L12. 放射係数

埼玉工業大学
テーマ L12:
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
放射係数-1/8
放射係数
1.放射係数の意味
物体表面から放射されるエネルギーは,ステファンボルツマン定数を   5.67  108 W/(m2K4),放射
率を,物体表面の絶対温度を T [K]とすると
E  Eb   T 4
となります.黒体では,放射率   1 のため,
Eb  T 4
となります.表面温度の異なる無限平板が対峙している場合,黒体であれば二面間の放射伝熱量は表面
から放射されるエネルギーの差となります.


Q   T1  T2 A1
4
4
[W]
黒体であっても,伝熱面が有限の大きさの場合,放射伝熱量は二つの面相互の位置関係から幾何学的に
決定され,次式で表されます.


Q  F1, 2 T1  T2 A1 [W]
4
4
ここで, F1, 2 は形態係数といいます.無限平行平板の場合,形態係数は F1, 2  1 となります.
灰色体では放射率が   1 となり,黒体面のようにすべての放射エネルギーが吸収されるわけではあ
りません.そのため,一部のエネルギーは吸収されるものの残りは反射されることになります.この吸
収と反射は無限に続くため,放射伝熱量は単純に形態係数を掛けただけでは求めることができません.
放射伝熱量は等比無限級数の和となるため,無限級数の部分を係数として表すと式を単純化できます.
具体的には,1 の面を基準にした二面間の放射伝熱量は,次式で与えられます.


Q  f s T1  T2 A1
4
4
[W](灰色体の場合)
ここで,定数 f s は放射係数といいます.
放射係数は,面 1 から 2 への形態係数 F12,
面 2 から 1 への形態係数 F21 および面 1 と 2 の放射率を  1 ,  2
の関数となり,
f s  f F12 , F21, 1 ,  2 
と表すことができ,計算式の具体例は以下の通りです.
① 完全黒体の無限平行平板の場合
fs  1
② 完全黒体の 2 平面の場合
f s  F12
③ 灰色体の無限平行平板の場合
fs 
1
1

1
1
2
1
④ 灰色体有限 2 平面の場合
fs 
F121 2
F121 2

1  F21F12 1  1 1   2  1  A1 F 2 1   1   
12
1
2
A2
⑤ 灰色体 1 が灰色体 2 で完全に囲まれる場合
fs 
1
1

1
 1 A1  1

1
 F21  1
   1
1
  2  1 A2   2 
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放射係数-2/8
では,これらの放射係数を導出してみましょう.
2.放射係数の導出
(1) 灰色体の無限平行平板の場合
面 1 から放射されたエネルギーが吸収される様子は次の図の通りとなります.ただし,面 1 と 2 の放
射能を E1 , E2 とします.吸収率は放射率  1 ,  2 に等しくなります.面 1 と 2 の面積を A1,A2,面 1 から
2 への形態係数を F12,面 2 から 1 への形態係数を A2 とします.
1
2
E1
面 2 が吸収する放射エネルギーは,以下のように級数で表わされることになります.
Q2   2 E1   2 1   1 1   2 E1   2 1   1  1   2  E1  
2
2


  2 E1 1  1   1 1   2   1   1 2 1   2 2  
となる.大括弧の中は,初項 1,公比 1   1 1   2  の等比級数なので,二項級数の公式
1
 1  x  x2    1  x
に当てはめると
1
1  1   1 1   2   1   1 2 1   2 2   
1  1   1 1   2 
よって
 2 E1
Q2 
1  1   1 1   2 
となります.
E1   1T14
なので,代入すると
 1 2T14
[W/m2]
Q2 
1  1   1 1   2 
同様に,面 1 が吸収する放射エネルギーは
 1 2T2 4
[W/m2]
Q1 
1  1   1 1   2 
面 1 から 2 に伝わる放射伝熱量 Q は両者の差なので


Q  Q2  Q1 




 1 2
 1 2
4
4
4
4
T1  T2 
T1  T2
1  1  1 1   2 
1  1  1   2  1 2


4
4
T1  T2
1 1
 1
1  2


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放射係数-3/8
よって,放射係数は,
fs 
1
1

1
1
2
1
となります.
(2) 有限長さの灰色体平行平板の場合
灰色体の平行二平面の場合,一部の放射エネルギーは吸収され,残りは反射されることになります.
この吸収と反射は無限に続くため,放射伝熱量は単純に放射率を掛けただけでは求めることができませ
ん.
面 1 から放射されたエネルギーが吸収される様子は次の図の通りとなります.(二つの平板は平行で
ある必要はなく,角度を持つ平板でも構いません.
)ただし,面 1 と 2 の放射能を E1 , E2 とします.吸収
率は放射率  1 ,  2 に等しくなります.面 1 と 2 の面積を A1,A2,面 1 から 2 への形態係数を F12,面 2
から 1 への形態係数を A2 とします.
1
2
面 1 から放射されるエネルギーを E1 とすると, F12E1 が面 2 に入射する.面 2 に吸収されるエネルギ
ーは F12 2 E1 となります.面 2 で反射されるエネルギーは, F12 1   2 E1 となり,この反射エネルギー
のうち, F21F12 1   2 E1 が,再び面 1 に入射します.面 1 では, F21F12 1   2 1E1 が吸収され,
F21F12 1  1 1   2 E1 が反射されます.この反射分のうち, F21F122 1  1 1   2 E1 が面 2 に再び入射
します.面 2 では, F21F122 1  1 1   2  2 E1 が吸収されます.このように,放射エネルギーは無限に
吸収と反射を繰り返しながら減衰していきます.結局,面 2 が吸収する放射エネルギーは,以下のよう
に級数で表わされることになります.
Q2  F12 2 E1  F21F12 1  1 1   2  2 E1  F21 F12 1  1  1   2   2 E1  
2
2

3
2
2

 F12 2 E1 1  F21F12 1  1 1   2   F21 F12 1  1  1   2   
大括弧の中は,初項 1,公比 F21F12 1  1 1   2  の等比級数なので,二項級数の公式
 1  x  x
2
2

 
2
2
2
1
1 x
に当てはめると
1  F21F12 1  1 1   2   F21 F12 1  1  1   2    
2
2
2
2
1
1  F21F12 1  1 1   2 
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よって
Q2 
F12E1
1  F21F12 1  1 1   2 
となります.
E1   1T1 A1
4
[W]
なので,代入すると
F12 1 2T1 A1
Q2 
1  F21F12 1  1 1   2 
4
[W]
となります.
面 2 から放射されたエネルギーが吸収される様子は次の図の通りとなります.
1
2
面 1 が吸収する放射エネルギーは,以下のように級数で表わされることになります.
Q1  F211 E2  F21 F12 1  1 1   2  1 E2  F21 F12 1  1  1   2  1 E2  
2
3

2
2
2

 F211 E2 1  F21F12 1   1 1   2   F21 F12 1  1  1   2   

2
2
2
2
F211 E2
1  F21F12 1  1 1   2 
ここで
E2   2T2 A2
4
[W]
なので,代入すると面 1 が吸収する放射エネルギーは
F21 1 2T2 A2
1  F21F12 1  1 1   2 
4
Q1 
[W]
面 1 から 2 に伝わる放射伝熱量 Q は両者の差なので
Q  Q2  Q1 
ここで,形態係数の交換則より
F12 A1  F21A2
なので

 1 2
4
4
F12T1 A1  F21T2 A2
1  F21F12 1  1 1   2 

放射係数-4/8
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Q


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放射係数-5/8

F12 1 2
 T14  T2 4 A1
1  F21F12 1   1 1   2 
F12 1 2
A
2
1  1 F12 1   1 1   2 
A2


 T14  T2 4 A1
となります.放射係数は
fs 
F121 2
1
A1 2
F12 1  1 1   2 
A2
となります.
(3) 灰色体が完全に囲まれる場合
面 1 から放射された放射エネルギーが吸収される様子は次の図の通りとなります.ただし,面 1 と 2
の放射能を E1 , E2 とします.吸収率は放射率  1 ,  2 に等しくなります.面 1 と 2 の面積を A1,A2 としま
す.面 1 から 2 への形態係数を F12,面 2 から 1 への形態係数を A2 ととする.面 1 は面 2 に完全に囲ま
れているから,
F12  1
F21 
A1
A2
となる.
2
1
E1
合計
合計
合計
面 1 から放射されるエネルギーを E1 とすると,面 2 に吸収されるエネルギーは  2 E1 となります.面
2 で反射されるエネルギーは, 1   2 E1 となります.この反射エネルギーのうち, F211   2 E1 が,再
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放射係数-6/8
び面 1 に入射します.面 1 では, F211 1   2 E1 が吸収され, F211  1 1   2 E1 が反射されます.こ
の反射分と,面 2 における 1 回目の反射エネルギーのうち,面 1 に到達しなかった 1  F21 1   2 E1 の
合計である 1  F211 1   2 E1 が,面 2 に到達します.
(面 1 が面 2 に完全に囲まれる場合は,面 2 から
出たエネルギーで面 1 に入射しない分は再び面 2 に戻ってくることに注意が必要)面 2 では,
1  F211 1   2  2 E1 が吸収されます.このように,放射エネルギーは無限に吸収と反射を繰り返しな
がら減衰していきます.結局,面 2 が吸収する放射エネルギーは,以下のように無限級数で表わされる
ことになります.
Q2   2 E1  1  F211 1   2  2 E1  1  F211  1   2   2 E1  
2

2

  2 E1 1  1  F211 1   2   1  F211  1   2   
大括弧の中は,初項 1,公比 1  F211 1   2  の等比級数であるから,二項級数の公式
1
 1  x  x2    1  x
2

2

に当てはめると
1  1  F211 1   2   1  F21 1  1   2    
2

2
1
1  1  F211 1   2 
1
1
1


1  1  F211    2 1  F211  F21 1   2  F211 2  2  F211   2 1
よって
Q2 
 2 E1
 2  F211   2 1
となります.
E1   1T1 A1
4
なので,代入すると
 1 2T14 A1
T14 A1
Q2 

 2  F211   2 1 1
1

 F21  1
1
 2 
[W]
が得られます.
面 2 から放射されたエネルギーが吸収される様子は次の図の通りとなります.
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放射係数-7/8
2
1
合計
合計
合計
合計
図より面 1 が吸収する放射エネルギーは
Q1  F211E2  F211  F211 1   2 1E2  F211  F211  1   2  1 E2  
2

2

 F211E2 1  1  F211 1   2   1  F211  1   2   
となります.大括弧の中は,初項 1,公比 1  F211 1   2  の等比級数であり,Q2 の場合と同様なので,
F211E2
F211E2
[W]
Q1 

1  1  F211 1   2   2  F211   2 1
2
2
となります.
E2   2T2 A2
4
なので,代入すると
F   T A
 1 2T2 A1
Q1  21 1 2 2 2 

 2  F211   2 1  2  F211   2 1 1
4
4
T2 4 A1
1

 F21  1
1
 2 
面 1 から 2 に伝わる放射伝熱量 Q は両者の差なので
[W]
埼玉工業大学
Q  Q2  Q1 

T14 A1
1

 F21  1
1
 2 
1



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放射係数-8/8
T2 4 A1
1

 F21  1
1
 2 
1
1
 T14  T2 4 A1


1
1
 F21  1
1
 2 
よって,放射係数は
1
1

1
 F21  1
1
 2 
fs 
となります.形態係数は
F21 
A1
A2
なので,放射係数は面積比を用いて
fs 
1

1 A1  1
   1
1 A2   2 
と表すこともできます.
http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/RadiationCoefficient.pdf
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