半導体レーザ — 複雑系物理と応用 —

半導体レーザ
— 複雑系物理と応用 — 静岡大学大学院
工学研究科機械工学専攻 大坪 順次 http://www.sys.eng.in.shizuoka.ac.jp/~ohtsubo1/ 講義の日程 1回目 12月24日(水)
レーザと複雑系
半導体レーザ
2回目 12月25日(木)
半導体レーザのカオスと
いろいろな構造の半導体レーザ
3回目 2月 4日(水)
半導体レーザカオスの応用
結合半導体レーザネットワーク 1.波動、レーザ、非線形現象 1-1 非線形現象のイントロダクション
1-2 非線形現象のカテゴリー
1-3 レーザとは
1-4 波動の閉じ込めと共振
1-5 光の放出と吸収、遷移
1-6 レーザ発振に必要なこと
1-7 レーザの構造と励起、しきい値
1-8 レーザの数学的モデル
1-9 いろいろなレーザ
1-10 レーザと他の光源の違い
1-11 レーザの歴史
非線形現象のイントロダクション
物理モデル、工学モデルは・・・ 基本的に非線形システム (生命、経済、社会などありとあらゆる分野においてカオスが観測される) 多くのモデル化において 線形化した一部分を使う [線形モデル化:安定な部分のみを使う(Linear Systems)] 非線形システム(Nonlinear Systems)
あるパラメータ範囲では 安定系 パラメータを変えると 非線形 信号の振れ範囲が増大すると 非線形 複雑系(Complex Systems)
現象、得られる結果が複雑であること
システムの記述が複雑
☞ 一入力・多出力で結果が複雑
☞ 多入力・一出力で結果が複雑
☞ 多入力・多出力で結果が複雑
システムの記述は単純
☞ 簡単な方程式から生み出される複雑さ
(決定論的カオス)
ダイナミクス(Dynamics)
システム、信号の動的な振る舞い 非線形現象のカテゴリー
ビデオフィードバックシステムにおけるカオス
ビデオモニタ
ビデオカメラ
Video Monitor
Video Camera
Video Capture Board
Chaos Video
ビデオフィードバックはカオス系か?
TV フィードバックにおけカオス 非線形システムのカテゴリー
時間発展において、多くのシステムは下記の3つのクラスに分類できる
離散システム
x(n + 1) = F(x(n), µ)
微分システム
x˙ (t) = F(x(t), µ)
€
遅延微分システム
x˙ (t) = F(x(t − τ ), µ)
€
€
F: 非線形関数
µ: システムパラメータ
τ : 時間遅延
€
離散システムの例
ロジスティックマップの例
x n +1 = µx n (1− x n )
パラメータ µ に依存して
x の解は固定点、周期振動、
カオス振動となる
出力の時間波形 (Logistic Map)
X
カオス的振動 µ=3.8
(a)
X
n
初期値敏感性
初期値誤差: 10-4
n
分岐図 (Logistic Map)
分岐図とは、パラメータ変化に対して、
振動波形の局所的山と谷をプロットしたマップ
µ
ロジスティックマップの解
µ
パラメータµ の変化に対する時間出力 µ を 0 から 4 まで変化させたときの、n=1~100 (左から右方向)
についてのロジステックマップの解
微分システム
ソフトスプリング・モデル
˙x˙ + kx˙ + gradV = Bcos ωt
€
線形モデル
非線形モデル
initial start
d2x
dx
3
+
k
+
x
= Bcosωt
2
dt
dt
y
ダッフィング方程式
"
1 %
$V = x 4 '
#
4 &
x
k = 0.5,
€
B = 0.1,
ω =1
€
initial start
y
dx
=y
dt
€
dy
= −ky − x 3 + Bcosωt
dt
=
€
周期振動
x˙ (t) = F(x(t), µ)
x
k = 0.05,
B = 7.5,
カオス振動
ω =1
ダッフィング・アトラクタ
wmv
遅延微分系
戻り光半導体レーザモデル
External Mirror
Laser Diode
r0
Ef(t)
r0
r
Eb (t)
l
L
遅延微分光電場
dE(t) 1
κ
= (1− iα )Gn {n(t) − n th }E(t) +
E(t − τ )exp(iω 0τ )
dt
2
τ in
高次元カオスシステム
€
レーザはホントに非線形・複雑系? この答えは後で レーザとは レーザ LASER: Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation
(輻射の誘導放出による光増幅) 1953年 メーザ
1957年 レーザ チャールズ・ハード・タウンズ、
ニコライ・バソフ、
アレクサンドル・プロホロフ
1964年のノーベル物理学賞 いろいろな色のレーザビーム 光は電磁波の一種 ν=
€
c
λ
レーザの性質
高輝度、高光密度
ビーム直進性
コヒーレント(フォトンの位相がそろっている)
空間的、時間的コヒーレンスとも 基本的に光るものはなんでもレーザになる
JIS用語では、以前は「レーザ」であったが
現在は「レーザ」、「レーザー」ともOK レーザビームがあることの警告 波動の閉じ込めと共振 波としてはいろいろな形があるのに → なぜ cos 関数で表すのか? たとえば、津波のような波の伝搬 数学的な定義 ある関数は、その関数が定義される空間で直交展開できる f (x) = ∑ anϕn (x)
{ϕn}は直交関数のセット n
f(x) は直交モードの線形和で展開できる!
直交関数セットとして cos 関数を選択できる! €
波動の振幅を複素表示 ψ (x,t) = A0 cos(kx − ωt + φ )
€
€
ψ (x,t) = A0 exp{i(kx − ωt + φ )}
必要に応じて、その実部を物理的意味と解釈 固定端での波の反射 閉じ込められた波 閉じ込められた波は f(x -vt) (進行波)とg(x + vt) (後退波)の合成 ψ(x,t) = f(x - vt) + g(x + vt) 長さLの固定端:x = 0 、x = Lでψ = 0 ψ (0,t) = f(-vt) + g(vt) = 0 から g(vt) = -f(-vt) したがって、 ψ (x,t) = f(x - vt) - f(-x - vt) ψ(L,t) = f(L - vt) - f(-L -vt) = 0 から f(u)=f(u-2L) 2Lの周期 波の閉じ込めの例 f(x - vt)を振幅 1 の平面波exp{i(kx - ωt)}として ψ (x,t) = exp(−iωt){exp(ikx) − exp(−ikx)} = 2i exp(−iωt)sin kx
x = Lでψ = 0だからsin(kL) = 0 €
波の閉じ込め条件は kL = nπ n 整数 2π
k=
λ
€
2L
だから λ =
n
€
閉じ込めらた波 とモード L=λ/2
固定端 金属蒸着鏡反射 L=λ
L=3λ/2
自由端反射 多くのレーザは金属鏡反射 電場は固定端反射 半導体レーザなど 密な誘電体媒質から 疎な媒質への透過 電場は自由端反射 いずれにしてモードが存在する 光ファイバ クラッド方向へは光の閉じ込め 光ファイバ中での壁面(クラッド方向) への光の伝搬(光のモード、n = 2の例) 閉じ込められた電場 レーザ ポテンシャル井戸に閉じ込められた電子 クーロンポテンシャル下の原子エネルギー 光の放出と吸収、光の遷移 光の吸収、放出
2準位モデル エ
ネ
ル
ギ
電子 E2 ー
準
位
E1 光の吸収
光の自然放出 光の誘導放出 光のコヒーレンス(可干渉性) 空
間
方
向
コヒーレンス=光電場の時空間相関 時間方向 インコヒーレント 時間コヒーレント 時空間コヒーレント レーザ発振に必要なこと 反転分布の形成 E2, N2 E1, N1 熱平衡状態 Nは状態数 反転分布状態 2準位原子 上位の電子状態数をN2、下位をN1 熱平衡状態では N2
!ω
= exp(−
)
N1
kBT
kB:ボルツマン定数 上の状態から下へ電子が移るとき → 光の放射 €
光の吸収 → 下の状態から上に電子が移る 二準位における光の吸収・放出 電磁気学(古典論)では、電子と原子核(+)振動による双極子放射 光の帰還 フィードバック 利得媒質 出力光 入力 増幅 出力 ポンピング フィードバック回路 レーザは発振器 光共振器 It
ファブリ・ペロ 共振器 分光器の分解能 MHz程度
10-9精度 反射率~1のとき 透過光周波数 レーザ発振の縦モード νm = m
c
2ηl
m 整数 λ
2
He-Neレーザなど 媒質の利得曲線内の共振器モードが発振 €
ネオンの利得曲線
レーザ利得
FWHM ~1.5 GHz
レーザしきい値
共振モード
FSR ~1000 MHz
短い共振器 (0.2 m)
周波数
FSR ~200 MHz
長い共振器 (1 m)
利得曲線と共振モード He-Neレーザの発振 He
Ne
21
S
エネルギー (eV)
20
Metastable Collision
(20.61 eV)
Metastable Collision
S
(19.78 eV)
3S 2
2S 2
(3391.2 nm Laser)
(20.66 eV)
3P 4
(20.30 eV)
(19.78 eV)
(632.8 nm Laser)
(1152.3 nm Laser)
1
19
2P 4
(18.70 eV)
10
18
e Impact
17
1S
2
5
(16.70 eV)
Diffusion
16
基底状態
Heの励起準位 → Neの励起 実際にはNeが発光 分子衝突 利得媒質と励起 レーザ媒質 光の吸収、放出がある誘電体はレーザ発振できる
気体(He-Ne、 Ar、NH3など)
固体(ルビー、ガラス、YAGなど)
液体(色素液体、水など)
半導体(GaAs、GaN、GaInPなど) 励起の方法 原子、分子集団に対するエネルギー供給、状態反転分布の形成
放電(ガスレーザ)
光(固体レーザ、液体レーザ)
電流(半導体レーザ)
化学反応(ヨウ素レーザなど)
電子ビーム(自由電子レーザ) レーザの構造と励起、しきい値
レーザ媒質 レーザの発振 共振器 ☞レーザ媒質があり
ポンピング ☞反転分布を作るためのポンピング ☞反転分布を実現 ☞フィードバック機構による光の増幅 ☞共振器による位相調整 レーザ発振 しきい値 レーザ発振するまで 反転分布を形成し、 ポンピングによる誘導放出が 内部損失に打ち勝つ 光 出 力 レーザしきい値 レーザ発振 しきい値 ポンピング レーザの数学的モデル
レーザの数学的モデル 光電場の式 共振器内を往復する光の利得と損失のバランス 物質分極(利得)の式 量子力学的には2準位系の光の遷移 古典論的には双極子電子の振動 反転分布の式 ポンピングによる反転分の形成 これらの式は、一般に時間発展する微分方程式 レーザが有限なスペクトル 線幅を持つ理由 時間信号の フーリエ変換 共振器からのコヒーレント 放射が有限時間で減衰 基本空間モード(横モード)と伝搬 ピーク強度の1/e ガウスビームの伝搬 ガウスビームの断面形状 1 λz
ガウスビームの回折広がり w =
π w0
高次空間横モード レーザと他の光源の違い
レーザと他の光源の違い 太陽光 太陽光 レーザは 高光子密度 レーザ光 集光性 偏光 高コヒーレンス など... たとえば 白熱電球 LED いろいろなレーザ ガスレーザ 放電励起 He-Ne Gas Laser
固体レーザ(ルビーレーザ) 光励起 ルビーレーザ ルビーロッド 半導体レーザ 電流励起 CO2レーザの構造とCO2レーザ 電流制御
-
+
レーザ光
鏡
電極
電極
部分透過鏡
ポンプ
N2
CO2
He
放電励起 CO2レーザの構造 治療用CO2レーザ 0,7
分子レーザ エネルギー [eV]
CO2レーザのエネルギー準位 0,6
2
2
0,5
0,4
0,3
3
0,2
分子の振動の量子化
そのエネルギー準位を使う 発振波長 10.6 µm 3
2
10,6 m
9,6 m
2
0,1
2
基底状態
0
N2
N N
分子自由度
CO2
O C O
1
液体レーザ 光励起 Rhodamine 6G液体 自由電子レーザ 加速電子のシンクロトロン放射 発振波長範囲が広い 自由電子レーザ Free-Electron Laser
1 mJ
1 mW
1 kJ
Methanol 37.9, 70.5, 96.5, 118 µm
Methylamine 147.8 µm
Methyl fluoride 496 µm
Methanol 571, 699 µm
CO2 10.6 µm
Er:YSGG 2.79 µm
Er:YAG 2.90, 2.94 µm
He-Ne 3.391 µm
Tm:YAG 2.01 µm
Ho:YAG 2.08 µm
Nd:YAG 1064 nm
(other hosts 1047-1079 nm)
He-Ne 1152 nm
Iodine 1315 nm Nd:YAG 1319 nm
He-Ne 1523 nm Er:glass 1.54 µm
Nd:YAG 946 nm
FAR-IR
ULTRAVOILET
ULTRAVIOLET
1J
Ruby 694.3 nm
X-RAYS
100 nm
1 mJ
Copper vapor 578.2 nm
He-Ne 594.1 nm
He-Ne 611.9 nm
He-Ne + 632.8 nm Gold vapor 628 nm
Kr 647.1 nm
1W
Ar + 488.0 nm
Copper vapor 510.5 nm
Ar + 514.5 nm
Nd:YAG (doubled) 532 nm
3+
He-Ne 543.5 nm Xe 539.5 nm
1J
He-Cd 441.6 nm
1 kW
XeCl excimer 308 nm
He-Cd 325 nm
+
Nitrogen 337.1 nm Ne 332.4 nm
(doubled) 347 nm
XeF excimer 351 nm Ruby 2+
Ar 351 nm
Nd:YAG (tripled) 355 nm
1 kJ
KrF excimer 248 nm
Nd:YAG (4 th harmonic) 266 nm
CW
power
ArF excimer 193 nm
Nd:YAG (5 th harmonic) 213 nm
He-Ag+ 224.3 nm KrCl excimer 222 nm
Pulse
energy
F2 excimer 157 nm
いろいろなレーザと発振波長 200 nm
VISIBLE
300 nm
400 nm
500 nm
NEAR-INFRARED
600 nm
700 nm
800 nm
Dyes in
polymer
550-700 nm
1 mW
Dyes
0.38-1.0 µm
Ti:sapphire
+
He-Au
(tripled)
Ti:sapphire
+
235-330 nm Ne-Cu 282-292 nm
Alexandrite (doubled)
248-270 nm
(doubled) 360-460
Ar +nm
-Kr +
Dyes (doubled)
GaN
360-400 nm
many
discrete lines
0.2-0.4 µm
515-520 nm
InGaN
370-493 nm
1W
1 kW
900 nm
1 µm
InGaAs
904-1065 nm
InGaAlP
Cr fluoride
630-685 nm
780-850 nm
Alexandrite
700-800 nm
GaAlAs
Ti:sapphire
750-850 nm
670-1130 nm
MID-INFRARED
3 µm
Xe-He
2-4 µm
10 µm 30 µm
CO 2 (doubled)
4.6-5.8 µm
CO
5-7 µm
InGaAs
DF chemical
1.27-1.33 µm
3.6-4.0 µm
1.43-1.57 µm
Fosterite
HF chemical
1.13-1.36 µm 2.6-3.0 µm
AlGaIn/AsSb
1.87-2.2 µm
Pb salts
3.3-27 µm
CO 2
9.2-11.4 µm
Dyes (Raman shifted)
0.9-4.5 µm
X線 紫外 可視 赤外 1 mm
遠赤外 レーザの 代表的分類 レーザの歴史
レーザの歴史 1950年以前、量子力学に基づく光の放出、反転分布の研究
1953年、メーザ: タウンズ
1955年、プロホロフとバソフは光ポンピングによる反転分布
1958年、光学メーザについての特許を出願、ショーローとタウンズ
1958年、プロホロフも独自に開放共振器
1960年、メイマン ルビーレーザの発振
1960年、ジャバン He-Neレーザの発振
1962年、ホロニャック 半導体レーザ発振
1970年、アルフョーロフ、林、パニッシュ 半導体レーザ温室発振 Gordon Gouldのメモ(1957)