マーケットウィークリー・766号 産業ニュース 2014.2.7 カジノ計画が前進、IR推進法を提出 作成者:柿崎裕 IR推進法案を提 出、実現へ一歩前 進 14年はカジノ計画が前進する見通し。13年12月に自民党・日本維新の会、生活 の党の3党がカジノを中心としたIR(Integrated Resort・統合型リゾート)推 進法案を国会に提出した。14年1月から開催されている通常国会での成立を目指し ている。開業時期は20年の東京オリンピックに合わせてとの声が多く、時間的な 猶予はあまりない。開業効果は税収や雇用の増加に加え、地域のランドマーク的 な存在となる。さらに国や地方自治体にとっては建設などの公的財源を必要とせ ず、制度改正だけで観光振興につなげられる数少ない手段である。一方で法整備 や治安対策、青少年保護対策、ギャンブル依存症の問題など課題も多い。今後の 政治的な動きや海外でのカジノ動向についてまとめてみた。 IR=統合型リゾ ート IRとはホテルや劇場、美術館、シネマ、ショッピングセンター、ゴルフ場、 展示場、会議場などが入る統合型リゾートである。総面積の3~5%がカジノ施設 で、非カジノ施設が大多数を占める。用語自体はシンガポールでカジノ計画中に 使われたものが世界的に広がった。カジノが注目されるのは滞在型のリゾート施 設では季節や天候の変動に弱く、日中の観光スポットは多いが、夜になると観光 資源が乏しくなるなど弱点があった。そこで24時間、365日稼働するカジノがこの 問題点を補完する。経済効果だけでなく観光資源としても注目度が高まっている。 マカオやシンガポ ールは多くの経済 的効果をもたらし た カジノ開業で近年もっとも成功を収めた都市はマカオやシンガポールであろ う。マカオは02年から外資企業にカジノ運営を解放し、大規模な施設が相次いで 開業した。06年にカジノ収入でラスベガスを抜き世界一の都市となった。マカオ 監察協調局によると13年のカジノ収入は3,607億5,000万パタカ(約4兆5,815億 円)、前年比19%増。シンガポールは観光客の落ち込みに直面した政府は05年に 観光振興戦略を策定し、指定地域に限りカジノを解禁した。建設にあたり米国や マレーシアのカジノ運営会社4社が最終入札に参加した。そして10年2月にマレー シア・ゲンティング社が手掛ける「リゾート・ワールド・セントーサ」と、4月に 米国・ラスベガスサンズ社の「マリーナ・ベイ・サンズ」が開業した。開発投資 額はそれぞれ約4,000億円、約4,800億円。カジノ以外にホテルや水族館、劇場、 美術館、ショッピングモール、ユニバーサルスタジオ、地上230メートルにあるプ ール、展示場、会議施設など多様な施設を設置し、家族から子供、ビジネス客ま で幅広い層に対応させた。下表のとおり開業後に大きな経済効果をもたらした。 ◇シンガポールのIR開業前後の各種指標の変化 開業前(2009年) 開業後(2010年) 国際観光客数 970万人 1,160万人 国際観光収入 128億シンガポールドル 188億シンガポールドル 国際観光客による 1,322シンガポールドル 1,621シンガポールドル 滞在当たりの消費金額 国際観光客による 333シンガポールドル 418シンガポールドル 1日1人当たりの消費金額 国際会議開催数 689件 725件 失業率 3.03% 2.18% 基礎的財政収支 ▲61億3,000万シンガポールドル 185億シンガポールドル (出所)シンガポール統計局資料よりCAM作成 マーケットウィークリー・766号 2014.2.7 法案成立に向け2 段階の立法案 日本でのIR実現に向けて最初の関門が法案成立である。13年12月5日に自民党 など3党がIR推進法案を国会に提出した。そもそもカジノ合法化やカジノ計画は 10年以上前から構想自体はあった。しかし短期間に何度も政権交代が起こり、法 案提出が見送られた経緯がある。そこでこのような事態に対処するため、IR推 進法とIR実施法の2段階の立法案となった。IR推進法は政府に実現するための 措置を義務付けるもので、IR実施法は実現に向けての必要な法を整備する基本 法である。仮にIR推進法が国会で可決された場合、施行後1年以内をめどに事業 に対する規則を盛り込んだIR実施法を成立させる必要がある。 カジノ実現へ超党 派体制、国会議員 208名 カジノ推進派議員の動きも活発化している。13年に入り国際観光産業振興議員 連盟の総会が開催された。最高顧問に安倍晋三、麻生太郎、石原慎太郎、小沢一 郎の各氏4名、顧問に下村博文、山東昭子、鳩山邦夫、茂木敏充、保岡興治、平沼 赳夫の各氏6名、会長が細田博之氏、幹事長に岩屋毅氏。14年12月現在で議員数は 208名。政党別では自民党が132名、維新の会が31名、民主党が24名、公明党が7名、 みんなの党が6名、生活の党が4名、無所属が4名の超党派体制である。 開業に向けてのス ケジュールは過密 順調にいった場合のスケジュールはIR推進法が今通常国会で成立、15年夏頃 にIR実施法が施行される。16年頃に政府が設置区域の応募や選定を実施し、こ こに地方自治体が応募する。選ばれた地方自治体は民間事業者を選定。17年以降 に着工し、20年に開業。株式市場で注目されるのが、民間事業者の動向であろう。 企業連合の組成や具体的な開発案件が発表されれば注目度が高まろう。このよう なニュースはIRがある程度、実現性が見えてくる15年頃となる見込み。 自治体がIR施設 を積極誘致 地域経済活性化や遊休地の有効利用、観光収入の増加につながるため、IR施 設の誘致に積極的な自治体は多い。例を挙げると北海道札幌市・釧路市・帯広市・ 小樽市、秋田県秋田市、宮城県仙台市、東京都、神奈川県・横浜市、千葉県成田 市・千葉市幕張新都心、静岡県熱海市・富士宮市、石川県珠洲市・加賀市、愛知 県常滑市、大阪府大阪市・堺市、三重県鳥羽市、和歌山県和歌山市、長崎県佐世 保市(ハウステンボス)、大分県別府市、宮崎県宮崎市(シーガイア)、沖縄県 浦添市・糸満市など。IR法案大綱によると施設数は最大 10 カ所で、当面は 3 カ 所程度の開設となる見通し。すでに競争倍率も高く、誘致には税金が投入される ため住民の理解が得られずに、撤退する自治体が増える可能性もある。 ◇主なIR関連銘柄 単位:円、倍 銘柄 コード 株価 PER コメント 鹿島 1812 366 20.9 お台場のカジノ計画を推進役 フジ・メディアHD 4676 1,740 22.7 お台場のカジノ計画を推進役 日本金銭機械 6418 1,644 32.5 北米カジノ貨幣処理で高シェア ユニバーサルエンターテイメント 6425・JQ 1,715 7.7 マニラベイリゾーツを開発中 オーイズミ 6428 870 17.8 メダル補給・回収機を手掛ける グローリー 6457 2,366 19.1 貨幣処理大手、海外事業を強化 セガサミーHD 6460 2,245 10.3 完全子会社宮崎シーガイア運営 三井不動産 8801 3,103 40.3 お台場のカジノ計画を推進役 エイチ・アイ・エス 9603 5,220 19.9 子会社ハウステンボスを運営 セコム 9735 5,399 18.5 国内機械警備シェアは約60% コナミ 9766 2,271 26.1 スロットマシーンを製造販売 (注 )株価は14年2月4日の終値、JQはジャスダック、その他は東証1部、PERはエイチ・アイ・エスが14.10期予、その他が14.3期予 (出所)各社資料よりCAM作成
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