。
現在では、免疫抑制剤を使ったりしますが、これを用いれば感染し易くなってしまい
ます。
勝手なものでヒトとして免疫で助けられているのに、この臓器移植に限っては、免疫
が移植された臓器も自己のものとして、見逃してくれると良いというケースです。
本シリーズの第60回のp4の「MHCⅠ分子のIDは、複数存在する? MHCⅠ分子
と臓器移植の関係は?」に詳しい説明がありますので参照してください。
注)MHCは、HLA(かつてはヒト白血球型抗原、Human Leukocyte Antigen )と同
じで、現在は、主要組織適合遺伝子複合体といわれています。自己か非自己に関わる遺
伝子とでも覚えておいてください。MHCⅠがあれば自己の細胞、MHCⅡがあれば外
部から侵入してきた細菌やウイルスです。臓器移植にとっては、自己か非自己かは大き
な問題で、このHLA、あるいはMHCⅠが一致している臓器であれば拒絶は少ないと
いえます。
Ⅵ.外部からの侵入物に対する免疫の過剰な反応② ― アトピー、ぜんそく、花粉症、
食物など各種アレルギー疾患
免疫の結果の良くない面のもう1つの過剰な免疫反応は、自己免疫疾患のように、自
己のさいぼうではなく、外部からの侵入物に対する免疫の過剰な反応を示すもので、良
く知られているアレルギー反応による疾患です。一般にアレルギーは、即時型がⅠ型か
らⅢ型、遅延型がⅣ型と4つに分かれます。ここでは即時型のⅠ型を中心に触れます。
これらは本来であれば食べ物として日常我々が普通にとっているものでも、記憶免疫
に生体にとって害のあるものと認識すれば、排除しょうと働き、初回は余り反応がなく
ても、2回目以降、過剰な反応をして、アナフィラキシーショックなどを起こすという
ものです。
花粉症、アトピー、そば、小麦粉など食物によるアナフィラキシーショックなどが挙
げられ、最近では児童の給食でのお替りによる痛ましい死などが報道されています。
単にくしゃみや鼻水などで済んでいれば良いですが、例えばスズメバチに刺された場
合でも、初めての場合は、抗原の提示があって、刺されてからしばらく経って獲得免疫
が遅れて出てきます。そしてこれはメモリーB細胞などで記憶されます。ところが、何
年なり経って、2回目にスズメバチに刺されたとしますと、もうすでに抗体ができてお
り、記憶されているのでただちに反応して攻撃します。これが記
憶の時点で過剰か、反応で過剰か分かりませんが、スズメバチの
毒に対して免疫が過剰に反応することによって、毎年 30~40 人
が命を落としています。しかしハチの毒で死ぬことはありません。
アナフィラキシーショックとは、初期症状としては気分不良や
何となく身体がおかしいという違和感、さらに進行すると息苦し
さ、喉がヒューヒュー・ゼイゼイという気管支喘息の発作のよう
に異常な呼吸音、時には下痢もみられることがあります。
重篤な例では、血圧の低下を伴い顔面蒼白(そうはく)となり、
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さらに状態が悪化すると意識消失、最悪の場合には死に至ります。
この蜂刺され、あるいは食物アレルギーのアナフィラキシーが起きた時の緊急用に開
発されたアドレナリン自己注射器「エピペン」の自己注射キットが医師の処方箋により
求められます。これはアナフィラキシーショックを防ぐための補助治療剤でアドレナリ
ン自己注射薬です。一度ハチに刺された人や、食物アレルギーのある方、特に児童など
は、これを常に携帯していれば安心です。
この蜂毒も食べ物によるアナフィラキシーも、同じで、先の即時型Ⅰ型といわれるも
ので、これらのアナフィラキシーショックにはこのエピペンは有効です。
食物アレルギーの原因食物としては、小児では鶏卵、牛乳、小麦などが多く、成人で
は甲殻類(エビ、カニ)、ピーナッツ、ソバ、小麦などが原因として多く認められます。
最近は果物などによるものも増加傾向にあります。
(図 38 参照)
食物依存性運動誘発アナフィラキシーといって、小麦粉などの食べ物によって起こる
食物アレルギーの特殊型で食後2時間以内に運動をしたときにのみ症状が出現するもの
もあります。これは成人型で、乳幼児、小児とはまた異なります。
魚介類、ナッツ、ピーナッツ、ソバは重篤なアナフィラキシーを起こすことが多いこ
とが知られています。またぜんそくの既往がある患者も重篤なアナフィラキシーを起こ
す可能性が高いといわれています。
これらは食べ物という日常的にとっているものに対して、免疫が異物なり、生体に都
合の悪いものとして判断して排除しようと攻撃するものです。かつてはヒトの生体に回
虫に対して用意されていた免疫グロブリンの IgEは、回虫がいなくなったために、時折
間違って働いていてしまうなどともいわれています。インドネシアなどで同じ川で顔も
洗い、野菜も洗う、トイレも同じという環境では、当然回虫のいる率も高く、免疫が正
常に働くためにア
木の実類
トピーなどとは縁
2%
魚卵
のないつやつやし
軟体類
野菜類
3%
大豆
1%
1%
た皮膚の子どもが
ピーナッツ 2 %
肉類
多いということで
その他
3%
2%
3%
す。
鶏卵
魚類
38%
また小さい時に
4%
かつての日本の農
ソバ
家などで住まいの
5%
土間に馬や牛を飼
果物類
っているような環
6%
境で育った人には
甲殻類
小麦
乳製品
アトピーなどが起
6%
8%
16%
きないといわれて
います。これも先の
図38 全年齢におけるアレルギー原因食物
理由と同じです。
[今井孝成、海老澤元宏、H14・17厚生労働科学研究報告書]
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Ⅳ.免疫の良い面・良い結果 ― 免疫を過剰に働かせないためのクッション
免疫寛容(めんえきかんよう)
免疫の悪結果の説明の中に、免疫寛容が入りますが、これは免疫の良い面・良い結果
といえます。細かな説明は難しくなるので、免疫が過剰に働いたり、自分の細胞に攻撃
したりしないための緩衝材、クッションの役目と簡単に覚えていただければと思います。
我々は普通に健康に生活を送っている限り、とりわけ免疫を意識するということはあ
りません。免疫は、みえないところで非常に細やかに、用意周到に生体を守るべく働い
てくれています。
万が一、針刺し事故などにあったとしても、そのほとんどは何事もなく健康でいられ
るのもすべて免疫のおかげです。
免疫寛容という聞きなれない言葉ですが、その素晴らしいしくみの1つで、第 56 回で
白血球の生まれる際の解説をしました。骨髄等で、あらゆる抗原に対応できるように大
量の白血球のT細胞が作られます。次に胸腺で成長の過程として訓練を受けます。生ま
れたての中には自分の細胞にまで攻撃してしまうような血球も含まれているためにこれ
らは取り除かれます。
免疫は自己の細胞には反応しないで、外部から侵入してくる抗原、すなわち細菌やウ
イルスなどの病原体を認識し、抗原提示して、抗体が攻撃するとういうのが基本です。
ですから一定期間内に体内にあった細胞、自己の細胞が該当しますが、これは免疫細
胞が自己と認識して、攻撃しないという現象です。これによって、ある一定期間内に、
自己ではない、外部からの細胞を人為的に体内に取り込んだとしても、例えば食べ物な
ど食べても、免疫細胞は外部からの細胞を自己と認識して攻撃しません。
簡単にいえば生体(自分)にとって都合の良いものだけは、外から入ってきても良い
が、病原体などは困るから排除するという、誠に都合の良い取捨選択をしてくれるしく
みとでも理解してください。一種のクッションで少し緩みを持たしているともいえます。
このしくみが働いてくれないと、全て食べ物も外部から入ってくる、病原体でなくて
も、非自己の異物とみなして攻撃の対象とするので、アレルギーが起こってしまいます。
当然、自己の細胞の区別がなく、免疫寛容が狂えば、後述する自己の細胞を異物とみな
して攻撃する自己免疫疾患が起きてしまいます。
免疫寛容は、免疫が働かないということとは異なっています。免疫が機能しないのは
次に出てくる免疫不全という故障であり1つの疾患です。
Ⅶ.外部からの侵入物に対して免疫が働かない状態 ― エイズ
免疫の悪い面・悪結果は、外部からの侵入物に対して、免疫が過剰に働き過ぎるもの
と逆に働かないものの2つとしました。
免疫寛容はちょうど都合良い状態で働いてくれていますが、ここでは免疫が働かない
という状態、これを免疫不全といい、1つの疾患ですが、この点について解説します。
免疫が働かないものの代表は、エイズ(AIDS;後天性免疫不全症候群)で、これ
はまだ解説しておりませんが、読んで字のごとく、生まれた後、何らかの、実はエイズ
のウイルスに感染することで、抗原提示を受ける免疫の司令塔ともいうべきヘルパーT
-8-
細胞が破壊され、機能しなくなる、免疫の司令塔がなくなってしまうという恐ろしい疾
患です。
どのように恐ろしいかといえば、我々はごく普通に免疫が機能しているので気が付き
ませんが、免疫が働かないということは、何らかの感染症を引き起こす細菌なり、ウイ
ルスが体内に侵入してきたなら、弱い細菌であっても何の抵抗もできません。
細菌、ウイルスの思うままに生体が朽ちるまで増殖し放題にさせてしまい、これを排
除することができない、この感染症を治すということができないということです。
まさに接触、即感染となってしまいます。このため、もし針刺し事故が起きたらなら
B型肝炎であれ、C型肝炎のどれであってもほぼ 100%に近く、感染に至るということで
す。
数回後に解説予定ですが、現在では、B型肝炎のウイルスが入っている血液を持つ人
が、現在 100 人に2から3人ぐらいですが、この血液を採血した注射針で針刺しが起き
た時、感染に至る確率は、5~20%ぐらいといわれております。
針刺しをした人には何人かお会いしましたが、実際に感染した人はおりません。これ
は偶然でも、運が良かったからでもなく、ヒトに備わっている免疫の影の力によって強
力なB型肝炎ウイルスを退治してくれているという免疫の生体防御機能の表れです。
免疫の重要性とエイズ
感染性廃棄物の扱いの上で、針刺し事故によるエイズの発症は、解決すべき重要な課
題の1つです。
次回以降で針刺し事故について解説しますが、免疫は、針刺し事故からの感染を防ぐ
大きな要因といえます。
そしてその上、B型肝炎についてはワクチンが開発されました。ワクチンのできない
C型肝炎は、インターフェロンなど治療法も確立されてきました。
このエイズの予防や治療においては、HIV(ヒト免疫不全ウイルス;Human
Immunodeficiency Virus)というウイルスの根絶が望ましいわけです。ところがこのウ
イルスは、C型肝炎ウイルスと同様に形が変化するために、現在ワクチンの開発が急が
れていますが、まだ実現に至っておりません。
また治療薬は 23 剤が開発されて保険適用されていますが、まだ根本的な治療薬が見出
されないままに、これらの薬剤の3剤以上の併用療法という方法により治療に当たって
いるというのが現状です。しかしその効果は著しく、99%まで死なずに生活できるとこ
ろまできているということです。そしてワクチンのない現状で重要視されているのが、
免疫機能の向上を図るという方法が推奨されているということです。
HIVにより引き起こされるエイズという疾患は、先の外部からの細菌やウイルスな
どの病原体をMHCⅡの上に乗せ、この抗原提示をヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)
にすると出てきました。この抗原を受けて抗体を作るという免疫の司令塔に当たるのが、
CD4陽性T細胞です。ところがエイズは、この免疫の司令塔ともいうべきCD4陽性
T細胞を壊していき、次第にT細胞の数が減り、機能が低下し免疫が機能しなくなって
しまう疾患です。
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免疫がもし機能しないということは、感染症の引き金となる細菌なり、ウイルスなり
の何の病原体がきても、何の抵抗もできないということです。
細菌、ウイルスは増殖し放題で、ヒトの臓器なり、組織は次々破壊されていきます。
このようにエイズは、エイズという疾患直接では命を落とすことはありませんが、C
型肝炎、結核、ニューモシスチス肺炎(旧 カリニ肺炎)やカポジ肉腫、悪性リンパ腫、
皮膚がんなどの悪性腫瘍、カリニ原虫による肺炎など感染、あるいはウイルスに侵入さ
れるなどして免疫が働かないために、直接的にはこれらの疾患で命を落とすことになる
わけです。
これは死亡する疾患の多いものを列挙しましたが、死亡率自体は、激減といっても過
言で無いぐらいに低くなってきており、エイズは助かる疾患になってきたといえます。
治療薬もないのに何故だと思いますか? これは先にも触れているように、何種類かの
薬剤を併用する治療法が功を奏しています。併用以前は1~2剤の内服治療が主流でし
たが、すぐにウイルスが耐性を獲得してしまい薬が効かなくなってしまうことが問題で
した。そこで抗HIV薬を3~4剤同時に内服する「強力な抗ウイルス療法(Highly
Active Anti-Retroviral Therapy:HARART)
」が主流となっています。
最近では、必ず3~4剤併用する治療法が行われるため、HARARTをさらに略し
てART(Anti-Retroviral Therapy)といわれるようになってきています。
途中の説明が長くなりましたが、このエイズの予防としては、ワクチンのない現状で
は、当たり前のようですが、結局平素から免疫機能を高めることが重要であるというこ
とが改めて認識され、実行されているということです。死亡率は低くなりましたが、併
用療法は一度始またら一生続けなければなりません。予防が第一です。
エイズの詳細は後の機会にしますが、潜伏期間も5~10 年と長いために、予防であっ
ても、感染した後にも免疫機能を高めるということは理に適っているといえます。
免疫機能をどのようにして高めるかというのは、大変興味深いです。具体的な話とし
ては、「免疫は腸から」を始め、最近、色々と新しいことが分かってきたようですが、
これもまた別の機会としました。
Ⅷ.自己免疫疾患
自己に働く悪い結果としては、「自己免疫疾患」といわれるもので、この疾患に悩ま
されている人は多いです。
これは自己の正常な細胞を生体にとって都合の悪いものとしてみなし過剰な攻撃を加
えてしまうというものです。これらはすでに触れたTLR(Tool 様受容体)の研究など
で新たに薬剤を開発中のものもあり、早い段階での実現が期待されています。
自己免疫疾患は、1つの疾患ではなくいくつかの疾患の総称名です。したがって、全
身に亘り影響がおよぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異
的疾患の2種類に大きく分けることができます。関節リウマチや全身性エリテマトーデ
ス(SLE)などの膠原病は、全身性自己免疫疾患の代表ともいえます。
免疫寛容が巧く働いてくれていないともいえます。
各臓器では、カンピロバクター菌の食中毒の後にかかることが多いといわれ、ギラン・
バレー症候群(本シリーズ第 39 回 感染からみた食中毒第 16 回、17 回参照)、重症筋無
-10-
力症、潰瘍性大腸炎、クローン病などと難病も多く、バセドウ病やⅠ型糖尿病、円形脱
毛症なども含まれます。
全身性で 10 疾患(内、6疾患が難病といわれるもので、公費負担の対象となっていま
す。)、特定の各臓器で 37 疾患(内、難病 7疾患)あり、炎症性腸疾患以外では、男
性よりは女性の罹患率が高い疾患といわれています。女性の罹患率が高いのは、原因が
すべては解明されてはいないようですが、妊娠中に胎児と母体との胎盤を通して起こる
他者からの細胞の存在が原因で起きているからといわれています。
免疫は、なかなかしくみまで知る機会はありません。感染性廃棄物からの感染予防と
しては、ワクチンはB型肝炎ワクチンのみであり、最近の考え方では、日常からの免疫
を高めておくことが、他の感染からの予防にもなり、特に治療薬が確立されていないエ
イズは、まさに罹患しないことが第一といえ、免疫力の増強がいわれています。
このような意味からも、また感染性廃棄物は感染の可能性が高いですが、感染の正し
い知識を持って臨めば、恐れている接触、即感染とはならないことも理解できます。
通常、免疫の良い面で機能する部分ばかりが紹介され、悪い面での免疫は、疾患とし
てだけ触れていることが多いです。この機会に免疫の悪い面も同時に触れました。
このように免疫の終りとして、接触、即感染とはならない、影の貢献者である免疫の
全体像について解説しました。若干の補足が残りますが、これは次回といたします。
第64回 セルフアセスメント
第 64 回の解説の中から設問を用意しました。もしご興味がおありでしたら、お答えく
ださい。回答は次回といたします。
1.本シリーズの感染のしくみとして、副題に「接触、即感染ではない」を挙げてきま
した。この答えは、( ①
)が( ②
)を守ってくれてお
り、接触、即感染にはならないということです。
第62回 回答
1.MHCⅠを細胞の表面にお皿(器)のようにして、侵入され感染を受けた
( ① ウイルス)なり( ② がん化)した自己の細胞の一部なりを提示します。
MHCⅠが提示する相手は、( ③ ヘルパーT細胞のCD8陽性T細胞 )です。
引用・参考文献
第 61 回の引用・参考文献も参照してください。
1.本間れい子、高見台クリニック HP;ハチ毒アレルギー(1)スズメバチは一度ヒト
を刺したら死ぬか? http://takamidai-clinic.com/?p=3541 、
ハチ毒アレルギー(2)ハチ対策、 http://takamidai-clinic.com/?p=3547
2.アナフィラキシー補助治療剤エピペンおよび使い方ガイドブック
http://www.epipen.jp/top.html 、www.epipen.jp/download/manual.pdf
3.日本アレルギー学会、アレルギーについて知ろう、
http://www.jsaweb.jp/public/index.html
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4.北海道大学病院 HIV 感染症対策位委員会、北海道 HIV/AIDS 情報
http://www.hok-hiv.com/knowledge/treatment/
西アフリカエボラ出血熱の現況について 最近の状況・補足
前回解説したエボラ出血熱について、最近状況を補足します。
一時衰えるかの様相を示しましたが、下記のとおりエボラ出血熱の感染者数、死者数
は衰えるどころか、シエラレオネでの死者数が倍増するなど未だに感染が続いておりま
す。
また医療関係者12月14日の時点で、649 人が感染し、この内、365 人が死亡(致死
率 56.2%)しており、一般の致死率からみると 1.6 倍と著しく高いといえます。
少ない医療従事者に大きな負担が掛かり、マスク、手袋などの衛生材料も不足してお
り、感染予防も不十分という現状が考えられます。
西アフリカ エボラ出血熱現況
2014(平成26)年
11月21日 ⇒ 12月22日
患者数 15,351人 ⇒ 19,340人 (1.26%増)
死者
5,450人 ⇒ 7,518人 (1.38%増)
致死率
35.6% ⇒
38.9% (3.3%増)
名
11/21
死者数
11/21
患者数
11/21
致死率
12/22
死者数
増加率
ギニア
1,214
2,047
59%
1,586
1.31 倍
リベリア
2,963
7,082
42%
3,376
1.14 倍
シエラレオネ
1,267
6,190
20%
2,556
2.02 倍
ナイジェリア
8
20
40%
マリ
6
6
100%
セネガル
0
1
0%
スペイン
0
1
0%
アメリカ
1
4
25%
合 計
5,459
15,351
36%
国
7,518
[出典:WHO・世界保健機構 HP]
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