JARI Research Journal 20150101 【解説】 ISO/TC204 における ITS の国際標準化動向 Trends on ITS Standardization Activities in ISO/TC204 香月 伸一*1 Shinichi KATSUKI 1. はじめに Committee)の承認を受けて ITS 標準化委員会(委 ISO/TC204(Intelligent Transport Systems) 員長:東洋大学尾崎晴男教授,事務局:公益社団 は,ISO において ITS に関する国際標準化を担当 法人自動車技術会)が設置されており,活発に活 する専門委員会である.ISO/TC204 は 1992 年に 動を推進している.JARI は,一般社団法人日本 設置され,1993 年から活動が始まった.初期には 自動車工業会の支援を受けて ITS 標準化委員会に システムアーキテクチャや個別システムの標準化 幹事を派遣,委員長,事務局を補佐している. 作業が活発に行われた. 近年は欧州委員会の標準化命令に対応して標準 3. ISO/TC204 バンクーバー会議の結果概要 化作業を急ぐ CEN に協力する形で協調システム ISO/TC204 バンクーバー会議は,バンクーバー (C-ITS: Cooperative ITS)の標準化検討が活発 の Marriott Vancouver Downtown Pinnacle に行われてきた.2014 年 2 月に欧州委員会が第 Hotel で開催された(図 1).以下に,バンクーバ 一段階の標準化作業が完了したことを発表し,一 ー会議で開催された各種会議等の結果をまとめる. 部標準化作業が続いている協調システム関連作業 項目もあるが,自動運転システムなど新しい領域 の標準化に関心が集まっている. JARI と公益社団法人自動車技術会は,経済産 業省の委託を受けて,2014 年度から自動運転シス テムの国際標準化に取り組んでいる. 2. ISO/TC204 ISO/TC204 の議長国,ならびに幹事国は米国で あ る . 米 国 国 家 規 格 協 会 ( ANSI: American National Standards Institute ) に Technical Advisory Group が設置され,ITS America が事 務局を務めている. 図 1 バンクーバー会議 Plenary Meeting 風景 2014 年に入り,永年議長を務めてきた Michael (写真提供:公益社団法人自動車技術会) Noblett 氏(元 IBM)に代わり Dick Shnacke 氏 (TransCore 社)が議長に就任し,2014 年 5 月の 3. 1 WG 毎の Meeting 第 44 回 ISO/TC204 バンクーバー会議では,ま オスロ総会よりチェアをとっている.時を同じく して,TC 事務局も Tyler Messa 氏(ITS America) ず TC204 傘下の各 WG(WG1 と WG5 を除く) から Patty Fusaro 氏(同)に交代した. の会議が 10 月 27 日(月)から 29 日(水)まで 我が国の TC204 対応組織として日本工業標準 調 査 会 ( JISC: Japanese Industrial Standards 開催され,作業項目(規格案)の審議や新規作業 項目の提案などが行われた. *1 一般財団法人日本自動車研究所 ITS 研究部 JARI Research Journal - 1 - (2015.1) 各 WG での審議状況や決議要求などを日本から 3. 2 CHod/Plenary Meeting 10 月 30 日(木)午後 3 時からは,CHoD 参加した専門家から集約するとともに,尾崎委員 (Conveners & Heads of Delegation)/Plenary 長 が 出 席 し た 議 長 の 私 的 諮 問 会 議 Strategic Meeting が始まった.冒頭,出席国確認,議題採 Planning Committee の結果などを情報共有した. 択,前回オスロ会議で採択された決議案や議事録 の確認が行われた後,議題に入った. 3. 4 Workshop TC204 で は , CHoD Meeting と Plenary 協調システムの標準化への取組み開始以来,複 Meeting の区分がはっきりしていないが,本来の 数の WG に跨る課題の検討の場として Cross- CHoD Meeting の目的は,各 WG のコンビーナか cutting Meeting が開催されてきたが,会議効率 らの,WG 会議の審議結果と Plenary Meeting で 化の観点からバンクーバー会議から廃止される一 の決議要求の報告(Conveners' Report)である. 方で,7 つもの Workshop が開催された. HTG#6 Workshop on Harmonized Cooperative 決議要求の内容は,作業項目のステージ(作業段 階)を進めることについて承認を要求するものや ITS Security Policy 新規作業項目の承認要求のほか,他標準化機関と Workshop on Signal Priority のリエゾン締結や関係先への働きかけの承認要求 Workshop on Green ITS などさまざまである.会議が開催されなかった Workshop on Freight Data Exchange WG の コ ン ビ ー ナ は , 同 じ 国 の Head of Interoperability Delegation が進捗報告や決議要求を代行した. Workshop on Vehicle Automation/Autonomy Plenary Meeting の主目的は,各 WG コンビー Workshop on Cooperative ITS Deployment US National Architecture Mapping ナより要求のあった決議案の採択であるが,あわ せて WG の新設や廃止,会議効率化など TC204 運営に関する課題や ISO 内外の標準化組織/活 これらのうち,自動運転関連の Workshop は好 動とのリエゾン状況の確認,新分野への取り組み 評で,次回の中国杭州会議でも継続開催すること などについて議論を行う. バンクーバー会議では, になったが,一方で多すぎる Workshop は TC 運 休眠中の WG11(ナビ・経路誘導)と WG15(狭 営上の新たな課題とする意見も聞かれた. 域通信)の廃止や TC 運営改善の一環としての Conveners' Report のテンプレート採用効果,自 4. ISO/TC204 の標準化新分野 動運転など標準化新分野への取り組み,TC22(自 4. 1 自動運転システム 2013 年 10 月に開催された TC204 神戸会議で, 動車)と TC204 のリエゾン問題,車両データの インタフェースの要否や ITS 用無線通信帯域の通 取り組むべき新しい標準化領域の一つに自動運転 信品質といった ITS の実配備上の課題などについ システムが採り上げられた. 続くオスロ会議では, て意見が交わされた.その結果,WG11 と WG15 尾崎委員長,三角 WG14 コンビーナの Workshop については廃止し,WG16 の名称を「広域通信」 開催提案を受ける形で,Vehicle Automation と から「通信」に変更する決議などが採択された. Autonomy の違いを調査し,その結果も含めてバ ンクーバー会議で Workshop を開催することが決 定. 調査,及び Workshop 企画の 3 極代表として, 3. 3 日本団会議 日本代表団(尾崎委員長,柴田潤 WG3 コンビ 米州からは Dr. Shladover(UC Berkley 教授) , ーナ/一般財団法人日本デジタル道路地図協会, 欧州からは Czepinsky 氏(ERTICO),日本からは 三角正法 WG14 コンビーナ/マツダ,佐藤健哉同 三角 WG14 コンビーナが議長によって指名され 志社大学教授)は,CHoD/Plenary Meeting へ た.途中 Czepinsky 氏が Tom Alkim 氏(オランダ の対応を確実にするため,すべての WG 会議が終 社会基盤・環境省)に交代したが,電話会議等に 了した 29 日(水)の夕刻に日本団会議を招集し, よって調査,および企画検討が進められた. JARI Research Journal - 2 - (2015.1) Workshop on Vehicle Automation/Autonomy られた.このReport on standardization for vehicle は議長自らモデレータを務め,10 月 30 日に開催 automated driving system(RoVAS)と題するTR された.始めに Dr. Shladover から自動運転シス は,自動運転システムに係わる標準化領域や取り組 テム研究開発の歴史を紹介.続いて議長からの要 み方法などについて記述したもので,一般社団法人 請があった Autonomous と Automated の定義に 日本自動車工業会自動運転検討会や戦略的イノベ ついて解説.さらに SAE が定義した自動運転の ーション創造プログラム(略称SIP)の自動走行(自 レベルやシステム例,開発状況,ロードマップを 動運転)システム関係者などへの意見照会を通じて 紹介した.Automation と Autonomous の違いに 取りまとめてきたものである. ついては,Autonomous ITS と Cooperative ITS 自動運転システムには,他の地域や国,また を対比させ,その上に Automated Driving を位置 WG14 以外の WG はもとより TC22 の関心も高い. づけた(図 2) . 早期にこの TR を発行することで,日本が,また TC204 が自動運転システムの標準化に関する議 論をリードしたいとの狙いがある. WG14国内分科会(分科会長:三角WG14コンビ ーナ,事務局;公益社団法人自動車技術会)では, 早急にTRドラフトを完成させてDTR投票を行い, 発行に漕ぎ着け,その後自動運転システムに関する 規格の開発に移りたい考えである.最終的には,一 連の規格をUN/ECEにおける基準策定にも反映し ていきたいとしている. 図2 Automation と Auntonomous 出典:Automation and Autonomy for TC204, Dr.Shladover 4. 2 Urban ITS 2009 年 10 月に発行された協調システムの標準 続けて,Tom Alkim 氏,三角 WG14 コンビー 化に関する Mandate(標準化要請)に続いて, ナ,Dr. Shladover 氏が,それぞれ EU,日本およ CEN や ETSI 支援の標準化要請がいつ,どのよう び韓国,米州の動向を紹介. な形で発行されるかが注目されてきたが,バンク さらに三角 WG14 コンビーナから,WG14 で審 ー バ ー 会 議 Plenary Meeting で 行 わ れ た 議中の自動運転標準化に関する TR(Technical CEN/TC_278(ITS)のリエゾンレポートの中で, Report)について紹介.これには,出席していた 欧州委員会が CEN,ETSI に対し,Urban ITS と TC22 Nicolas Morand 氏が強い関心を示した. 題した新たな標準化要請を発行すべく調整が行わ 最後に,議長から SC(Sub-committee)やコ れていることが判明した. ーディネーション機能の設置や WG18 の経験の Urban ITS は都市部におけるモビリティ改善 活かし方,各 WG からの WI 提案,戦略プランの を目的としており,以下の目標が掲げられている. 策定など今後の対応について課題提起があり,各 人や物の移動の改善 WG のコンビーナからさまざまな意見や参加意向 信頼性が高くアクセスが容易な交通情報や 表明があった.議長から,杭州で議論したいとし 旅行者情報 交通の及ぼす環境や社会経済への影響低減 て,アクションアイテムに対するフィードバック の要請があり,2 時間半の Workshop は成功裡に 具体的には、以下の項目が標準化候補である. 終了した. こうしたWorkshopの成果もあり,WG14で審議 ① 新しいモビリティサービスのためのデータフ ォーマットに関する EN,または TS 中の自動運転標準化に関するTR(Technical Report)も総会時にDTR投票に進める承認まで得 JARI Research Journal - 3 - カーシェアリング (2015.1) カープーリング や通信(V2X)を用いた協調システムなどの標準 バイク(自転車)シェアリング 化に取組む方針であり,2014 年には SC 再編が行 パーク&ライド われた. 2013 年 10 月の TC204 神戸会議に TC22 の議 バイク&ライド 長 Igor Demay 氏(PSA)が出席して以降,両 TC 代替燃料インフラなど ② 都市物流に関する EN,または TS の代表者間で連携に関する覚書の案が協議され, 乗用車,商用車,バス,トラック用インテリ TC204 側は 2014 年 5 月のレターバロットで, TC22 側は翌 6 月の総会で, 覚書締結を承認した. ジェントパーキングエリア TC204 バンクーバー会議に議長の代理として 荷捌きエリア情報 公共交通専用レーンの貨物車へ供用方法 Nicolas Morand 氏が出席し前述の通り自動運転 特定ベイにおける電動貨物車の走行中,また にも大きな関心を示したように,Workshop 開催 や TR 発行準備といった自動運転に関する TC204 は荷捌き中の充電に関する課金方法 ③ 流入規制情報や道路利用課金情報を含む交通 側の足早な動きに TC22 側は神経を尖らせている. TC204/WG14 は日本がコンビーナを務めており, マネジメントに関する EN,または TS これまで日本の優れた技術を反映させつつ自立系 ここに挙げられたサービス自体に目新しさは感 や協調系の運転支援システムの標準化を積極的に じられない.標準化の前提となる具体的なユース 進めてきたが,過去には TC204/WG13 で進めら ケースやシステム構成は不明であるが,多くのサ れていたヒューマン・インタフェースの標準化が ービスに協調システムが利用されることは想像に TC22 に移った経緯がある.TC22 は欧州の自動車 難くない. メーカやサプライヤの活動が活発であり,TC22 CEN は,標準化要請が正式に発行された場合 に Active Safety や協調システム,さらには自動 には受諾する方向であるが,ETSI の態度は不明 運転システムの標準化の主戦場が移るようなこと である.ETSI はスマートグリッドや EV 充電に になれば日本にとって大きな打撃となる. 関する通信の標準化も ITS の範疇として TC_ITS 幸い,国内では TC204,TC22 とも国内審議団 が担当しているが,これらは ISO では TC204 で 体は自動車技術会が引受となっており,両 TC の はなく TC22 の担当分野である. 担当事務局が連携して国内意見の調整,対応に当 CEN は WG の新設も視野に入れているとして おり,協調システム同様 TC204 を巻き込んでの たっている.今後とも両者が連携し,慎重かつ積 極的に標準化に取り組んでいく必要がある. 活動,さらには TC22 に跨る活動に拡大する可能 性がある. 日本としては, 具体的な標準化の内容, 6. おわりに 本 稿 で は , 2014 年 10 月 に 開 催 さ れ た CEN と ETSI の動きに注目しておく必要がある. ISO/TC204 の第 44 回バンクーバー総会の概要, 5. TC204 標準化活動の課題 および国際標準化の動向と課題について紹介した. TC204 は ITS 全般を標準化対象としているが, in-vehicle transport information and control ISO/TC204 の活動の詳細,ITS 標準化委員会内の 体制等については,公益社団法人自動車技術会発 systems (ISO / TC 22)を除くとしている.TC22 行の報告書 1),ITS の標準化パンフレット 20142) は ISO 中最大の専門委員会であり,活動の歴史も などを参照願いたい. 長い.近年,自動車のさまざまな機能に電子制御 が採用され,またスマートフォンの普及によって 参考文献 外部との通信を利用したテレマティクスなどのサ 1) 「ISO/TC204 関連の国内および国際活動」報告書, JSAE, 2014 年 3 月 ービスが普及しつつある中,TC22 はこれまで TC204 が標準化を進めてきた Active Safety 技術 JARI Research Journal 2)「ITS の標準化 2014」パンフレット, JSAE, 2014 年 8 月 - 4 - (2015.1)
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